河川の流水を制御するために河川を横断する形で設けられるダム以外の構造物

(せき)とは、河川の流水を制御するために河川を横断する形で設けられるダム以外の構造物で堤防の機能をもたないものをいう[1]

堰(長良川河口堰

堰の機能

流水の制御施設には堰のほか水門や樋門がある。農業工学では取水堰、取水口、付帯施設(沈砂池魚道、舟通し等)など河川湖沼から用水路農業用水を引き入れるための構造物を総称して頭首工という[2][3]

河川等をせき止めて上流側の水位を上げることによって、水を貯留したり、用水路などへの取水を容易にしたり、計画的な分流を行ったりする役割を持つ。下流側からの海水の逆流を防止(潮止めという)して塩害を防ぐ場合もある。つまり、堰は基本的に水を利用(利水)するために設置されるものであるが、大規模な可動堰は強力に水を制御できるため、治水などを含めた形で多目的に用いられることが多い。

堰は堤防機能をもたないものをいい、堤防機能をもつ水門と区別する[1]。ただし、水門には河川付近に設置される防潮水門のように外見上は堰(河口堰)と判別しにくいものがある[1]。実際に構造物そのものはほとんど変わらないものもある(例えば隣りあって設置されている利根川河口堰常陸川水門)。しかし、水門が洪水時には門扉を閉鎖し堤防としての機能を持つのに対して、堰はせき止めた水が氾濫しないように、むしろ門扉を開放して水を積極的に流すため、堤防としての機能を持たないことで区別される。

なお、ダムは水を止めるための堰であり堰堤といわれるが[4]、堰とダムは通常区別されている[1]日本では1964年昭和39年)に改正された河川法において、利水目的のものについては堤高15メートル以上のものをダムと定義していることから、堰は堤高15メートル未満である。一方、河川管理目的のものについては1976年(昭和51年)に「河川管理施設等構造令」が施行され河川法と同様の規定がなされたが、国土交通省が管理する一部の堰は高さが15.0メートル未満であっても、その機能から特定多目的ダムとして扱われている。なお1928年(昭和3年)に創設され、現在88か国が加盟する国際大ダム会議における定義では堤高15メートル以上のダムをハイダムといい、それに満たない高さのダムをローダムという。

堰の種類

形状による分類

堰は堤体の形状により、刃形堰、広頂堰、越流堰、フリュームなどに分類される[5]

常時(および洪水時に)水を堰の上から越流させるタイプの堰は洗堰(あらいぜき)と呼ぶこともある。

用途による分類

  • 取水堰 - 河川水位を調節するための堰で灌漑用水、水道用水、工業用水、発電用水などを取水するための堰[6]
  • 河口堰 - 潮止めなどの堰[6](潮止堰)

構造による分類

固定堰

水位調節のできない堰を固定堰という[6]。水中に石積みやコンクリートなどの構造物を設けて水をせき止めるだけの単純なもので、古くから設置されてきた。流量などを随意に制御することはできない。

固定堰の最大の欠点は、洪水時において堰の持つ「水をせき止める」機能があだとなり、水の迅速な流下に支障をきたすばかりか水の氾濫を招いてしまう点である。このため、現在ある固定堰は比較的小規模なものか、長期にわたって維持されてきたものがほとんどである。

固定堰は、床止めと構造的には同一である。しかし、固定堰が水をせき止めるために設置されるのに対して、床止めは、上流の河床を安定させるために設置されるため、設置目的によって区別される。

可動堰

ゲートの開閉により水位調節が可能な堰[6]。固定堰の最大の欠点は、流量を制御できないことにあったが、可動堰は流量を随意に制御し洪水時には水を迅速に流下させることができる。

可動堰は可動部の構造によってさらに起伏堰引上堰に大別される。

起伏堰(きふくぜき)は、水中の構造物を起てたり倒したりして水を制御する。堰が比較的小規模で、なおかつ制御する水位幅が狭い場合に採用される。鋼鉄製の扉体を操作するものもあるが、耐久性のあるゴム引布などでできた筒型の袋に空気や水を入れて膨らませて水をせき止めるものもある。

後者の方式はゴム引布製起伏堰、通称ラバーダムなどと呼ばれるもので、倒伏の確実性が高いことや動力がわずかで済み、費用がかからないことなどから起伏堰として近年よく採用されている。

引上堰(ひきあげぜき)は、上下に開閉する門扉をもつ。止水が容易で操作の信頼性が高いため、大規模な可動堰のほとんどはこの方式である。

仮設堰

投渡堰(なげわたしぜき)とも呼ばれる。固定的な支柱の桁に仮設材として丸太や木の枝等の止水材を配置したもので、増水時には流される。

主な堰

固定堰

水系名一次支川
(本川)
二次支川所在地堰名管理主体備考
石狩川石狩川北海道石狩川頭首工農林水産省可動堰混合
十勝川十勝川北海道千代田堰堤土木遺産
北上川旧北上川宮城県鴇波洗堰国土交通省土木遺産
北上川旧北上川宮城県脇谷洗堰国土交通省土木遺産
雄物川雄物川秋田県湯沢大堰農林水産省
多摩川多摩川東京都羽村取水堰東京都水道局可動堰混合
多摩川多摩川東京都
神奈川県
宿河原堰堤二ヶ領用水
管理組合
可動堰混合
相模川相模川神奈川県寒川取水堰神奈川県可動堰混合
吉野川吉野川徳島県吉野川第十堰国土交通省
筑後川筑後川福岡県大石堰土地改良区
筑後川筑後川福岡県恵利堰土地改良区
筑後川筑後川福岡県山田堰土地改良区
球磨川球磨川熊本県遥拝堰

可動堰

頭首工・取水堰

水系名一次支川
(本川)
二次支川所在地堰名管理主体備考
石狩川石狩川北海道愛別頭首工農林水産省
名取川名取川宮城県名取川頭首工土地改良区
雄物川玉川秋田県玉川頭首工農林水産省
最上川最上川山形県湘郷堰頭首工土地改良区
那珂川那珂川栃木県西岩崎頭首工土地改良区那須疏水取水口
那珂川那珂川茨城県小場江頭首工土地改良区
久慈川久慈川茨城県辰の口頭首工土地改良区
利根川利根川群馬県
埼玉県
利根大堰水資源機構
利根川鬼怒川栃木県佐貫頭首工栃木県企業局
利根川鬼怒川栃木県岡本頭首工栃木県
利根川小貝川茨城県福岡堰土地改良区固定堰混合
利根川小貝川茨城県岡堰土地改良区旧堰改築
荒川荒川埼玉県秋ヶ瀬取水堰水資源機構
荒川荒川埼玉県六堰頭首工国土交通省
多摩川多摩川東京都小作堰東京都水道局
酒匂川酒匂川神奈川県飯泉取水堰神奈川県内広域水道企業団
荒川荒川新潟県荒川頭首工農林水産省
阿賀野川阿賀野川新潟県阿賀野川頭首工農林水産省
信濃川千曲川長野県上田農水頭首工土地改良区
信濃川千曲川長野県埴科頭首工土地改良区
豊川豊川愛知県寒狭川頭首工国土交通省
豊川豊川愛知県牟呂松原頭首工水資源機構
矢作川矢作川愛知県明治用水頭首工農林水産省
木曽川木曽川愛知県
岐阜県
犬山頭首工農林水産省
紀の川紀の川和歌山県岩出頭首工農林水産省

多目的堰・河口堰

水系名一次支川
(本川)
二次支川所在地堰名管理主体備考
馬淵川馬淵川青森県馬淵大堰国土交通省
北上川北上川宮城県北上大堰国土交通省
鳴瀬川鳴瀬川宮城県鳴瀬川中流堰国土交通省
阿武隈川阿武隈川宮城県阿武隈大堰国土交通省
利根川利根川千葉県
茨城県
利根川河口堰水資源機構
利根川小貝川茨城県豊田堰国土交通省
利根川江戸川千葉県行徳可動堰国土交通省
相模川相模川神奈川県相模大堰神奈川県内広域水道企業団
信濃川信濃川新潟県妙見堰国土交通省
JR東日本
信濃川大河津分水路新潟県大河津可動堰国土交通省洗堰併設
信濃川信濃川新潟県蒲原大堰国土交通省
信濃川関屋分水路新潟県新潟大堰国土交通省
小矢部川小矢部川富山県小矢部川大堰国土交通省
木曽川木曽川愛知県
岐阜県
木曽川大堰水資源機構
木曽川長良川愛知県
三重県
長良川河口堰水資源機構
櫛田川櫛田川三重県櫛田可動堰国土交通省
三重県
九頭竜川九頭竜川福井県九頭竜川鳴鹿大堰国土交通省特定多目的ダム
淀川淀川滋賀県瀬田川洗堰国土交通省旧堰残存
淀川淀川大阪府淀川大堰国土交通省
加古川加古川兵庫県加古川大堰国土交通省特定多目的ダム
紀の川紀の川和歌山県紀の川大堰国土交通省特定多目的ダム
暫定運用中
吉井川吉井川岡山県坂根堰国土交通省
芦田川芦田川広島県芦田川河口堰国土交通省特定多目的ダム
太田川太田川広島県高瀬堰国土交通省特定多目的ダム
吉野川吉野川徳島県吉野川可動堰国土交通省凍結中
吉野川銅山川愛媛県影井堰水資源機構
吉野川旧吉野川徳島県旧吉野川河口堰水資源機構
吉野川旧吉野川今切川徳島県今切川河口堰水資源機構
遠賀川遠賀川福岡県遠賀川河口堰国土交通省特定多目的ダム
山国川山国川福岡県平成大堰国土交通省特定多目的ダム
筑後川筑後川大分県島内可動堰国土交通省
筑後川筑後川福岡県
佐賀県
筑後大堰水資源機構
松浦川松浦川佐賀県松浦大堰国土交通省
六角川六角川佐賀県六角川河口堰国土交通省
嘉瀬川嘉瀬川佐賀県嘉瀬川大堰国土交通省
緑川加勢川熊本県六間堰国土交通省

ラバーダム

水系名一次支川
(本川)
二次支川所在地堰名管理主体備考
最上川最上川山形県最上川さみだれ大堰国土交通省
日野川日野川鳥取県日野川堰国土交通省
日野川法勝寺川鳥取県法勝寺川堰国土交通省

脚注・出典

関連項目