ウルドゥー文字

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ウルドゥー文字(ウルドゥーもじ、ウルドゥー語: اردو حروف تہجی‎)とは、ウルドゥー語を表記する表記体系であり、アラビア文字から発展したペルシア文字を基本とした、38文字からなるアブジャドである。右から左へ書かれる。

ウルドゥー文字
UAEにある3言語の標識、下がウルドゥー文字。上のアラビア文字と字体が異なるのがわかる
類型:アブジャド
言語:ウルドゥー語
時期:11世紀頃-現在
親の文字体系:
Unicode範囲:U+0600 to U+06FF
U+0750 to U+077F
U+FB50 to U+FDFF
U+FE70 to U+FEFF
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メロエ 前3世紀
カナダ先住民 1840年
注音 1913年

概要

南アジアは、10世紀末のガズナ朝による侵攻に始まり、デリー・スルタン朝時代にイスラーム勢力の配下に置かれた。とくに、ムガル帝国では大々的にペルシア語文化が持ち込まれた。1648年にムガル帝国の首都はデリーに移り、デリー方言を基本にして、ペルシア語の影響下にウルドゥー語が成立した。このため、ウルドゥー文字もペルシア文字を元にしているが、ウルドゥー語の音韻体系に合わせ、いくつか字母・記号が追加されている。

また、基本書体も、ペルシアで発展したナスタアリーク体である。現在のペルシア語はナスフ体で印刷されることも多いが、ウルドゥー語ではいまでもナスタアリーク体を主に使用する。

字母

以下に、38字母とその名称を記す[1]。文字名称の baṛī は「大きい」、chōṭī は「小さい」という意味。33番目と38番目の文字は、それぞれ語末でのみ32番目・37番目の文字と区別される。

番号独立形文字名末字形中字形頭字形
1ا(母音)alifـا
2بbـبـبـبـ
3پpـپـپـپـ
4تtـتـتـتـ
5ٹʈṭēـٹـٹـٹـ
6ثsـثـثـثـ
7جjīmـجـجـجـ
8چـچـچـچـ
9حhbaṛī hēـحـحـحـ
10خxـخـخـخـ
11دddālـد
12ڈɖḍālـڈ
13ذzzālـذ
14رrـر
15ڑɽṛēـڑ
16زzـز
17ژʒžēـژ
18سssīnـسـسـسـ
19شʃšīnـشـشـشـ
20صssvādـصـصـصـ
21ضzzvādـضـضـضـ
22طttōēـطـطـطـ
23ظzzōēـظـظـظـ
24عʔainـعـعـعـ
25غɣγainـغـغـغـ
26فfـفـفـفـ
27قqqāfـقـقـقـ
28کkkāfـکـکـکـ
29گɡgāfـگـگـگـ
30لllāmـلـلـلـ
31مmmīmـمـمـمـ
32نnnūnـنـنـنـ
33ں(鼻母音化)nūn-e-γunnaـں
34وv, oː, ɔːvāōـو
35ہhchōṭī hēـہـہـہـ
36ھ帯気音dō cašmī hēـھـھـھـ
37یj, iːchōṭī yēـیـیـیـ
38ےeː, ɛːbaṛī yēـے

ペルシア文字との違い

そり舌音を表すために、以下の3文字が追加されている。

文字ٹڈڑ
音価ʈɖɽ

35番目の ہ (chōṭī hē) は、字形が(とくに頭字形で)ペルシア文字のもの(ه)と異なっている。

36番目の ھ (dō cašmī hēdō cašmī は「めがね」を意味する) は、子音字と組み合わせて帯気音をあらわすために使用する。単独の字形はペルシア文字の ه の頭字形に似ており、繋げて書いた際も頭字形と中字形は同じ形だが、尾字形は ه の場合と違って中字形と同じ形になる。

文字کھگھچھجھٹھڈھڑھتھدھپھبھمھنھرھلھيھ
音価tʃʰdʒʰʈʰdʒʰɽʰt̪ʰd̪ʰ

33番目の ں (nūn-e-γunna, 点のない ن)は、鼻母音を表すためにあるが、語末以外では通常の ن を使用する。

38番目の ے (baṛī yē) は、語末の母音 eː, ɛː を表すが、語末以外では通常の ی を使用する。

現代ペルシア語では غق が同音になっているが、ウルドゥー語では両者を区別する。ただし実際には ق は k (閉鎖音の前では x, ɣ)に合流していることが多い[2]

デーヴァナーガリーとの違い

ヒンディー語とウルドゥー語は日常語レベルでは同一言語といってよいが、ヒンディー語は左横書きのデーヴァナーガリーで書かれる。デーヴァナーガリーはアブギダであるため、母音の表記方法はまったく異なる。

ウルドゥー文字であらわされる子音のうち、[q x ɣ f z ʒ] は借用語にのみ現れる。デーヴァナーガリーの場合、これらの音をあらわすには、それぞれ k kh g ph j に点(ヌクター)を加えた क़ ख़ ग़ फ़ ज़ を使うが([ʒ] は通常 [z] と区別されない)、実際には点を打たず、k kh g ph j とつづりの上でも音の上でも区別しないことが多い[3]

デーヴァナーガリーにある鼻音字 अं ङ ञ ण (ṃ ṅ ñ ṇ) はウルドゥー文字には存在せず、すべて ن (n) と書く。サンスクリットからの借用語にあらわれる () () はそれぞれ ر (ri) ش (š) と区別せずに書く。例:کرشن (krišn = kr̥ṣṇ, クリシュナ)。デーヴァナーガリーのつづりも、元のサンスクリットの音の区別を保存しているだけで、発音上は区別されない[4]

補助記号

記号名称
اٙɑːalif mad
ءʔhamza
ّ(重子音)tašdīd
َəzabar
ِɪzēr
ُʊpēš
ۡ-jazm
ًəntanvīn

ハムザは、母音が2つ続くときに、後ろの母音字の上に置かれる。イザーファト(エザーフェ)を表すときに、読まない ہ で終わる語にはハムザを加える。また、アリフで終わる語にはハムザつきの ی を加える。子音で終わる語では zēr でイザーファトを表すことがある。

子音の後ろに母音が続かないことを示す jazm は、ペルシア文字のものと形が異なる。母音記号や jazm がつけられることは、辞書の中などを除くと、ほとんどない。tanvīn はアラビア語由来の副詞につけられる。

母音の表記

ウルドゥー語には a [ə], i [ɪ], u [ʊ] の3つの短母音と、ā [ɑː], ī [iː], ū [uː], ē [eː], ai [ɛː], ō [oː], au [ɔː] の7つの長母音がある。

語頭の短い母音(a i u)は、ا で表す。語頭の長母音は آ(ā) ای(ī, ē, ai) او(ū, ō, au) を表す。

語頭以外では短い母音は表記されず、長い母音は ا(ā) ی(ī) ے(ē, ai) و(ū, ō, au) と表記する。

数字

左から右へ書くインド数字を使用するが、アラビア語で使うものとは字形が異なり、ペルシア語で使うものとも少し異なる(特に 4, 6, 7)。

0123456789
アラビア٠١٢٣٤٥٦٧٨٩
ペルシア۰۱۲۳۴۵۶۷۸۹
ウルドゥー

発音のずれ

アラビア語やペルシア語からの借用語は、基本的にもとのつづりのまま表記されるため、表記と実際の発音の間にずれが起きる場合がある。

借用語にのみ現れる音のうち、[q][k] (閉鎖音の前では [x, ɣ])、[ʒ][z] として発音されることが多い[2][ʔ] は通常発音されないが、母音のあとに ع が置かれると、かわりに母音が長くなる[5]

コンピュータ

キーボード

Windowsのウルドゥー語キーボード。

脚注

参考文献

  • Schmidt, Ruth Lauila (2007) [2003]. “Urdu”. In Danesh Jain; George Cardona. Indo-Aryan Languages. Routledge. pp. 286-350. ISBN 020394531X 
  • 町田和彦『書いて覚えるヒンディー語の文字 デーヴァナーガリー文字入門』白水社、1999年。ISBN 4560005419 

関連項目