サバクオオトカゲ

サバクオオトカゲ(学名:Varanus griseus)は、有鱗目オオトカゲ科に分類されるオオトカゲの1種。中央アジア南アジア北アフリカに分布する。肉食性であり、様々な脊椎動物無脊椎動物を捕食する[3]

サバクオオトカゲ
亜種カスピオオトカゲ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:爬虫綱 Reptilia
:有鱗目 Squamata
:オオトカゲ科 Varanidae
:オオトカゲ属 Varanus
亜属:サバクオオトカゲ亜属 Psammosaurus
:サバクオオトカゲ V. griseus
学名
Varanus griseus
(Daudin, 1803)
シノニム
  • Psammosaurus arabicus Hemprich & Ehrenberg, 1899
  • Psammosaurus griseus Sixta, 1900
  • Psammosaurus terrestris Rablrückhard, 1881
  • Tupinambis arenarius Geoffroy, 1827
  • Tupinambis griseus Daudin, 1803
  • Varanus arenarius Duméril & Bibron, 1836
  • Varanus griseus griseus De Lisle, 1996
  • Varanus scincus Merrem, 1820
  • Varanus terrestris Schinz, 1834
  • Varanus (Psammosaurus) griseus Mertens, 1942
英名
Desert monitor

分布

ヨルダントルコモロッコアルジェリアチュニジアリビアエジプト[4][5]イスラエルシリアレバノンイラクオマーントルクメニスタンカザフスタンウズベキスタンタジキスタンキルギス西サハラモーリタニアマリニジェールチャドスーダンアフガニスタンイランカヴィール砂漠を含む)、パキスタンインド北西部。タイプ産地はカスピ海沿岸[3][6]

形態

体色は茶色黄色灰色など様々。全長は通常1 m程だが、大型の個体は2 m近くまで成長する。背中から尾にかけて横縞が入り、背中に黄色い斑点が散らばる個体もいる。幼体は明るいオレンジ色で、特徴的な縞模様があるが、成長に伴い消失する。鼻孔は吻端よりも目に近い位置にある。性的二形は無い。年に3回、数ヶ月かけて脱皮し成長する。皮膚は砂漠の環境に適応している。遊泳と潜水能力も高く、獲物を求めて水に入ることもある[7]

生態

砂漠砂丘、乾燥した荒地に生息し、地面に巣穴を掘って生活する。10月から4月頃まで冬眠する。4月に一斉に目覚め、5月から7月が最も活発な時期である。巣穴に潜んでおり、摂食の際は外に現れる。3 - 4年で体長55 - 65 cmに達し、3 - 5年で性成熟する。寿命は雌雄共に8年以下[8]

適正温度

変温動物であるため、気温によって行動は異なる。一定の区間では速度と体温に相関関係があり、気温21 °Cでは秒速1 m程だが、気温37 °Cでは秒速3 mで走ることが出来る。気温37 °Cを超えても速度は上がらず、気温21 °Cを下回ると非常に鈍くなる。体温は周りの環境によって変化するが、最高でも38.5 °Cである。冬眠中の体温は平均的に16 - 18 °Cである[4]。オオトカゲの中では低温耐性が強く、カザフスタン南西部まで分布している[9]

繁殖

5月から6月にかけて交尾し、6月下旬から7月上旬にかけて産卵する[8]。卵は29 - 31 °Cの環境にあり、平均120日で孵化する。出生時は全長25 cm[6]

食性と天敵

ほとんどのオオトカゲと同様に肉食動物であり、ネズミを好むが、小型哺乳類爬虫類両生類昆虫、その他無脊椎動物も捕食する[10]シマハイエナフェネックスナネコなどの哺乳類に捕食される[11]

毒性

オオトカゲ類に咬まれると後遺症が残ることがあり、以前は口内の細菌によるものと考えられていたが、殆どの種で下顎に毒腺がある事が発見された[12][13]。この毒により獲物を麻痺させていると推定されている。また血液凝固を引き起こすプロテアーゼが含まれており、タンパク質を分解して消化を助けている。さらにヒアルロニダーゼも含まれており、消化酵素を増加させて消化を助けている[14]

亜種

サバクオオトカゲには3亜種が知られている[15]

  • V. g. griseus (grey monitor) アラブサバクオオトカゲ
  • V. g. caspius (Caspian monitor) カスピオオトカゲ、カスピサバクオオトカゲ
  • V. g. koniecznyi (Indian desert monitor) パキスタンサバクオオトカゲ

アラブサバクオオトカゲ

Varanus griseus griseus

背中には5 - 8本の細い灰色帯があり、尾には19 - 28本の帯がある。尾は他の亜種よりも丸く、全長は生息地によって異なる。体色は砂漠では単純な灰色で、植物の多い地域では明るいオレンジ色である。主にトカゲとヘビを捕食するが、地面に巣を作る鳥や、小型哺乳類を捕食する場合もある[3]

モロッコ、モーリタニアからエジプト、スーダンまでの北アフリカ、アラビア半島(バーレーンには分布しない)、トルコ南東部、シリア、イスラエル、パレスチナ、レバノン、ヨルダン、イラクに分布[16]

カスピオオトカゲ

Varanus griseus caspius

背中に5 - 8本の帯があり、尾には13 - 19本の帯がある。尾は平たく、体の中央部には143列の鱗がある。カスピ海の東岸から中央アジア高原地帯まで、アラル海の島々、コペトダグ山脈、イラン北部、アフガニスタン西部および南部、パキスタン西部まで分布し、標高800 mまでの高地に見られる。トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンでは一般的。

砂漠や粘土質の荒地に生息するが、時には森林でも見られる。トカゲや鳥、カメとその卵、齧歯類ヘビを捕食する。力が強く、巣穴を簡単に掘る[3]

パキスタンサバクオオトカゲ

背中に3 - 5本の帯、尾に13 - 19本の帯がある。尾は平たく、体の中央部には108 - 139列の鱗がある。他の亜種と比べて体が小さく、頭部は幅広で平たい。パキスタンとインド中西部に分布している。

気候変動により、冬の間は冬眠しておらず、摂食量が減少し不活発になるのみだという。主に大型の無脊椎動物や昆虫を捕食するが、小型のトカゲ、齧歯類、鳥とその雛や卵、その他様々な小型脊椎動物も捕食する[3]

保全

亜種カスピオオトカゲの生息地である中央アジアでは、農地の増加により生息地が減少している。毎年17000匹分の皮が取引されているが、ワシントン条約により国際取引は禁止されている。北アフリカ、中央アジア、インドの一部では、依然として商業的な狩猟が行われている。

人との関わり

本種は下顎に毒腺があり、人が咬まれると吐き気、嘔吐、目眩、全身の筋肉痛、心拍数の上昇、呼吸の乱れ、下痢などの症状が現れる。症状は20分後に現れ、24時間程で収まる。咬まれた箇所の痛みは2ヶ月ほど続く可能性がある[14]

ワシントン条約の指定種のため輸入が難しく、飼育例も少ない。そのうえ飼育下では寿命が短い傾向にある。ただし、飼育下で17年生きた例がある[3]。飼育下では環境と餌を野生と同じように整える必要がある[6]

脚注

出典

参考文献

  • Tsellarius, A. Y.;Cherlin, V. A.;Menshikov, Y. A. 1991 Preliminary report on the study of biology of Varanus griseus (Reptilia, Varanidae) in Middle Asia Herpetological Researches (1): 61-103

関連項目