エウディモルフォドン
エウディモルフォドン(Eudimorphodon 「真の二形の歯[1]」) は後期三畳紀に現在のイタリアに生息していた基盤的翼竜の1属である。1973年にマリオ・パンドルフィ (Mario Pandolfi) によってイタリアのチェーネ近郊のモンテ・ボー西斜面で発見され[1]、同年ロッコ・ザンベッリによって記載された。ほぼ完全な骨格が後期三畳紀(中期-後期ノーリアン)に堆積した頁岩から採集され[2]、このことからエウディモルフォドンは既知で最古の翼竜の一つとなっている[3]。翼開長はおよそ 100 cm ほどで[4]、骨質で長い尾の末端には後の時代のランフォリンクスと同様に菱形の尾端膜があった可能性がある。もしそうならば、尾端膜はこの翼竜が空中で機動する際に舵取りに使われただろう[5]。エウディモルフォドンは若年個体を含むいくつかの骨格が知られている。
エウディモルフォドン | ||||||||||||||||||||||||
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||
中生代後期三畳紀 (約2億1,000万 ~ 2億300万年前) | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Eudimorphodon Zambelli, 1973 | ||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | ||||||||||||||||||||||||
Eudimorphodon ranzii Zambelli, 1973 | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
エウディモルフォドン |
発見と種
エウディモルフォドンは現在の所ザンベッリによって1973年に記載された模式種である Eudimorphodon ranzii の1種のみを含む。基となった模式標本はMCSNB 2888である。種小名は教授である Silvio Ranzi への献名である。第2の種である Eudimorphodon rosenfeldi はイタリアで見つかった2つの標本をもとに1995年に Dalla Vecchia によって命名された。しかし、Dalla Vecchia 自身によるさらなる研究の中で彼はこれらは実際には別の属に属すると考え、2009年に Carniadactylus と名付けた[6]。3番目の種は Eudimorphodon cromptonellus で、2001年に Jenkins 等によって記載された[7]。これは90年代初めにグリーンランドの Jameson Land で発見された翼開長がわずか 24 cm の若年個体標本 (MGUH VP 3393) を基にしている。その種小名は教授である Alfred Walter Crompton への献名であるが、指小辞付きで命名されているのはその標本が非常に小さかったためである。2015年になってこの種はアレクサンダー・ケルナーによって別属とされ Arcticodactylus という属名を与えられた[8]。2003年の論文中で cf E. ranzii と言及された標本番号BSP 1994 I 51 は[9]、2015年にケルナーによって新属 Austriadraco とされた[8]。
1986年に多咬頭の歯を持った上下顎片がテキサス州西部の Dockum 層群の岩石から発見された。断片の1つはあきらかに下顎のもので、各々5つの咬頭を持った2つの歯が付属していた。もう1つの断片は上顎のもので同様に数個の多咬頭歯があった。これらの発見物はエウディモルフォドンのものによく似ており本属の種である可能性があるが、より状態の良い化石が発見されなければ確かなことはまだ言えない[2]。
かつてエウディモルフォドンとされた化石が多数発見されたことは、エウディモルフォドンをイタリアで発見される最も豊富な翼竜の一つとした[10]。今日ではこれらの大部分は別の属に分類されている[11]。
記載
エウディモルフォドンは小型の翼竜で翼開長は1m、体重は1kg を越えない。前肢の第4指は非常に長くなり飛膜を支えて翼を構成している[10]。
エウディモルフォドンは著しい異歯性を示し、これが古代ギリシア語で「真の二形の歯(ευς=真の・δυο=2・μορφη=形・οδονς=歯)」を意味する学名の由来である。本属はその様な歯を大量に持ち、わずか 6 cm の長さの顎に全部で110個もの歯が密集して並んでいた。顎の前部には各側に上顎4本下顎2本ずつの牙状歯があり、その後方で急に上顎25本下顎26本の小型の多尖頭歯(ほとんどは5咬頭)の歯列になる[3]。上顎では小型の3咬頭歯と5咬頭歯の間に余分な咬頭を持つ比較的大型の歯が2本ある[12]。
これらの歯の形態から食性は魚食性であることが示唆され、それはParapholidophorus 属魚類の化石が胃のあたりに保存されていたことからも確認できる。若いエウディモルフォドンは歯数の少ないいくぶん異なる歯列を持ち、より虫食性であった可能性がある[3]。エウディモルフォドンの上下の歯は顎を閉じたとき直接接触し、それは顎の後方の歯で特に顕著である。この歯列咬合の度合は既知の翼竜の中で最も強い。歯は多咬頭であり、歯の咬耗からはエウディモルフォドンがある程度までは食物を咀嚼したり噛み潰したり出来たことがわかった。歯の側部に沿って走る咬耗痕によりエウディモルフォドンは硬い殻を持つ無脊椎動物も摂食していたことが示唆される[13]。他のほとんどの翼竜は、単純な歯を持つかもしくは歯を全部失っているかなので、エウディモルフォドンはこの特徴的な歯によって他と区別される。Benson等 (2012)ではこの歯が魚類を保持したり破砕するのに最適であっただろうと言及された[10]。
系統発生と分類
発見された年代が非常に古いにもかかわらずエウディモルフォドンには原始的な特徴はほとんど見られず[3]、そのため爬虫類の系統樹のどこに翼竜が位置するのかを追求する際にこの属が用いられることはほとんどなかった。ただし、基盤的な特徴としては翼状骨歯の存在や尾の柔軟性をまだ保持していたことなどが挙げられる(他の長尾型翼竜が持つ尾を固めるための尾椎の長大な延長部が欠けている)。初期の翼竜化石数の貧弱さにより翼竜の祖先は未だ謎のままであり、複数の異なる専門家が恐竜や主竜形類やプロラケルタ形類などとの類縁関係を提起している。
包括的な鳥頸類の中で恐竜様類が翼竜類に近縁であるとする標準的な仮説でも、エウディモルフォドンは翼竜において初期の形態と後期の形態の間の関係性を確立する役には立たない。なぜならば、その多咬頭歯がジュラ紀翼竜が持つ単純な単咬頭歯と比較しても非常に派生的であると見なされ、エウディモルフォドンが後の翼竜の祖先と近縁ではないことを強く指し示すためである[12]。むしろ.翼竜進化の本流(ここではCampylognathoididae)から離れた特殊化したグループの一員であると考えられている[3]。以下の分岐分析は Upchurch等 (2015) による[14]。
Eopterosauria |
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しかしながら2020年の Matthew G. Baron による初期の翼竜の関係に関する研究では、エウディモルフォドンはNovialoideaとグループを成して Lonchognatha と呼ばれるクレードに属するという結果が出た[15]。
出典
- Dixon, Dougal. "The Complete Book of Dinosaurs." Hermes House, 2006.
- Fantastic Facts About Dinosaurs (ISBN 0-7525-3166-2)
- ペーター・ヴェルンホファー 『動物大百科別巻2 翼竜』 平凡社 1993 ISBN 4-582-54522-X