ベイシジン

ベイシジン: basigin、BSG)、EMMPIRIN(extracellular matrix metalloproteinase inducer)、もしくはCD147(cluster of differentiation 147)は、ヒトではBSG遺伝子にコードされるタンパク質である[5][6][7]。このタンパク質はOk血液型の決定因子である。Ok血液型には3種類の抗原が知られており、最も一般的なOka(OK1とも呼ばれる)のほか、OK2、OK3がある。ベイシジンは、ヒトのマラリア寄生虫である熱帯熱マラリア原虫英語版Plasmodium falciparumにとって必須な赤血球上の受容体であることが示されている[8]。ベイシジンの一般的なアイソフォーム(ベイシジン-2、basigin-2)は免疫グロブリンドメインを2つ持つのに対し、より長いアイソフォームであるベイシジン-1(basigin-1)は3つ持つ[9]

BSG
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

4U0Q, 3B5H, 3I84, 3I85, 3QQN, 3QR2

識別子
記号BSG, 5F7, CD147, EMMPRIN, M6, OK, TCSF, basigin (Ok blood group), EMPRIN, SLC7A11, HAb18G
外部IDOMIM: 109480 MGI: 88208 HomoloGene: 1308 GeneCards: BSG
遺伝子の位置 (ヒト)
19番染色体 (ヒト)
染色体19番染色体 (ヒト)[1]
19番染色体 (ヒト)
BSG遺伝子の位置
BSG遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点571,277 bp[1]
終点583,494 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
10番染色体 (マウス)
染色体10番染色体 (マウス)[2]
10番染色体 (マウス)
BSG遺伝子の位置
BSG遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点79,540,325 bp[2]
終点79,547,803 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 血漿タンパク結合
mannose binding
炭水化物結合
monocarboxylic acid transmembrane transporter activity
cadherin binding
cell-cell adhesion mediator activity
細胞の構成要素 integral component of membrane

焦点接着
メラノソーム
ゴルジ膜
細胞膜
integral component of plasma membrane
acrosomal membrane
ミトコンドリア
脂質ラフト
筋鞘
エキソソーム
intracellular membrane-bounded organelle
神経繊維
生物学的プロセス response to peptide hormone
extracellular matrix disassembly
extracellular matrix organization
odontogenesis of dentin-containing tooth
細胞表面受容体シグナル伝達経路
脱落膜化
pyruvate metabolic process
response to mercury ion
response to cAMP
embryo implantation
leukocyte migration
モノカルボン酸輸送
protein localization to plasma membrane
homophilic cell adhesion via plasma membrane adhesion molecules
軸索誘導
dendrite self-avoidance
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_001728
NM_198589
NM_198590
NM_198591
NM_001322243

NM_001077184
NM_009768

RefSeq
(タンパク質)

NP_001309172
NP_001719
NP_940991
NP_940992
NP_940993

NP_001070652
NP_033898

場所
(UCSC)
Chr 19: 0.57 – 0.58 MbChr 19: 79.54 – 79.55 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

機能

ベイシジンは免疫グロブリンスーパーファミリー英語版の一員であり、その構造はこのファミリーの原始的形態と関連していると考えられている。このスーパーファミリーのメンバーはさまざまな免疫学的現象、分化、発生過程における細胞間認識に基礎的な役割を果たしており、ベイシジンもまた細胞間認識に関与していると考えられている[10][11][12][13]

ベイシジンはメタロプロテアーゼ誘導能を持つほか、精子形成モノカルボン酸トランスポーター英語版の発現、リンパ球の反応性など、いくつかの機能を調節する[6]。ベイシジンはシクロフィリン英語版タンパク質CypA英語版CypB英語版や特定種のインテグリンなど、多種のリガンドを持つI型膜貫通受容体である[14][15][16]。ベイシジンはS100A9GPVI英語版の受容体としても機能し、そしてベイシジン-1は桿体由来錐体生存因子(RdCVF)の受容体として機能する[9]。ベイシジンは、上皮細胞内皮細胞、神経前駆細胞[17]白血球など、多くの細胞種で発現している。ヒトのベイシジン(ベイシジン-2)は269アミノ酸からなり、N末端の細胞外領域には高度な糖鎖修飾が行われたC2型Ig様ドメインが2つ形成されている。また、細胞外領域にさらにもう1つのIg様ドメインを持つ形態のもの(ベイシジン-1)も同定されている[6]

相互作用

ベイシジンはユビキチンC英語版と相互作用することが示されている[18]

ベイシジンはマウスの網膜において、モノカルボン酸トランスポーター(MCT)と複合体を形成していることが示されている。ベイシジンはMCTを膜へ適切に配置するために必要なようである。ベイシジンのヌルマウスでは、MCTへの膜への組み込みの欠陥が網膜色素上皮英語版への栄養素の輸送の欠陥と直接的に関係している可能性がある。MCT1英語版3英語版4英語版によって輸送される乳酸は発生中の網膜色素上皮に必須の栄養素であり、ヌルマウスでは視覚の喪失が引き起こされる[19]

ベイシジンはEndo180(MRC2)受容体の4番目のC型レクチン英語版ドメインと相互作用し、上皮間葉転換を抑制する複合体を形成する。この複合体が破壊された場合には前立腺上皮細胞の浸潤性が誘導され、前立腺がんの予後不良と関係している[20]

調節

アトルバスタチンはCD147とMMP-3の発現を抑制することが示されている[21]スタチンはCD147の発現、構造、機能を変化させる[22]

マラリアにおける役割

P. falciparumの大部分の系統にとって、ベイシジンは赤血球への侵入に必須の受容体である。P. falciparumはヒトのマラリアの原因となるマラリア原虫の中で最もビルレンスが高い種である。ベイシジンのリガンドとなる寄生虫タンパク質Rh5英語版に対する抗体の開発によって、マラリアに対するよりよいワクチンが見つかることが期待されている[8]

SARS-CoV-2感染(COVID-19)における役割

宿主細胞が発現しているベイシジン(CD147)はSARS-CoV-2スパイクタンパク質に結合する可能性があり、おそらく宿主細胞への侵入と関係している[23]。ヒト化抗CD147抗体であるメプラズマブ(meplazumab)はSARS-CoV-2肺炎患者に対する試験が行われた[24]。しかしながらベイシジンとSARS-CoV-2との関係については議論があり、ベイシジンがスパイクタンパク質の結合や肺細胞への感染の促進に関与している直接的証拠は得られなかったとする報告もある[25]

また、CD147は血小板巨核球へのSARS-CoV-2の侵入のための受容体となっており、一般的なかぜの原因となるコロナウイルスであるCoV-OC43とは異なる、血小板の過剰な活性化と血栓症の原因となっていることが示唆されている。巨核球をSARS-CoV-2と共に培養すると、LGALS3BP英語版やS100A9といった炎症性転写産物が有意に増加する。抗CD147抗体によって遮断を行うことで、SARS-CoV-2共培養後の巨核球でのS100A9やS100A8英語版の発現は有意に低下する。これらのデータは、巨核球や血小板はおそらくACE2非依存的機構によって、SARS-CoV-2のビリオンを積極的に取り込んでいることを示唆している[26]。SARS-CoV-2処理によって血小板がCD147依存的に活性化されることは、他の研究でも報告されている[27]

出典

関連文献

外部リンク