オルクリスト

オルクリストOrcrist)は架空世界中つ国を舞台とする、J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』に登場する、ドワーフ族の王トーリン・オーケンシールドの名剣。

『ホビットの冒険』において、オルクリストはグラムドリングつらぬき丸ともに、トロルの洞穴で発見された。いずれもエルフの王国都市ゴンドリン英語版鍛えられた、発光する剣である。

そのルーン文字銘「オルクリスト」は、エルフ語(シンダール語)で「ゴブリン裂き」[注 1]を意味する。しかしゴブリン(オーク)たちは、バイター「嚙むもの」[注 2]と呼んでこの剣を恐れた。

語源

作中、エルフ族のエルロンドがルーン文字で書かれた剣名を解読して見せ、(製作地)都市ゴンドリンの古語(エルフ語[1])で"ゴブリンを裂くもの Goblin-cleaver"の意味だとしている[5]。のちのくだりでは、オークのあいだでは「かみつき丸」(「バイター(噛みつき魔)[2])と称されると明かされる[6][7]

エルフ語源をより詳しく解説すると、シンダール語古形 orc は、第3紀[注 3]シンダール語の orch である[8]。また -rist "裂く"は、イムラドリス(Imladris、裂け谷)の地名の部分にも(やや崩れた形で)みられる[8]

ノーム語による語源試論

『ホビットの冒険』の初期の手稿では[注 4]、オルクリストの初出は大オークが目撃する場面であり[注 5]、その前のエルロンドが説明するくだり(第3章)は、タイプライター打ち初稿ではじめて加筆された[9]。この手稿ではオルクリストは"goblin-slasher"と語釈されていて版本の"Goblin-cleaver"と微妙に違う[9]

『ホビットの冒険』執筆の時点では、トールキンが創作したエルフ言語構築にシンダール語はまだなかった。あったのはその土台となったノーム語/ノルドール語(Gnomish/Noldorin)[注 6]、すなわち「深慮なるエルフ族」の言語だが、『指輪物語』創作のあたりから、トールキンはこれをノルドールの言語から、シンダール「灰色エルフ族」の言葉として設定をすげかえ、シンダール語として言語の改良をしつづけた[10]

そこで『ホビットの冒険』草稿の編者ジョン・D. レイトリフ英語版は注釈で、オルクリストの剣名の、ノーム語あるいはノルドール語による説明を試みている[注 7]

トールキンの初期のエルフ語創作の成果である『ノーム語語彙目録』(1917年成立、1995年刊)によれば "orc" は「ゴブリン」の意味であり[12]、 "crist" は「ナイフ、切り裂く(スラッシュ)、切り込む・切り落とす(スライス)」等の意味である[13]ので、手稿文中の"goblin-slasher"ときっちり合致するとしている[9]。トールキンの『語源 Etymologies』(1930年代後半以降)では"crist" は "大包丁(クリーヴァ―)、剣"と定義し直されているのも注視に値する[14][注 8]

経緯

ビルボとドワーフら一行が、トロルの岩屋の貯蔵品のなかから略奪した三振りの名剣のひとつ。グラムドリングおよびスティング(つらぬき丸)と一緒にみつかった宝剣である[17][18]

エルロンドは、ゴブリン戦争で都市ゴンドリンが竜やゴブリンに陥落された際[注 9]、竜かゴブリンが集めた略奪品に収まり、めぐりめぐってトロルの贓物となったのだろうと推察した[3][4]

エルロンドが居を構える裂け谷から出発したガンダルフ、ビルボ、ドワーフら一行は霧ふり山脈英語版の峠道をつたって旅するとちゅう、浅い穴と思われた洞窟にはいるが、奥が開いて大オークをまじえた一団が現れ、鎖につながれてしまう。質問責めにあうが、部下のオークがトーリンの佩いていた剣を見せると、それがかつてエルフが何百となくオーク殺しをおこなったオルクリスト、オークが「かみつき丸」と呼ぶ剣だとボスの大オークには一目でわかり[17]、問答無用でその持ち主トーリンに襲い掛かる[6][7]

トーリンは、竜スマウグから奪回した先祖の財宝をめぐって、湖の町エスガロス英語版の人間や闇の森森のエルフと対立する。戦いの火蓋が切られた直後、ゴブリン軍とワーグの急襲を受けて、一転、ドワーフたちは人間やエルフと共に、戦うこととなった五軍の合戦。しかし、彼はその戦いの最中槍で刺されて致命傷を負い、まもなく息を引き取った。

オルクリストは、トーリンらドワーフ一行が森のエルフ王に囚われた時[19][20]、エルフ王に取り上げられていたのだが[23]、森のエルフ王(スランドゥイル)はトーリンの埋葬に際して、オルクリストをトーリンの墓に横たえた。この剣の刃は、敵が近づけば闇にかがやき、そのためドワーフの砦は敵の不意打ちに脅かされることがなかったという[24][25]

注釈

出典

脚注
参照文献

外部リンク

  • Orcrist トールキン・ウィキ (english)