起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい)(orthostatic dysregulation, OD)は、起立時の不調を中心とする症状群で、本邦では小児科でよく用いられる。原因は十分に明らかにされていないが、血管迷走神経失神/神経調節失神の1型と考えられている。起立試験を行い、循環器系を含めた症状再現を確認する。一般に良性であり、適切な治療や支援を行うことによって回復する。治療や支援の方法については、「起立性調節障害#治療」を参照。
10歳から16歳に多く、日本の小学生の5%、中学生の約10%にみられ男女比は 1:1.5〜2 と報告されている。概日リズムが5時間程度うしろにズレている事が多く、『宵っ張りの朝寝坊』になりやすい。また、上気道のアレルギーを併発する割合が高いとする報告がある[1]。
循環器系の障害として捉えられており、自覚症状としては立ちくらみ(血の気が引いて意識が遠のき、しゃがみ込みたくなる感じ、いわゆる[脳]貧血)が多くみられる。その他に、不眠 (睡眠障害)・意欲の低下/朝起きられない/不登校・(姿勢と関連のない)動悸・(動作時の)息切れ・心因性食思不振症・過敏性腸症候群 (腹痛)・緊張性頭痛・倦怠感(疲れ)など、人によりさまざまな症状が現れる。これらの循環器系以外の症状は、不安症に伴う身体症状症(somatic symptom disorder SSD)とも考えられている[2]。
起立性調節障害の原因は十分に明らかにされていない。
(日本小児心身医学会 OD診断・治療ガイドライン2015より)
日本小児心身医学会 OD診断・治療ガイドラインでは、以下の手順で診断を進める。重要なことは、OD症状を生ずる他疾患を除外すること、新起立試験を必ず実施することである。症状だけでODと診断してはいけない。
1)以下の11の身体症状のうち、3つ以上あれば(あるいは2つでも症状が強い場合)、ODをうたがい、次の2)に進む。(これにはエビデンスがあり、報告されている)
①立ちくらみ、②失神、③気分不良、④朝起床困難、⑤頭痛、⑥腹痛、⑦動悸、⑧午前中に調子が悪く午後に回復する、⑨食欲不振、⑩車酔い、⑪顔色が悪い
2)ODに似た症状を引き起こす他の疾患を除外診断する。
(例)鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外する。
3)新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定する。
4)検査結果と日常生活状況の両者から重症度を判定する(ODガイドラインを参照)
5)「心身症としてのOD」チェックリストを行い、心理社会的関与を評価する。(ODガイドラインを参照)
生活指導(非薬物療法)と薬物療法を併用する。環境調整や心理療法が行われるときもある。
下記の方法について、どのような意味があるのか、どのような効果があるのか等を説明し、本人が納得して実践できるよう支援することが大切である[6]。
水分のこまめな摂取も必須である。スポーツドリンクは塩分も摂取できる。十分な血圧を維持するため、こまめに水分を摂取し、一日を通して2リットルほどの水分を摂取すると良いとされる[8][9]。
就寝時には、頭部を足よりも約30センチほど高くして寝ると、起床時の症状が少なくなる[10]。
起床時には、家族の協力が重要であり、カーテンや雨戸を開けて部屋を明るくすることで目覚めやすい環境を作ったり、本人と事前相談の上で決められた時間に穏やかに声をかけたり、血行をよくするため優しく体をさすってあげたり、血行をよくする効果のあるシャワーやお風呂を用意してあげたりすることも推奨される[11][12]。体を強くゆすったり、乱暴に布団をはがしたりなどは、してはならない[12]。
なお、起床時に、①横になったまま肘をついて頭だけ起こす、②ベッドや布団の上で座った状態になる、③頭を下げて前かがみになりながらゆっくりと腰を上げる、④前かがみの姿勢で歩き出す、といった手順をとると、症状が抑えられやすい[12]。
ミドドリン、アメニジウム、プロプラノロール、ジヒデルエルゴタミンの投与が有効である。
また、起立性調節障害に有効であるとされる物質として次のようなものがあり、薬剤に用いられる[8]。以下、三つのタイプに分けて紹介する。
加えて、起立性調節障害に特徴的な症状である「朝起きられないこと」や「立ちくらみがすること」には、昇圧剤(メトリジン、リズミックなど)の使用が有効とされる[13]。昇圧剤投与時には、支援者(保護者など)が次のようなサポートを行うことが推奨される[13]。
学校関係者や保護者に起立性調節障害への理解を深めてもらい、本人が適切な配慮やサポートを受けられる環境を整えるとともに、医療機関との連携を深め、医療機関・学校関係者・保護者が適切に連携して支援する体制を整えていくことが必要である[14]。本人を責めることなく、共感しながら対応し、難治例については児童精神科医に紹介することも薦められる。
心理的ストレスの解消など、精神面のケアも重要であり、精神科・心療内科の医師やカウンセラーによる心理療法も効果的である。例えば、心理療法の一つである認知行動療法を通して、精神面が楽になり、回復につながる場合がある[15]。
典拠管理データベース: 国立図書館 |
---|