ミズナラ

ブナ科コナラ属の落葉広葉樹

ミズナラ(水楢[10]学名: Quercus crispula var. crispula)は、ブナ科コナラ属落葉高木コナラよりも葉が大きいナラの仲間で、別名オオナラ(大楢)ともよばれる[11][12]。温帯の落葉広葉樹林の代表的構成種である。和名の由来は、ナラの仲間で、材に水分が多く含み燃えにくいことによる[13][12]

ミズナラ
ミズナラ(2005年7月・北海道釧路湿原)
分類
:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 Angiosperms
階級なし:真正双子葉類 Eudicots
階級なし:バラ類 Rosids
:ブナ目 Fagales
:ブナ科 Fagaceae
:コナラ属 Quercus
亜属:コナラ亜属 subgen. Quercus
:ミズナラ Q. crispula
学名
Quercus crispula Blume var. crispula (1850)[1]
シノニム
和名
ミズナラ(
変種

シノニムQuercus mongolica var. crispula。これは本種を北東アジアの広範囲に分布するモンゴリナラ変種と考えての扱いである。

分布・生育地

近縁のコナラクヌギより寒冷な気候を好み、アジア北東部の日本、朝鮮半島樺太(サハリン)、南千島に分布する[14][10]。日本では北海道本州四国九州の鹿児島県高隈山を南限に分布し[14]山地から亜高山帯にかけて自生している[11]。本州中部以南では標高1000 m以上に出現するが、北海道では標高の低いところにも生え、ほとんど海岸にも群落をつくる[15]

ブナと並んで落葉広葉樹林の主要樹種の一つで、寒い地方の雑木林に多く見られ、ブナと混生することも多い[16]。ブナに比べると、やや明るい場所を好む。特に火山灰地などに多く、土壌的な極盛相[注 1]とみなされている[18]。日当たりのよい場所を好む陽樹であり、乾燥地でも強く、痩せた土地にも耐えるが、火山灰地ではシラカンバ類と共に、初期段階から生育し、土地条件の改良が進むと針葉樹など他の樹種に遷移していく[18]。ただし、薪炭材として幾度も伐採が繰り返されたところでは、遷移は中断されて、ミズナラの萌芽によって形成された二次林の形態を取っているところもある[18]

形態・生態

落葉広葉樹高木[14]、樹高はふつう15 - 30メートル (m) ほどになり[13]、大きなものでは35 メートル (m) に達する。幹の太さは、大きなもので直径2 mにもなる[15]樹皮は黒褐色から灰褐色で、縦に裂け目が入ってはがれる[14][19]。若木の樹皮はなめらかだが、次第に縦に割れてくる[19]。一年枝はやや太く、褐色や紫褐色で無毛[19]。枝の髄は星形で褐色を帯びる[19]

はごく短い葉柄がついて互生[14]、つやのない緑色で、葉身は長さは7 - 20センチメートル (cm) の倒卵状長楕円形で[13][10]、コナラよりも大きく波打つようなはっきりした鋸歯(輪郭のギザギザ)がある[14]カシワとコナラの葉の中間的な大きさで、大きな鋸歯と葉柄がほとんどないことがミズナラの葉の特徴である[12]。葉の裏面は淡緑色[10]。葉柄はごく短い[16]。秋の紅葉は黄色から黄褐色に色づくことが多く、やがて橙色から褐色を帯びる[16]。寒冷地の日当たりのよいところでは赤みが強く紅葉することもある[12]。冬には葉は散って落葉する[12]

花期は晩春から初夏(5 - 6月ごろ)で[11]、雄花序は長さ4 - 5 cmほどで本年枝の下部に垂れ下がってつき[14][13]を咲かせる。本年枝の上部の葉腋には雌花序がつき、雌花序には雌花が1 - 3個つく[13]

果期は10月で[13]、夏の間は青い状態の果実(ドングリ)が、年内の秋には熟す[10]殻斗は、こぶ状の突起がある鱗片に覆われている[14]。ドングリの大きさは、長さ15 - 20ミリメートル (mm) の卵状楕円形[13]。果実はリスクマエゾシカノネズミ、野鳥などの重要な食糧となり、野生動物が好んで食べる[20][13]

冬芽は長卵形で頂芽のまわりに複数の頂生側芽がつき、小枝に側芽がらせん状に互生してつき、下のものほど小さくなる[19]。冬芽には稜があり、褐色で無毛、多数の芽鱗が重なるように包んでいる[19]。葉痕は半円形で、維管束痕は散らばるように多数ある[19]

近縁種

種としても分布上もカシワに近く、カシワとの中間種としてモンゴリナラ(学名: Quercus mongolica)がある[15]。ミズナラは、モンゴリナラの変種としても扱われている[15]。また、ミズナラよりもやや南に分布するコナラ(学名: Quercus serrata)にも近い関係にある[15]。形態や生態上の違いは、ミズナラは樹皮が黒っぽく、発芽が早くて本州では標高1000 m以上で見られることに対して、コナラは標高1000 mまでとなっている[18]。なお、日本国内ではミズナラから派生した変種としてフモトミズナラ(近年まで“モンゴリナラ”と呼ばれてきた丘陵帯分布の集団)およびミヤマナラ(偽高山帯分布の矮性個体の集団)の存在が知られている。

種内変異

変種

  • ミヤマナラ Quercus crispula var. horikawae - ミズナラの高山
  • フモトミズナラ Quercus crispula var.mongolicoides(シノニム Quercus serrata subsp. mongolicoides) - コナラの亜種ともされる。以前はユーラシア大陸産のモンゴリナラ Quercus mongolica と同種とされた。研究者により様々な見解が存在し、はっきりしない。

交雑種

  • カシワモドキ Quercus x anguste-lepidota - カシワとの交雑種
  • ミズコナラ Quercus x crispuloserrata - コナラとの交雑種
  • ホソバガシワ Quercus x nipponica - カシワとの交雑種
  • ミズナラガシワ Quercus x paucilepis nothovar. naramizugashiwa - ナラガシワとの交雑種

利用

北海道では公園樹や街路樹として植栽に利用している[12]

ミズナラのドングリタンニンを含み、そのままでは渋くて食べられないが、灰汁抜きすれば食用になる[10]。ドングリの中では灰汁抜きが面倒なほうに入り、粉にしないで水にさらすだけでは3か月たってもわずかに渋みが残る[21]。粗い粉にしてから水にさらすと期間が短縮される。もっと短くするためには長時間煮てから水さらしするが、それでも処理には何日もかかる。縄文時代には分布域の東日本で冬の保存食として重要であった。近年まで山村で食べられていたが、現在はほとんど食用にされない。

20世紀にシイタケの栽培が盛んになってからは、コナラと同様にキノコ栽培の原木などに利用されている[14]

材はごく堅く、やや紅色を帯びた淡褐色で[20]、心材はくすんだ褐色。磨くと美しいつやが出て[20]、加工性・着色性に優れ、強度が大きく、重厚感がある。木材は柾目の模様が美しく[14]、チェスト(整理ダンス)やテーブルなどの高級家具、床板や鏡板などの建築材、洋酒樽などに利用されている[20][14][11][22]。日本のミズナラ材は世界でも最高級のオークと評されている[10]。特に北海道のものが良質とされ、「道産の楢」(ジャパニーズオーク)と呼ばれ、近年では国産ウイスキーの熟成樽としても利用されており[10]、オーク樽と全く異なる繊細な風味を醸造出来る材として国際的に高い評価を受けている。かつては、薪炭用でも使われた[19]

種の保全状況評価

日本の各都道府県で、以下のレッドリストの指定を受けている[23]

1996年9月4日に長野県下伊那郡阿智村(旧清内路村)の『小黒川のミズナラ』(高さ約20 m、幹廻りは約7.25 m、昭和63年の調査で日本一の巨木とみなされた。)が、国の天然記念物に指定された[24]

自治体指定の木

以下の日本の市町村の指定の木である。また合併前に指定の木であった。

旧自治体

脚注

注釈

出典

参考文献

  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日、46–47頁。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、144頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、39頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、120 - 123頁。ISBN 4-12-101238-0 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂 フィールドベスト図鑑5〉、2009年8月4日、132頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月27日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 菱山忠三郎(監修) 編『樹皮・葉でわかる樹木図鑑』成美堂出版、2011年6月。ISBN 978-4415310183 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、233頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 増田孝彦・黒坪一樹「ドングリのアク抜き方法に関する一考察」、京都府埋蔵文化財論集、第6集、2010年。

関連項目

外部リンク

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