国際治安支援部隊

国際治安支援部隊(こくさいちあんしえんぶたい : International Security Assistance Force)は、国際平和活動のひとつ。アフガニスタン治安維持を通じアフガニスタン政府を支援する目的で、2001年12月5日ボン合意[2]に基づく2001年12月20日国連安保理決議1386号[3]により設立された。当初は有志国の集まりからなる多国籍軍により構成されていたが、後に北大西洋条約機構(NATO)へ移管された。略称はISAF(アイサフ)。標語は、"کمک او همکاری"(komak aw hamkâri、パシュトー語で「相互協力」の意)である。

国際治安支援部隊
Official logo of the ISAF
国籍See list
忠誠北大西洋条約機構の旗 NATO
兵力130,000 (at the peak of deployment in 2012)[1]
上級部隊 ブルンスム統連合軍司令部
本部アフガニスタンの旗 アフガニスタン
カブール
標語"Assistance and Cooperation"
ペルシア語: کمک و همکاریKumak u Hamkāri
パシュトー語: کمک او همکاريKumak aw Hamkāri
指揮
著名な司令官Gen. John F. Campbell (2014)
識別
Flags

ISAFの作戦本部はアフガニスタンカーブルにあり、司令本部はオランダNATOブルンスム統連合軍司令部に置かれる。いずれも、欧州連合軍最高司令官(Supreme Allied Commander Europe: SACEUR)の指揮下にある。

2014年末に任務を終了し、アフガニスタン政府へ治安権限移譲を行った。確固たる支援任務に引き継がれた。

設立根拠

国際治安支援部隊(ISAF)は、NATOによる活動を国連が承認したもの。設立は、2001年12月20日安保理決議1386号により、国連憲章第7章の発動の下で行われる軍事的強制措置[4]、すなわち集団安全保障の実行措置として、憲章第43条の規定に基づいている。軍事的強制措置は、「安全保障理事会と加盟国の間の特別協定に従って提供される兵力・援助・便益」によって行われる。ISAFはこの措置に従い、2001年12月31日にアフガン暫定政府と軍事技術協定(Military Technical Agreement)[5]を結んでおり、この協定はアフガン正統政府の発足後、2003年12月9日に再び調印されている。ただし、この協定はISAFとホスト国の間で交わされたものであり、国連とISAFの間で交わされたものではない。憲章第43条の規定は部分的にのみ履行されており、安保理・加盟国間の協定は成立していない。

2007年9月19日安保理決議1776[6]及び延長前の17072006年9月12日採択)[7] において、ISAF司令部に対し、「事務総長を通し安全保障理事会に対しその活動委任内容の履行状況について四半期ごとあるいは定期的な報告を行うことを要請する」という主旨の決定事項が決議本文に記載されているものの、国連憲章第1章に基づく平和維持軍ではない。ISAFは、湾岸戦争における678武力行使容認決議)と同様、国連憲章第7章に基づき「国連安保理に派遣を承認された有志国連合軍」(いわゆる「多国籍軍」)である[8]

根拠文書

ISAFの設立を承認した安保理決議1386は、ボン合意の付帯文書I、「ANNEX I: INTERNATIONAL SECURITY FORCE」)[9]の規定に基づきその履行措置として採択された。付帯文書Iの当該箇所の要旨(仮訳)は次のとおり(太字部分が、当初想定されていた任務内容である)。

  1. この会議の参加者一同は、アフガニスタンにおける治安と秩序の維持はあくまでアフガン国民自身の責務であることを認める。このため、会議の参加者一同は、国連要員、国際機関及びNGO要員が安全な環境の中で活動できるようにするため、許容される限りの手段と影響力を行使して治安の維持に務めることをここに約する。
  2. 上記目的を念頭に、この会議の参加者一同は国際社会に対し、保安部門及び国軍の創設についてアフガンの新政府当局を支援することをここに要請する。
  3. アフガン独自の保安部門及び国軍の確立には相当な時間がかかることを想定し、この会議の参加者一同は国連の安全保障理事会に対し、国連授権のある部隊の早期派遣を求める。この部隊は、カーブルならびにその周辺地域における治安維持支援の任に当たるものとする。同部隊は、適当であると判断される場合は、必要に応じて、他の都市部及び地域へと展開することが可能であるとする。
  4. この会議の参加者一同は、国連授権の部隊が展開されるカーブルその他都市部およびその他地域から、各々の軍隊を撤退されることを約する。またこの部隊は、アフガニスタンの国内インフラの復興を支援する能力を有するものであることが望まれる。

任務

国際治安支援部隊(ISAF)は、アフガニスタン政府、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)、国際機関(IGO)および非政府組織(NGO)と連絡及び協力することにより各機関と連携してその任務を果たす[10]。ISAFの任務は、「アフガニスタン当局者及び、特に人道・復興分野に従事する国連要員その他国際文民要員等が安全な環境で活動できるよう、アフガニスタン国内の治安維持について同国政府を支援すること」である。具体的には、パトロール等の治安維持活動や、国軍・警察等の治安部隊の訓練、民軍協力(CIMIC: Civil-Military Cooperation)プロジェクトの調整、アフガニスタン政府の治安分野改革(DIAG麻薬対策等)の支援などを実施することである。

設立当初、ISAFはMTA(Military Technical Agreement: 軍事技術協定)に基づきアフガニスタンのカーブル及び近郊のバグラム空軍基地を含むAOR(Area of Responsibility: 活動範囲)の治安維持を支援することを目的として、各国軍から構成される多国籍軍が半年の活動期間を与えられていた。しかし後続の決議、アフガニスタン政府の要請、そしてNATOによる政治決定を受けて、ISAFの活動範囲は徐々に拡大されていった。

任務の変遷

  • 2001年12月20日安保理決議1386により6ヶ月の期間で任務を与えられる。
  • 2002年5月23日、安保理決議1413により期間が半年延長される[11]
  • 2003年8月11日国連およびアフガニスタン政府の要請により、この日を以って指揮権が ドイツ オランダ連合軍からNATOへと移行する。
  • 2003年10月13日、安保理決議1510号により活動範囲をカーブル周辺からアフガニスタン全土に拡大することが承認される[12]
  • 2003年12月、北部へ展開を開始する(ステージ1)。
  • 2004年6月24日 トルコでのNATO首脳会議でカーブル周辺以外の地域への任務拡大が決定される[13]
  • 2005年5月、西部への展開を開始する(ステージ2)。
  • 2006年7月、南部の治安維持部隊の指揮権をOEFより継承。南部展開を開始する(ステージ3)。
  • 2006年10月、東部の治安維持部隊の指揮権をOEFより継承。東部へ展開を開始する(ステージ4)。

活動内容

国際治安支援部隊の活動は6つの柱から構成されている[14]

  1. アフガン国家治安部門(ANSF)[15]と連携した治安維持支援
  2. ANSFおよびアフガン国家警察(ANP)[16]の開発及び育成の支援
  3. 復興ニーズの調査支援
  4. 非合法武装集団の解体(DIAG)[17]支援
  5. 麻薬対策支援
  6. 人道支援サポート

活動実績

2009年10月現在、アフガン国軍(ANA)を含むアフガン国家治安部門(ANSF)の育成任務にあたり、とくにANA育成についてISAFは以下の実績を残している[18]

  1. ISAFとの共同作戦時の先導率 - 62%
  2. 兵力 - 93,980人(国連承認のもと2010年10月までに134,000人に増強する予定)
  3. 部隊
    1. 部隊本部 x5
    2. 首都防衛部隊 x1
    3. 空挺部隊 x1

特権免除

ISAFの要員、支援要員、及び関連する連絡要員は全て、アフガニスタン暫定政府と結ばれる軍事技術協定(MTA)に基づき以下の特権免除を付与される[19]

  1. 1946年2月13日の 国際連合の特権及び免除に関する条約[1]に於ける国際連合のための任務を行なう専門家に関する条項の変更すべきところを変更した(mutatis mutandis)規定の適用。
  2. 個人逮捕及び拘束の免除。誤って逮捕若しくは拘束された場合、すみやかにISAF当局に引き渡されなければならない。
  3. アフガニスタン領内に於ける各部隊提供国要員によるあらゆる刑事犯罪もしくは軍規違反行為に関する当該要員所属国の専属管轄権の行使。この際、アフガニスタン暫定政府はこれら管轄権の行使に辺り部隊提供国を支援しなければならない。
  4. 部隊提供国の承諾なき、あらゆる国際法廷、機構若しくは国家に対する引渡し若しくは身柄の拘束の免除。

組織構成

国際治安支援部隊(ISAF)は陸・空の2つの側面から活動を展開する。それぞれが本部や方面軍を持ち、その作戦運用面での全てを統括するのがカーブルの司令部で、カーブルの司令部はNATO欧州連合軍最高司令部(SHAPE: Supreme Headquarters Allied Powers Europe)にその司令部を置く作戦連合軍(ACO:Allied Command Operations)の指令を受ける。ISAFの場合は、オランダのブルンスム連合統合軍司令部(JFBCS: Allied Joint Force Command Brunssum)がその指揮を執る。

ISAFの組織構成は次のとおり。

  1. 欧州連合軍最高司令部(SHAPE)
  2. ブルンスム連合統合軍司令部(JFBCS)
  3. カブール司令部(HQ ISAF)
  • 航空任務部隊(ATF:Air Task Force)
  • 方面軍(RC:Regional Command)
  • 前進兵站基地(FSB:Forward Support Base)
  • 地方復興チーム(PRT:Provincial Reconstruction Team)

指揮系統

当初は、指揮国が半年交代であり、イギリストルコドイツの順に指揮を取った。しかし、指揮国の負担が大きかったため、2003年8月9日より、NATOが指揮を取ることとなった。[20]これは、NATOとしての初の北米欧州以外への域外派遣となる。

参加国

2009年10月現在、国際治安支援部隊(ISAF)には欧州連合(EU)を中心に、計43カ国から約71,030名が参加している。[21]2002年1月10日以降、ISAF参加国は相互にMOU(共同覚書)を締結することにより、ISAFへの参加を公式なものとしている。[22]前出のISAF公式サイトの発表に基づくISAFの参加国構成は次のとおり。

NATO加盟国

2009年10月現在、ISAFにはNATO全加盟国(28カ国)が参加している。2009年4月にフランスが軍事部門に完全復帰し、初めて軍事作戦に公式に参加する形となった。[23]さらに同月、アルバニアクロアチアが正式加入したことにより、2009年度になって初めて全NATO加盟国が参加した形となった。[24]尚、増減数は2008年10月度のデータに比較したものである。
No.国名戦力増減
1. アルバニア250110
2. ベルギー530110
3.  ブルガリア4600
4. カナダ2,830330
5. クロアチア29010
6.  チェコ48065
7.  デンマーク69060
8.  エストニア15030
9. フランス3,095365
10. ドイツ4,3651,055
11. ギリシャ14515
12.  ハンガリー360120
13. アイスランド2(6)
14. イタリア2,795445
No.国名戦力増減
15.  ラトビア175105
16.  リトアニア25050
17. ルクセンブルク8(1)
18.  ノルウェー48025
19. ポーランド1,910780
20. ポルトガル14575
21.  ルーマニア990265
22. スロバキア245175
23. スロベニア13060
24. スペイン1,000220
25. トルコ720(80)
26. イギリス9,000670
27. アメリカ合衆国34,80014200

非NATO加盟国(EAPC)

2009年10月現在、ISAFには非NATO加盟国でEAPC加盟国から以下の10カ国が参加している。

非NATO加盟国(非EAPC)

2009年10月現在、ISAFには非NATO加盟国で非EAPC加盟国から以下の5カ国が参加している。
No.国名戦力増減
1. オーストラリア1,350270
2. ニュージーランド300145
3. シンガポール90
4. アラブ首長国連邦250
5. トンガ00

日本の協力

主な出典:NATO広報センターファクトシート(2008年10月)

2009年5月現在、政府は2007年1月の安倍晋三内閣総理大臣(当時)の北大西洋理事会NAC)での演説以降、アフガニスタンでISAFを展開するNATOに対し財政支援(financial support)を行っており、NATO・ISAF側は広報センターを通じてこの事実をファクトシートの形で公表している。日本の対NATO協力の変遷は次のとおり。

  • 2007年1月、安倍首相(当時)が北大西洋理事会で演説を行う[25]
  • 2007年3月、アフガニスタンでの人道支援プロジェクトのために約20億円の財政支援を実施。
  • 2007年12月、NATO文民代表部との連絡促進のため常勤の連絡調整員を指名[26]
  • 2009年5月、NATO加盟国のリトアニア政府の要請を受け、チャグチャラン州で展開するPRT(地方復興チーム)に対する文民派遣を行なうことを決定。外務省職員2名と公募民間人2名の計4名を派遣予定[27]

NATOのアフガニスタンでの活動に対する日本の財政支援は、政府の草の根(人間の安全保障)無償資金協力(GAGP)スキーム[28]の範囲内で行われている。2008年10月2日現在、日本政府はGAGPの方針に従い29のプロジェクト支援を実施しておりその総額は約260万ドル(2,647,927米ドル)に及んでいる。NATOによれば、政府はさらに39のプロジェクトへの追加資金協力を検討している。

上級文民代表

2003年11月以降、NATOは、アフガニスタンにおける政治・軍事上の目的遂行の為に、連合の政治部門の代表として上級文民代表(Senior Civilian Representative)を派遣している。 上級文民代表は、欧州連合、アフガニスタン政府、国連アフガニスタン支援ミッション、市民社会組織(Civil Society Organizations)、国際社会及び近隣諸国との連絡調整役を担う。

歴代文民代表

国名氏名(日)氏名(英)任期
トルコヒクメット・チェティン国務相Minister of State Hikmet Cetin2003年11月19日 - 2006年8月24日
オランダダーン・エバーツ大使Ambassador Daan Everts2006年8月24日 - 2007年1月24日
オランダモーリッツ・ヨケムズ大使(臨時代行)Ambassador Maurits R. Jochems2008年1月24日 - 2008年4月24日
イタリアフェルナンド・ジェンティリーニ大使Ambassador Fernando Gentilini2008年7月23日 -2010年1月24日
イギリスマーク・セドウィル大使Ambassador Mark Sedwill2010年1月28日 -

司令官

国際治安支援部隊(ISAF)は当初、有志国が参加する有志国連合軍であった。2003年8月11日にISAFの全指揮権がNATOに移るまで(ISAF IV ~)、ISAFの指揮は参加国の司令官が持ち回りで執った。現在、ISAFの指揮権は10回目のラウンドを終え、 アメリカ合衆国に移っている。米国がISAFの指揮権を持つのはこれが初めて[29]

歴代軍司令官

ISAF x国名氏名(日)氏名(英)任期
ISAF I[30] イギリスジョン・マコール少将Maj.Gen. John McColl2001年1月10日 - 2002年6月20日
ISAF II[31] トルコヒルミ・アクン・ゾルル大将Gen. Hilmi Akin Zorlu2002年6月20日 - 2003年2月10日
ISAF III[32] オランダノルベルト・ファン・ハイスト中将Lt.Gen. Norbert Van Heyst2003年2月10日 - 2003年8月11日
ISAF IV[33] ドイツゲッツ・グリーメロート中将Lt.Gen. Gotz Gliemeroth2003年8月11日 - 2004年2月9日
ISAF V[34] カナダリック・ヒリアー中将Lt.Gen. Rick Hillier2004年2月9日 - 2004年8月9日
ISAF VI[35] フランスジャン=ルイ・ピ中将Lt.Gen Jean-Louis Py2004年8月9日 - 2005年2月13日
ISAF VII[36] トルコエテム・エルダー中将Lt.Gen. Ethem Erdagi2005年2月13日 - 2005年8月4日
ISAF VIII[37] イタリアマウロ・デル・ヴェッキオ中将Lt.Gen. Mauro del Vecchio2005年8月4日 - 2006年5月4日
ISAF IX[38] イギリスデイビッド・リチャーズ大将Gen. Sir David Richards2006年5月4日 - 2007年2月4日
ISAF X[39] アメリカ合衆国ダン・マクニール中将Lt. Gen. Dan K. McNeill2007年2月4日 - 2008年6月2日
ISAF XI[40] アメリカ合衆国デイビッド・マキャナン大将[41]Gen David D. McKiernan2008年6月2日 - 2009年6月12日
ISAF XII[42] アメリカ合衆国スタンリー・マクリスタル大将Gen Stanley A. McChrystal2009年6月15日 - 2010年6月23日

終了

2014年12月28日、カーブルにて国際治安支援部隊の任務終了を記念する式典が行われ、アフガニスタン治安部隊への権限の移譲が完了した。2001年から2014年までの13年間で部隊要員約3,500人が犠牲なった部隊の展開は、2015年よりNATOによる訓練および支援任務(確固たる支援任務)に移行した[43]

脚注・参考

参考文献

脚注

関連項目

外部リンク