ブロードコム

アメリカの通信インフラ向けの半導体製品、ソフトウェアなどを製造販売するファブレス企業
Broadcomから転送)

ブロードコム英語: Broadcom Inc.)は、無線(ワイヤレス、ブロードバンド)および通信インフラ向けの半導体製品、ソフトウェアなどを製造販売するファブレス企業。本社はアメリカカリフォルニア州サンノゼ

ブロードコム
Broadcom Inc.
種類公開会社
市場情報
本社所在地アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ
設立1961年(2016年1月までは「アバゴ・テクノロジー」)
業種半導体エレクトロニクス製造
事業内容集積回路ギガビット・イーサネット無線アクセスケーブルモデム携帯電話スイッチングハブDSLサーバファームマイクロプロセッサBluetoothVoIP近距離無線通信GPSMAN
代表者Hock E. TanCEO兼社長)
売上高増加 73億9000万ドル (2011)
営業利益増加 9億5300万ドル (2011)
純利益増加 9億2700万ドル (2011)
従業員数15,700 (2017年5月)
外部リンクjp.broadcom.com ウィキデータを編集
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買収される前のブロードコム(Broadcom Corporation

UCLAの教授だったヘンリ・サミュエリとその教え子ヘンリ・ニコラス英語版が、1991年にカリフォルニア州ロサンゼルスで創業。1995年、本社をアーバインに移転[1]。1998年、NASDAQに上場。世界各地の15カ国以上で事業を展開し、約1.1万人を雇用、2009年にフォーチュン500にランクインした。ブロードコムには、ARM CPU の命令セット設計で知られているソフィー・ウィルソンがいる。

現在のブロードコム(Broadcom Ltd.

2016年2月、ヒューレット・パッカードアジレント・テクノロジーの半導体部門を起源とするAvago Technologies(アバゴ・テクノロジー)による買収が完了、買収に伴いアバゴ・テクノロジーは、社名を「ブロードコム」(Broadcom Ltd.)に変更した(旧ブロードコムのティッカーシンボル「BRCM」は上場廃止となり、アバゴ・テクノロジーのティッカーシンボル「AVGO」が継続)[2]。2016年11月、通信機器製造のブロケード コミュニケーションズ システムズの買収を発表した[3]。2018年7月、ソフトウェア開発企業のCAテクノロジーズ買収を発表し子会社化した[4]

また、2019年8月にウイルス対策ソフト大手のシマンテックの法人向け事業を107億ドルで買収したが[5]、5ヶ月後(2020年1月)に前記のうちサイバーセキュリティ事業をアクセンチュアに売却した[6]

製品

Raspberry Piに採用されているARM Cortex-A15搭載のPoC「BCM2836」

ブロードコムの製品は、コンピュータネットワークおよび通信ネットワーク英語版全般をカバーする。企業/都市向け高速ネットワーク、SOHOネットワーク向け製品、イーサネット向けと無線LANの送受信ICとマイクロプロセッサケーブルモデムDSLサーバ、ホームネットワーク機器(ルータースイッチなど)、携帯電話(GSM/GPRS/EDGE/W-CDMA)などである。高速暗号コプロセッサでも知られている。これは、暗号化や復号をプロセッサ以外で行うことで主プロセッサの負荷を低減させるチップであり、電子商取引PGPあるいはGPGを使ったセキュアな通信で役立っている。

他に通信事業者向けのIC製品、セットトップボックスやデジタルビデオレコーダ用プロセッサ、Bluetooth送受信機、無線LAN送受信機、衛星放送対応TV用チューナーなども手がけている。主な顧客としてAppleヒューレット・パッカードモトローラIBMデルレノボリンクシスロジテック任天堂ノキアノーテルアバイア)、シスコシステムズティーボが挙げられる。2011年9月19日、デジタルTV用チップ部門を廃止した[7]

NICとネットワーク

ブロードコムのNICは主要ベンダーのワークステーションやサーバ製品に採用されている。マザーボード上にイーサネットNICが組み込まれている場合でもマーケティング上ブロードコムの名を出していることが多い。例えば、デルのブレードスイッチ M610 には2つのギガビット NetXtreme 5709 NIC が組み込まれている[8]

もう1つの大きな市場はスイッチ用ハードウェアである。ブロードコムのハードウェアとファームウェアに基づくスイッチング装置がいくつかのベンダーから出ており(例えば、デルの Powerconnect classics)、ブロードコムのハードウェア(Tridentチップセット)を採用しつつファームウェアを独自開発している場合もある(例えば、シスコの Nexus の NX-OS[9]やデルの Force10 の FTOS[10])。

消費者向けコンポーネント設計

ブロードコムはまた、有名なコンシューマデバイスの部品も多数供給している。

  • アップルの iPhone 3GS と iPod touch の第二世代は、ブロードコムの Wifi+Bluetooth コンボチップを採用している。
  • 2005年第2四半期、任天堂株式会社と戦略的提携を発表。任天堂の次世代ゲーム機に無線LAN技術を提供するとした。具体的には2006年5月10日、任天堂のゲーム機WiiにブロードコムのBluetoothおよび無線LANが採用されたと発表している。ニンテンドーDSの無線LANもブロードコムが提供している。

AMDとの関係

2001年2月14日、ブロードコムはAMDの開発したHyperTransportの協力企業となり、同年7月14日には HyperTransport Technology Consortium に加入。2004年6月、AMDとのチップセット分野での提携発表し、2005年4月20日に ServerWorks ブランドとしてAMD K8(Opteron)用チップセット「HT-2000」を発表、2006年8月15日には AMD K8 用チップセット HT-2100 を発表し、同年10月に量産出荷を開始した。

2008年8月25日、AMDよりデジタルテレビ事業を1億4150万ドル(当初発表では1億9280万ドル)で買収。パネルプロセッサ Xilleon の製造権を取得した。

サイバーセキュリティ

2019年11月にSymantecを買収した。日本国内においては、エンドポイントセキュリティ製品やEメールセキュリティ、WEBセキュリティゲートウェイを展開している。ブロードコムのソフトウェア事業は、現在売上全体の3割ほどだが、5割を目標にエンタープライズソフトウェア事業の投資を拡大し続けている。

仮想化技術

2022年5月には、仮想化市場で世界一を誇るVMwareの買収を発表。VMware は、2019年にEDR(Endpoint Detection and Response)で世界シェアを保有するCarbon Blackを買収しておりこちらもあわせて事業ポートフォリオに組込まれることとなった。

生産体制

ブロードコムはファブレス半導体企業として知られている。半導体素子の製造は全て以下のようなアジアのファウンドリに任せている。

  • Semiconductor Manufacturing Corporation (TSMC、台湾)
  • GLOBALFOUNDRIES(旧:Chartered Semiconductor Manufacturing)(ドイツ、シンガポール)
  • Semiconductor Manufacturing International Corporation (SMIC)(中国)
  • Silterra Malaysia Sdn. Bhd.(マレーシア)
  • United Microelectronics Corporation(UMC/臺灣、台湾)

機器組み立てなどは、以下の提携先に任せている。

  • NEC
  • ASAT Ltd(香港)
  • ST Assembly Test Services(シンガポール)
  • Siliconware Precision(臺灣)
  • United Test and Assembly Center(シンガポール)
  • ChipPac and Signetics(韓国)

本社は2007年からカリフォルニア州アーバインカリフォルニア大学アーバイン校キャンパス内の University Research Park にある。研究開発拠点は、ケンブリッジ(イギリス)、バンガロール及びハイデラバード(インド)、リッチモンド(カナダ、バンクーバー近郊)、マーカム(カナダ、トロント近郊)、 ソフィア・アンティポリス(フランス)などにある。

ブロードコムとオープンソース

ブロードコム製無線LANチップ向けのオープンソースのドライバがいくつかLinuxカーネルのソースツリーに含まれている[11]。Linuxカーネル 2.6.26 以降、ブロードコムチップのいくつかはカーネルでサポートされているが、ビルド時に外部ファームウェアを必要とする。

2003年、ブロードコムが同社の無線LANルーター用チップセットのドライバにGPLコードを使っていながらコードを公開しておらず、GNU General Public License に違反しているとして、フリーソフトウェア財団がブロードコムを非難した。そのチップセットはリンクシスが採用し、リンクシスは後にシスコに買収された。するとシスコは Linksys WRT54G シリーズ無線ブロードバンドルーターのファームウェアのソースコードを公開した[12][13]

2002年、ブロードコムは独自のVoIPコーデックを開発し、2009年にLGPLライセンスでオープンソースとしてリリースした[14]

  • BroadVoice 16 - ビットレート 16 kbit/s、サンプリング周波数 8 kHz
  • BroadVoice 32 - ビットレート 32 kbit/s、サンプリング周波数 16 kHz(ただし、X-Lite SIP フォンのメニューにはビットレート 80000 bit/s とある)

ストックオプション問題

2006年7月14日、ブロードコムはストックオプションの処理の是正にかかった費用7億5000万ドルを追加計上することを発表した。2006年9月8日、その額は15億ドルに倍増。また、同社は追徴課税されることとなった[15]。2007年1月24日、1998年から2005年までの会計処理すべき金額は22億2000万ドルに増大した[16]

2008年5月15日、証券取引委員会(SEC)への申し立てで名前を出された後、サミュエリは会長職を辞任し、CTOとして休職した。

2008年6月5日、共同創業者で元CEOのヘンリ・ニコラス英語版と元CFOの William Ruehle は、ストックオプションの不正な日付改竄で起訴された。ニコラスは麻薬取締法違反でも起訴されている[17]。しかし2009年12月、検察官が弁護側証人3人の証言を不適切に妨げたとして、連邦判事コーマック・J・カーニー英語版はストックオプションの日付改竄に関する告発を退けた[18]

クアルコムとの裁判

2007年6月、ブロードコムはサンディエゴに本社を置く半導体企業クアルコムが同社の特許を侵害したとして訴え、アメリカ国際貿易委員会はクアルコム製チップを搭載した携帯電話の輸入禁止を命じた。ブロードコムはこの問題を裁判でも訴えていたが、2009年4月26日、4年に及ぶ法廷闘争が終結した[19]。和解の条件として、クアルコムは2013年4月までにブロードコムに現金8億9100万ドルを支払うことになっている。

企業買収

2011年9月、ブロードコムは NetLogic Microsystems を現金37億ドルで買収し、NetLogic従業員の持つ自社株4億5000万ドル分はブロードコム株と交換した[20]

他にもブロードコムは多数の企業を買収しており、それによって新市場にすばやく参入している[21]

2016年2月、Avago Technologies によって買収されたが、社名は買収された側の「ブロードコム」が採用され、その後もブロケード コミュニケーションズ システムズの買収を発表している。

2019年、GINを含めたSymantecの法人事業をBroadcomが買収。

2022年5月、VMware を約610億ドルで買収。

時期企業名買収額専門技術
1999年1月Maverick Networks1億400万ドル(株式)企業ネットワーク向けマルチレイヤー・スイッチ
1999年4月Epigram3億1600万ドル(株式)電話線を利用したHomePNA
1999年6月Armedia Inc.6720万ドル(株式)デジタル動画デコーダ[22]
1999年8月HotHaus Technologies2億8000万ドル(株式)VoIPDSPソフトウェア
1999年8月Altocom1億8000万ドル(株式)ソフトモデム
2000年1月BlueSteel Networks1億2300万ドル(株式)セキュリティ・プロセッサ
2000年3月Digital Furnace Corp1億3600万ドル(株式)データ圧縮ソフトウェア
2000年3月Stellar Semiconductor1億6200万ドル(株式)3Dグラフィックス・プロセッサ
2000年6月Pivotal Technologies2億4200万ドル(株式)デジタル動画チップ
2000年7月Innovent Systems5億ドル(株式)Bluetooth通信機
2000年8月Puyallup Integrated Circuit CompanyIC設計とICマクロブロック
2000年7月Altima Communications5億3300万ドル(株式)ネットワークチップ
2000年10月Newport Communications12億4000万ドル(株式)10Gbitイーサネット通信機
2000年10月Silicon Spice10億ドル(株式)VoIPDSPチップ
2000年11月Element 145億9400万ドル(株式)DSLチップセット
2000年12月Allayer Communications2億7100万ドル(株式)企業向けおよび光ネットワークチップ
2000年12月Sibyte20億ドル(株式)ブローバンド向けマイクロプロセッサ
2001年1月VisionTech, Ltd.7億7700万ドル(株式)MPEG-2圧縮・伸張
2001年1月ServerWorks Corp.10億300万ドル(株式)サーバ/ワークステーション用I/Oコントローラ
2001年7月PortaTec Corporation携帯用デバイス
2001年7月Kimalink無線/携帯用チップ
2002年5月Mobilink Telecom, Inc.560万ドル(株式)携帯電話向けベースバンドプロセッサ
2003年3月Gadzoox Networks580万ドル(現金)SAN
2004年1月RAIDCore, Inc.1650万ドル(現金)RAIDソフトウェア
2004年4月M-Stream Inc.870万ドル(現金)と27000株無線受信の改良技術
2004年4月Sand Video, Inc.7750万ドル(株式)と740万ドル(現金)動画圧縮技術
2004年4月WIDCOMM, Inc.4900万ドル(現金)Bluetooth 関連ソフトウェア
2004年4月Zyray Wireless, Inc.9600万ドル(株式)WCDMA向けベースバンドプロセッサ
2004年9月Alphamosaic, Ltd.1億2300万ドル(株式)モバイルサービス向けビデオプロセッサ
2005年2月Alliant Networks, Inc.携帯電話網ゲートウェイ
2005年3月Zeevo, Inc.2640万ドル(現金)と260万ドル(株式)Bluetoothヘッドセット
2005年7月Siliquent Technologies, Inc.7600万ドル(現金)10Gbitイーサネットのコントローラ
2005年10月Athena Semiconductors, Inc.2160万ドル(現金)デジタルTVチューナーとWifi
2006年1月Sandburst Corporation7500万ドル(現金)と500万ドル(株式)イーサネット・パケット交換用SOCチップ
2006年11月LVL7 Systems, Inc.6200万ドル(現金)ネットワーク・ソフトウェア
2007年5月Octalica, Inc.3100万ドル(現金)MoCA(同軸ケーブルによるホームネットワーク)
2007年6月Global Locate, Inc.1億4600万ドル(現金)GPSチップとソフトウェア
2008年3月Sunext Design, Inc.4800万ドル(現金)光ディスクドライブ
2008年8月AMD DTVプロセッサ部門1億4150万ドル(現金、当初の提示額は1億9280万ドル)[23]Xilleon英語版 DTVプロセッサチップとソフトウェア、およびそれを利用したTVチューナー
2009年12月Dune Networks[24]1億7800万ドル(現金)高速ネットワークスイッチ
2010年2月Teknovus[25]1億2300万ドル(現金)イーサネットPON (EPON) 用チップセットとソフトウェア
2010年6月Innovision Research & Technology plc[26]4750万ドル(現金)近距離無線通信とIP
2010年10月Beceem Communications[27]3億1600万ドル(現金)4G LTE/WiMax
2010年11月Gigle Networks [28]7500万ドル(現金)家庭用マルチメディアネットワーク
2011年4月Provigent Ltd.[29]3億1300万ドル(現金)マイクロ波バックホール
2011年5月SC Square Ltd.[30]4190万ドル(現金)イスラエルのセキュリティソフトウェア企業
2011年9月NetLogic Microsystems37億ドル次世代インターネット向けネットワーク製品
2022年5月VMware Inc.610億ドルITインフラストラクチャの仮想化

脚注

出典

外部リンク