真核生物

身体を構成する細胞の中に細胞核と呼ばれる細胞小器官を有する生物

真核生物(しんかくせいぶつ、: Eukaryota: eukaryotes)は、生物学のドメイン Eukaryota/Eukarya を構成し、細胞の中にと呼ばれる細胞小器官を持つ生物である。すべての動物植物菌類、そして多くの単細胞生物は真核生物である。真核生物は、原核生物の2つのグループすなわち細菌古細菌と並び、生命体の主要なグループを構成している。真核生物は生物の個体数としては少数派であるが、一般的にはるかに大きいので、その集団的な地球規模でのバイオマスは原核生物よりもはるかに大きい。

真核生物
Eukaryota
分類
ドメイン:真核生物 Eukaryota
学名
Eukaryota
シノニム
和名
真核生物 (しんかくせいぶつ)
英名
Eukaryote
スーパーグループ[4]

真核生物は、アスガルド古細菌の中に出現し、ヘイムダル古細菌と近縁にあると見られる[5]。このことは、生命のドメインは細菌と古細菌の2つ英語版だけで、真核生物は古細菌の中に組み込まれていることを意味する。真核生物が最初に出現したのは古原生代のことで、おそらくは鞭毛のある細胞と考えられる。有力な進化理論によれば、真核生物は、嫌気性のアスガルド古細菌と好気性のシュードモナス門(旧: プロテオバクテリア)の共生によって誕生し、後者からミトコンドリアが形成されたという。シアノバクテリアとの共生による2回目のエピソードで、葉緑体を持つ植物の祖先が誕生した。

真核細胞(真核生物の細胞)は、小胞体ゴルジ装置などの膜結合細胞小器官を持つ。真核生物には単細胞多細胞とがある。それに比べ、原核生物は一般的に単細胞である。単細胞の真核生物は原生生物と呼ばれることもある。真核生物は有糸分裂による無性生殖と、減数分裂配偶子融合(受精)による有性生殖の両方を行うことができる。

多様性

真核生物は、直径3マイクロメートルに満たないピコゾア門のような微小な単一細胞から[6]、体重190トン、体長33.6メートル(110 ft)のシロナガスクジラのような動物[7]、あるいは高さ120メートルにもなる(390 ft)のセコイアのような植物まで、形態的に多様性に富むさまざまな生物を指す[8]。多くの真核生物は単細胞生物で、原生生物と呼ばれる非公式なグループにはこれらの多くが含まれるが、ジャイアントケルプMacrocystis)のような長さ61メートル(200 ft)にもなる多細胞生物もいる[9]。多細胞の真核生物には、動物、植物、真菌類が含まれるが、やはりこれらのグループにも多くの単細胞が含まれる[10]。真核生物の細胞は通常、原核生物細菌古細菌)よりもはるかに大きく、その体積は約10,000倍である[11][12]。真核生物は生物の数の中では少数派にすぎないが、その多くがはるかに大きいため、それらの世界全体のバイオマス(468ギガトン)は、原核生物(77ギガトン)よりもはるかに大きく、植物だけで地球の総バイオマスの81%以上を占めている[13]

真核生物は多彩な系統であり、主に微細な生物から構成されている[14]。多細胞性は何らかの形で、真核生物の中で少なくとも25回は独立して進化してきた[15][16]。複雑な多細胞生物は、アメーバ属の集合体である粘菌類を除けば、動物真菌類、褐藻類、紅藻類、緑藻類、陸上植物の6つの真核生物の系統の中で進化してきたにすぎない[17]。真核生物はゲノムの類似性に基づいてグループ分けされているため、グループには目に見える共通の特徴がないことが多い[14]

特徴

真核生物の決定的な特徴は、その細胞を持っていることである。真核(eukaryote)という用語は、ギリシャ語εὖeu、よく、うまく)とκάρυονkaryon、仁、核)からその名前がつけられた[18]。真核細胞には、細胞小器官と呼ばれるさまざまな内膜結合構造と、細胞の組織と形状を規定する細胞骨格がある。核は細胞のDNAを保持しており、染色体と呼ばれる線状の束に分かれている[19]。これらの染色体は、真核生物に特有の有糸分裂の過程で核分裂が起こる際、微小管紡錘体によって2つの同じ集まりに分離される[20]

生化学

真核生物は多くの点で原核生物とは異なっており、たとえば、ステラン合成のような独特な生化学的経路を持っている[21]。真核生物のそのシグネチャータンパク質は、他の生命ドメインのタンパク質とは相同性をもたないが、真核生物の間では普遍的なもののようである。これらのタンパク質には、細胞骨格、複雑な転写機構、膜選別システム、核膜孔、および生化学的経路におけるいくつかの酵素などである[22]

内膜

原核生物, 同じスケール
内膜系を持つ真核細胞
真核細胞は体積で原核細胞の約10,000倍大きく、膜結合細胞小器官を含んでいる

真核生物の細胞にはさまざまな膜結合構造があり、それらの集まりが内膜系を形成している[23]小胞液胞と呼ばれる単純な区画は、他の膜からの出芽によって形成される。多くの細胞は、エンドサイトーシスという過程(外膜が陥入英語版してからつまみ取るように小胞を形成する)を通じて食物やその他の物質を摂取する[24]。それに対して、エキソサイトーシスによって小胞から放出される細胞産物もある[25]

核は核膜と呼ばれる二重膜に囲まれており、核膜孔が物質の出入りを可能にしている[26]。核膜のさまざまな管状や板状の延長部分が小胞体を形成し、タンパク質の輸送英語版と成熟に関与している。粗面小胞体は、タンパク質を合成するリボソームで覆われた小胞体である。生成したタンパク質は内部空間あるいは内腔に入り、その後一般に、滑面小胞体から出芽した小胞に取り込まれる[27]。ほとんどの真核生物では、これらのタンパク質を輸送する小胞は放出され、ゴルジ装置と呼ばれる扁平槽(シスターネ英語版)が積み重なった小器官でさらに修飾される[28]

小胞は特殊化することもあり、たとえばリソソームは、細胞質内の生体分子を分解する消化酵素を含んでいる[29]

ミトコンドリア

基本的に真核生物にはミトコンドリアが存在し、独自にDNAを持つことから原核細胞にも似ている

ミトコンドリアは真核細胞に存在する細胞小器官である。ミトコンドリアは、通称「細胞の発電所[30]」と呼ばれ、糖や脂肪を酸化してエネルギーを貯蔵するアデノシン三リン酸(ATP)分子を生成し、エネルギーを供給する機能を持つ[31][32]。ミトコンドリアは、リン脂質二重膜でできた2つの膜で覆われ、内側の膜クリステという折り畳まれた構造になっていて、そこで好気呼吸が行われる[33]

ミトコンドリアは独自のDNAを持ち、そのDNAは起源とする細菌DNA英語版と構造的に類似しており、真核生物のRNAよりも細菌のRNAに近い構造的のRNAを生成するrRNAtRNAの遺伝子をコードしている[34]

一部の真核生物、たとえばメタモナス類ジアルジア属Giardia)やトリコモナスTrichomonas)、アメーバ動物門ペロミクサPelomyxa)はミトコンドリアを欠いているように見えるが、いずれもハイドロジェノソームマイトソームのようなミトコンドリア由来の細胞小器官を持っており、ミトコンドリアは二次的に失われたものである[35]。これらは細胞質内の酵素作用によってエネルギーを得ている[36][35]

プラスチド

プラスチドの最も一般的な種類は葉緑体で、葉緑体はクロロフィルを含み、光合成によって有機化合物を生成する。

植物やさまざまな藻類は、ミトコンドリアだけでなくプラスチドも持っている。プラスチドは、ミトコンドリアと同様に独自のDNA英語版を持ち、内部共生(この場合はシアノバクテリア)から進化した。それらは通常、葉緑体の形を取り、シアノバクテリアのようにクロロフィルを含み、光合成によってグルコースなどの有機化合物を生成する。また、栄養素の貯蔵を担うものもある。プラスチドはおそらく単一の起源を持つが、すべてのプラスチドを持つグループが密接に関連しているわけではない。それどころか、真核生物の中には、二次的な内部共生英語版あるいは摂取によって、他の生物からそれらを獲得したものもある[37]。光合成細胞や葉緑体の捕獲と隔離、すなわち盗葉緑体化は、現代の多くの種類の真核生物で見られる[38][39]

細胞骨格

顕微鏡下で観察したウシ肺動脈の内皮細胞の細胞骨格。細胞核は青、微小管は緑、フィラメント状アクチンは赤で標識されている。

細胞骨格は、細胞が動いたり、形を変化させたり、物質の輸送を可能にするモーター構造のために、剛構造と結合点を提供する。モーター構造はアクチンマイクロフィラメント(微小線維)であり、α-アクチニン英語版フィンブリンフィラミンなどのアクチン結合タンパク質が膜下の皮質や繊維束に存在する。微小管のモータータンパク質ダイニンキネシン、そしてアクチンフィラメントのミオシンが、ネットワークに動的な特性を与える[40][41]

多くの真核生物は、鞭毛と呼ばれる細長い運動性の細胞質突起、あるいは繊毛と呼ばれる多数の短い構造を持っている。これらの細胞小器官英語版は、運動、摂食、感覚などさまざまに関与している。それらは主にチューブリンから構成され、原核生物の鞭毛とはまったく異なる。これらは中心小体から生成する微小管の束によって支えられており、2本の1本鎖を9本の2本鎖が取り囲むように配列しているのが特徴である。鞭毛は、ストラメノパイルStramenopiles)の多くに見られるように、管状小毛(マスチゴネマ英語版)を持つこともある。それらの内部は細胞質と連続している[42][43]

中心小体は、鞭毛を持たない細胞や細胞群でもよく存在するが、針葉樹類顕花植物にはどちらもない。これらは一般に、さまざまな微小管性鞭毛根を生じさせるグループに存在する。これらは細胞骨格の主要な構成要素を形成し、しばしば数回の細胞分裂の過程で組み立てられ、一方の鞭毛は親から受け継ぎ、もう一方はそこから派生する。中心小体は核分裂の際に紡錘体の形成に関与する[44]

細胞壁

植物、藻類、真菌類、そしてほとんどのクロムアルベオラータ類の細胞は細胞壁に囲まれているが、動物の細胞は細胞壁に囲まれていない。これは細胞膜の外側にある層で、細胞を構造的に支え、保護し、濾過機構を提供する。細胞壁はまた、水が細胞内に侵入したときの過膨張英語版を防ぐ役割も果たす[45]

陸上植物の一次細胞壁を構成する主な多糖類は、セルロースヘミセルロースペクチンである。セルロース・ミクロフィブリル英語版はヘミセルロースと結合し、ペクチン・マトリックスに埋め込まれている。一次細胞壁で最も一般的なヘミセルロースはキシログルカンである[46]

有性生殖

有性生殖には、細胞内に染色体が一つずつ存在する単相と、二本ずつ存在する複相を交互に繰り返す生活環がなくてはならない。真核生物では、減数分裂によって単数体の配偶子が作られ、2つの配偶子が融合して二倍体の接合子が形成される。

真核生物は有性生殖を伴う生活環を持ち、各細胞に染色体が1つずつしか存在しない単相と、各細胞に染色体が2つずつ存在する複相とを交互に繰り返す。複相は、卵子精子などの2つの配偶子が融合して、接合子を形成することで成立する。この接合子は、有糸分裂によって細胞分裂を繰り返しながら成体に成長し、ある段階で染色体数を減らして遺伝的変動英語版を生み出す減数分裂によって単数体配偶子を形成する[47]。この様式にはかなりの多様性がある。植物には単数体と二倍体の両方の多細胞期英語版がある[48]。真核生物は原核生物よりも代謝率が低く、世代時間が長くなるが、これは真核生物が原核生物よりもはるかに大きく、体積に対する表面積の比が小さいからである[49]

有性生殖の進化英語版は、真核生物の原初的な特徴という可能性がある。系統学的分析に基づき、DacksとRogerは通性性(facultative sex)がこのグループの共通祖先に存在したと提唱している[50]。膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)と腸鞭毛虫(Giardia intestinalis、あるいはランブル鞭毛虫(Giardia duodenalis))という、以前は無性であると考えられていた2つの生物には、減数分裂で機能するコア遺伝子セットが存在する[51][52]。この2種は、真核生物の進化系統樹の初期に分岐した系統の子孫であることから、コア減数分裂遺伝子、ひいては性が真核生物の共通祖先に存在した可能性がある[51][52]リーシュマニアLeishmania)寄生虫など、かつては無性であると考えられていた種にも性周期がある[53]。以前は無性生物と考えられていたアメーバは、古代は有性生物であり、現在の無性群体は最近進化した可能性が高い[54]

進化

主要なサブグループと各グループの代表的なメンバーの簡略図が示された真核生物の系統樹。最近 (2023年現在) の系統発生学的な再構築に基づいて更新された[55]

分類の歴史

古代アリストテレステオプラストスは、動物植物という2つの生物の系統を識別していた。これらの系統は、18世紀にリンネによって(Kingdom)という分類学的な階級が与えられた。リンネは、真菌類を植物に含めることに若干の条件をつけたが、後に、真菌類はまったく別個のもので、独立した界を持つに値することがわかった[56]。さまざまな単細胞の真核生物が知られるようになった当初、それらは植物や動物と一緒にされていた。1818年、ドイツの生物学者ゲオルク・A・ゴルトフス英語版は、繊毛虫のような生物を指すために原生動物Protozoa)という言葉を作り[57]、このグループは、1866年にエルンスト・ヘッケルがすべての単細胞真核生物を包括する界、原生生物界Protista)を作るまで拡張された[58][59][60]。こうして真核生物は4つの界に分類された。

当時、原生生物は「原始的な形態」であり、原始的な単細胞の性質が合併した進化の一段階英語版であると考えられていた[59]

19世紀にはすでに、という構造の有無が生物の分類にとって重要な差異であることは認識されていた。エルンスト・ヘッケルは、細菌などのなんの構造も持たない生物を原生生物の中のモネラとして区別し、後にシアノバクテリアをここに含めている[61]。しかし当時は動物植物という差異がまず先に立っており、モネラとそれ以外という差異が注目されることはなかった。

真核生物という言葉は、文献上エドゥアール・シャットンが1925年の論文で初めて用いた[62]。この論文はPansporella perplexaの分類学的位置を議論するもので、末尾の原生生物の分類表と樹形図の中でEucaryotesProcaryotesが示されているものの、他には何の説明もなかった[63]。シャットンの弟子で後にノーベル生理学・医学賞を受賞したアンドレ・ルヴォフの1932年のモノグラフの冒頭には、シャットンを引用しながら原生生物を原核生物と真核生物に二分する旨の記述がある。ここでは、原核的原生生物を細胞核ミトコンドリアがないもの、真核的原生生物を両者を持つものとしている[64]。以後、20世紀前半に英語ドイツ語フランス語の文献で何度か言及されてはいるが、生物を真核生物と原核生物に二分する方法は一般的な認識とは程遠かった[62]。たとえばハーバート・コープランド英語版は1938年に細胞核がない生物をモネラ界としたが、細胞核がある生物についてはヘッケルの3界(動物界、植物界、原生生物界)をそのまま採用している[65]。この二分法を普及させたのは、カナダ人の細菌学者 ロジャー・スタニエ英語版である。彼は1960年から翌年にかけてサバティカルでパスツール研究所に滞在し、ルヴォフとの議論の中でシャットンの二分法を知り、1962年の論文[66]で広く知らしめたのである[61][62]電子顕微鏡による微細構造観察が当たり前のように行われる時代になって、この二分法は広く受け入れられるようになった。

生命の樹英語版系統樹も参照)における最古の分岐の理解は、DNAの塩基配列の決定によって初めて実質的に進展し、1990年にカール・ウーズオットー・カントラー英語版マーク・ウィーリス英語版らが提唱した最上位の階級を(界ではなく)ドメインとする体系(3ドメイン系英語版)が導かれた。彼らは、すべての真核生物の界を「Eucarya」ドメインに統合したが、「真核生物は今後も受け入れられる一般的な同義語である」と述べている[1][67]。1996年、進化生物学者のリン・マーギュリスは、界とドメインを「包括的」な名前に置き換えて「共生に基づく系統発生」を作ることを提案し、「真核生物(共生由来の有核生物)」という説明を加えた[2]

しかしながら、真核生物以外のすべての生物の総称として、原核生物という言葉は今日でも学術論文で用いられている。一方で21世紀に入ると、真核生物は古細菌から派生して出現した系統であるという理解が普及し、生物界を細菌とそれ以外で分ける、上記とは異なる意味合いでの二分法が出現している[68]

系統発生

2014年までに、過去20年間の系統学的研究から、大まかな合意が生まれはじめた[10][69]。真核生物の大部分は、アモルフェア(Amorpheaユニコント仮説に似た構成)と、植物とほとんどの藻類系統が含まれるDiphoda(旧: バイコンタ)と呼ばれる2つの大きなクレードのいずれかに分類される。第3の主要グループであるエクスカバータExcavata)は、側系統であるため、正式な群としては放棄された[4]。以下の提案された系統発生図には、エクスカバータの1つの群(ディスコバ、Discoba)のみが含まれ[70]ピコゾア門(Picozoa)は紅藻Rhodophyta)の近縁種であるという2021年の提案が取り入れられている[71]。プロヴォラ(Provora)は2022年に発見された微生物捕食者の群である[3]

真核生物/Eukaryotes

アンキロモナス
Ancyromonadida

マラウィモナス英語版
Malawimonada

クルムス
CRuMs

アモルフェア
Amorphea

アメーボゾア
Amoebozoa

オバゾア
Obazoa

ブレビアテア
Breviatea

アプソモナス
Apusomonadida

オピストコンタ
Opisthokonta

ホロマイコータ (真菌を含む)
Holomycota

ホロゾア (動物を含む)
Holozoa

1300 mya
1500 mya
Diphoda

? メタモナダ
Metamonada

ディスコバ
Discoba

ディアフォレティケス
Diaphoretickes

クリプチスタ
Cryptista

アーケプラスチダ
Archaeplastida

紅藻
Rhodophyta

ピコゾア
Picozoa

灰色藻
Glaucophyta

1100 mya

緑色植物亜界 (植物を含む)
Viridiplantae

1000 mya
1600 mya

ヘミマスティゴフォラ
Hemimastigophora

プロヴォラ英語版
Provora

ハプチスタ
Haptista

TSAR

テロネマ門
Telonemia

SAR
SAR supergroup

リザリア
Rhizaria

550 mya
Halvaria

アルベオラータ
Alveolata

ストラメノパイル
Stramenopiles

Bikonts
2200 mya

この系統発生図は上界とそのステムグループの一つの見方を示す[70][72][73][14]メタモナーダは位置づけが困難で、ディスコバ英語版あるいはマラウィモナス英語版の姉妹という可能性がある[14]

真核生物の起源

細胞内共生説では、古細菌と好気性細菌が融合して好気性ミトコンドリアを持つ真核生物が誕生し、2度目の融合で葉緑体が加わって緑色植物が誕生した[74]

すべての複雑な細胞とほぼすべての多細胞生物が真核生物に含まれることから、真核生物の起源、すなわち真核発生(eukaryogenesis)は、生命の進化における画期的な出来事であった。真核生物の最終共通祖先英語版(LECA)とは、現生するすべての真核生物の起源と仮定されるもので[75]、単一の個体ではなく生物学的な集団であった可能性が高い[76]。LECAは、核に加え、少なくとも1つの中心小体鞭毛、通性好気性ミトコンドリア、性(減数分裂異型配偶子融合)、キチンまたはセルロースの細胞壁を持つ休眠嚢胞、そしてペルオキシソームを持つ原生生物であったと考えられている[77][78][79]

運動性の嫌気性古細菌と好気性アルファプロテオバクテリア綱の内共生併合によって、ミトコンドリアを持つLECAそしてすべての真核生物が誕生した。さらにその後、シアノバクテリアとの2回目の内共生により、葉緑体を持つ植物の祖先が誕生した[74]

古細菌に真核生物のバイオマーカー (en:英語版が存在することは、古細菌起源を示唆している。アスガルド古細菌のゲノムには、真核生物の特徴である細胞骨格や複雑な細胞構造の発達に重要な役割を果たす、真核生物特有のタンパク質遺伝子が多く存在する。2022年、クライオ電子線トモグラフィー法によって、アスガルド古細菌が複雑なアクチンベースの細胞骨格を持つことが明らかになり、真核生物の祖先が古細菌であることを示す最初の直接的な視覚的証拠が得られた[80]

古細菌から真核生物への具体的な道筋は解明されておらず、水素仮説[81]、リバース・フローモデル[82]、E3モデル[83] など多くの仮説が提唱されている[84]。ほとんどの仮説が、古細菌がバクテリアを取り込んだと考えているのに対して、シントロピー・モデル[85] と呼ばれる仮説のみ、バクテリア(特にデルタプロテオバクテリア)が古細菌を取り込んだと推定しており、共生の関係性が他の説とは逆である。この説ではミトコンドリアは古細菌とは別個に取り込まれて成立したとされる。上記の説以外にも、真核生物の細胞核に類似の器官をもつ一部のバクテリア(例えばプランクトミケス)が、真核生物の起源に関与しているとする説も存在する[86]

成立年代の推定

真核生物の成立年代は未確定ではあるものの、例えば真核生物に不可欠ないくつかの器官(例えばミトコンドリアや、ステロールを含む細胞膜[87][88]の成立に酸素が必須なことから、真核生物は24億年前の大酸化イベント以後、好気性条件下でおおまかに19億年前頃(原生代)には成立したとする説が有力である[89]。一方で、真核生物は酸素が大気中に含まれていなかった大酸化イベント英語版(GOE)以前の生活スタイル(嫌気呼吸)も保持しており[90][91]、最初に誕生した真核生物は通性嫌気性生物であったと想定される。大酸化イベント以前(太古代)の地球にもごく少量の酸素は存在していた可能性があるが[92]、真核生物を含め好気性生物が太古代にすでに存在していたかについては、それを明確に支持する証拠は現在のところない。

オーストラリア頁岩に真核生物に特有のバイオマーカーであるステランが含まれていることから、かつては27億年前の岩石に真核生物が存在していたことが示唆されていたが[21][93][94][95][96]、これらの太古代のバイオマーカーは後世の汚染物質であると反論されている[97][98][99]。最も古く確かなバイオマーカーの記録は、約8億年前の新原生代のものでしかない[100][101][102]。対照的に、分子時計分析によれば、ステロール生合成が23億年前にも出現したことを示唆している[103]。真核生物のバイオマーカーとしてのステランの性質は、一部の細菌によるステロールの産生によってさらに複雑になっている[104][105]

新原生代以前の真核生物の有無および実態については詳しくわかっていない。2023年、現生の真核生物がもつステロールとは化学構造がやや異なる、”より原始的な”プロトステロールが化石化したものが新原生代以前の地層に広く分布していることが発表され、これらのステロールは現生の真核生物(クラウン・グループ)以前に存在していたステム・グループに属する生物が作り出していた可能性が指摘された[106]。この説に従えば、現存する真核生物の最終共通祖先英語版(LECA)は新原生代まで出現しなかったことになり、それまでは真核生物の前駆段階にあたる何らかの好気性生物が長く繁栄していたことになる。一方で、プロトステロールを含めてステロール自体は細菌が究極的な起源である可能性も指摘されており[88]、新原生代以前のステロール(プロトステロール)を合成していた生物が何者だったのかによって、真核生物の成立過程についての理解は今後大きく変化する可能性がある。

ステラン以外の真核生物の痕跡としては、真核生物由来とされる微化石が21億年前の地層から発見されている[107]。ただし、これらの化石が真に真核生物由来かどうかはなお議論の必要がある。19億年前の地層から見つかった、コイル状の多細胞生物と推定されるGrypaniaは真核生物として一定の支持を得ている最古の化石の一つである[89]。真核生物の起源を分子時計を用いて推測する研究も行われている[108][109]

その起源が何であれ、真核生物が生態学的に優勢になったのは、ずっと後のことかもしれない。8億年前に海洋堆積物の亜鉛組成英語版が大幅に増加したのは、原核生物に比べて亜鉛を優先的に消費し取り込む真核生物の個体数が、その起源から(遅くとも)約10億年後に増加したことに起因している[110]

化石

約22億年前の岩石から発見された、高さ1mmに満たないDiskagma buttoniiの復元化石[111]

真核生物の起源を特定するのは困難であるが、16億3,500万年前に生息していた最古の多細胞真核生物であるQingshania magnificiaが中国北部で発見されたことは、クラウングループの真核生物が古原生代後期(スタテリアン紀)に起源を持つことを示唆している。約16億5,000万年前に生息していた最初期の明確な単細胞真核生物も中国北部で発見された。それらは、Tappania plana, Shuiyousphaeridium macroreticulatum, Dictyosphaera macroreticulata, Germinosphaera alveolata, and Valeria lophostriata である[112]

少なくとも16.5億年前のアクリターク(分類不能な微化石)も知られており、藻類の可能性があるグリパニア英語版Grypania)の化石は21億年前のものである[113][114]。「問題の化石[111]Diskagma は、22億年前の古土壌英語版から発見された[111]

ガボンフランスヴィルB層英語版などの古原生代黒色頁岩英語版からは、21億年前と推定される「フランスヴィル生物相英語版」と呼ばれる「大型生物群集」を表すとされる構造物が見つかっている[115][116]。しかし、これらの構造物が化石であるかどうかについては議論があり、これらが偽化石である可能性を示唆する著者もいる[117]。真核生物に明確に帰属される最古の化石は、中国の濮陽(ぼくよう)層群で発見された約18億年-16億年前のものである[118]。現代の生物群と明らかに関連する化石は、紅藻類の形で推定12億年前に出現し始めているが、最近の研究では、ヴィンディヤ盆地に存在する糸状藻類の化石がおそらく16億年-17億年前にさかのぼるものと示唆されている[119]

関連項目

脚注

出典

参考文献

外部リンク