汎用技術

汎用技術(はんようぎじゅつ、: General-purpose technologies; GPTs)は、経済全体に影響を与える可能性のある技術のことである。

通常、国家レベル、地球レベルで影響を与える技術のことを言う[1][2][3]

解説

汎用技術は、現存する経済や社会の構造への影響を通じて、社会を劇的に変化させる可能性を秘めている。 汎用技術の例としては、蒸気機関鉄道、交換可能部品、電力電子工学マテリアルハンドリング機械化制御理論ファクトリーオートメーション )、自動車コンピューターインターネット医薬品ブロックチェーンなどが挙げられる。

経済学では、新しいインフラストラクチャーの開発に要する時間、学習コスト、古い技術やスキルの陳腐化などが原因で、ある経済圏で新しいGPTが最初に採用されると、生産性が向上する前に、実際には生産性が低下する可能性があると理論化されている[4]。これは、測定不能な無形資産が蓄積され、その後収穫されるため、「生産性のJカーブ」につながる可能性がある[5]。新技術の潜在的利益を活用するためのタイムフレームが迫っていることは、トレードオフとみなされる。GPTを開発した組織からのスピンアウト企業/発明家は、GPTのアプリケーション開発において重要な役割を果たす。しかし、アプリケーション開発へのスピンアウトが増えるにつれて、GPTにおける累積的イノベーションのレベルが低下することが観察されている[6]

効果

新しい汎用技術を経済に採用し始める時期においては、場合よっては、生産性が向上する前に実質的に生産性が低下する場合がある。これは、次のような理由によると考えられる。

  • 新しいインフラストラクチャーの開発に時間が必要なため
  • 新しい技術の学習コストが掛かるため
  • 古い技術やスキルを陳腐化させてしまうため

新技術の潜在的利益を利用するために必要な時間は、トレードオフとみなされる。 

批評

ミネソタ大学応用経済学の理事名誉教授のVernon W. Ruttanは、Is War Necessary for Economic Growth?: Military Procurement and Technology Developmentという本の中で、軍事・防衛関連の調達がアメリカの技術開発に与えた影響について議論している。[7] Ruttanは、汎用技術として次の6つを定義している。

  • 交換可能部品と大量生産
  • 軍事・産業用航空機
  • 核エネルギー
  • コンピューターと半導体
  • インターネット
  • 航空産業

Ruttanはこれらの技術の歴史の調査の結果、軍事・防衛関連の政府による調達が技術開発の主な資源となっていたことを発見した。そして、現在の技術開発の世界では、産業技術の開発に軍事・防衛関連の貢献がなく、産業技術の開発は軍事調達がなくても進むが、航空機、コンピュータ、インターネット産業などよりも進歩が遅くなる、と考えている。彼は軍事・防衛関連の調達がなければ実現しなかった汎用技術の例として、核エネルギーを挙げている。

エネルギーシステムの変換による新しい汎用技術

Global Energy Transformationという本の作者のMats Larssonは、Ruttan教授の著作に言及し、以下のように論じている。「新しいエネルギー技術の開発を推進するためには、エネルギーシステム変換のために政府が大規模な投資をする必要がある。エネルギーを効率化する技術とインフラストラクチャーが、将来の石油ピーク後の世界で経済成長を続けるためには必要である。しかし、こうした技術を開発・大規模に実装することは、産業界のみで推進するには複雑過ぎ、必要なリソースも大きすぎるためだ。」

この議論の根拠として、Larssonは過去に行われた大規模な開発プログラムやプロジェクトを挙げている。1つ目は、第二次世界大戦中の軍事品開発によるアメリカ産業の転換、2つ目はマーシャル・プラン、3つ目はアポロ計画である。そして、地球規模の大規模なエネルギーシステムの変換には、政府が投資する類似のプログラムが必要となるだろう、と述べている。

汎用技術の歴史

経済学者のRichard LipseとKenneth Carlawは、歴史上24の技術のみが真の汎用技術に分類できるだろうと述べている。[8] 彼は汎用技術を以下の4種類に分類している。

  • 単一の、それ自体として認識である一般的な技術
  • 当初は改善の余地が多かったが、後に経済全体で幅広く使われるようになった技術
  • 様々な用途を保つ技術
  • 多数のスピルオーバー効果をもたらす技術

彼らの本によると、21世紀にいくつかの汎用技術が追加された。汎用技術は、製品、プロセス、または組織システムのいずれかである。

LipseyとCarlawが言及した以下の最も古い技術は、新石器時代以前に生まれた。これらは汎用技術とはみなさないが、他の24の技術革新は、これらの技術の上に築かれたものである。

分類時期
音声言語プロセス紀元前10,000年以前
衣服製品紀元前10,000年以前
火の使用プロセス紀元前10,000年以前
兵器製品紀元前10,000年以前
汎用技術スピルオーバー効果時期分類
植物の栽培化Neolithic Agricultural Revolution紀元前9000-8000年
プロセス
動物の家畜化Neolithic Agricultural Revolution, Working animals紀元前8500-7500年
プロセス
鉱石の製錬Early metal tools紀元前8000-7000年プロセス
車輪
Mechanization, Potter's wheel紀元前4000–3000年製品
筆記Trade, Record keeping紀元前3400-3200年
プロセス
青銅Tools & Weapons紀元前2800年
製品
1200 BCTools & Weapons紀元前1200年製品
水車Inanimate power, Mechanical systemsEarly Middle Ages製品
Three-Masted Sailing ShipDiscovery of the New World, Maritime trade, Colonialism15世紀後期
製品
活版印刷Knowledge economy, Science education, Financial credit16世紀後期
プロセス
工場システムLate 18th Century Industrial Revolution, Interchangeable parts18世紀後期組織システム
車輪Industrial Revolution, Machine tools18世紀後期製品
鉄道Suburbs, Commuting, Flexible location of factories19世紀中期
製品
鉄蒸気船Global agricultural trade, International tourism, Dreadnought Battleship19世紀中期
製品
内燃エンジンAutomobile, Airplane, Oil industry, Mobile warfare19世紀後期
製品
電気Centralized power generation, Factory electrification, Telegraphic communication19世紀後期製品
自動車Suburbs, Commuting, Shopping centres, Long-distance domestic tourism20世紀
製品
飛行機International tourism, International sports leagues, Mobile warfare20世紀
製品
大量生産Consumerism, Growth of US economy20世紀
組織システム
コンピューターDigital Revolution20世紀
製品
リーン生産方式
20th Century Growth of Japanese economy20世紀組織システム
インターネット20th Century Electronic business, Crowdsourcing, Social networking, Information warfare20世紀製品
バイオテクノロジー
Genetically modified food, Bioengineering, Gene therapy20世紀
プロセス
バーチャルビジネスPaperless office, Telecommuting, Software agents21世紀
プロセス
ナノテクノロジーNanomaterials, Nanomedicine, Quantum dot solar cell, Targeted cancer therapy21世紀
製品
人工知能Autonomous car, Inventory robot, Industrial robot21世紀プロセス

労働の生産性の年間向上率は、蒸気機関が0.34%、ITが0.6%(1995-2005年)、ロボティクスが0.36%(1993-2007年)である。[9]

参考文献

外部リンク