国際連合総会決議ES-10/23
国際連合総会決議ES-10/23(こくさいれんごうそうかいけつぎES-10/23)は、2024年5月10日の第10回国際連合緊急特別総会での、国際連合におけるパレスチナ国のオブザーバー国家としての権利を正式加盟国にすることなく格上げする決議である[1][2]。同決議は、正式加盟の勧告を採択する安全保障理事会に対し、パレスチナ国の正式加盟の要請を「好意的に」考慮するよう「再検討」を促した[3]。安保理は、同年4月18日、日本を含む12の安保理理事国が賛成したにもかかわらず、常任理事国であるアメリカ合衆国の拒否権行使によって、パレスチナの正式勧告加盟決議を否決していた[4]。
国際連合総会 決議ES-10/23 | |
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日付: | 2024年5月10日 |
形式: | 総会決議 |
会合: | 第10回国際連合緊急特別総会 (継続)回 |
コード: | A/ES-10/23 |
文書: | 英語 |
投票: | 賛成: 143 反対: 9 棄権: 25 |
主な内容: | 国連への新規加盟国の加盟(パレスチナ国のオブザーバー国家としての投票権無しの格上げと、安保理への国連正式加入勧告再検討要請) |
投票結果: | 採択 |
パレスチナ国 賛成 反対 棄権 無投票 非加盟国 |
今回の決議によれば、今後国際連合パレスチナ政府代表部は総会において、現在のように議場の後方にあるオブザーバー席ではなく、アルファベット順に他の正式加盟国に混じって着席する権利を持つことになる。しかし、この決議は「パレスチナ国は、オブザーバー国家としての立場において、国連総会で投票する権利も、国連機関に立候補を送り込む権利も持たない」こともわざわざ明確にしている[1]。
決議案は賛成143カ国、棄権25カ国、反対9カ国で可決された[1]。可決には投票に参加した加盟国のうち3分の2、つまり118カ国超の賛成が必要だったが、加盟国全体数の7割以上という圧倒的多数で難なくクリアした[5][注釈 1]。総会決議に法的拘束力はないものの、パレスチナの国連正式加盟を国際社会が支持していることを示し、たった一国の安保理常任理事国が国際社会のコンセンサスに立ちはだかっていることをあらわにした結果となった[5][6]。
概要
2024年5月10日、主にアラブ諸国を中心とした70カ国以上の共同提案者を代表してアラブ首長国連邦 (UAE) が、パレスチナ国の国連正式加盟を支持し安保理に加盟勧告を賛成するよう再考を促す決議案を緊急特別総会において提出し、193加盟国のうち、賛成143カ国、反対9カ国の圧倒的多数で採択された[7][8]。棄権は25カ国、無投票は16カ国だった[1][9][10]。
決議案にはパレスチナが国連憲章の定める加盟資格を満たしていると明記されており、パレスチナ国を国家承認していない、日本、フランス、韓国、スペイン、オーストラリア、エストニア、そしてノルウェーの7カ国も賛成票を投じた。反対はアメリカ合衆国、イスラエル、アルゼンチン、チェコ、ハンガリー、ミクロネシア連邦、ナウル、パラオ、そしてパプアニューギニアであった[11][12][13]。アルゼンチン、チェコ、ハンガリー、パプアニューギニアは、パレスチナを国家承認しているにも関わらず、反対にまわっており[14]、そのうちチェコは、国連正式加盟や国連の新たな特権のみでは平和と繁栄をもたらすことはできないと述べ、その前に二国間での協議などによる環境の下地整備の必要があると訴え、また安保理の加盟勧告の無いまま国連の手続きを「迂回して」総会の採決を行ったことに懸念を示し、反対票を投じたと説明した[15]。
G7国においては、前述の通り日本とフランスが賛成にまわったほか、イギリス、ドイツ、カナダ、イタリアが棄権し、アメリカ合衆国の孤立が一層顕著になる形になった[14][16]。国連総会は、パレスチナの国家としての存在を長らく支持して来たが、実際に正式加盟の是非について採決が取られたのはこれが初めてであった[17]。
安保理と違い、総会では拒否権が発動できないことから、拒否権を持つアメリカ合衆国が反対票を投じても決議は可決された。国連の正式加盟には、安保理による加盟勧告と、総会において投票国の3分の2以上の賛成が必要となるが、4月18日にアメリカ合衆国の拒否権行使によって加盟勧告案を否決した安保理に、協議を「差し戻す」形となった[12][13]。しかし、アメリカ合衆国のロバート・ウッド国連次席大使は、安保理で再度加盟勧告案を採決したとしても結果は同じになると述べ、拒否権を発動し続けることを示唆した[17][5]。またその反対理由は、従来通りのアメリカ合衆国の立場である、パレスチナの加盟は「イスラエルとの直接交渉」によってのみ実現されると主張した[5]。一方ロシアは、パレスチナは、今回国連で正式加盟することによって、75年前に既に正式加盟を果たしているイスラエルと同等の立場のもとに交渉の場に立てると、アメリカ合衆国の見解はパレスチナにとって平等性に欠けていることを示唆する意見を述べた[7]。
この決議案によって、パレスチナ国は国連総会において席が与えられ、パレスチナや中東以外の議題にも発言権が与えられたほか、会議の議題、提案書、修正案の提出とそれらの共同提案者になることや、議論に対する返答、そして国連の主要委員会において委員を送ることなどが可能となり、かつパレスチナ人の自決権を支持する内容だったが、投票権は与えられなかった[12][13]。アメリカ合衆国には1990年に成立した、国連がパレスチナ[注釈 2]に加盟国と同じ地位を与えた場合、国連と国連機関への資金提供を停止するという連邦法があり、国連最大の分担金及び拠出金提供国であるアメリカ合衆国のその法を発動させないよう、決議案は細心の注意を払って文面が練られた[16][18]。
採決結果
- ★G7国
- 〇パレスチナを国家承認していないが、決議に賛成した国
- ◆パレスチナを国家承認しているが、決議に反対した国
- ⁂決議案共同執筆国