JR東海315系電車

東海旅客鉄道の直流通勤形電車

315系電車(315けいでんしゃ)は、東海旅客鉄道(JR東海)の直流通勤型電車である。

JR東海315系電車
中央本線で運用される315系C6編成
(2022年3月8日)
基本情報
運用者東海旅客鉄道
製造所日本車輌製造
製造年2021年 -
製造数352両(予定)
運用開始2022年3月5日
主要諸元
編成8両編成
4両編成
軌間1,067 mm(狭軌
電気方式直流1,500 V
架空電車線方式
最高運転速度130 km/h
設計最高速度130 km/h
起動加速度2.6 km/h/s
減速度(常用)4.3 km/h/s
減速度(非常)5.1 km/h/s
車両定員133人(クハ314形)
139人(クハ315形)
154人(中間車)
自重クハ315-0:33.9t
クハ314-0:34.5t
モハ315-0:37.0t
モハ315-500:34.9t
サハ315-0:30.4t
サハ315-500:31.0t
編成重量273.6 t(8両編成)
全長20,100 mm
全幅2,978 mm
全高4,020 mm
車体ステンレス (前頭部のみ普通鋼)
台車付随台車:C-T257
電動台車:C-DT69
タンデム式軸箱支持方式ボルスタレス台車
駆動方式WNドライブ駆動方式
歯車比98:15(6.53)
制御方式ハイブリッドSiC-IGBT素子VVVFインバータ制御[1]
制動装置電気指令式直通予備回生抑速
T車遅れ込め制御・耐雪ブレーキ
保安装置ATS-STATS-PT
EBTE装置
備考出典:[2][3]
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概要

国鉄分割民営化前後に製造された211系213系311系の置き換えを目的として2020年令和2年)1月22日に導入が発表され[4]2022年(令和4年)3月5日中央本線名古屋 - 中津川間で8両編成が営業運転を開始した[5]。4両編成は2023年(令和5年)6月1日より、関西本線の名古屋駅 - 亀山駅間において営業運転を開始した[6]

これまでJR東海が新製導入した普通列車用電車はいずれも近郊形に区分されていたが、本形式は初めて通勤型となった[注 1][注 2][注 3]

全車が日本車輌製造で製造され、同社の次世代ブランド「N-QUALIS(エヌクオリス)」を採用した第一号車両である[9]。電機品は東芝インフラシステムズが受注している[10]

構造

車体

車体はステンレス鋼製を基本とし、先頭構体は製である[11]。外観の美観向上のため、レーザー溶接を採用している[11]。構造部材の配置を見直して強度向上を図ると共に、「N-QUALIS」の特徴でもある平滑な外板を実現した。可動柵に対応するため、先頭車・中間車とも20,100 mmで統一している[11]。車体幅は2,978 mm、屋根高さは3,630 mm、床面高さは1,140 mmであり、313系と共通である[11]。先頭構体形状は、低コスト化およびオフセット衝突対策のため、後退角ありの直線形状である[11]。側面の連続窓は廃止し、窓部に吹寄柱を立てることで側面衝突対策としている[11]

外装色には白とコーポレートカラーのオレンジを採用している。側面ドア上や側面窓の高さにオレンジのラインが配され、下部にかけて白いラインが入っている。前面は前面窓から貫通扉下部にかけて白く配色され、前面窓下部にオレンジ色の帯が入る。楕円形のライトケースには、高輝度LEDを用いた前部後部標識灯が収められている[2]

内装

インテリアデザインは、「優しく安心感のある快適な移動空間」をコンセプトとしており、バリアフリー設備の充実や車内セキュリティーの強化、冷房機能や座り心地の向上などが行われた[12]

座席はロングシートで、車端部は4人掛け、ドア間は11人掛けである[11]。座席幅は211系より1cm幅を広げた460mmである[13]。車内カラーは青を基本としつつ、優先席は座席や床面の色も変更して視認性を向上させた[2]。客室窓には赤外線紫外線を99%カットする複層UVカットガラスが採用され、日除けは省略となった[14][13]。扉間中央と車端部の窓は中折式であり、レバー操作で開閉できる[15][16]

車内案内表示装置にはJR東海の普通列車用車両として初となる液晶ディスプレイが採用され、各ドア上に1基設置されている[2]。また防犯カメラが1両5ヶ所、非常通報装置が1両3ヶ所設置されている[9]

車椅子対応トイレは編成中1ヶ所設けられており、車椅子スペースは1両に1ヶ所ある[2]

戸閉装置(ドアエンジン)富士電機製で、JR東海の車両では初めての電気駆動式を採用している[17]

空調装置にはAIが国内の鉄道車両で初めて採用され、常に制御の最適化が行われる[10][14]。また8両編成中1両はJR東海初の弱冷房車となっている[18]

走行装置

N700S系の技術をフィードバックした非常走行用蓄電装置の設置が予定されており、8両編成第7編成までは準備工事で(2022年夏以降搭載予定[2])、8両編成第8編成以降と4両編成は製造段階で設置される[14]制御伝送装置にはイーサネットを採用し、伝送速度の向上に繋げた[9]

車両制御装置は主電動機を駆動するVVVFインバータ装置とサービス用電源を供給する補助電源装置で構成されているが、モハ315形500番台は補助電源装置は省略されている[19]。インバータ素子にSiC素子を使用しており、そのほかの省エネルギー対策も含めて、211系比で35%の消費電力削減となっている[19]。インバータ故障の際には健全機器の出力を向上させ、健全時と同様の力行性能を確保する性能補償機能を導入し、8両編成では2インバータ、4両編成では1インバータ故障まで性能補償が可能である[19]

台車は、HC85系気動車と同じ安全性向上台車(C-DT69〈動力台車〉、C-TR257〈付随台車〉)を採用する[19]。日本車輌では「NS台車」と命名されている[9]。横ばりと側ばりをプレス加工で一体化した構造として重要溶接部を313系比約6割削減し、台車枠の信頼性を高め、検修時の探傷時間の短縮による省メンテナンス化を実現した[19]。軸箱支持方式にはタンデム式を採用し、上下荷重をコイルバネ、左右・前後荷重を前後に段違いで配置された円錐積層ゴムで負担する[19]。駆動方式は、2019年に登場したHC85系の量産先行車[20]に引き続きWN駆動方式を採用しており、WN継手は低騒音化が図られた設計となっている[19]

形式

出典[12]

モハ315形
中間電動車。2位寄りに車椅子スペースを備える。
0・3000番台(M1)
車両制御装置(主回路部+補助電源部)、集電装置などを搭載する。0番台は8両編成用、3000番台は4両編成用。
500・3500番台(M2)
車両制御装置(主回路部)、集電装置などを搭載する。500番台は8両編成用、3500番台は4両編成用。
クハ315形(Tc1)
上り向き制御車。前位寄りに運転台、1位寄りに車椅子スペースを備え、非常走行用インバータ、非常走行用蓄電池、空気圧縮機などを搭載する。0番台は8両編成用、3000番台は4両編成用。
クハ314形(Tc'1)
下り向き制御車。前位寄りに運転台、3位寄りに身障者対応トイレ、4位寄りに車いすスペースを備え、蓄電池、空気圧縮機などを搭載する。0番台は8両編成用、3000番台は4両編成用。
サハ315形
8両編成に組み込まれる中間付随車。2位寄りに車椅子スペースを備える。
0番台(T1)
蓄電池、空気圧縮機などを搭載する。0番台のみ。
500番台(T2)
非常走行用インバータ、非常走行用蓄電池、空気圧縮機などを搭載する。500番台のみ。

モハ315形が電動車であり、0・3000番台は静止形インバータ (SIV) を一体化したVVVFインバータ制御装置を搭載するのに対し、500・3500番台はVVVFインバータ装置を単独で搭載する[16]国鉄101系電車以来、日本国有鉄道→JRにおける2Mユニット構成の電車では、長くその機器配置を形式番号の偶数・奇数で区分していたが、本形式では「(ク)モハ314」形式は採用せず、区分番台によって分けられている。

編成表

0番台(8両編成)

2023年9月23日現在、神領車両区に8両編成23本(編成記号C1 - C23)184両が配置されている[21]。本番台は号車表示がなされているが、中央本線では名古屋方(東海道本線での米原方に相当)が1号車となっている。

 
← 中津川
名古屋 →
315系 8両編成[2][22][23][24][25][26]
号車87654321
形式クハ315
-0
(Tc1)
モハ315
-0
(M1)
モハ315
-500
(M2)
サハ315
-0
(T1)
サハ315
-500
(T2)
モハ315
-0
(M1)
モハ315
-500
(M2)
クハ314
-0
(Tc'1)
C111501150125021
C223503250245042
:::::::::
C222243543225224454422
C232345545235234654623

3000番台(4両編成)

2024年5月9日現在、神領車両区に4両編成14本(編成記号C101 - C114)56両・静岡車両区に4両編成2本(編成番号U1 - U2)が配置されている[27][28]。なお、3000番台は0番台と違い電気連結器や貫通幌が設置され排障器や先頭部の形状が異なっている他、号車表記が省略されている。3両以上の編成でもワンマン運転を導入することを目的として、車両側面に安全確認カメラが取り付けられている[29][6]。また、U編成には乗降扉横に半自動用ドアボタンが設置されている[28]

 
← 亀山
名古屋 →
315系 4両編成[29][27]
形式クハ315
-3000
(Tc1)
モハ315
-3000
(M1)
モハ315
-3500
(M2)
クハ314
-3000
(Tc'1)
C1013001300135013001
C1023002300235023002
:::::
C1133013301335133013
C1143014301435143014
 
← 熱海
豊橋 →
315系 4両編成[28]
形式クハ315
-3000
(Tc1)
モハ315
-3000
(M1)
モハ315
-3500
(M2)
クハ314
-3000
(Tc'1)
U13029302935293029
U23030303035303030
U33031303135313031
U43032303235323032

運用

2022年3月に中央本線名古屋駅 - 中津川駅間)で8両編成の0番台が営業運転を開始し、同年3月12日のダイヤ改正からは平日夕方に愛知環状鉄道線瀬戸口駅まで乗り入れている。愛知環状鉄道線内では、前寄りの車両を締め切り(貫通扉を施錠するので車内から入ることもできない)、後ろ寄りの車両で乗降扱いを行う[30]。中央本線(名古屋駅 - 中津川駅間)では2023年10月に、特急用を除く全車両が本形式で統一された[31]

2022年12月22日に4両編成の3000番台(C101・102)が登場し[29]、管内各地で試運転が行われた。2023年6月からは安全確認カメラを用いた画像認識技術の検証も兼ね、関西本線(名古屋駅 - 亀山駅間)において営業運転を開始した[6][32]

2024年3月15日から、東海道本線名古屋地区武豊線での営業運転を開始した[33]

今後の予定

2020年1月、「名古屋・静岡都市圏を中心に、中央本線東海道本線関西本線等に順次投入する計画」であるとして新製が発表された[4]

導入線区をさらに拡大し、2024年6月1日から東海道本線静岡地区熱海駅 - 豊橋駅間、同年11 - 12月ごろから御殿場線沼津駅 - 御殿場駅間および身延線富士駅 - 西富士宮駅間での運用を開始する予定である[34][35]

2021年度から2025年度にかけて352両(8両編成23本・4両編成42本)が製造予定である[36][37]

将来的には、車体側面の安全カメラを用いて4両編成(3000番台)でのワンマン運転を目指している[38]

脚注

注釈

出典

参考文献

専門記事

  • 中村修二(JR東海東海鉄道事業部車両部車両課課長「新形式の315系通勤型電車」『鉄道ファン』第734号、交友社、2022年6月、48 - 53頁。 

関連項目

外部リンク