松本大洋

日本の漫画家 (1967-)

松本 大洋(まつもと たいよう、男性1967年10月25日 - )は、日本漫画家東京都出身。和光大学人文学部芸術学科中退。

まつもと たいよう
松本 大洋
ルッカ・コミック&ゲームズにて(2017年)
ルッカ・コミック&ゲームズにて2017年
生誕 (1967-10-25) 1967年10月25日(56歳)
日本の旗 日本東京都
職業漫画家イラストレーター
活動期間1987年 -
ジャンル青年漫画
代表作鉄コン筋クリート
ピンポン
受賞第30回:日本漫画家協会賞特別賞(『GOGOモンスター』)
第11回:文化庁メディア芸術祭優秀賞(『竹光侍
第15回:手塚治虫文化賞マンガ大賞(『竹光侍』)
第32回:アイズナー賞最優秀アジア作品賞(『ルーヴルの猫』)
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代表作に『鉄コン筋クリート』『ピンポン』など。スポーツや闘いを題材に、の持つ美学世界観を独特のタッチで表現している。初期には講談社モーニング』で活動するも人気が出ず、小学館ビッグコミックスピリッツ』に移って以降評価を受けるようになった。

実母は詩人工藤直子[1]。妻は漫画家の冬野さほで、冬野はしばしば松本のアシスタントもしている。従弟の井上三太も漫画家。

経歴

小学校から高校までは、サッカー部に所属するスポーツ少年だった。小学校時代に、児童養護施設で過ごしている[2]。高校2年のとき、漫画の愛読者だった母の勧めで大友克洋吉田秋生の作品を読み、特に大友の『童夢』に衝撃を受ける。大学から従弟の井上三太の影響もあり漫画研究会に所属し、18歳で初めて漫画を描く。当時『モーニング』に描いていた土田世紀に憧れ、2本目に描いた作品で講談社に持ち込みを行なう。

1987年、『それゆけファウルズ』が『モーニング パーティ増刊』に掲載。また、『STRAIGHT』が四季賞準入選を受賞し『月刊アフタヌーン』増刊号に掲載され、漫画家としてデビューを飾る。当時、自身を天才だと思っており、そのまま大学もバイトも辞めているが、後で自作品がほかと比べてお粗末なことに気付き、自分の勘違いを知ったという[3]

同時期のデビューで敵わないと思った漫画家に若林健次山田芳裕タナカカツキがいたという[4]。受賞をきっかけにすぐに大学を辞め、『アフタヌーンシーズン増刊』他で短編作品を発表したのち、1988年より『モーニング』にて野球を題材にした作品『STRAIGHT』を連載。しかし単行本2巻までで打ち切りとなる。

その後、1年ほどの空白期間を経て小学館から声がかかり、担当編集者に話を通した後に移籍。1990年より『ビッグコミックスピリッツ』にて『ZERO』、1991年より『花男』、1993年より『鉄コン筋クリート』、1997年より『ピンポン』を連載。また、『鉄コン筋クリート』終了後、劇団黒テントからの依頼で上演用の漫画作品『花』を執筆。2000年にも同劇団に戯曲『メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス』を提供。この作品は2001年岸田國士戯曲賞候補となった。

『ピンポン』から3年を経た2001年、長編描き下ろし作品『GOGOモンスター』を刊行。1998年11月から2000年9月まで約2年を費やして450ページが描かれ、祖父江慎のデザインによる箱入りハードカバーで刊行された。この作品で2001年、第30回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。

2001年11月より、小学館からの新雑誌『スピリッツ増刊 IKKI』(後に独立して『月刊IKKI』となる)の看板作家として『ナンバーファイブ 吾』を連載。のちの『IKKI』編集長江上英樹は『IKKI』に松本を起用したことについて、「『ガロ』が白土三平、『COM』が手塚治虫を擁したのと同じ意味合いで、彼の存在は、この増刊号に不可欠なものと言えた」と振り返っている[5]

2006年、和光大学漫画研究会の先輩であり、デビュー以来しばしば松本のアシスタントもしていた永福一成を原作者とする時代劇作品『竹光侍』を『ビッグコミックスピリッツ』にて連載開始。同作品で2007年に第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を、2011年に第15回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した。

2010年12月から、『月刊IKKI』にて最新作『Sunny』の連載が始まった[6]。著者の実体験をベースに描かれており、「少年期の落とし前となるような大事な作品」と語られる1作である[7]2015年に完結した[8]

2014年谷川俊太郎が文、松本が絵を担当した絵本『かないくん』を出版[9]

2016年、『ビッグコミックオリジナル』にて『ルーヴルの猫』を連載開始[10]

2017年、松本の実母であるくどうなおこが文、松本が絵を担当した絵本『「いる」じゃん』を出版[11]

2019年、『ビッグコミックオリジナル増刊』にて『東京ヒゴロ』を連載開始[12]2020年、『ビッグコミックスペリオール』にて『むかしのはなし』を連載開始[13]

作品ではスポーツを扱った作品が多く、いずれゴルフ漫画を執筆したいと語っている[14]。インタビュー以外でメディアに露出することは極めて稀であるが、『STRAIGHT』の帯や、画集『松本大洋+ニコラ・ド・クレシー』で本人の姿を確認することができ、谷川俊太郎との共作関連でテレビにも出演している[15]。パソコンなどの電子機器は所有していないが、電子書籍には興味があると語っている。

絵柄

絵柄は作品によって大胆に変えられており、初期の『STRAIGHT』や『点&面』では、顔を記号的に省略した人物が登場し、望月峯太郎に影響を受けたようなタッチが見られる[16]。当時から線にはこだわりを持っていた[17]。構図では魚眼レンズで写したような、空間の広がりを極端に強調したアングルが多かったが、『GOGOモンスター』以降の作品ではこのような手法は使われていない。

画面構成については、『ZERO』が明暗を強調しているのに対し、『花男』ではバンドデシネの影響を受けて[18]明るいタッチのデフォルメされた絵柄が用いられ、『鉄コン筋クリート』では白黒のメリハリが利いたイラスト的なタッチ(フランク・ミラーの影響が強いという)、『ピンポン』では細い線を使った黒味の少ないタッチ、『花』ではトーンを使わない黒っぽいタッチ、『竹光侍』では時代劇の雰囲気に合わせて画用紙を使い、スクリーントーンの代わりに薄めた墨が用いられている[19]

なお、作品では女性キャラクターが登場することが極めて少ないが、これは女の子を描くことだけは苦手だからであり、それ以上の意味は特にないという[16]

しかしそれは過去の発言であって、Sunnyからは冬野さほの作画協力も得て多くの女性や少女が登場してる。

画材は一貫してミリペンを使用。絵は枠線などを除いてフリーハンドで描かれており、建物などを描く場合でも定規は使われていない。ただし、デビュー作の『STRAIGHT』の途中まではGペンで描かれている。ミリペンに替えた理由は使いこなせないからだったと話す。

作品リスト

『STRAIGHT』『点&面』を除き、漫画作品はすべてA5判で刊行されている。

連載作品

題名開始終了出版社掲載誌刊行情報
STRAIGHT(短期連載版)1988年同年講談社アフタヌーンシーズン増刊未刊行
STRAIGHT1989年週刊モーニング絶版
点&面(CAR&EARTH テントメン)1990同年未刊行
ZERO1991年小学館ビッグコミックスピリッツ
  • A5判単行本全2巻
  • B6判単行本全2巻
  • 文庫版全1巻
花男1991年1992年
  • A5判単行本全3巻
  • B6判単行本全3巻
  • 文庫版全2巻
鉄コン筋クリート1993年1994年
  • A5判単行本全3巻
  • B5判大型単行本全1巻
  • 文庫版全3巻
ピンポン1996年1997年
  • A5判単行本全5巻
  • B5判大型単行本全2巻
  • 文庫版全3巻
GOGOモンスター2000年同年単行本書き下ろし
  • 単行本全1巻
  • 文庫版全1巻
ナンバーファイブ 吾2005年スピリッツ増刊IKKI月刊IKKI
  • A5判単行本全4巻
  • B5判大型単行本全8巻
  • 文庫版全4巻
竹光侍2006年2010年ビッグコミックスピリッツ
  • A5判単行本全8巻
  • 文庫版全4巻
Sunny2010年2015年月刊IKKIA5判単行本全6巻
ルーヴルの猫2016年2017年ビッグコミックオリジナルA5判単行本全2巻
東京ヒゴロ2019年2023年[20]ビッグコミックオリジナル増刊単行本全3巻
むかしのはなし2020年ビッグコミックスペリオール

短編集

題名発売年出版社刊行情報
青い春 -松本大洋短編集-1993年小学館
  • A5判単行本
  • B6判単行本(品切れ)
  • 文庫版
日本の兄弟1995年マガジンハウスA5判単行本

画集

題名発売年出版社
1001995年小学館
1011999年
TAIYOU:自選画集2018年

その他

題名発売年出版社
2002年フリースタイル

短編・コラボレーション作品

題名初出収録
出版社掲載誌
それゆけ! ファウルズ!!1987年講談社モーニングパーティー増刊単行本未収録
STRAIGHT(1987年四季賞応募版)アフタヌーンシーズン増刊
タイガース時代1988年
ベストポジション
子供の頃に見た空は.偕成社コミック・モエ
オフロードチャンピオンシップを見たぞ1989年講談社モーニング
ドラえもん1996年イースト・プレスCOMIC CUE
あいさつ。1999年小学館トカイモン―トウキョウワカモノブック
m2001年プレビジョンSpoon.日本の兄弟
べんち2002年小学館青い春 ビジュアルシネブック
タムラ2003年月刊IKKIピンポン フルゲームの1
三重県の少年。2002年飛鳥新社adidas MANGA FEVER単行本未収録
勘吉2006年JAPON
犬は何と鳴く2010年小学館ビッグコミックスピリッツ
ささやかな旅2014年玄光社松本大洋+ニコラ・ド・クレシー
5時間目のブラックジャック2016年朝日新聞出版マンガのDNA
親父衆2015年集英社ジャンプ改親父衆
MUJICA NOSTRAグランドジャンプ単行本未収録
アシロ小学館月刊IKKIナンバー吾普及版第1巻
エガミさんフィルムアート漫画編集者単行本未収録
東京の青猫2021年小学館もしも、東京

絵本

題名共同制作者発売年リリース
かないくん谷川俊太郎2014年東京糸井重里事務所、ほぼ日の絵本
「いる」じゃん工藤直子2017年スイッチ・パブリッシング
こんとん夢枕獏2019年偕成社

装丁、挿絵

作品著者リリース
八月の金貨山中恒1992年あかね書房、あかね創作文学シリーズ
こどものころにみた空は工藤直子2001年理論社
自棄っぱちオプティミストキリンジ2010年パルコ
ボールのようなことば。糸井重里2012年東京糸井重里事務所、ほぼ日文庫
ふたつめのボールのようなことば。糸井重里2015年東京糸井重里事務所、ほぼ日文庫
TRIBUTE TO OTOMO大友克洋2017年講談社
ドエクル探検隊草山万兎2018年福音館書店、福音館創作童話シリーズ
みっつめのボールのようなことば。糸井重里2018年東京糸井重里事務所、ほぼ日文庫
「作家」と「魔女」の集まっちゃった思い出角野栄子2019年KADOKAWA
スター・ウォーズ トリビュート画集2019年講談社
ひととき小説2021年[21]日本たばこ産業

デザイン

  • 劇場アニメ『犬王』キャラクター原案

作品の映像化

脚注

参考文献

  • アフタヌーン四季賞CHRONICLE』講談社、2005年
  • 『マンガ夜話 松本大洋「花男」』キネマ旬報社、1998年
  • 『フリースタイル』2007年冬号「特集 松本大洋」フリースタイル
  • 『ユリイカ』2007年1月号「特集・松本大洋」青土社

外部リンク