コロラドビャクシン

コロラドビャクシン(学名: Juniperus scopulorum)は、裸子植物マツ綱ヒノキ科ビャクシン属に属する常緑針葉樹の1種である。高さ10–20メートルになる高木であり、小枝は細く、鱗片状の葉で覆われる。球果は翌年に熟し、液果状で直径4-9ミリメートル、紫黒色で粉白をおびる。北米西部に広く分布しており、草地、荒原、岩石地などに生育している。北米東部に見られるエンピツビャクシンに近縁であり、異所的に分布している。スカイロケット(‘Skyrocket’)などさまざまな園芸品種があり、観賞用に植栽されている。

コロラドビャクシン
コロラドビャクシン
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
:植物界 Plantae
階級なし:裸子植物 gymnosperms
:マツ綱 Pinopsida
:ヒノキ目 Cupressales[注 1]
:ヒノキ科 Cupressaceae
亜科:ヒノキ亜科 Cupressoideae
:ビャクシン属(ネズミサシ属) Juniperus
:Juniperus sect. Sabina[5]
:コロラドビャクシン J. scopulorum
学名
Juniperus scopulorum Sarg.1897[6]
シノニム
  • Juniperus virginiana var. scopulorum (Sarg.) Lemmon (1900)
  • Juniperus virginiana subsp. scopulorum (Sarg.) A.E.Murray (1983)
  • Sabina scopulorum (Sarg.) Rydb. (1905)
  • Juniperus excelsa Pursh (1813), nom. illeg.
  • Juniperus maritima R.P.Adams (2007)
  • Juniperus occidentalis var. pleiosperma Engelm. (1877)
  • Juniperus virginiana var. montana Vasey (1876)
  • Sabina maritima (R.P.Adams) Y.Yang & K.S.Mao (2022)
英名
Rocky mountain juniper[1][7][8], Rocky mountain red cedar[1][7][8], mountain red cedar[7], river juniper[1][8], Colorado red cedar[9], red cedar[1][8], weeping juniper[7], western juniper[8]

特徴

常緑高木であり、ふつう主幹が明瞭だがまれに株立ち状、高さ10–20メートル (m) になる[7][10][11](図1, 2a, b)。樹冠は円錐形から不定形[7][10][11]樹皮は赤褐色から灰褐色、薄く縦に剥がれる[7][10][11](下図2c)。小枝は平滑、横断面は四角から三角形、ふつう上向するがときに下垂、末端は細く、葉長の2/3以下[7][10]

2a. 樹形
2b. 樹形
2c. 樹皮

はふつう鱗形葉、まれに針葉、明緑色から濃緑色、ときに青緑色、全縁、背軸側にある腺点は楕円形で明瞭[7][10][11]。鱗形葉は長さ 1–3 mm、ときに竜骨状、先端は尖頭から鈍頭、重なる場合でも1/5長以下、十字対生して枝を覆う[7][10][11](下図3a)。針葉はさや状、長さ 3-12 mm、向軸側は白色を帯びない[7][10][11]

3a. 枝葉
3b. 雄球花をつけた枝葉
3c. 球果をつけた枝葉

雌雄異株であり、"花期"は4月から6月、雄球花[注 2]または雌球花[注 3]を小枝の先端につける[11][15]。雄球花は楕円形、長さ 2–4 mm、黄褐色、ふつう6個の小胞子葉からなる[11][15](上図3b)。球果は翌年の秋から冬に成熟し、裂開せず鱗片は合着して液果状(漿質球果)になり、球形から卵形、直径 4-9 mm、青黒色、粉白をおび、1-3個の種子を含む[7][10][11][15](上図3c)。種子は黄褐色、長さ 2-5 mm[10][11](下図4c)。染色体数は 2n = 22[7][10]

分布・生態

北アメリカ西部に広く、しかし散在的に分布しており、カナダ西部からメキシコ北部、特にロッキー山脈に沿って見られる[6][7][15](下図5a)。生育可能な気候条件の範囲は幅広く、7月平均気温が 16–24°C、1月平均気温が -9°Cから4°C、平均年間降水量が 250–840 mm の地域に見られ、乾燥地に生育する[15]

4a. 分布域: コロラドビャクシン(緑)と近縁種の Juniperus maritima(赤)
4b. 自生地のコロラドビャクシン(アイダホ州
4c. 自生地のコロラドビャクシン(モンタナ州

一般的に土壌が浅くあまり発達していない痩せた土地の、草原や牧草地、荒地、岩地などに生育する[15](上図4b, c)。森林にも生育するが、優占することはない[15]

球果は、主に鳥によって食べられ、種子散布される[11][15]。種子散布において哺乳類は重要ではないが、ヒツジは球果を好んで食べることが知られており、放牧地の道沿いにコロラドビャクシンが生えていることがある[15]

コロラドビャクシンの枝葉は、家畜シカバイソンなどさまざまな動物に食べられる[11]。また、さまざまな鳥がコロラドビャクシンに営巣する[11]

Cercospora sequoiae子嚢菌門クロイボタケ綱)は、コロラドビャクシンにとって最も深刻な病害を引き起こす[15]。他に、Rhizoctonia solani担子菌門ハラタケ綱)、Phomopsis juniperovora(子嚢菌門フンタマカビ綱)なども害を与える[15]。また、リンゴナシなどに大きな被害を与える赤星病菌(担子菌門サビキン綱)の中間宿主となる[15]

コロラドビャクシンを食害する動物として、甲虫鱗翅目双翅目、キジラミ、ハダニなどが知られる[15]。またセンチュウPratylenchus penetrans は実生の根に深刻な害を与える[15]

人間との関わり

コロラドビャクシンのの木目は細かく、辺材は白色、心材は紫紅色でその境界は明瞭、精油を多く含み芳香がある[7][15]家具や塀などに用いられる[11]。また、コロラドビャクシンの球果や若枝の精油は、薬用としても利用されている[11]

北米東部の先住民の多くの部族は、コロラドビャクシンを儀式に用いていた[11]は、楽器燃料などに用いられていた[11]。また、球果や葉、根を生薬としていた[11]

防風林として利用されることがある[11]。観賞用にも利用され、‘Blue Arrow’、‘Blue Creeper’(ブルークリーパー)、‘Blue Heaven’(ブルーヘブン; 下図5a)、‘Blue Trail’、‘Cologreen’、‘Erecta Glauca’、‘Gray Gleam’(グレイグラム)、‘Green Ice’、‘Greenspice’、‘Jewell Frost’、‘Medora’(メドーラ)、‘Moffat Blue’、‘Montana Green’、‘Moonglow’(ムーングロウ)、‘Pathfinder’、‘Platinum’、‘Skyrocket’(スカイロケット; 下図5b, c)、‘Sparkling Skyrocket’、‘Springbark’、‘Sutherland’、‘Table Top’、‘Table Top Blue’、‘Tollesonís Blue Weeping’、‘Tollesonís Green Weeping’、‘Welchii’、‘Witchita Blue’(下図5d)、‘Winter Blue’(ウィンターブルー)などの園芸品種がある[11][15][16]

5a. ‘Blue Heaven’(ブルーヘブン)
5b. ‘Skyrocket’(スカイロケット)
5c. ‘Skyrocket’(スカイロケット)
5d. ‘Witchita Blue’

分類

コロラドビャクシンはエンピツビャクシンJuniperus virginiana)に極めて近縁であり、北米を二分して南北に走るグレートプレーンズを境界として西側にコロラドビャクシン、東側にエンピツビャクシンが分布している[7]。分布域が接する地域では、交雑することが報告されている[7]。また米国北西部のピュージェット湾周辺に分布する(上図4a)J. maritima も極めて近縁であり、この3種は同種とすべきとも考えられている[7]。他にも、J. barbadensisJ. bermudianaJ. gracilior なども近縁であり、明瞭な系統群を構成している[7]

脚注

注釈

出典

関連項目

外部リンク