ラクウショウ

ラクウショウ学名: Taxodium distichum)は裸子植物マツ綱ヒノキ科[注 2]ヌマスギ属に分類される落葉針葉樹の1種である。幹の下部は広がってときに屏風状になり(図1)、また周囲の地面からしばしば呼吸根が隆起している。は柔らかくふつう枝に2列に羽状につき、秋には枝ごと落ちる。米国南東部に分布し、湿地に生育しており、水中から生じていることもある(図1)。

ラクウショウ
1. ラクウショウ(米国ミシシッピ州
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
:植物界 Plantae
階級なし:裸子植物 gymnosperms
:マツ綱 Coniferopsida
:ヒノキ目 Cupressales[注 1]
:ヒノキ科 Cupressaceae
亜科:スギ亜科 Taxodioideae[2]
:ヌマスギ属 Taxodium
:ラクウショウ T. distichum
学名
Taxodium distichum (L.) Rich. (1810)[5][6]
シノニム
和名
ラクウショウ[6][7]、ヌマスギ[6][7]、アメリカスイショウ[7]
英名
bald-cypress[8], baldcypress[9], cypress[8][9], swamp cypress[9], gulf cypress[8], red cypress[8], deciduous cypress[7]
変種

葉が2列についた枝を鳥の羽根に見立て、これが秋に落ちるため「ラクウショウ(落羽松)」の名がついた[10][11]。沼のほとりなどに生育することからヌマスギ(沼杉)ともよばれ、こちらを標準名としている例も多い[6]ヌマスギ属(ラクウショウ属)に属する現生種としてはラクウショウの他にメキシコラクウショウTaxodium mucronatum)があるが、この種はラクウショウの変種とされることもある。

特徴

落葉性または半落葉性の高木であり(図1, 2a)、大きなものは高さ45メートル (m)、幹の直径 4 m になる[9][12][10][13][7][14]。長命であり、確実な例としては樹齢2,624年のものが報告されている(標本番号 BLK227)[9]樹冠は若いうちは円錐形だが、古くなると不規則になる[9][12][10]。幹は直立し、ふつう基部が広がり、しばしば屏風状になる[9][12](図1, 2a, b)。樹皮は赤褐色から灰褐色、縦に細長く剥がれる[9][10][7](下図2b)。基部周辺の地面からしばしば呼吸根(膝根)が隆起しており、大きなものは高さ 1.5 m になる[9][11][7][14](下図2c)。

2a. 樹形
2b. 幹の基部

枝は無毛、最初は緑色でのちに褐色になる[10][11]。多年生の長枝と、これに側生する一年生の短枝がある[9][12][7]。長枝には、小さな針状の葉がらせん状につく[13][11]。短枝の葉は、温帯域では秋に紅葉して短枝とともに落枝するが(下図3c)、亜熱帯域では一年以上ついている[9]。ふつう短枝の葉は扁平で長さ10-18ミリメートル (mm)、柔らかく、2列に互生する[9][10][11][7](下図3a)。しかし変種タチラクウショウ(Taxodium distichum var. imbricatum) では、短枝の葉も針状で長さ 3-10 mm、斜立した枝にらせん状についている[9][11][7](下図3b)。

3a. 枝葉
3b. タチラクウショウの枝葉
3c. 紅葉した枝葉と裂開した球果

雌雄同株、"花期"は4月[10][7][14]雄球花("雄花")[注 3]は楕円形、秋に形成され、多数が互生して長さ10–20センチメートル (cm) の"花序"を形成して枝の先につき、春に葉が展開する前に花粉を放出する[10][11](下図4a)。雄球花は10-20個の小胞子葉("雄しべ")からなり、各小胞子葉には2–10個の花粉嚢がついている[11][18]雌球花[注 4]は枝の先端につき、各種鱗には2個の直生胚珠が付随する[10][11]球果は球形、らせん状についた5–12個の果鱗からなり、直径 20–35 cm、最初は緑白色で多肉質であるが(下図4b)、その年の10–11月に成熟すると褐色で木質になる[9][10][7][14][18](上図3c)。果鱗の先は盾状、種子は発達の過程でも反転せず、成熟すると光沢のある褐色で長さ約 1.2 cm、いびつな3稜形である[10][11][7][18](下図4c)。子葉は4–9枚[18]染色体数は 2n = 22[9]

4a. "雄花序"(雄球花の集まり)
4b. 若い球果

メタセコイアはラクウショウに似ているが、葉が対生する点や球果が小さい点でラクウショウと区別できる[10]

分布・生態

北アメリカ米国南東部、ヴァージニア州からテキサス州、またミシシッピ川沿いにインディアナ州イリノイ州までに分布する[9][14](下図5a)。川岸や湿地に生育し、根元が冠水した状態で生きているものも多い[9](下図5b, c)。また世界各地で植栽されている[1][9]

5a. ラクウショウの分布域(緑)
5b. ラクウショウ(トラップ・ポンド州立公園、デラウェア州
5c. 紅葉したラクウショウ(ホワイト川、アーカンソー州
5d. 呼吸根をもつラクウショウ(アパラチコーラ国有林、フロリダ州

ラクウショウは特に定期的に冠水する場所では、地上から隆起する呼吸根を形成する(上図5d)。一般的に、この呼吸根は嫌気的な(酸素が乏しい)土壌において根が呼吸することに用いられていると考えられている[18]。ただしその確実な証拠はなく、また浸水して軟化した土壌において木を支える役割を果たしているとする説や、根からの萌芽再生を容易にしているとする説もある[18]

人間との関わり

ときに観賞用に庭園公園に植栽される[1][10][9](下図6a, b)。特に他の樹木では根腐れなどを起こしてしまう湿地でも生育できるため、このような環境に植えられるが、水辺以外でも生育できる[1][10]。また観賞用としては、呼吸根を生じることでも人気がある[1]。日当たりがよく、腐植質に富んだ湿潤な土壌が適している[19]。実生または挿し木によって増やす[19]。日本には明治初期に渡来し、関東地方南部以西に適し、湿気の多い公園、庭園、社寺境内などに植栽されている[14][19]盆栽に用いられることもある[要出典](下図6c)。

6a. ラクウショウの並木(台湾
6b. 植栽されたラクウショウ(篠栗九大の森福岡県
6c. ラクウショウの盆栽
6d. ラクウショウの材

は軽軟で耐朽性が高く、建築材、家具材、器具材、木箱、棺桶、枕木、温室材、ドック、土木材などさまざまな用途に用いられる[1][11][20][14](上図6d)。辺材は白色から淡黄色、心材の色は産地などによって異なり、黄色、褐色、黒色などがある[11][20]。木理は通直、肌目は精、やや重硬材である[20]。また呼吸根も船の材料などに使われる[9]

ラクウショウは、ルイジアナ州の木とされる[12]

分類

タチラクウショウ

ラクウショウのうち、短枝の葉が針状で長さ 3-10 mm、斜立した枝にらせん状についているものは変種レベルで分けられ、タチラクウショウTaxodium distichum var. imbricatum) に分類される[9][11][7][18](上図3b)。典型的なものは基本変種(Taxodium distichum var. distichum)と明瞭に異なるが、その差異は連続的であり、明確に区別することは難しい[12][18]。また生殖的にも隔離されておらず、2変種間に遺伝子流動があることが報告されている[12][18]

メキシコラクウショウ

ヌマスギ属(ラクウショウ属)には、ラクウショウ(Taxodium distichum)に加えてふつうメキシコラクウショウTaxodium mucronatum)(下図7)が分類される[9][11][7]。メキシコラクウショウはメキシコおよびグアテマラに分布し(下図7a)、球果がやや小型である点(直径 14–25 mm)、呼吸根を形成することが稀である点、葉の両面に気孔が均等に分布する点、耐霜性がない点でラクウショウとは区別できるが、これらの差異は生育環境の差異に起因している可能性もある[18][21]。またメキシコラクウショウをラクウショウの変種Taxodium distichum var. mexicanum)とすることもある[12][22][18]。メキシコラクウショウの幹はときに非常に太くなり、メキシコのオアハカ州にあるトゥーレの木(El Árbol del Tule)とよばれる個体は、幹周り 36.2 m、直径 11.62 m に達し(2005年現在)、世界一太い木とされる[21][23](下図7d)。

7a. メキシコラクウショウの分布域(緑)
7b. メキシコラクウショウ(アグアスカリエンテス、メキシコ)
7c. メキシコラクウショウの枝葉

ヌマスギ属

上記のように、ヌマスギ属には現生種としてはラクウショウとメキシコラクウショウの2種(または1種にまとめる)が分類される(下表1)。ヌマスギ属は、ふつうスギ科に分類されていた[11][7]。しかし21世紀になるとスギ科はヒノキ科に含められるようになり、ヌマスギ属はヒノキ科に分類されるようになった[5][9]。ヌマスギ属はスギ属スイショウ属に近縁であり、この3属を合わせてスギ亜科(Taxodioideae)に分類される[2]。特にスイショウ属に近縁であり、両属は1年で枝ごと落ちる葉や呼吸根、生育環境が湿地であるなどの点で共通している[9][18]

白亜紀以降、ヌマスギ属の化石は日本を含む北半球で広く見つかっている[24](下図8)。しかし新第三紀になると東アジアでは姿を消し、現在では北米のみで生き残っている[24]

8a. Taxodium dubium の枝葉の化石(中新世ドイツ
8b. ヌマスギ属の幹の化石(中新世、ハンガリー

表1. ヌマスギ属の分類の1例[2][25][5][26][27][22][11][7]

ギャラリー

脚注

注釈

出典

関連項目

外部リンク