上野愛咲美

日本の囲碁棋士

上野 愛咲美(うえの あさみ、2001年10月26日 - )は、日本棋院東京本院所属の囲碁棋士である。四段東京都中野区出身[1]藤澤一就八段門下。N高等学校卒業[2][3]

 上野愛咲美 女流立葵杯
名前上野愛咲美
生年月日 (2001-10-26) 2001年10月26日(22歳)
出身地東京都中野区
所属日本棋院東京本院
師匠藤澤一就
在位中タイトル女流立葵杯
段位五段
概要
タイトル獲得合計13
戦績
女流本因坊1期(2019)
女流立葵杯2期(2022・23)
女流名人1期(2023)
女流棋聖4期(2018-19・21-22)
扇興杯1期(2020)
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世界タイトル
獲得数1回               
 
タイトル
優勝SENKO CUPワールド碁女流最強戦2022
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男性を含む全棋士出場の一般棋戦の決勝に女流棋士として史上初めて進出(竜星戦準優勝[4])、男女混合の若手棋戦である若鯉戦で連覇、当時歴代最年少(16歳3か月)で女流棋聖を獲得するなどの実績がある。

囲碁棋士の上野梨紗(2019年4月入段[5])は実妹である。

経歴

宮崎県宮崎市に住む囲碁アマチュア有段者の祖父から勧められたのをきっかけに、4歳で囲碁を始めた[6]。その後、5歳のときから後に師匠となる藤澤一就が主宰する新宿こども囲碁教室に通い出した[6]。教室でも頭角を現し、小学2年生時に日本棋院東京本院の院生となった[6]

2014年2月の女流棋士採用試験は本戦5勝3敗で4位[7]2015年2月の同試験は本戦6勝2敗の2位[8]。2015年11月、男女混合の冬季棋士採用試験本戦において最終戦を前に上野、広瀬優一、大表拓都の三者が11勝3敗で並び、最終戦の対大表戦は勝った方が入段が確定するという状況になったが、ここで敗れて1勝差で合格を逃した(入段者は広瀬と大表)[9]2016年2月の女流棋士採用試験本戦では8勝1敗で首位となり試験を突破、4月に14歳で入段した[10][11]

2018年1月、第21期女流棋聖戦で挑戦手合に進出し、5連覇を達成していた謝依旻を2勝0敗で下し、自身初タイトルを獲得した[12]。16歳3か月での女流棋聖獲得は当時史上最年少で、女流棋戦全体でも藤沢里菜の第1回会津中央病院杯優勝(2014年、15歳9か月)に次ぐ当時2番目の年少記録であった[13][注 1]。これらの活躍により、第52回棋道賞新人賞を受賞した[15]

2019年1月、第22期女流棋聖戦の挑戦手合三番勝負でも、挑戦者藤沢里菜を相手に連勝して防衛を果たした[16]

また、2019年の第28期竜星戦では、本戦で4連勝を記録し決勝トーナメントに進出[17]。決勝トーナメントでは、高尾紳路九段・村川大介十段・許家元八段と強豪を次々と撃破し決勝戦に進出[17][18]。女流棋士が公式戦で七大タイトル保持者に勝利したのは2002年に第50回NHK杯小林泉美女流本因坊が羽根直樹天元を破って以来で、全棋士に出場資格のある棋戦での女流棋士の過去最高成績(ベスト8[注 2] )も大きく更新した[20]。9月16日、勝ち星対象棋戦通算40勝により三段に昇段[21]。9月23日の竜星戦決勝戦では一力遼竜星と対戦。一時は検討していた棋士により上野の勝利が確実であるという声も上がったというが[22]、殺したかに思えた一力の大石に欠け眼生きによる生還を許し[23]、敗退。日本囲碁界史上初の一般棋戦における女流棋士の優勝はならなかったが、史上最高記録となる準優勝を達成した[18]

同2019年11月、第38期女流本因坊戦の挑戦手合五番勝負では、藤沢里菜女流本因坊を3勝1敗で破り自身初の女流本因坊位を獲得[24]。2019年の通算成績は44勝25敗で、前年の2018年に藤沢里菜が挙げた43勝(23敗)を上回り、日本棋院の女流棋士の年間最多勝記録を更新した[25]

2020年2月、第23期女流棋聖戦の挑戦手合三番勝負で挑戦者鈴木歩七段に1勝2敗で敗れ失冠し[26]、一冠に後退するも、同年9月の第5回扇興杯女流囲碁最強戦決勝で謝依旻六段を破り優勝し二冠に復した[27]。ネット対局で行なわれた第3回呉清源杯世界女子囲碁選手権2回戦では、女流で世界最強クラスの崔精九段に白番1目半勝ちする金星を挙げたが、準々決勝で王晨星五段に敗れた[28]。同年11月、第39期女流本因坊戦の挑戦手合五番勝負で藤沢里菜女流名人に2勝3敗で敗れ再び一冠に後退した[29]。12月には第47期天元戦予選A決勝で秋山次郎九段に勝利し、自身初、女性では11人目の七大タイトル戦本戦出場を決めた[30]

2021年2月に行われた天元戦本戦1回戦では柳時熏九段に敗れ、女性で2人目となる七大タイトル戦の本戦勝利はならなかった[31]。同月、第24期女流棋聖戦の挑戦手合三番勝負で鈴木歩女流棋聖を2勝1敗で破り二冠に復した[32]。第32期女流名人戦、第8期女流立葵杯では続けて藤沢里菜女流四冠への挑戦権を得たものの、いずれも連敗に終わり藤沢の牙城を崩すことはできなかった。更に、同年9月に行われた第6回扇興杯女流囲碁最強戦決勝でも藤沢里菜女流本因坊に敗れ再び一冠に後退。第46期新人王戦では女流棋士としては1997年の青木喜久代以来となる決勝戦に進出。外柳是聞三段との決勝三番勝負に臨んだが、10月15日、1勝2敗で敗れ女流棋士としては初となる新人王戦優勝は成らなかった[33][34]。しかしながら、11月の若鯉戦では決勝で西健伸五段を破り優勝[35]。男女混合棋戦で女流棋士での優勝は前年同大会の藤沢里菜に続き2人目であった[35]。また同年には年間54勝(25敗)をマークし年間最多勝を挙げる[36]。女流棋士が最多勝を挙げたのは史上初。この中には女流棋戦での戦績も含まれるが、男女混合棋戦に限っても35勝15敗の好成績だった[36]

2022年1月、第25期女流棋聖戦では3年連続で鈴木歩七段との対戦となったが、2勝0敗でタイトル防衛[37]。4月のSENKO CUPワールド碁女流最強戦では、1回戦で大会3連覇中だった中国の於之瑩七段を破ったのに始まり、準決勝で藤沢里菜五段、決勝で中華台北の盧鈺樺四段に勝利して優勝[38]。女流の国際棋戦ではこれまで決勝に進出したこともなかった日本勢として、史上初の優勝となった[38]第78期本因坊戦では最終予選まで進出したが、初戦で彦坂直人九段に中押負けを喫し敗退。6月には、三度目の挑戦で藤沢里菜女流三冠を2勝1敗で下し、第9期女流立葵杯を獲得した[39]。第7回扇興杯では本戦ベスト4、第41期女流本因坊戦では藤沢への挑戦権を得たものの0勝3敗に終わった。第17回若鯉戦では前年に続き優勝、同棋戦では史上初となる連覇を達成した[40]

2023年2月、第26期女流棋聖戦挑戦手合三番勝負では、挑戦者仲邑菫三段に1勝2敗で敗れ失冠[14]。一方で女流名人リーグでは全勝で2期ぶりに藤沢への挑戦権を得た。

2023年4月、第34期女流名人戦で藤沢にストレートの2勝でタイトルを奪取。初の女流名人を獲得した。これで上野はテイケイ杯女流レジェンド以外の女流タイトル「棋聖・名人・本因坊・立葵杯・扇興杯」5つのタイトルを1期以上獲得し、史上2人目の女流タイトルのグランドスラムを達成した。同年7月3日の第49期名人戦予選Bの勝利で五段に昇段。第48期新人王戦では2年ぶりに決勝三番勝負に進出。決勝三番勝負では姚智騰に連勝し女流棋士初の新人王を制した。

2024年度の第79期本因坊戦では最終予選で謝依旻を破り本戦進出。本戦1回戦で井山王座と激突するも敗退。中国で開催の第2回爛柯杯で2回戦で謝爾豪九段を破りベスト16。

人物・エピソード

  • 相手の大石を容赦なく仕留める攻撃的な棋風で知られ、「ハンマーを振り回すような碁」と称される[41]。早碁は得意であると語っており[19]、準優勝した竜星戦や通算4期獲得の女流棋聖戦、優勝2回の若鯉戦はいずれも早碁棋戦である。
  • 竜星戦は通常「囲碁・将棋チャンネル」にて事前に収録された対局が放送されるが、第28期では上野の準決勝進出という快挙を受けて、準決勝並びに決勝戦は異例の生放送で対局が行われた[42]。対局は午後8時からと通常より遅い時間から開始され、頭が回らないと感じた上野は決勝戦前には妹の梨紗と鬼ごっこをして体を動かしたという[42]
  • 竜星戦での活躍を受け、2019年10月11日には日本記者クラブで記者会見を行った。女流棋士の同クラブでの会見は囲碁・将棋を通じて初であり、また17歳での会見は、女子プロゴルファー渋野日向子の20歳を塗り替えて記者クラブ史上最年少となった[43]
  • 対局日の朝、縄跳びを777回跳ぶというルーティンを持っている[44][45]。777回という数字は験を担いだもので[44]、第28期竜星戦での自身の碁の出来栄えについても「77点です。ラッキーセブンなので」と答えている[46]
  • 2022年の第34期女流名人戦では、本戦リーグで妹の梨紗とのプロ入り後初対局が実現。結果は姉・愛咲美の勝利となり威厳を示したが、対局後は「また当たったら大変だと思いました」とも語った[47]
  • コンピュータ囲碁に詳しくAWSに研究環境を構築するマニュアルを配布している[48]

棋歴

獲得タイトル

色付きは現在在位。登場は挑戦手合出場か決勝進出。他の棋士との比較は、囲碁の女流タイトル在位者一覧を参照。

タイトル番勝負獲得年度登場獲得期数連覇
女流本因坊五番勝負
10‐11月
201931期
女流名人三番勝負
4月
202331期
女流立葵杯三番勝負
6‐7月
2022-2342期2
女流棋聖三番勝負
1-2月
2018-19・20-2164期2
扇興杯決勝一番
7月
202031期
獲得合計13期[注 3]=歴代3位
女流棋士タイトル獲得数ランキング
(2024年04月17日時点)
順位獲得回数棋士名
1位27期謝依旻七段*
2位24期藤沢里菜女流名人・女流本因坊*
3位13期上野愛咲美女流立葵杯*
4位12期青木喜久代八段*
5位11期小林泉美六段*
6位タイ10期杉内寿子八段* | 小林禮子七段
8位9期知念かおり六段*
9位8期伊藤友恵七段
10位タイ7期本田幸子七段 | 楠光子八段
・獲得回数には男女混合棋戦、参加資格限定棋戦も含む。
*は現役棋士。

良績

受賞歴

  • 2018年 棋道賞新人賞[15]
  • 2019年 棋道賞女流賞[49]
  • 2021年 棋道賞最多勝利賞、最多対局賞[50]
  • 2022年 棋道賞国際賞、最多勝利賞、最多対局賞[51]
  • 2023年 棋道賞女流賞

昇段履歴

  • 2016年4月 入段
  • 2018年1月1日 二段(2017年の賞金ランキングによる)[52]
  • 2019年9月16日 三段(勝数規定)[21]
  • 2021年1月1日 四段(2020年の賞金ランキングによる)[53]
  • 2023年7月4日 五段(勝数規定)

年表

  • タイトル戦の欄の氏名は対戦相手。うち、色付きのマス目は獲得(奪取または防衛、あるいは優勝)。青色は挑戦者または失冠、あるいは準優勝。黄色はリーグ入り。
  • 棋道賞は、 : 最優秀棋士賞、 優 : 優秀棋士賞、 特別 : 特別賞、
    率 : 勝率一位賞、 勝 : 最多勝利賞、 対 : 最多対局賞、 連 : 連勝賞、
    国際 : 国際賞、 新人 : 新人賞、 女流 : 女流賞、 哉 : 秀哉賞
  • 賞金&対局料は、年度区切りではなく1月 - 12月の集計。単位は万円。は女流棋士1位。
女流棋聖女流名人女流立葵杯扇興杯女流本因坊他棋戦棋道賞賞金対局料備考
1-2月3月6‐7月7月10‐11月
2017本戦
1回戦
(未参加)予選2回戦本戦
1回戦
予選2回戦
2018謝依旻
oo
本戦
1回戦
予選3回戦本戦
ベスト4
本戦
決勝進出
新人
2019藤沢里菜
oo
予選2回戦藤沢里菜
xx
本戦
ベスト4
藤沢里菜
xooo
女流2077(9位)
2020鈴木歩
xox
(休止)
[注 4]
本戦
1回戦
謝依旻
o
藤沢里菜
xooxx
1754(8位)
2021鈴木歩
xoo
藤沢里菜
xx
藤沢里菜
xx
藤沢里菜
x
本戦
ベスト4
若鯉戦勝 対2350(6位)
2022鈴木歩
oo
リーグ
2位
藤沢里菜
oxo
本戦
ベスト4
藤沢里菜
xxx
SENKO杯
若鯉戦
国際
勝 対
2874(5位)タイトル四冠
2023仲邑菫
oxx
藤沢里菜
oo
藤沢里菜
xoo
牛栄子
x
本戦
ベスト8
新人王女流2837(4位)
2024本戦
決勝進出
藤沢里菜
xx
向井千瑛本戦本戦

出演

脚注

注釈

出典

外部リンク