Ϝ

古代ギリシャ文字

Ϝ, ϝ(ディガンマ、δίγαμμα、またはウアウ[1])は、使われなくなったギリシャ文字のひとつである。

ギリシア文字
ΑαアルファΝνニュー
ΒβベータΞξクサイ
ΓγガンマΟοオミクロン
ΔδデルタΠπパイ
ΕεエプシロンΡρロー
ΖζゼータΣσςシグマ
ΗηイータΤτタウ
ΘθシータΥυウプシロン
ΙιイオタΦφファイ
ΚκカッパΧχカイ
ΛλラムダΨψプサイ
ΜμミューΩωオメガ
使われなくなった文字

()
ディガンマサン
ヘータショー
ギリシアの数字
スティグマ
()
サンピ

()
コッパ

元来はアルファベットの第6字で半母音[w]を表した。数価[2]6である。ただし現在では数の6はϚスティグマ = シグマタウの合字)を使って書かれる。

西方ギリシア文字を受け継ぎ、エトルリア語では[v]の音(ギリシア語にない)を表すためにこのϜを用い、加えて[f]の音を表すためには古くはϜΗと書いた。エトルリア人から文字を伝えられたラテン人は[v]の発音は不要なのでϜの一文字だけで[f]を表し[3]ラテン文字F の文字となった。

起源

コリントス出土の陶器破片。古代ギリシア語 ἄναξ /á.naks/ (≈ア↗ ナクス↘)「王」の与格の古形 ϜΑΝΑΚΤΙ /wa.nak.ti/ (≈ワ ナク ティ) が記されている

フェニキア文字 𐤅 (ワウ)に由来する。初期のギリシア語には半母音[w]が音素として存在し、多くの方言ではこの文字で表記された。ただし𐤅の字形ではなくその異体字[4]がこの子音字(Ϝ)として使われた。文字名称はおそらくセム語と同じくワウ(Ϝαῦ)だったと思われるが、文献的証拠は時代の新しいものしか存在しない。

しかし古代ギリシア語アッティカ方言では早く[w]は消滅したため、この字は数字としてのみ用いられるようになった。後にハリカルナッソスのディオニュシオス(紀元前1世紀)らはその形からディガンマ(δίγαμμα、2つのΓ)と呼ぶようになった[5]

数の6を表す用法としては後世さまざまに字形が変化し、最終的に7-8世紀ごろ合字στ(st)と混同されて「スティグマ」と呼ばれるようになった[5]

なおギリシア語で母音[u]を表す Υ(ユプシロン)も同じく 𐤅 (ワウ)に由来するが、子音(Ϝ)と母音とは異なる文字形で区別し、こちらはセム語アルファベット(フェニキア文字)の最後の字であるτの後ろへ追加し[5][6]、現在に至るまで残っている。

符号位置

大文字UnicodeJIS X 0213文字参照小文字UnicodeJIS X 0213文字参照備考
ϜU+03DC-Ϝ
Ϝ
ϝU+03DD-ϝ
ϝ
古期
ͶU+0376-Ͷ
Ͷ
ͷU+0377-ͷ
ͷ
N-ディガンマ

U+0376/0377の字はパンフィリア地方(現在のトルコ南部のアンタルヤ県)の碑文で使われた[w]を表す文字で、通常のディガンマとは使い分けられた[7]

脚注

参考文献

  • W. Sidney Allen (1987) [1968]. Vox Graeca (3rd ed.). Cambridge University Press. ISBN 0521335558 
  • ラリッサ・ボンファンテ 著、小林標 訳『エトルリア語』学藝書林、1996年。ISBN 4875170165