ボランティア

他者への奉仕目的に無給で労力を提供する行為、又はその行為者

ボランティア: volunteer)は、 個人またはグループが、社会奉仕のために時間と労力を無償提供する自発的行為。又はその無償労働者[1][2][3][4][5]

ヴィリニュスマラソンでのボランティア
2012年のハリケーン・サンディの後、ボランティアがブルックリンの遊歩道を掃除している様子
セミプロのボランティア:世界最大のボランティア水難救助組織であるドイツのDLRG(Deutsche Lebens-Rettungs-Gesellschaft,ドイツ救命協会)の訓練を受けたライフガードが、ミュンヘンの湖の公衆水浴場を巡回している様子。
石油流出事故で汚染された海岸の清掃ボランティア
選挙運動のボランティア
ボランティアによる災害現場での土砂除去作業の様子

語源・現行定義

語源

ラテン語動詞「volo(ウォロ、「欲する」「求める」「願う」の意味)」)から副詞形voluntate(ウォルンターテ「自ら進んで」)、名詞形 voluntas(ウォルンタース)を経て英語の volunteer となった[6][7]。英語の volunteer の語の原義は十字軍の際に「神の意思」(voluntas)に従うひとを意味した[8]志願兵である。

ボランティアの「義勇兵」「志願兵」を意味する起源は、古代ローマ時代の「奴隷兵」にさかのぼれるとされる。なお、古代ローマ帝国カルタゴが戦ったポエニ戦争の際、名将ハンニバルに大敗した古代ローマ帝国が奴隷の身分から解放する制度を導入した際に志願した奴隷を volo(ウォロ)、複数形ではvoluntrii(ウォルンタリー)と呼称した[9]

現在の定義・有償版・商業版と諸問題

現在でも「ボランティア(volunteer)」は志願兵の意味でも使用されているが、混同しないようにする際には「military volunteer(ing)」と表記する(volunteering参照)。徴集兵を意味する英語(forced,drafts) とは対義の関係にある。

ボランティア活動とは、「無償」「対価がないこと」であることが定義に含有されている[1][2][3][4]米国労働省による「ボランティア活動」の定義(Definition)とは、「提供したサービスに対する報酬の約束や期待、または受領なしに、市民的・慈善的・人道的な理由で組織のために行われるサービス時間」である[5]。ケンブリッジ英英辞典ではボランティア(volunteer)とは「快く、報酬を得たり、強制されずに自発的に何かをする人、特に他者を助ける人」と解説している[3]1919年にイギリスで設立され、イギリス政府欧州連合・その他団体に対して、会員および広範なボランティア部門の意見を代表担当し、国内民間非営利団体の統括団体であるNational Council for Voluntary Organisations(NCVO。国立ボランティア組織協議会[10]または全国ボランティア団体協議会[11])も、「ボランティアとは、他人のために無給で時間を費やすことである」と定義している[4]

しかし、生活費や奨学金の形で報酬を提供する有給や有償のボランティアもある。これらは英語では「Paid Volunteer(有償ボランティア)」と区分する[12][13][14][15][16][17]。国際機関の傘下でボランティアする際には、他国に住んでいる間は住居費や旅費を負担してくれるケースもある。なんのために有償ボランティアがあるのかというと、退職済又は無職で関心のある組織へ自己スキルを共有したいと考えている人、ボランティア活動をしたいが生活費を支払うために稼ぎが必要である人、ボランティアを有給フルタイム職に変えたいと考えている人、この3種の人々のためにある[13]

企画者が営利的・商業的に行っている場合は、「商業ボランティア(commercial volunteering)と呼ばれる[18][19][20]。ボランティア活動と観光を兼ねた旅行である「ボランティアツーリズム[21](ボランティア観光( Voluntourism)」という用語は受ける側に屈辱的であるとして、商業・非商業を問わず「ボランティア活動を旅行体験として市場化することを体現している」と皮肉っている。異国情緒ある国々を旅行する観光パッケージとなっていること、非倫理的ボランティア団体が大金を稼いだり、発展途上国の貧困を悪用していることに批判がある[22]インディペンデント紙は安易な国外ボランティア・ボランティアツーリズムを批判している。英国の大手慈善団体は、利他的な旅行者は、動機の善悪を問わず、最終的には受け入れ先コミュニティに害を及ぼし、現地の児童虐待を助長する可能性さえあると警告している。慈善団体のエグゼクティブディレクターであるマーク・ワトソンは、他者を助けたいという願望自体は称賛するが、あまりにも多くの商業ボランティアが結局、援助を提供する側と、援助受けるべき人々の双方がボランティア活動を悪用する状況になったと明かしている[23]

世界各国のボランティア

米国

米国での動物園ボランティア

ハーバード大学によると、ボランティア活動は喜びを高めるのに有効であると推奨している者もいる[24]。また、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者は、ボランティア活動などの親社会的な活動は、魅力を高めるのに有効であると推奨している[25]超高齢社会に向かいつつある社会背景の中で、アメリカ合衆国では定年退職者や高齢者の社会参加の一環として、若者開発途上国でのボランティアを平和部隊として組織した先例に倣って、高齢者が学校や障害者、引きこもりの児童などに社会的なボランティアを展開するのをアメリコー(AmeriCorps、アメリカ部隊)と名づけて、アメリカ合衆国連邦政府から経済支援を与えることにした。

アメリカ合衆国では、州によって高校生・大学生の時期に、5,000時間ほどボランティアに従事すると、就職のためのキャリア形成につながるというシステムがある。ボランティアを募集する機関と、ボランティアをしたことを認定する機関や認定資格者が制度的に確立し、一定の活動条件を満たした場合には本人にボランティア認定証が発行される。

ロシア

ロシアで開催された2018 FIFAワールドカップのボランティアの活躍でロシアの印象が前後で一変したと評価されている。現地取材した記者は頼りになるボランティアスタッフの存在の大きさを指摘している。大学生を中心としたロシアのボランティアスタッフがスムーズな英語を話せたこと、スタジアムだけでなく鉄道駅空港繁華街などでの積極的なサービスが印象的だったと述べている[26]

日本

「ボランティア」「NPO」は、2002年1月18日株式会社角川グループホールディングス(当時は、株式会社角川書店)が商標登録出願、2003年4月25日に登録されたが、2005年5月10日に商標登録を取消されている。2012年に厚生労働省が日本国内のボランティア活動者を対象として実施した調べでは、最大のボランティア人材源となっているのは主婦層および高齢者層である[27]

1995年阪神・淡路大震災では、全国から大勢のボランティアが被災地に駆けつけたことから、「ボランティア元年」とも呼ばれる。震災が起きた1月17日を「防災とボランティアの日」としている。東日本大震災で罹災した男性が、返しとして災害ボランティア活動に参加するようになり、熊本地震西日本豪雨北海道胆振東部地震の復興に助力している。このように、被災した過去のある人々が返しとして、他の被災地でボランティア活動や支援活動に参加する動きが、日本に広がっている[28][29][30][31][32][33][34][35][36][37][38][39][40][41][42]。ボランティアに関しては日本国内では「無償奉仕」の原則が諸外国とは違い定着し、特に災害ボランティアなどには、移動・食事・飲料・保険・事故等は自己責任とされ、ボランティア自体の「地位向上」がみられない。

災害ボランティアの概数[43]
災害人数集計期間
阪神淡路大震災138万人1995年1月 - 96年1月
新潟県中越地震008万人2004年10月23日 - 05年3月31日
新潟県中越沖地震003万人2007年7月 - 12月
東日本大震災102万人2011年3月 - 12年3月
広島土砂災害004万人2014年8月 - 12月

観光客的ボランティアへの批判

兵庫県西宮市今村岳司市議会議員(当時)は、阪神・淡路大震災での被災体験を振り返り「ボランティアは、被災者が食うべきものを食い、被災者が飲むべき水を飲み、被災者が寝るべきところで寝(た)」と述べ、当時のボランティアのことを「観光気分で来た自分探し」「ただの野次馬観光客」「人から感謝されることを楽しみにやってきただけ」等とし、「要はプロに任せること」「被災地に必要なのは、プロだけ」であり[44]、「部隊の指揮下で日本のために自分を犠牲にできる人だけが、「ボランティア=義勇兵」として現地入りすべき」だと述べた[45]

イギリス

1948年にイギリスで開催されたロンドンオリンピックがオリンピックボランティアの始まりである[46]2012年夏季ロンドンオリンピック・パラリンピックでは開催の2年前である2010年9月から募集が開始され、応募してきた24万人の中から書類選考などを経て最終選考に残った8万6000人に対して面接が行われ、その中から審査に合格した約7万人が参加している[46][47]。ラフバラ大学 Globalization and Sports 修士の川部亮子はイギリス国内でスポーツに関連するボランティアのイメージが大会前より身近になったことを評価した一方で、興味を持ってボランティアに応募したのに、審査に合格出来なかったために活かされなかった人々が沢山いたことを指摘している[48]

オーストラリア

2000年夏季シドニーオリンピックでは5万人のボランティアが参加した。自らシドニーの事務局に自己アピールをしてボランティアに選ばれたというオーストラリア国外からのボランティア参加者も少なからずいたと報道されている[47]。大学院在学中に日本から参加した女性はオリンピックボランティアについて非日常空間として、「学校に通ったり、仕事をしたりしている中では味わえない経験が出来た」「1カ月間お祭りをやっている空間に当事者の人としていられるのは、ものすごく刺激的な経験」と述べている。シドニーオリンピックのボランティアの年齢構成については大学生を中心に若年層とリタイア世代の高齢者が多かったと明かしている[49]

脚注

出典

参考文献

  • 田尾雅夫・川野祐二『ボランティア・NPOの組織論』学陽書房、2005年、ISBN 4-313-81508-2
  • マルフリート-マリー・ホファート著『世界のボランティア事情各国の歴史と実例』アルク出版、2002年10月。 
  • IAVE『第11回IAVEアジア太平洋地域ボランティア会議 2007年会議報告書』IAVE、2007年。 
  • 加藤基樹編『0泊3日の支援からの出発 早稲田大学ボランティアセンター・学生による復興支援活動』早稲田大学出版部(早稲田大学ブックレット<「震災後」に考える>)、2011年、ISBN 978-4-657-11309-2

関連項目

外部リンク