航空自衛隊

日本の航空宇宙防衛組織

航空自衛隊(こうくうじえいたい、: Japan Air Self-Defense Force、略称: JASDF)は、自衛隊の軍種の一つ。日本航空と宇宙における防衛を担う。日本語の略称は、空自(くうじ)。大気圏内での防空偵察空輸及びスペースデブリなど宇宙空間の監視を任務とする[1]

日本の旗 日本行政機関
航空自衛隊こうくうじえいたい
Japan Air Self-Defense Force
航空総隊司令部新庁舎(横田基地)
航空総隊司令部新庁舎(横田基地
役職
航空幕僚長内倉浩昭
航空幕僚副長小笠原卓人
組織
上部機関防衛大臣
防衛大臣直轄部隊及び機関
概要
所在地162-8804
東京都新宿区市谷本村町5番1号
定員航空自衛官4万6994人
2023年(令和5年)3月31日時点
年間予算予算2兆1231億円
2024年度(令和6年度)
設置1954年昭和29年)7月1日
改称 大日本帝国陸軍航空隊
大日本帝国海軍航空隊
ウェブサイト
航空自衛隊

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諸外国からは、Japanese Air Force(「日本空軍」の意)に相当する語で表現されることがある。

国内では日本国政府行政機関である防衛省の管理下[2]にある特別の機関と位置付けられる。

第二次世界大戦における日本の降伏で、陸軍海軍の航空戦力を喪失・放棄した後、1954年昭和29年)7月1日に発足した[3]。その後の現在に至るまでの歩みは「航空自衛隊の歴史」を、運用する航空機やその搭載兵器レーダーサイト等は「航空自衛隊の装備品一覧」「航空自衛隊の個人装備」を、活動拠点は「航空自衛隊の基地一覧」を、それぞれ参照。

概要

航空自衛隊は、自衛隊のうち、航空幕僚監部並びに統合幕僚長および航空幕僚長(空幕長)の監督を受ける部隊および機関からなる[4]。主として空において行動し、主権国家たる日本の平和と独立を守り、直接侵略及び間接侵略の脅威から日本を防衛することを任務とする。その最上級者は最上級機関である航空幕僚監部を統括する航空幕僚長である。

世界有数の装備を保有し、在日米軍など協力関係にある諸外国軍とも合同演習等で交流があることから、諸外国からは日本の空軍とみなされている。2023年(令和5年)3月31日時点現在の主要装備は戦闘機F-35A 33機、F-15J 200機(F-15運用国ではアメリカ空軍に次いで第2位の保有数である)、F-2 91機、合計324機、7基地で12飛行隊を有している。偵察機RQ-4 2機。早期警戒機E-2 13機、E-767 4機、合計17機。空中給油機KC-767 4機、KC-46A 2機、KC-130H 3機、合計9機。輸送機C-1 6機、C-2 16機、C-130 13機、合計35機。ヘリコプターCH-47J 15機、UH-60J 37機、合計52機余を保有している[5]。その他、電子戦機としてEC-1(電子戦訓練機)1機、YS-11EB(電子情報収集機)4機、YS-11EA(電子戦訓練機)2機、合計7機余を保有する。

領空とその外側にも広がる防空識別圏の警戒監視や防空・航空脅威の排除に重点が置かれた装備体系であるため、航空機や弾道ミサイル等に対する迎撃能力は高いレベルにある。しかしゲリラコマンドによる攻撃や弾道ミサイルに対する基地の抗堪性の低さも問題視されている。基地の数は約73。6基地に120基のペトリオット地対空ミサイルを配備している。

予算は1兆8613億円、人員は、定員4万6994人(現員4万3694人 充足率93.0 %)である[6]

在日米軍の再編に伴い、航空総隊司令部及び作戦情報隊防空指揮群は2012年(平成24年)3月21日付をもって東京都府中市府中基地から、同じ多摩地域にある横田飛行場への移転を完了した[7]

2017年(平成29年)8月には航空自衛隊内部にスペースデブリ衛星攻撃兵器の監視など宇宙空間における任務を担当する宇宙部隊を創設すると発表した[8](詳細は宇宙作戦隊を参照)。2020年(令和2年)1月には政府が航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に改称を検討し、2023年度までの改称を目指して自衛隊法などの法改正の調整を行うと報じられた[9]2022年(令和4年)12月には国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の「安全保障3文書」に改称について明記されたことで「政府が『航空宇宙自衛隊』へ名称変更する方針を固めた」と報道されたが[10][11][12][13]、現場の隊員からは「戸惑い」もみられ、航空幕僚長も「最初は違和感があるかもしれない」と述べている[14][15]。改称の時期について、2027年までに「航空宇宙自衛隊」に改称する方針であると報じられている[16]

キャッチフレーズは “Key to Defense, Ready Anytime”。

歴史

黎明期の航空自衛隊ジェット機

航空自衛隊は第二次世界大戦後、日本の軍備が再建される中で、陸上自衛隊海上自衛隊のように前身組織(保安隊警備隊)を持たず、アメリカ軍の協力によって新設されている。

空自の設立は旧陸軍飛行戦隊関係者(三好康之原田貞憲谷川一男、秋山紋次郎、田中耕二、浦茂など)の新空軍研究から始まった。独立国となる以上軍備が必要であり、軍備の中には独立空軍を入れなければならないというものであった。戦中と異なり既に航空戦力はジェット機の時代であり、それにはアメリカ空軍(旧アメリカ陸軍航空軍)の多大な協力が必要であったが、三好が連絡を取り協力を得ている。なお当初、旧大日本帝国海軍航空隊関係者は新海軍再建に傾倒していたが、後に旧陸軍航空部隊関係者と合流し1952年7月末から合同研究が始まっている(海軍にも新海軍再建における海空一体化論に基づく研究成果を持っていた[17])。

防衛庁発足に伴い、旧内務省出身で保安庁官房長だった上村健太郎が防衛庁次長を断って初代航空幕僚長に着任した。主要ポストには旧陸海軍の長老の売り込みや庁内推薦など交錯し、海軍は戦前の艦隊派条約派の対立を引きずっていたが、主要ポストは陸海同数に決まった[18]

発展過程で影響力を及ぼした者として、空自の育ての親と言われる源田実元海軍大佐(第3代航空幕僚長)[19]の存在があり、自ら航空機に乗って指導し、また、曲技飛行隊ブルーインパルスの創設も行っている。その他、牟田弘國元陸軍中佐(第6代空幕長・第4代統幕議長)、大室孟元陸軍少佐(第7代空幕長)、石川貫之元陸軍少佐(第10代空幕長)、竹田五郎陸軍大尉(第14代空幕長・第12代統幕議長)、山田良市元海軍大尉(第15代空幕長)など陸海軍から多くの実力者が発展に貢献した。なお、航空幕僚長就任者を旧軍の出身別に分けると、陸軍11名・海軍5名と陸軍出身者が過半数を占め、かつ、空自出身者初の統合幕僚会議議長(第4代)は牟田弘國元陸軍中佐(第6代空幕長)であり、また、第16代統合幕僚会議議長森繁弘(第17代航空幕僚長)は、自衛隊最後の旧軍出身者(士官候補生たる陸軍兵長陸士60期修業)であった。

空自は小隊といったショップの独立性(組織の性格上、個人の能力・判断・権限といったものが大きい)が強く、現場指揮官のカリスマ性で末端の隊員を牽引する部分が大きい。また、組織内の全体的な統一よりも、各基地、各小隊ごとが独自の基準をもって勤務することが多い。文化的には階級章や礼式・号令、徒手体操などは陸自を範としているため似通った点も数多くある。

戦後日本は、自衛隊と、日米安全保障条約等に基づき駐留する在日米軍によって軍事力侵略を抑止する一方で、日本国憲法の前文及び第九条の規定と平和主義的な政治風潮・世論の制約から、専守防衛を掲げた。

航空自衛隊は、対地・対艦攻撃が可能な支援戦闘機を含む戦闘機、ペトリオット地対空ミサイルなど世界的に見ても最先端兵器を装備することから、陸海空各自衛隊のなかで最も政治的制限を加えられてきた経緯がある。戦闘機からは精密爆撃のための装備、空中給油装置をあえて取り外していた時期もあった。しかし、米空軍との連携能力の整備に関しては発足以来着々と進められており、日米間での共同作戦を可能とする暗号装置、秘話装置戦術データ・リンク敵味方識別装置などの配備、隊員間の語学教育は年々充実の度合いを深めている。また、より緊密に戦術的連携を深めるため、近年では米領グァム島においての日米共同演習「コープノース」が毎年1回実施されている。

任務

日本の防空識別圏

平時においては日本へ領空侵犯する、もしくは可能性のある経空脅威の排除が使命である。このため領空の外側に防空識別圏(ADIZ)を設定し、日本各所に28ヶ所のレーダーサイトを設置して、状況に応じて早期警戒機早期警戒管制機による警戒態勢を敷いている。防空識別圏に侵入する国籍不明機に対しては、まず緊急周波数である121.5MHz及び243MHzで航空無線機により無線警告を発し、さらに戦闘機によるスクランブル発進を実施する。スクランブル発進については、2006年4月7日のロシア軍機に対する百里基地のF-15J発進によって創設以来2万回を記録した。スクランブル発進で確認した目標は、統合幕僚監部が毎日公表している [20]

有事においては、陸上自衛隊や海上自衛隊への支援として、対艦攻撃、対地攻撃、航空輸送を実施する。専守防衛の理念から、要撃(防空)戦闘に特化した傾向にある。F-15Jや早期警戒管制機、パトリオットミサイル(防衛省・自衛隊では原音に近い「ペトリオット」表記を使用)などを備えている。

また、航空機の稼働率や搭乗員の練度(年間200時間以上と言われている)も高いとされる。日米安全保障条約に基づき米空軍と強固な協力関係にあり、米空軍と共同使用の横田基地には航空自衛隊航空総隊司令部が、在日米軍司令部や米第5空軍司令部、日米共同統合作戦調整センターなどとともに設置され、三沢基地も共同で使用しているほか、日米合同演習を毎年行っている。

スクランブル

スクランブル発進回数の推移を下表に示す。2010年度以降、中国人民解放軍など中国機に対する緊急発進が急増している。ロシアは軍用機による日本周回飛行を度々実施しており、2008年には、中国の31機とロシアの193機に対するスクランブルがあった。 2018年、これは中国の航空機638機とロシアの航空機343機に増加した[21]

年度緊急発進

件数総計

国別内訳
ロシア中国北朝鮮台湾その他
平成20年度237回193回31回0回7回6回
平成21年度299回197回38回8回25回31回
平成22年度386回264回96回0回7回19回
平成23年度425回247回156回0回5回17回
平成24年度567回248回306回0回1回12回
平成25年度810回359回415回9回1回26回
平成26年度943回473回464回0回1回5回
平成27年度873回288回571回0回2回12回
平成28年度1,168回301回851回0回8回8回
平成29年度904回390回500回0回3回11回
平成30年度999回343回638回0回0回18回
令和元年度947回268回675回0回0回4回
令和2年度725回258回458回0回0回9回

装備

F-15J
F-2A
展示飛行を行うブルーインパルス

ここでは主要な航空機など一部の装備のみ記載する[22]

特徴

3自衛隊ではそれぞれ独自に飛行場、航空部隊、操縦士の養成課程を有しているが、戦闘機、空中給油機、早期警戒機、飛行点検機は航空自衛隊のみが配備する。逆に、攻撃ヘリコプター艦載機の専用機体は2023年時点で保有していない。海上自衛隊で全通飛行甲板を備えたいずも型護衛艦で計画されている固定翼機運用では、普段は当該機体を陸上基地から運用する予定で、2021年10月3日に「いずも」への着・発艦試験を行なった2機のF35Bは在日アメリカ海兵隊所属機であった[23]

海上自衛隊は哨戒機艦載ヘリコプター、救難飛行艇など海上での行動を主目的とした航空機を運用する他、独自に電子戦機、輸送機も保有している。

陸上自衛隊は攻撃ヘリコプター、観測ヘリコプター、連絡偵察機など陸上での行動を主目的とした航空機を運用する他、独自に輸送ヘリコプターも保有している。

海上自衛隊から除籍され、標的艦に改造した護衛艦を対艦誘導弾の標的として購入することもあり、書類上は艦船を所有していることもある。

編制

職種

幹部

  • 飛行:戦闘機輸送機偵察機など航空機を運用する業務。
  • 航空管制 - 飛行場に離着陸する航空機の誘導など。
  • 要撃管制:領空の警戒監視などの業務。
  • 高射運用:地対空誘導弾ペトリオットの運用。
  • 高射整備:地対空誘導弾ペトリオットの整備。
  • プログラム(電算機):コンピューターのプログラム作成及び管理。
  • 気象:気象観測に基づく気象解析や航空気象予報の作成など。
  • 通信電子 - 通信電子機器などの維持及び運用など。
  • 武装:戦闘機などの搭載武器に関する業務など。
  • 整備:航空機などの整備。
  • 施設:基地施設などの建設取得及び維持管理など。
  • 衛生:医療業務などを行う。救難員として救難機に搭乗する者もいる。
  • 法務:航空自衛隊に関連する損害賠償訴訟などを取り扱う。
  • 総務人事:各部隊の司令部等における総務や人事などの業務。
  • 警備:基地の安全管理など。
  • 音楽:公式行事などでの演奏。
  • 会計:予算、契約行為などに関する業務。
  • 補給:航空自衛隊における物品等の管理。
  • 輸送:航空自衛隊で必要とする人や物資を輸送する業務を行う。
  • 情報:情報収集部隊等に配置され、外国の航空機やミサイルなどの軍事情報の収集・分析。
  • 研究開発:航空自衛隊における航空機および地上電子機材等の研究開発。
  • 宇宙:宇宙関連の業務。
これらを含めて約30種類の職種がある。

准曹士

准曹士の職種はアメリカ空軍の制度に倣い幹部よりもさらに細分化されているが、特に平成8年度以降防衛費削減の影響で職種の統廃合が急速に進められ、各隊員の業務量は過大となりつつある。

実務経験と試験などにより3(初級レベル・初級専門員)、5(中級レベル・専門員)、7(上級レベル・技術員)の特技が付与される。特技付与のうち5(中級レベル)について、航空自衛隊生徒及び一般空曹候補学生は、各術科学校の中級課程修了時に付与される場合と部隊実習と空曹候補者課程を修了し3曹昇任時に付与される場合の2通りがあり職種、ショップによりこれらは異なっていた。一般隊員(一般空曹候補生及び任期制隊員)は、実務訓練 (OJT) を通常10ヶ月した後に特技試験 (APT) が課される。特技拡大(職種替え)を受けた場合以前の職種は順次技術レベルを格下げされていく。

女性自衛官の職種

2015年に性別による制限が撤廃され、戦闘機の操縦士を含む全職種に採用される[24]

英語教育

航空交通管制の世界共通語として英語が使用されていることや、アメリカ製の機材を多用していることもあり、隊員に対しては英語教育が重視されており、35歳以下の全隊員に対して、毎年隊内の英語能力試験(空英検)が実施されている。

特に指揮幕僚課程では同検定総合3級以上が受験資格の一つに数えられている。

航空自衛隊協力の映画・アニメなど

航空自衛隊は怪獣や地球外生物が敵の場合を除き、フィクション内での「墜落」(撃墜)を認めない[要出典]ため、協力した作品に航空自衛隊所属の航空機が墜落するシーンは殆どない。しかし『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』や『BEST GUY』では航空自衛隊のF-15戦闘機が事故により墜落(救難員の活躍が一般に広く知られるきっかけとなった)、『ULTRAMAN』では、ウルトラマンである赤い発光体に衝突しF-15戦闘機が墜落、『ゴジラvsキングギドラ』ではF-15戦闘機がキングギドラとの空中戦で撃墜されるシーンがあり、作品の内容など場合によっては認められたケースもあり、絶対というわけではない。

亡国のイージス』では、映画化されるにあたり空戦シーンそのものが削除された。一部のアニメやTVゲームでは、ジェット機のエンジン音の録音(エースコンバットシリーズや『戦闘妖精雪風』等)、アクロバットや戦闘時の行動パターンのアンケート(エアロダンシングシリーズ)と言った形で協力している。航空自衛隊が協力しない実写作品は、戦闘機が特撮コンピュータグラフィクス(CG)で描かれることが多いので、容易に[要出典]判別できる。また、日本や近隣諸国の模型メーカーによる何らかの記念塗装が施された自衛隊機や在日米軍機の模型化の際に、資料の提供や実機取材の便宜を図った事例も存在する。

また、航空自衛隊も1956年7月以降、月刊誌『飛行と安全』を発行している。創刊号(発行部数300冊)から11号までは航空幕僚監部防衛部防衛課が、12号からは航空幕僚監部監察官が、1982年からは航空安全管理隊が編集を担当している。

映画

ドラマ

漫画・アニメーション

コンピュータゲーム

画像

航空自衛官

装備

脚注

出典

関連項目

外部リンク