2024年4月8日の日食

2024年4月8日に起こった日食

本項では、2024年4月8日日食[注 1]について述べる。観測する地域によって皆既日食または部分日食として観測された。北アメリカ大陸の広い地域で観測されることから、一部のメディアではこの日食を Great North American Eclipse と呼称している[2][3][4]。最大食分は約1.06で、サロス周期は139番[1]アメリカで皆既日食が観測されるのは2017年8月21日の日食以来、カナダでは1979年2月26日の日食以来[5][6]、メキシコでは1991年7月11日の日食以来となった[7]21世紀に発生する一度の日食において、この3ヵ国内で皆既日食が観測される唯一の日食である[8]

2024年4月8日の日食
地球上を移動する月の影のアニメーション
日食の種類[1]
性質皆既日食
ガンマ値0.3432
食分1.0565
最大食[1]
持続期間4分28.1秒
所在地メキシコの旗 メキシコドゥランゴ州付近
座標北緯25度17.5分 西経104度07.2分 / 北緯25.2917度 西経104.1200度 / 25.2917; -104.1200
食帯の最大幅197.5 km
時間 (UTC)[1]
(P1) 部分食始15時42分7.0秒
(U1) 皆既食始16時38分44.4秒
最大食18時17分13.1秒
(U4) 皆既食終19時55分29.1秒
(P4) 部分食終20時52分13.8秒
参照
サロス周期139番(全71回の 30番目)
Catalog # (SE5000)9561
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アメリカ大陸での見え方

日食が観測される地域

この皆既日食は、マルキーズ諸島から北へ約 370 km の南太平洋上から始まり、北アメリカ大陸の太平洋沿岸からメキシコアメリカ合衆国カナダ、そして大西洋にかけて北東方向へ移動していく皆既食帯において観測された[9][10]

メキシコ

 メキシコでは、まず皆既食帯はレビジャヒヘド諸島マリアス諸島英語版を通過した。その後、北アメリカ大陸本土へ到達するとシナロア州マサトランを含む)、ドゥランゴ州ドゥランゴゴメスパラシオなどを含む)、コアウィラ州トレオンマタモロスモンクローバ英語版サビナス英語版シウダード・アクニャ英語版ピエドラス・ネグラスなどを含む)を通過した[11][12][13][14]。食分が約0.79であったメキシコシティなど、これらの他の地域では国全体で部分日食が観測された[15]

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国本土における皆既食帯の通過地域

 アメリカ合衆国ではテキサス州サンアントニオの一部、オースティンの一部、フォートワースの一部、アーリントンダラスキリーンテンプルテクサーカナタイラーサルファースプリングス英語版ウェーコなどを含む)、オクラホマ州アイダベル英語版ブロークン・ボウ英語版などを含む)、アーカンソー州モリルトン英語版ホットスプリングスサーシー英語版ジョーンズボロリトルロックなどを含む)、ミズーリ州ケープジラードポプラー・プラフ英語版などを含む)、テネシー州レイク郡の北西端)、イリノイ州(2017年8月21日の皆既日食でも皆既食帯が通過したカーボンデールなどを含む)、ケンタッキー州インディアナ州ブルーミントンエバンズビルインディアナポリスアンダーソンマンシーテレホートビンセンズ英語版などを含む)、オハイオ州アクロンクリーブランドデイトンライマロレイントレドウォーレンなどを含む)、ミシガン州モンロー郡の南東端)、ペンシルベニア州エリーなどを含む)、アップステート・ニューヨークバッファローナイアガラフォールズロチェスターシラキュースウォータータウンアディロンダック山地ポツダム英語版プラッツバーグなどを含む)、バーモント州北部(バーリントンなどを含む)、ニューハンプシャー州メイン州を皆既食帯が通り[10][16][17][18]、皆既食帯の中心はメイン州の最高峰であるカタディン山英語版のほぼ山頂部を通過した。アメリカ国内において皆既食帯が通過した地域の中で最も大きな都市はテキサス州のダラスであった[19]。アメリカ中部で皆既日食が観測されるのは2017年8月21日以来約7年ぶりで、次にアメリカ本土で皆既日食が観測されるのは2044年8月23日の日食英語版となる[20]。これら以外のアメリカ本土の地域とハワイ州アラスカ南東部では部分日食が観測された[1]アメリカ航空宇宙局 (NASA) はアメリカ国内で皆既食帯が通過することで皆既日食の観測が可能だった人数は約3160万人であったと推定しおり[21]、実際に観測を行うために約400万人がアメリカ国内を移動したと予測されている[22]。皆既日食の発生時には数分間に渡って周囲が夜のように暗くなる様子がみられた[23]

カナダ

 カナダでは、オンタリオ州南オンタリオ地方英語版の一部(レミントン英語版フォートエリー[24]ハミルトンナイアガラフォールズキングストンプリンスエドワードコーンウォールなどを含む)[25]ケベック州南部(モントリオールシェルブルックサンジョルジュラック・メガンティック英語版などを含む)、ニュー・ブルンズウィック州中央部(フレデリクトンウッドストック英語版ミラミチ英語版などを含む)[26]プリンスエドワードアイランド州ティニッシュ英語版サマーサイドなどを含む)[27][28]ケープ・ブレトン島の北端、ノバスコシア州[29]ニューファンドランド・ラブラドール州ガンダーグランド・フォールズ・ウィンザー英語版などを含む)を皆既食帯が通過し[30]ニューファンドランド島東岸の大西洋へ抜けていった[31]ウィンザーロンドントロントオタワは皆既食帯のすぐ北、モンクトンはすぐ南に位置していた。部分日食は、ユーコン準州の西部とノースウェスト準州の西端を除くカナダの他のすべての地域で観測された[1]

中南米

この日食による部分日食は、  ベリーズから  パナマまでの中南米諸国、大アンティル諸島の全土(  キューバ  ドミニカ共和国  ハイチ  プエルトリコ  ジャマイカ)、カリブ海諸国、  コロンビアの一部でも観測された[1]

他の地域での見え方

ヨーロッパ

ヨーロッパでは、この日食による部分日食がスヴァールバル諸島  ノルウェー)、  アイスランド  アイルランド  イギリス西部、  スペイン  ポルトガルの北西部、アゾレス諸島カナリア諸島で観測された[1][32]。雲に覆われていたため、イギリスのほとんどの地域からは観測することができなかったが[33][34]スコットランド西部では部分日食が観測された[35]。珍しいことに、この日食は日没の開始後でも観測されており、スペインのガリシア州では航海薄明中の夕暮れ時、  フランスヌーヴェル=アキテーヌ地域圏では天文薄明の開始時に最大食が観測された[36]。日没前後に日食が観測された地域では、この時期に木星の近くで明るく見えていた12P/ポンス・ブルックス彗星と日食が同時に観測を行える観測条件が整っていた[37][38]

オセアニア

オセアニアでは、ハワイ諸島  キリバス東部(フェニックス諸島東部とライン諸島全域)、  トケラウ、最西部を除く  アメリカ領サモア  クック諸島  フランス領ポリネシア  ピトケアン諸島で部分日食が観測された[1]。これらの地域はすべて180度経線の東に位置しているが、キリバスとトケラウは等時帯UTC+13 または UTC+14 であるため、これらの地域で日食が観測される日付は2024年4月9日となった。

太陽プロミネンスの観測

ニューハンプシャー州から撮影された皆既日食時の画像。月に覆われた太陽の外周からプロミネンスが見える。

この日食は、約11年周期で繰り返される太陽活動の中で最も活動が活発になる太陽極大期に発生したので、皆既日食の発生時には太陽の外周からプロミネンス(紅炎)を観測できる可能性が日食の発生前から予測されていた[39]。そして、日食の発生中に太陽表面から上り立つプロミネンスを目撃したと実際に多数の観測者から報告された[40][41][42]。いくつかのメディアでは太陽フレアコロナ質量放出 (EMC) が発生した瞬間が観測されたという誤った内容が報道されているが、実際にはこの日にはCクラスのフレアが1回発生していただけで、観測されたプロミネンスと太陽フレアには関連性がないことが分かっている[43]。皆既日食の間に太陽外周の下側に三角形の形状をした大きなプロミネンスが観測されて大きな話題となり、TikTokでは4000万人以上のユーザーがこのプロミネンスについて検索したという[44]

影響

アメリカ合衆国議会議事堂前で日食を観測する人々

北アメリカの広い地域で観測される日食であり、約20年後まで皆既日食がアラスカを除く北アメリカで観測されないことから、この日食は大きな盛り上がりを見せた。アメリカのコンサルティング企業によって2017年に観測された皆既日食よりも大きな関心が寄せられると予測され[45]、実際にアメリカを中心に多方面において日食による多くの影響や反応が生じた。

アメリカの民間調査企業によると、この日食の発生によってアメリカ国内では約60億ドルもの経済効果が生まれると予測され[45][46]、ニューヨーク州のロチェスター市長であるマリク・エバンズ英語版は、日食が発生する3日前から当日にかけて1000万ドルから1200万ドルの利益が市にもたらされる見込みを記者団に対して述べた[47]

皆既食帯が通る主要な観光名所であるカナダ・オンタリオ州のナイアガラの滝では、皆既日食発生時に少なくとも100万人もの観光客が押し寄せると予想されたことから、ナイアガラの滝があるナイアガラフォールズ地域は同年3月28日、予防的に非常事態宣言の発令を行った[48][49]。同様にアメリカのアーカンソー州も観光客の増加に伴う、フォートスミスなどの都市への交通の混雑が予想されることから非常事態を宣言し[50]、テキサス州のベル郡でも流入する観光客の増加が予想されたことで同年2月に先制して非常事態を宣言した[51]。2017年の金環日食も観測されたケンタッキー州のパデューカでも約15万人の流入が見込まれ、この日食の金環食帯と今回の日食の皆既食帯が交わる地域であったことから、それを記念したイベントなどが開催された[45]。皆既食帯が通過した地域に沿ってモーテルホテルなどの宿泊施設がほぼ満室となる事態になり、4月7日と8日にはそのような宿泊施設の価格が最大で2倍になった[45][52]。カナダのモントリオールでもこれら2日間のホテルの稼働率は約 20% 上昇した[53]。皆既食帯が通過する地域の高速道路を中心に大幅な交通量の増加がみられ、ニューヨーク・タイムズは8時間以上に渡る交通渋滞が発生し、ニューヨーク州の州間高速道路87号線では 55 mi(約 88 km)以上の交通渋滞が生じたと報じている[54]

この皆既日食の発生は天文学以外の分野における研究の機会にもなり、ノースカロライナ州立大学の研究チームは2017年の金環日食に続いて、日食の発生時における動物の反応を確かめる動物行動学的な観察を行った[46]

メジャーリーグでは、食分が約 0.90 の部分日食が観測されるニューヨーク州のヤンキー・スタジアムで行われる予定だったニューヨーク・ヤンキースマイアミ・マーリンズの試合を、日食によるプレーへの影響を考慮して試合開始を4時間後に変更することが発表された[46][55][56]。皆既食帯が通過するオハイオ州のクリーブランドにあるプログレッシブ・フィールドで行われる予定だったクリーブランド・ガーディアンズシカゴ・ホワイトソックスの試合開始も日食の終了後にまで延期され、それまでに一部の選手やコーチは日食メガネをつけて日食を観測する様子がみられた[57]

4月2日、ニューヨーク州のウッドボーン英語版にある刑務所に収監されていた無神論者キリスト教徒イスラム教徒などの受刑者6人がいずれの宗教においても日食を観測することはアメリカ合衆国憲法に定められている宗教上の権利であると主張し、日食の観測と日食グラスの提供を求めて州当局を相手に訴訟を起こした[58][59]。最初に刑務所側に対して日食の観測を申請したのは同年1月であり、検察当局によると刑務所側は当初はこの要請に応じ、日食グラスの提供も行った。しかし、同年3月11日に当局が施設の安全性と健全性の確保という理由で日食が発生する当日の14時から17時(いずれも東部標準時)まで州内の全ての収容施設の封鎖を通達していた[60]。この訴訟を受けて、最終的に日食の観測と日食グラスの提供は受け入れられることになり、原告の受刑者側は訴訟を取り下げた[61]

画像


脚注

注釈

出典

外部リンク