ロヒール・ファン・デル・ウェイデン(蘭: Rogier van der Weyden、1399年/1400年 - 1464年6月18日)は、初期フランドル派の画家。現存しているファン・デル・ウェイデンの作品の多くは、キリスト教的主題が描かれた祭壇画と肖像画である。伝わっているその生涯は平穏でとくに大きな出来事などは起こっていないが、当時もっとも成功しており、国際的な名声を得ていた画家だった。その作品はイタリアやスペインへも持ち込まれ[1]、ブルゴーニュ公フィリップ3世のようなネーデルラントの貴族階級や、諸外国の王侯貴族からの絵画制作依頼を受けていた[2]。15世紀後半には、フランドルの宮廷画家ヤン・ファン・エイクを凌ぐまでに高い評価を得ている。しかしながら17世紀になってバロック美術が台頭し、絵画の潮流が変化していくとともにファン・デル・ウェイデンの名声は低くなり、18世紀半ばにはほとんど忘れ去られた画家となっていた。しかしその後200年の間に、徐々にではあるがファン・デル・ウェイデンの再評価が進み、現在ではロベルト・カンピン、ヤン・ファン・エイクとともに初期フランドル派を代表する三大巨匠であり、15世紀の北方絵画においてもっとも影響力があった画家とみなされている[3]。
トゥルネーに残るロジェ・ド・ラ・パステュールの最後の記録は1435年10月21日のもので、「現在ブリュッセルに在住 (demeurrant à Brouxielles)」という記述である。そして同時期に「ロヒール・デ・ウェイデン」に関する最初の記録として、ブリュッセルの公式画家となったというものがある。この2つの記録こそが、カンピンのもとで修行していたロジェ・ド・ラ・パステュールがロヒール・ファン・デル・ウェイデンと同一人物で、同じ画家を指しているという考えの最大の根拠となっている。ブリュッセルの公式画家という地位はファン・デル・ウェイデンのために特に新設されたもので、ファン・デル・ウェイデンの死去とともに廃止されている。これは、おそらくファン・デル・ウェイデンが依頼を受け、ブリュッセル市庁舎の「黄金の議場」に描いた大規模な4点の裁きの情景の絵画と何らかの関連性がある[11]。ファン・デル・ウェイデンが所有する様々な資産や不動産に関する記録、証拠が残っており、当時経済的に成功していたことを物語っている。ファン・デル・ウェイデンが歴代ブルゴーニュ公やその一族の肖像画を描いていることも、当時のネーデルラント上流階級と親密な関係を築いていたことを証明している。
『ミラフロレスの祭壇画』はカスティーリャ王フアン2世の依頼によって描かれたと考えられており、完成後の1455年にフアン2世がミラフロレス修道院に寄進したものである。ファン・デル・ウェイデンは聖年の1450年にローマへ巡礼の旅に立ち、当地でイタリア人の芸術家、パトロンたちの知己を得、エステ家、メディチ家といった大貴族がファン・デル・ウェイデンから絵画を購入している。ミラノ女公ビアンカ・マリーア・ヴィスコンティは自身の宮廷画家だったザネット・ブガッティを、ブリュッセルのファン・デル・ウェイデンの工房で修行させるなど、当時のファン・デル・ウェイデンの国際的な評価は非常に高くなっていった。ニコラウス・クザーヌス、アントニオ・フィラレーテのような、1450年代から1460年代の著名な学者たちがファン・デル・ウェイデンを「最高」、「もっとも素晴らしい」画家であると評している。ファン・デル・ウェイデンは1464年7月18日に死去し、聖ミシェル・エ・ギュデル大聖堂 (en:St. Michael and St. Gudula Cathedral) の聖カテリナ礼拝堂に埋葬された[12]。
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The Netherlandish Diptych Unfolded – Exhibition on Netherlandish Diptychs in the National Gallery of Art in Washington including Van der Weyden's diptych of Philippe de Croy (英語)