アムトラック

アメリカの長距離旅客列車の運営組織

全米鉄道旅客公社(ぜんべいてつどうりょかくこうしゃ、アメリカ英語: National Railroad Passenger Corporation)、通称アムトラックAmtrak)は、アメリカ合衆国1971年に発足した、全米を結んでいる[注 1]鉄道旅客輸送を運営する公共企業体連邦政府出資株式会社という形態をとっている。通称のアムトラックはAmericaTrack線路軌道などの意)の二つの語から合成されたものである。

全米鉄道旅客公社
National Railroad Passenger Corporation
2016年現在の運転路線図 (連絡バス路線・長期運休区間を含まない)
2016年現在の運転路線図
(連絡バス路線・長期運休区間を含まない)
種類公社 (GOC)
略称アムトラック (Amtrak)
本社所在地アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
ワシントンD.C.
設立1971年5月1日
業種陸運業(相当)
事業内容旅客鉄道
従業員数1万9000
主要株主アメリカ合衆国連邦政府
外部リンクhttps://www.amtrak.com
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アムトラック列車「カリフォルニア・ゼファー
駅で待機中の機関車(カリフォルニア地区の路線の塗装)
ホームへ(同上)

概要

第二次世界大戦後、航空自動車輸送の台頭により、アメリカの鉄道旅客輸送量は減少の一途をたどっていたが、その傾向は1960年代に加速し、この時期、多くの鉄道会社が旅客営業の廃止に踏み切り、残存するわずかな旅客列車についてもその存続が危ぶまれた。アメリカには国有鉄道が存在した時代がなかった[注 2]が、旅客鉄道を維持するために連邦政府が介入することになった。こうして、各地域の鉄道会社の旅客輸送部門を統合した全国一元的な組織としてアムトラックが設立された。

アムトラックが線路を所有している区間は北東回廊など運行区間のごく一部のみであり、その他の地区では大手貨物鉄道会社(一級鉄道)の線路を借りてアムトラックが旅客列車を運行している。日本の第二種鉄道事業者の形態に近く、JR旅客会社とJR貨物(日本貨物鉄道)の立場を逆転した形になっている。

また、ロサンゼルス近郊地域の通勤輸送を担うメトロリンクなど、都市圏の旅客列車の一部の運行委託も請け負っている。

アムトラックの発足直後に起こったオイルショックは、石油類高騰に伴う自動車や航空機の燃料コストの増大から、コスト面で安価となる鉄道輸送にとって有利に働いた時期もあったが、1980年代航空規制緩和法等による航空産業の規制緩和を契機に、アメリカ南西部を中心にサウスウエスト航空が勢力を伸ばしたほか、世界規模での格安航空会社の成功とビジネスモデルの確立により、中・長距離都市間連絡路線を中心に鉄道の利用客を奪われる形となった。利用が低迷したため鉄道運行技術も世界的に見ても決して高いとはいえず、こうした事情もあり、経営状態は最近に至るまでも厳しいもので、連邦政府や運行地域の一部の州からの財政援助に頼ってきたのが現状である。

2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件以降、アメリカでは多くの旅客が民間航空機による移動を避けてアムトラックなどの航空機以外の移動手段を選択したため、一時的な業績回復がみられたものの、2000年頃からは重大な鉄道事故を頻繁に起こしている。

さらに、北東回廊以外の地区では各貨物鉄道会社の貨物列車、次いで高額な使用料を払う別会社の貨物列車が優先的に線路を使用しているため、アムトラックの旅客列車が数時間の遅延で運行されることも珍しくない。

列車

アムトラックはそれぞれの列車に名前を付けている。北東回廊線や一部の短距離都市間列車を除いて、1日1本から週3本程度の運行である。一部の都市には、最寄駅から連絡バス(en:Amtrak Thruway Motorcoach)を運行している(例:駅のあるオークランドあるいはエメリービルから、駅の存在しない主要都市サンフランシスコへ連絡バスが運行されている)。

現在運行中

列車名英文列車名始発駅 - 主な経由地 - 終着駅頻度・概要
アセラ・エクスプレスAcela Expressボストン - ニューヨーク - ワシントンD.C.毎日運行(高速列車)。
アディロンダックAdirondackカナダモントリオール - ニューヨーク毎日運行(国際列車)。
アムトラック・カスケーズAmtrak Cascadesカナダ・バンクーバー - シアトル - ユージーン毎日数便運行[注 3]
オート・トレイン[注 4]Auto Trainロートン - サンフォード[注 5]毎日運行。
ブルー・ウォーターBlue Waterシカゴ - ポートヒューロン毎日1往復。ミシガン・サービスの一路線。
カリフォルニア・ゼファーCalifornia Zephyrシカゴ - デンバー - ソルトレイクシティ - エメリービル毎日運行。
キャピトル・コリドーCapitol Corridorオーバーン - サンノゼ毎日数便運行[注 6]
キャピトル・リミテッドCapitol LimitedワシントンD.C. - シカゴ毎日運行。
カーディナルCardinalニューヨーク - シンシナティ - シカゴ週に3日運行。
カール・サンドバーグCarl Sandburgシカゴ - クインシー毎日運行。イリノイ・サービスの一路線[注 7]
カロリニアンCarolinianニューヨーク - シャーロット毎日運行。
シティ・オブ・ニューオーリンズCity of New Orleansシカゴ - メンフィス - ニューオーリンズ毎日運行。
コースト・スターライトCoast Starlightシアトル - ロサンゼルス毎日運行。
クレセントCrescentニューヨーク - ワシントンD.C. - アトランタ - ニューオーリンズ毎日運行。
ダウンイースターDowneasterポートランド - ボストン毎日数便運行。
エンパイア・ビルダーEmpire Builderシカゴ - スポケーン - ポートランド/シアトル[注 8]毎日運行。
エンパイア・サービスEmpire Serviceニューヨーク - ナイアガラフォールズ毎日数便運行。
イーサン・アレン・エクスプレスEthan Allen Expressラットランド - ニューヨーク毎日運行。
ハートランド・フライヤーHeartland Flyerオクラホマシティ - フォートワース毎日運行。
ハイアワサ・サービスHiawatha Serviceミルウォーキー - シカゴ毎日数便運行。
フージアー・ステートHoosier Stateインディアナポリス - シカゴ毎日運行[注 9]
イリニ・サルーキIllini and Salukiシカゴ - カーボンデール毎日運行。イリノイ・サービスの一路線。


同一区間・同一停車駅を走行する列車に2つの列車名が名付けられている。朝の列車がサルーキ号、午後の列車がイリニ号である。 2006年にサルーキ号が増発の形で新たに設定され、2往復体制となった。

イリノイ・サービス[注 10]Illinois Serviceシカゴ - クインシー/カーボンデール/セントルイス毎日運行。
イリノイ・ゼファーIllinois Zephyrシカゴ - クインシー毎日運行。イリノイ・サービスの一路線。
キーストーン・サービスKeystone Serviceニューヨーク - ハリスバーグ毎日十数便運行。
レイクショア・リミテッドLake Shore Limitedニューヨーク/ボストン[注 11] - オールバニ - トレド - シカゴ毎日運行。
リンカーン・サービスLincoln Serviceシカゴ - セントルイス毎日数便。イリノイ・サービスの一路線。
メープルリーフMaple Leafトロント - ナイアガラフォールズ - ニューヨーク毎日運行(国際列車)。
ミシガン・サービス[注 12]Michigan Servicesシカゴ - ポートヒューロン/グランドラピッズ/ポンティアック毎日運行。
ミズーリ・リバー・ランナーMissouri River Runnerカンザスシティ - セントルイス毎日運行。
ノースイースト・リージョナルNortheast Regionalボストン/スプリングフィールド - ニューポートニューズ毎日運行。「アセラ・エクスプレス」とほぼ同じ区間を走り、停車駅が多い。
パシフィック・サーフライナー[注 13]Pacific Surflinerサンルイスオビスポ - サンタバーバラ - ロサンゼルス - サンディエゴ毎日数便[注 14]
パルメットPalmettoニューヨーク - サバンナ毎日運行。
ペンシルベニアンPennsylvanianニューヨーク - ピッツバーグ毎日運行。
ペレ・マルケットPere Marquetteシカゴ - グランドラピッズ毎日1往復。ミシガン・サービスの一路線。
ピードモントPiedmontローリー - シャーロット毎日運行。
サン・ホアキンSan Joaquinベーカーズフィールド - オークランド/サクラメント毎日12便運行
シルバー・メティオSilver Meteorニューヨーク - ワシントンD.C. - チャールストン - オーランド - マイアミ毎日運行。シルバー・サービスの一路線。
シルバー・サービス[注 15]Silver Serviceニューヨーク - マイアミ毎日運行。
シルバー・スターSilver Starニューヨーク - ワシントンD.C. - コロンビア - オーランド - タンパ - マイアミ毎日運行。シルバー・サービスの一路線。
サウスウェスト・チーフSouthwest Chiefシカゴ - カンザスシティ - アルバカーキ - フラッグスタッフ - ロサンゼルス毎日運行。
サンセット・リミテッドSunset Limitedオーランド[注 16] - )ニューオーリンズ - ヒューストン - サンアントニオ - エルパソ (テキサス州) - ロサンゼルス週に3日運行。
テキサス・イーグルTexas Eagleシカゴ - リトルロック - ダラス - サンアントニオ( - ロサンゼルス毎日運行[注 17]
バーモンターVermonterセントオールバンズ - ワシントンD.C.毎日運行。
ウォルヴァリンWolverineシカゴ - デトロイト - ポンティアック毎日3往復運行。ミシガン・サービスの一路線。

廃止列車

  • Ann Rutledge / Kansas City Mule / St. Louis Mule(2009年、Missouri River Runnerに統合))
  • Black Hawk
  • ブロードウェイ特急
  • Clocker
  • Colonial
  • Desert Wind
  • The Federal(寝台車の連結を取りやめ、Regionalへ統合)
  • Floridian
  • George Washington
  • Hilltopper
  • International
  • James Whitcomb Riley
  • Kentucky Cardinal
  • Lake Cities
  • メトロライナー(ニューヨーク州ニューヨーク - ワシントンD.C.。Acela Expressに置き換え)
  • Montrealer
  • The National Limited
  • NortheastDirect(→Acela Regional→Regional →Northeast Regionalに改称)
  • ノースコースト・ハイアワサ
  • Patriot
  • Pere Marquette
  • Pioneer
  • San Diegans(→パシフィック・サーフライナーに改称)
  • Senator
  • Shawnee
  • Shenandoah
  • Silver Palm
  • Southwind
  • Spirit of California
  • Spirit of St. Louis
  • State House
  • Three Rivers
  • Twilight Limited
  • Twilight Shoreliner(The Federalへ改称の後、寝台車の連結を中止し、Regionalに統合)

保有路線

北東回廊と周辺路線。アムトラックの保有区間は赤線で示す。

アムトラックが自社保有する区間は以下の通りである。

北東回廊
ボストン - ニューヨーク - ワシントンD.C.間のうちのマサチューセッツ州[2]ロードアイランド州[3] 州境以南 - ニューヘイブン[4] 間とニューロシェル - ワシントンD.C.[5][6][7][8][9]
キーストーン回廊

フィラデルフィア - ピッツバーグ間のうちのフィラデルフィア - ハリスバーグ[7]

エンパイア回廊
ナイアガラフォールズ (ニューヨーク州) - ニューヨーク間のうちのスケネクタディの北、ホフマンズ - ポキプシー[5]
ニューヘイブン - スプリングフィールド線英語版
マサチューセッツ州スプリングフィールド[2] - コネチカットニューヘイブン[4]
ミシガン線英語版
インディアナ州ポーター英語版[10] - ミシガン州カラマズー[11]
ポストロード支線英語版
キャッストン・オン・ハドソン英語版 - レンセリア英語版

車両

多くの列車は原則として機関車が客車を牽引する形で運転される。東海岸の高速列車「アセラ・エクスプレス」、西海岸北部のタルゴ列車「アムトラック・カスケーズ」などごく一部の列車は固定編成を組んでいるが、多くの客車は1両単位での増減が可能で、利用状況に応じて増車・減車が行われることもある。電化区間は東海岸の北東回廊ボストン - ニューヨーク - ワシントンD.C.間、キーストーン回廊フィラデルフィア - ハリスバーグ間とごくわずかであり、ほとんどの路線はディーゼル機関車牽引の客車列車として運転される。一部の短距離・中距離列車では電車から制御車に改造した車両や機関車からディーゼルエンジンを取り外し制御車化改造したノン・パワード・コントロール・ユニット(Non-powered Control Unit, 略:NPCU)と呼ばれる車両、あるいは新造の制御車によるプッシュプル運転が行われている。

機関車

電気機関車

ディーゼル機関車

  • GE ジェネシス - 主力機関車
  • EMD F59PHI英語版 - アムトラック・カリフォルニアの主力機関車
  • B32-8BWH(Dash 8-32BWH) - 貨物機関車の旅客列車用バリエーション。少数が導入され、使用されている。
  • EMD F40PH - かつての主力機関車。機関車としては全機引退。一部が制御車兼荷物車およびタルゴ編成用制御車として現役
  • EMD SDP40F - 全機引退
  • シーメンス・チャージャー英語版 - 2017年より運行開始。ジェネシスやF59PHに代わる次期主力機として大規模な増備計画が進行中。

電車

ガスタービン動車

いずれも全車引退済み。

客車

列車設備・利用者層など

アムトラックの列車(フェーズIVと呼ばれる一世代前の塗装)

基本的には、指定席で予約を入れる必要があるが、一部列車には自由席もある。

なお、窓口で乗車券を購入する際には、防犯対策のためパスポートなどの身分証明書の提示が必要である。公式ウェブサイトでの予約も受け付けており、航空券と同様に発着駅の3文字のコードと、QRコードのついた「eチケット」が電子メールで発行される。AAA等の割引もあり、日本のJAF会員も割引の恩恵が受けられる。

編成は路線によりさまざまであるが、座席車(コーチ)に加え、数両にカフェ合造車(コーチカフェ)や荷物合造車(バゲージコーチ)などが連結されている列車も多い。列車によってはビジネスクラス車も連結される。

全区間の所要時間が15時間を越える14の列車には、寝台車(スリーパー)および食堂車(ダイナー)が連結されている。この場合は食堂車の隣にラウンジ車が連結されていることが多い。特殊な例としてはオートトレイン用の車運車オートラック)がある。なお、いずれの列車も座席車が必ず連結されており、寝台車のみで構成された列車は存在しない。

路線により通勤列車、近隣の都市間の移動用、観光用の長距離列車と性格が異なるため、利用客も様々である。

寝台車の旅客と座席車の旅客では待遇にかなりの差がある。例えば、寝台車のシャワーを座席車の旅客が使うことはできず、寝台車の旅客がソフトドリンク飲み放題であるのに対し、座席車の旅客はすべて有料である。また、座席車の旅客にはのみ無料で提供されてきたが、2013年8月より空気枕やブランケット等をパックした「パッセンジャー・コンフォート・キット」を車内売店で8ドル、あるいは通信販売によって送料含め15ドルで供給する形に改められた[20]

北東回廊線はアムトラックのドル箱路線であるが、都市間バスグレイハウンドトレイルウェイズ英語版、中華系資本会社など複数あり)や国内航空(シャトル便)との競合が激しく、ビジネス客の獲得に力を入れている。カリフォルニアの3路線(キャピトル・コリドーサン・ホアキンパシフィック・サーフライナー)も幅広い客層で一定の乗客数を確保している。2008年8月現在は無人駅への自動列車案内システムの導入や、カリフォルニア州でBARTカルトレインといった地域交通機関との連携も積極的に進めている。

2013年2月17日時点で駅数は529[21]。年間乗降客数1位の駅はニューヨークペンシルベニア駅(881万4,975人/年、2万4,150人/日)で、2位以下は1万人/日以下である。

関連項目

脚注

注釈

出典

外部リンク