FLT3
FLT3(FMS-like tyrosine kinase 3)またはCD135(cluster of differentiation antigen 135)は、ヒトではFLT3遺伝子にコードされるタンパク質である。FLT3はクラスIII受容体型チロシンキナーゼに属するサイトカイン受容体である。FLT3はサイトカインFLT3L(FLT3リガンド)に対する受容体として機能する。
FLT3は多くの造血系前駆細胞の表面に発現しており、FLT3シグナルは造血幹細胞や前駆細胞の正常な発生に重要である。
FLT3遺伝子は、急性骨髄性白血病(AML)で最も高頻度で変異が生じている遺伝子の1つである[5]。FLT3遺伝子に変異を持たない一部のAML患者の芽球では、野生型FLT3の高レベル発現が報告されている。こうした高レベル発現は予後不良と関係している。
構造
FLT3は、5個の細胞外Ig様ドメイン、膜貫通ドメイン、膜近接ドメイン、そしてチロシンキナーゼドメインから構成される。チロシンキナーゼドメインは2つのローブからなり、両者はKI(Tyrosine-kinase Insert)と呼ばれる領域で連結されている。細胞質に位置するFLT3はグリコシル化を受け、それによって受容体の膜局在が促進される[6]。
機能
FLT3はクラスIII受容体型チロシンキナーゼである。この受容体がFTL3Lに結合すると、2分子のFLT3の間を1分子のFLT3Lが橋渡しした三者複合体が形成される[7]。こうした複合体の形成によって、2つの細胞内ドメインが互いに近接し、各キナーゼドメインで1つ目のトランスリン酸化が引き起こされる。このリン酸化イベントによってチロシンキナーゼ活性はさらに活性化され、シグナル伝達分子をリン酸化して活性化することにより、細胞内へシグナルが伝播する。FLT3を介したシグナル伝達は、細胞生存、増殖、分化に関与している。FLT3はリンパ球(B細胞やT細胞)の発生に重要である。
次の2種類のサイトカインがFLT3の活性をダウレギュレーションし、FLT3による造血活性を遮断する。
特に、TGF-βはFLT3のタンパク質レベルを低下させ、FLT3による造血系前駆細胞のG1期短縮作用を逆転させる[6]。
臨床的意義
細胞表面マーカー
CD分子は細胞表面に位置するマーカーであり、特定の抗体群によって認識されるため、細胞種、分化段階、細胞の活性を特定するために用いられている。マウスでは、Flt3(CD135)は、長期・短期造血幹細胞(HSC)のほか、多能性造血前駆細胞(multipotent progenitor、MPP)、リンパ系共通前駆細胞(common lymphoid progenitor、CLP)のような前駆細胞など、いくつかの造血系細胞上に発現している[8]。
がんにおける役割
FLT3はがん原遺伝子であり、このことはこの遺伝子の変異ががんの原因となる場合があることを意味している[9]。FLT3は、骨髄の造血前駆細胞のがんである、白血病の発症をもたらす場合がある。FLT3の遺伝子内縦列重複(internal tandem duplication、FLT3-ITD)は急性骨髄性白血病(AML)と関係した変異の中で最も一般的であり、予後不良と関係したマーカーとなる。
FLT3阻害剤
ギルテリチニブはFLT3-AXL二重阻害剤であり[10]、FLT3-ITDまたはチロシンキナーゼドメイン(TKD)変異を有する再発性・難治性AML患者に対する第3相臨床試験が完了している[11]。2017年、ギルテリチニブはFDAによってAMLを対象としたオーファンドラッグとして指定された[12]。2018年11月FDAは、FDA承認検査によってFLT3変異が確認された再発性・難治性AML成人患者に対する治療として、ギルテリチニブ(ゾスパタ)を承認した[13]。
2023年7月、FDA承認検査でFLT3-ITD陽性が確認された、新たにAMLと診断された患者に対する治療として、キザルチニブ(ヴァンフリタ)が承認された[14]。キザルチニブは標準的なシタラビンとアントラサイクリンによる導入療法やシタラビンによるコンソリデーション療法との併用、そしてコンソリデーション療法後の単剤維持療法として利用される[14]。
ミドスタウリンは2017年4月に、新たに診断されたFLT3変異陽性の成人AML患者に対する治療として、化学療法との併用によるFDAの承認を受けた[15]。この薬剤は、AML患者のFLT3変異の検出に利用されるコンパニオン診断薬LeukoStrat CDx FLT3 Mutation Assayとともに使用することで承認を受けている。
ソラフェニブはFLT3-ITD変異陽性AMLに対して大きな活性を示すことが報告されている[16][17]。
2012年4月に発表された論文では、FLT3阻害剤耐性患者では特定のDNA配列が耐性獲得に寄与していることが発見されており、耐性獲得変異を考慮した将来的な阻害剤開発の可能性が示されている[18]。
出典
関連文献
関連項目
- CD分類
- サイトカイン受容体
- 受容体型チロシンキナーゼ
- チロシンキナーゼ
- がん遺伝子
- 造血
外部リンク
- CD135 Antigen - MeSH・アメリカ国立医学図書館・生命科学用語シソーラス(英語)
- Human FLT3 genome location and FLT3 gene details page in the UCSC Genome Browser.
- Overview of all the structural information available in the PDB for UniProt: P36888 (Receptor-type tyrosine-protein kinase FLT3) at the PDBe-KB.