ジョン・W・キャンベル記念賞
ジョン・W・キャンベル記念賞(ジョン・W・キャンベルきねんしょう、John W. Campbell Memorial Award for Best Science Fiction Novel)は、1994年を除いて毎年授与されている、SF小説(サイエンス・フィクション)の文学賞である。前年に英語で出版された長篇SF小説を対象としている。1973年ハリイ・ハリスンとブライアン・オールディスが、SF編集者ジョン・W・キャンベルにちなんで、キャンベルのようにSF作家たちを励ますことを目的として創設した[1]。
1987年から始まった、短編SF小説を対象とするシオドア・スタージョン記念賞も同時に選考され、あわせて授賞式が行われる。なお、ワールドコンでヒューゴー賞とともに授賞式を行っているアスタウンディング新人賞(旧称ジョン・W・キャンベル新人賞)は、本賞と直接の関係はない。
選考
候補作の決定後、選考委員の議論により受賞作を決定する。2009年の委員は8名、2010年と2011年は9名だった。選考委員は1位、2位、3位という形で3作品まで選考し、発表する。
授賞式は従来様々な場所で行われてきたが、1979年からカンザス大学の Center for the Study of Science Fiction (CSSF) が毎年開催する Campbell Conference で行うようになった。そこでは、SFの創作、イラストレーション、出版、教育、批評などのカンファレンスが開催され、この賞の授賞式がクライマックスとなっている。受賞作家はカンファレンスだけでなく、その前の2週間開催されるSF作家ワークショップにも参加することがある[1]。
選考委員
例として、2010年と2011年の選考委員は以下の9名だった[1]。
- グレゴリー・ベンフォード - 物理学者、ネビュラ賞受賞作家(『タイムスケープ』)
- ポール・ディ・フィリポ - SF作家、評論家
- シーラ・フィンチ - ネビュラ賞受賞作家、SF研究者
- ジェイムズ・E・ガン - ヒューゴー賞受賞作家、SF研究者、デーモン・ナイト記念グランド・マスター賞受賞、アメリカSFファンタジー作家協会元会長
- エリザベス・アン・ハル - SF研究者、Science Fiction Research Association の元会長
- Christopher McKitterick - SF作家、SF研究者、CSSF副センター長
- Paul Kincaid - SF評論家、アーサー・C・クラーク賞の元審査委員長
- パメラ・サージェント - ネビュラ賞受賞作家、アンソロジー Women of Wonder の編集者
- Tom Shippey - SF研究者、The Oxford Book of Science Fiction Stories の編集者
受賞作一覧
1973年と1974年には前年の最優秀長篇小説以外に特別な賞も授与している。
- 1973年: award for excellence in writing - ロバート・シルヴァーバーグ『内死』 [1]
- 1974年: non-fiction award - カール・セーガン『宇宙との連帯』[1]
1976年、選考委員会は該当作品がないと結論付け、1970年に出版された作品に遡及して特別に賞を与えた。
1994年、賞は与えられなかった。これは選考が紛糾してまとまらなかったためであり、賞に値する作品がなかったわけではない。審査員の意見が割れたため、これまでに4回、2作品が同時受賞したことがある。
フレデリック・ポール(1978、1985)とジョーン・スロンチェフスキは(1987、2012)は2回受賞している。
授賞年 | 受賞作 | 原題 | 作者 |
---|---|---|---|
1973 | アポロの彼方 | Beyond Apollo | バリイ・N・マルツバーグ |
1974 | 宇宙のランデヴー | Rendezvous with Rama | アーサー・C・クラーク |
マレヴィル | Malevil | ロベール・メルル | |
1975 | 流れよ我が涙、と警官は言った | Flow My Tears, The Policeman Said | フィリップ・K・ディック[2] |
1976 | 静かな太陽の年 | The Year of the Quiet Sun | ウィルスン・タッカー (1970年の作品に遡及して授与)[1] |
1977 | 去勢 | The Alteration | キングズリー・エイミス |
1978 | ゲイトウェイ | Gateway | フレデリック・ポール |
1979 | グローリアーナ | Gloriana | マイケル・ムアコック |
1980 | 歌の翼に | On Wings of Song | トマス・M・ディッシュ |
1981 | タイムスケープ | Timescape | グレゴリー・ベンフォード |
1982 | Riddley Walker | ラッセル・ホーバン | |
1983 | Helliconia Spring | ブライアン・オールディス | |
1984 | 独裁者の城塞 | The Citadel of the Autarch | ジーン・ウルフ |
1985 | The Years of the City | フレデリック・ポール | |
1986 | ポストマン | The Postman | デイヴィッド・ブリン |
1987 | A Door Into Ocean | ジョーン・スロンチェフスキ | |
1988 | リンカーンの夢 | Lincoln's Dreams | コニー・ウィリス |
1989 | ネットの中の島々 | Islands in the Net | ブルース・スターリング |
1990 | The Child Garden | ジェフ・ライマン | |
1991 | Pacific Edge | キム・スタンリー・ロビンソン | |
1992 | Buddy Holly Is Alive and Well on Ganymede | ブラッドリー・デントン | |
1993 | Brother to Dragons | チャールズ・シェフィールド | |
1994 | 受賞作なし | ||
1995 | 順列都市 | Permutation City | グレッグ・イーガン |
1996 | タイム・シップ | The Time Ships | スティーヴン・バクスター |
1997 | フェアリイ・ランド | Fairyland | ポール・J・マコーリイ |
1998 | 終わりなき平和 | Forever Peace | ジョー・ホールドマン |
1999 | Brute Orbits | ジョージ・ゼブロウスキー | |
2000 | 最果ての銀河船団 | A Deepness in the Sky | ヴァーナー・ヴィンジ |
2001 | Genesis | ポール・アンダースン | |
2002 | Terraforming Earth | ジャック・ウィリアムスン | |
クロノリス─時の碑─ | The Chronoliths | ロバート・チャールズ・ウィルスン | |
2003 | プロバビリティ・スペース | Probability Space | ナンシー・クレス |
2004 | Omega(英語版) | ジャック・マクデヴィット | |
2005 | Market Forces | リチャード・モーガン | |
2006 | Mindscan | ロバート・J・ソウヤー | |
2007 | Titan | ベン・ボーヴァ | |
2008 | In War Times | キャスリン・アン・グーナン | |
2009 | リトル・ブラザー | Little Brother | コリイ・ドクトロウ |
Song of Time | イアン・R・マクラウド | ||
2010 | ねじまき少女 | The Windup Girl | パオロ・バチガルピ |
2011 | 旋舞の千年都市 | The Dervish House | イアン・マクドナルド |
2012 | 軌道学園都市フロンテラ | The Highest Frontier | ジョーン・スロンチェフスキ |
夢幻諸島から | The Islanders | クリストファー・プリースト | |
2013 | ジャック・グラス伝:宇宙的殺人者 | Jack Glass: The Story of A Murderer | アダム・ロバーツ |
2014 | Strange Bodies | マーセル・セロー | |
2015 | ハリー・オーガスト、15回目の人生 | The First Fifteen Lives of Harry August | クレア・ノース |
2016 | Radiomen(英語版) | エレナー・ラーマン | |
2017 | Central Station | ラヴィ・ティドハー | |
2018 | 天才感染症 | The Genius Plague | デイヴィッド・ウォルトン |
2019 | 黒魚都市 | Blackfish City | サム・J・ミラー |
出典: 公式ホームページに受賞作とノミネート作(2位と3位)の一覧がある[1]。