グリーンピース (NGO)

自然保護団体

グリーンピース(英:Greenpeace)は、39か国以上に拠点を置く非政府自然保護・環境保護団体である。オランダアムステルダムに国際統制機関を置く[1][2]

グリーンピース
設立1971年
活動地域
グリーンピースが活動拠点を設置している国・地域 (図中の緑)
主眼環境保護自然保護
活動内容ロビイング、調査研究、イノベーション
会員数サポーター(会費を払い活動を支援する会員)は約290万人。有給専従職員は約1000人。(2008年現在)
ウェブサイトwww.greenpeace.org
Japan Mobile Site
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組織概要

1971年、カナダと米国の環境保護活動家のアーヴィング・ストウとドロシー・ストウにより設立された。「地球多様性の中で生命を育む能力を確保する」 ("ensure the ability of the Earth to nurture life in all its diversity"[3])ことを目的として標榜し、気候変動森林伐採乱獲商業捕鯨遺伝子工学反核問題といった国際問題のキャンペーンに取り組む。1979年10月14日には、各国のグループを統合する形でグリーンピース・インターナショナルを設立。本部をオランダアムステルダムに設置した[注 1]

グリーンピースは自らの目的を達成するため、ロビー活動研究、エコタージュを行う[4]。この国際的な組織は290万の個人の支援者と財団からの寄贈に頼っており、政府や企業、政治政党からの資金の受け入れを行っていない[5][6]。グリーンピースは国際連合経済社会理事会の一般協議資格を有しており[7]、非政府組織の説明責任と透明性の確保を目的とした国際的な非政府組織 INGO Accountability Charter を創設した[8]

また、グリーンピースは目的達成のために直接行動を行う事でも知られており、世界で最も注目されている環境団体とされ[9][10]、グリーンピースは環境問題を公衆に提起し[11][12][13]民間と公共の両方に影響を与えてきた[14][15]。他方で、グリーンピースは論争の対象にもなってきた[16]遺伝子組換え生物 (GMO) に対するグリーンピースのキャンペーンを終了するよう求める100人以上のノーベル賞受賞者からの公開書簡がグリーンピースに対して提出されるなど[17]、グリーンピースの意図ややり方(後者の一部には違法なものもある)が批判を受けてきた[18][19]。加えてグリーンピースの活動家による直接行動の中には犯罪行為に当たる過激な行為も多数起こしており、例えば、グリーンピースの活動家らが遺伝子組み換え小麦の試験用地を破壊したり[20][21][22]ナスカの地上絵(ペルーの国連世界遺産)に損害を加えたり[23]して法的措置を引き起こしてきた[24][25]。これら活動家らの過激な行為に対して罰金刑や執行猶予付きの有罪判決が下されており、その過剰な運動に対してエコテロリズムとして批判されることもある[26]。実際に、2005年にアメリカ自由人権協会(ACLU)が情報公開法に基づいて入手した米国連邦捜査局(FBI)の資料から、FBIがACLUと並んでグリーンピースや動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)を監視対象にしていたことが判明している[27](なお、この件に関しては2010年、アメリカ合衆国司法省は、2001年から2006年まで続いたFBIによるグリーンピースやPETAなどの環境保護団体メンバーの監視は正当ではなかったとする文書を公表し、FBIを批判している[28])。日本国内でも、捕鯨問題の告発と称して組織的に運送会社の倉庫に侵入し宅配物を窃盗したとして活動家が逮捕される事件を起こしている[29]

※本文中の原語表記部のリンクは英語版へのリンク。

活動分野と主張

エッソに不法侵入して、環境破壊をやめるよう呼びかけるバナーを掲げるグリーンピース /エクソンモービル.

グリーンピースが展開する活動分野を以下に列挙する。

海洋生態系問題
日本で有名な事案は捕鯨問題だが、基本的には海洋生態系全体を扱っている。過剰漁獲や漁業手段の問題、海洋汚染の問題、気候変動による生態ピラミッドの崩壊の問題、海洋保護区の設立などがある。なお、あくまで近代捕鯨への反対であり、生存捕鯨は持続可能として認める立場も示している(反捕鯨#生存捕鯨も参照)。2005年からは日本の沖縄・辺野古ヘの米軍基地移設におけるジュゴン保護にも参加。
オゾン層破壊
特定フロンをはじめとするオゾン層破壊物質の抑制。フロンを使わない炭化水素冷媒による冷蔵庫「グリーンフリーズ」の開発支援・普及。炭化水素冷媒のグリーンフリーズ型冷蔵庫は、グリーンピースの開発委託を受けたドイツのDKK社(その後フォロン社に名称変更)が、1992年に世界に先駆けて発表。1993年中にはドイツの他企業も追従し、また同時に断熱材に使われていたフロンも炭化水素などに置き換えられた。他国の大手家電企業へのグリーンフリーズ型冷蔵庫の生産要請なども行ってきた。こうした動きを受けて、日本でも日本の冷蔵庫メーカーにはたらきかけを行い、その結果、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)が2001年11月に商品化を発表し、いまでは当たり前になった家庭用ノンフロン冷蔵庫普及への流れを作った。
森林問題
森林伐採による生態系破壊の問題。紙の原料となるパルプ材としての森林管理問題やマホガニーなどの希少樹種の貿易問題など。
原子力問題
核兵器に対する反対運動を継続している。1993年には、ロシア海軍による核廃棄物日本海への海洋投棄を摘発し日本に衝撃を与えた。また、原子力発電をはじめとするいわゆる「平和利用」に関する反対運動、つまり原子力撤廃運動も展開(高速増殖炉核燃料再処理、それに伴う放射能汚染問題・プルトニウム管理問題など)。1995年1997年には、フランスから日本まで航路や輸送スケジュールが発表されていなかった核物質輸送船を追跡するプロジェクトを展開(前者はチャーター船の「スミット・ニューヨーク」、後者はキャンペーン船「ソロ M.V.Solo」が追跡船)。2011年東京電力福島第一原発事故発生以降、福島県での放射能調査を継続。原発の再稼働問題にも取り組んでいる。
化学物質汚染問題
塩素系化合物などを含む化学物質汚染問題や、その一部の原因となっているごみ処理・ごみ焼却処理の問題。日本では、ほかに瀬戸内海豊島におけるシュレッダーダストの投棄問題などにもかかわっている。また、2011年にデトックス・キャンペーンを開始し、有害化学物質が河川や水質を汚染していることから、衣料品ブランドにサプライチェーンでの有害化学物質使用状況の情報公開と、2020年までの有害化学物質の全廃を求めている。
気候変動・エネルギー問題
いわゆる「地球温暖化」。二酸化炭素をはじめとする温暖化ガスの排出抑制を目指している。エネルギー問題とも密接に関係するほか、特定フロンのかわりに導入された、オゾン層破壊係数が低いかわりに強い温室効果をもたらす代替フロンの使用抑制についても活動している。2007年には、地球温暖化に抗議するためにスイスの氷河で全裸パフォーマンスの撮影が行われ、「緊急事態にある人類は、社会常識、礼儀作法、容認可能な行為の規範を捨て、いかなる方法を使ってでも警告を発するだろう」と主張している[30]。石炭火力発電問題および太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及にも取り組んでいる。
遺伝子組み換え作物への反対アピール
遺伝子組み換えトウモロコシの賛成派の政治家事務所の前に、トウモロコシをばら撒くという抗議行動を行っている。2014年4月、中国の大学から、遺伝子組み換え作物のサンプルが盗まれた事件があり、この容疑者としてグリーンピースが挙げられた。グリーンピース側は否定している[31]
持続可能な食と農業へのシフトを提唱
2014年からミツバチへの毒性の強いネオニコチノイド農薬の禁止を目指してキャンペーンを開始。解決策として、化学農薬や合成肥料や遺伝子組み換えに頼らず生物多様性の力や地域の知恵を活用する「生態系農業」へのシフトを目指す。
共謀罪創設に対する反対アピール
主に日本国内での活動。2006年、日本政府の共謀罪関連法案(組織犯罪処罰法の改正案)の審議に対する反対運動や抗議の呼びかけ。2017年にも「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織的犯罪処罰法改正案の成立に反対した。

批判

資金問題

収入源

グリーンピースは政府や企業からの支援を一切受けず、個人からの寄付金のみで活動している、と公式に説明している[32][33]。これに対し、以下のような異論がある。

グリーンピース創設メンバーの一人で、15年間も会長をつとめた[34]パトリック・ムーアは、のちに団体と袂を分かち、別の団体「グリーンスピリット」を興して原子力発電に賛同する立場になっている。ムーアによれば、ロックフェラー財団など50の基金が、原子力発電に賛同する一方で“環境保護に関心あり”というポーズのためにグリーンピース本部に資金援助しているとして団体の資金源について内部告発を行った[35]

アイスランドのジャーナリスト、マグヌス・グドムンドソンは「グリーンピースは環境保護団体のような顔をしているが、実は政治的権力と金を追求する多国籍企業である」と述べている[36][注 2]

またバチカン教皇庁レジーナ・アポストロルム大学大学院教授のリッカルド・カショーリとアントニオ・ガスパリによれば、グリーンピース・インターナショナルの2000年度予算は3400万ドルにのぼり、団体全体の同年度予算は1億4300万ドル(147億2900万円[注 3])にものぼるほどで、「巨大資金団体」としたうえで[37]、同団体は税控除が適用される寄付金を集め、さらにそれを会計上異なる関連団体に分配しているグリーンピースのやり方を批判している。

ドイツの週刊誌デア・シュピーゲルによれば、グリーンピースは「世界で最も資金力のある環境団体」で、年間に二億ドルの収入があり[38]、ドイツ国内でも1000万マルクの売り上げがありながら、申告されることがないとして批判した。

資金の使途

さらに、資金の使途については、一般の会員から「年次会計報告がなされず、使途が不明」との疑問が呈されることもある[39]

グリーンピース・ジャパンの年次報告書によれば、2014年の収入は2億6千万円(うち99.8%が寄付収入及び補助金)であった。それに対し、支出の内訳は、1億5千万円(約6割)が「活動費」、6千万円(24%)が「会員管理・資金調達費」、4千万円(16%)が「活動管理費」であった。

1億5千万円の「活動費」の内訳は報告されておらず、実態は不明である。なお、30人の有給職員の給与(仮に日本のサラリーマンの平均給与400万円を掛けると、1億2千万円に相当)がどのように支払われているかについても、一切報告されていない[40]

組織内部の意思決定

ドイツの週刊誌デア・シュピーゲルは、グリーンピースの意思決定が、「グリーンピース世界会議」の12人の大選挙人に握られており、一般メンバーは運営の意思決定に関わることはできず、収入の24%以上を上納できる資金力を持つ支部代表のみが意思決定を行っていると報道した[41]

グリーンピースの元会長ウテ・ベリオンは「グリーンピースの賛同者たちに投票権はない」「どのような仕事をするかをこちら(執行部)が指示し、それに同意するなら資金提供という形で賛意を示してもらうシステムである」と述べている[42]。グリーンピース・オランダの会計責任者フランツ・コッターは「理事たちはメンバーに影響されるのを好まない。メンバーたちは黙って金を払うためだけに存在する」と明言している[37]

またグリーンピース・ノルウェーの会長を二年間務めた後、1993年に団体の運営方法を会議の議題にしょうとしたところ、追放されたビヨルン・オカーンは「グリーンピースに民主主義は存在しえない。ピラミッド構造になっていて、すべてが頂上の一握りの人間によって決定される」と証言している[37]。またオカーンは「グリーンピースの金が環境のために使われていると考えるのは間違っています。幹部たちはファーストクラスに乗って旅行し、最高級のレストランで食事をし、優雅なエコ・セレブの生活をしている。クジラで大騒ぎをするのは、それが儲かるからにほかならない」と主張している[37]

人種平等会議による批判

ニューヨークに本部を持つ人種平等会議(en:Congress of Racial Equality:略称CORE) は、2003年5月11日に、アメリカのジャージーシティにおいて「Africa,YES,Greenpeace,NO!」とするスローガンを、グリーンピースのイベントに対して投げつけた。COREによれば、グリーンピースが発展途上国の発展を妨害するからで[43]、グリーンピースは遺伝子組み換え植物の導入に反対し、DDTをいかなる目的であっても使用禁止にすべきとして反対し、その結果、マラリア対策をとることができないとして批判している。COREの報道担当官ナイジェル・イニスによれば、1972年に環境保護ファンドという団体の理事チャールズ・ウースターは、DDTによるマラリア予防について質問された際、「だから、どうした? 人口はすべての問題だ。人間は多すぎる。人間はもっと少なくしたほうがいい」と人口爆発を懸念する内容の発言を行ったが、前述のカショーリとガスパリによれば、環境保護運動と優生学運動は、人口と資源のコントロールという共通の目的をもつと独自の論理を披露し、20世紀初頭には両者は連携していたと指摘し[37]優生学的な考えであるという見方を示した[37]

日本での批判

2001年12月、南極海で、日本の調査捕鯨船団と、グリーンピースの船「アークティック・サンライズ号」が遭遇した。この際、日本の調査捕鯨を委託されている日本鯨類研究所の理事長である大隅清治がグリーンピースを『エコ・テロリスト』だと批判するプレスリリースを発表[44]すると、即座にグリーンピースは抗議声明を出した。また、船のスクリューに鎖を巻く等、違法な直接行動に対しては、一部の日本政府関係者などに「テロリズムである」と称された。

なお鯨類捕獲調査は、ミンククジラのような鯨類資源と海洋生態系を保全し、その持続可能な利用を目的としており、国際捕鯨取締条約第8条第1項の締約国の権利として、日本政府が日本鯨類研究所に特別採捕許可を発給し、日本鯨類研究所が実施主体となって行っている法的に正当な調査活動である[45]

高原明生は、中国南シナ海に7か所の人工島を作ったことを、「人工島の建設というのはたいへんな自然環境の破壊」としたうえで、「サンゴ礁を掘って、人工的な島を作っているわけで、グリーンピースは何をしているんだ、日本の捕鯨船を追いかけるのが得意なシーシェパードは、と思うんですが、国際的なNGOから声は上がっていない。こういうことを知り合いから言われて、10日ばかり前にグリーンピースのホームページを見たら、英語のブログがたくさんならんでいるわけですが、サンゴ礁を壊して軍事基地をつくるとは許せない、という見出しのついている記事があったので、おっ、と思って見たら、中身は沖縄の辺野古のことでした。サウス・チャイナ・シーで検索をかけても一つも出てこない。これはやはりよろしくない、一貫性が大事だと思います」と批判している[46]

世界での批判

広報(パフォーマンス)重視のボランティア活動に対する懐疑的見方など、しばしば逆効果になっているという批判がある。

例えば、2014年ペルー世界遺産であるナスカの地上絵において、同年12月9日ペルーの首都リマで、温暖化対策の新たな枠組みを協議する国連の会議「COP20」が開催されることに合わせて、グリーンピースの複数の活動家が無断で立ち入り"Time for change"などと大きな布で文字を書いたことが問題になった。同遺産に無断進入のうえ売名行為を行ったことに加え、土足で踏み込んだために復旧が困難な地上絵付近の石の破壊があったと不快感をあらわにし、ペルー側は「深刻な影響を与えた。活動家の出国前に身柄を拘束したい」と憤慨した。グリーンピースは後日「希望と可能性の緊急メッセージを届けることよりもむしろ、不注意と下品な印象を与えた」などと謝罪の文書を出している[47]。ペルー文化庁のカスティージョ副長官は、このグリーンピースの謝罪を受け入れないと述べ、ナスカ地方の検察は、当局が特定した複数の活動家を告訴した[48]

さらに非欧米の国の文化、国民性を無視しているとの批判もある。

歴史

1971年 アメリカ合衆国の核実験に反対

アメリカ合衆国アリューシャン列島アムチトカ島で行おうとしている地下核実験に反対するために、1969年カナダバンクーバーに「波を立てるな委員会(Don't Make a Wave Committee)」という組織が誕生した。この組織は、のちに「名前がわかりにくい」という内部批判から、「環境」を意味する「グリーン(green)」と「平和」を意味する「ピース(peace)」をくっつけた「グリーンピース(Greenpeace)」という造語をつくり、改名した。

グリーンピースは、1971年、核実験を阻止することを目指し、アムチトカ島沖合いの公海にを居座らせて監視をするという方法で圧力をかけるために、底引き網漁船「フィリス・コーマック(Phyllis Cormack)」をチャーターして船出した。これがグリーンピースの最初の直接行動である。なお、「フィリス・コーマック」が「グリーンピース1号」、その航海への反響で新たに雇って追加派遣した元王室カナダ海軍退役掃海艇をチャーターした「エッジウォーターフォーチュン(Edgewater Fortune)」が「グリーンピース2号」と呼ばれている。

この航海は、アムチトカ沖の目標地点まで行き着くことはできなかったものの、あまりの反対の強さ・反響の大きさに、アメリカ合衆国は、結局その後のアムチトカでの核実験を断念、同地は自然保護区(バードサンクチュアリ)と宣言された。

この航海を通じて、「目撃者となること」「目撃したことを広く伝えること」などのその後の路線がある程度確立された。また、翌1972年5月4日には、グリーンピース財団(Greenpeace Foundation)に組織を変更した[注 4]

なお、この航海の際にメンバーのひとりがネイティヴ・アメリカンの伝承本を持参していた。その中に記載されていた「炎の目(Eyes of Fire)」という老婆が語った物語に、「虹の戦士(Rainbow Warrior)」という登場人物がいた。これは、世界が滅亡の危機に瀕したときに立ち上がる伝説の勇者の称号であるとされる。そこから「虹の戦士」はグリーンピースの活動家の自称となり、またグリーンピースを象徴するキャンペーン船の名称ともなった。この当時のグリーンピースのメンバーの多くは既存の生き方に疑問を呈しカウンターカルチャーサブカルチャーにも理解を示していた[注 5]

1972年 フランスの核実験に反対

1972年には、フランス南太平洋ムルロア環礁で行おうとしていた核実験に反対する航海を企画した。

この航海は、この時からグリーンピースに参加し、のちに代表となるデビット・マクタガート(David McTaggart)が指揮を執り、1973年にマクタガート自身の38フィート・2本マストの小さなヨット「ヴェガ S.V.Vega」を「グリーンピース3号」として核実験エリアの風下につけることで核実験を阻止しようとした。「グリーンピース3号」がそこにいる限り核実験が行えないため、フランス軍軍艦を派遣して拿捕し排除した。しかしこのキャンペーンはイギリスなどでの大きな動きにつながり、グリーンピースの旗をエッフェル塔ノートルダム大聖堂に掲げるなどの行動が行われた。グリーンピースの行動方針のひとつである「非暴力直接行動(主義)」は、この時にはじまっている。

さらに翌1974年にもムルロア沖に船を出しての同様の抗議行動を行った。この時には、マクタガートらが拿捕しにきたフランス軍の兵士から過酷な暴行を受け重傷を負ったが、その暴行の写真の撮影と秘匿に成功し、直後にキャンペーンを行った。南太平洋における核実験反対運動は、のちにフランス国家によるグリーンピースに対するテロを引き起こすほどの衝撃を与えた。

なお、この行動の際に、フランス軍は、マクタガートらが乗船する「グリーンピース3号」を襲うために高速ゴムボートゾディアック Zodiac)を使った。その機動性に感動したことから、グリーンピースもゾディアックを導入し、海上での抗議行動に使うようになったと言い伝えられている。ゾディアックを使っての海上での抗議行動は、その後のグリーンピースの象徴ともなり、日本国内でも1997年に高レベル核廃棄物輸送船「パシフィック・ピンテール」の迎撃行動の際に青森県六ヶ所村の東方海上で展開された。

注釈

捕鯨問題などに関してはフランスと共同歩調を取ることが多いが、原子力問題では、フランス政府と対立している。

捕鯨問題と環境問題への接近

同じ頃、ニュージーランド出身で、後に国際的な学者となるポール・スポング (Paul Spong)が、バンクーバーのグリーンピースに接近し、クジラをめぐる問題について注意喚起を行った。このスポングの接近は、グリーンピースが捕鯨問題に進出するきっかけとなった。

またこのことは、グリーンピースが「もっぱら反核を主張する組織」から「広くさまざまな自然保護問題について行動する組織」へと脱皮することにもつながった。1971年から参加していたポール・ワトソン Paul Watson らが主力となり、1975年から捕鯨の目の前に高速ゴムボート(ゾディアック)を繰り出して捕鯨に反対するというキャンペーンが開始された。なお、ポール・ワトソンは、1977年に「グリーンピースは軟弱に過ぎる」として袂を分かち、エコテロリストの筆頭格とされる組織・シーシェパードを設立する[注 6]

注釈

1972年ストックホルムで行われた国連人間環境会議が反捕鯨の潮流の原点であるとした上で、その背後にグリーンピースがいたとする説があるが、1972年の時点でまだグリーンピースは反捕鯨を主張していなかった。ストックホルム会議での鯨類保護決議はグリーンピースとは無関係である。

さらにその後、毛皮を目的とするアザラシの乱獲問題などにも手を広げた。1977年には、世界中に15ないし20程度の支部(グループ)が誕生しており、国際的な環境保護団体となっていった。

レインボー・ウォーリア号事件

1985年7月10日、グリーンピースの帆走キャンペーン船「虹の戦士 S.V.Rainbow Warrior」は、ムルロア環礁におけるフランスの核実験に抗議・反対する航海のためにニュージーランドオークランド港で出港準備をしていたが、この船が同日夜、爆破・撃沈された。この際、ボランティアとして乗船していたポルトガルフォトグラファーのフェルナンド・ペレイラ Fernando Pereira が死亡した。爆破が衝撃的だっただけではなく、このとき「虹の戦士」は、小さなヨットなどから構成される抗議船団のための物資供給などを担当する母船として位置づけられていたために、核実験に反対する側の陣容にも大きな悪影響を与えた。

この爆破事件は、ニュージーランド警察当局の捜査によってフランス情報機関対外治安総局 DGSE)によるテロであることが突き止められ、ニュージーランドから逃げ遅れたフランス軍士官のテロ作戦指揮官2名が逮捕された。実行犯4名はヨットによって逃亡し、その後の消息は不明である。他にも逃亡に成功したフランス軍人はいるものと考えられている。フランスの国家による犯罪であったため、旅券などはすべて偽造のものであった。逮捕された指揮官2名は偽造のスイス国籍の旅券を所持していた。この事件は、派生的にニュージーランドとフランスの国際問題にも発展した[注 7]

1995年、フランス核実験への抗議行動

虹の戦士号爆破事件から10年後の1995年、フランスは再びムルロア環礁での核実験を計画した。この際には、グリーンピースは大規模な抗議行動を行った。撃沈された船の名を受け継いだ「虹の戦士2 S.V.Rainbow Warrior II」のほか、旗艦「グリーンピース M.V.Greenpeace」、最初のムルロア核実験反対行動から参加している「ヴェガ S.V.Vega」、チャーター船の「マニティア」、ゾディアック十数隻、グリーンピース号搭載のヘリコプターなどがムルロア環礁に集結して激しい抗議行動を繰り広げ、また呼びかけに応え各国から駆けつけた百隻を越える「平和船団」がムルロア環礁を取り囲んだ。

この抗議行動を受け、フランス政府はムルロア環礁での核実験を中止しなかったが、それ以後の核実験を行わないことを確約した。

日本との摩擦

接触事故

1992年11月にフランス沖で、グリーンピースのキャンペーン船「ソロ」と核物質を搭載して日本に向かっていた輸送船「あかつき丸」を護衛していた海上保安庁の巡視船「しきしま」の接触事故が生じている。

この事故について日本政府は、護衛船の「しきしま」の右舷後方から、追い越し船の立場にあったソロが異常に接近し、急に左転したことが事故発生の原因であるとしている。また、実際に国際海事機関からも同様の見解が出されていると主張している[49]

この件でグリーンピースは海上保安庁に賠償と修理費を請求したが、拒絶された。

グリーンピースの抗議行動のエスカレート

2005年12月に、南極海で調査捕鯨をしていた日本の捕鯨船の周辺で、グリーンピースの船が抗議行動を行って双方の船が接触する事件が発生した。双方にけが人は出なかったが、この時、グリーンピース側は今後も抗議活動を続けるという声明を発表している。

それを裏付けるように、その翌月には、捕鯨船団に対しての抗議中にグリーンピースの活動家1人が海に転落する事件が発生した。グリーンピース側は、「捕鯨船が狙っていたミンク鯨を守ろうとしていたボートから活動家が転落した」と主張しているが、それに対し、日本鯨類研究所は、捕鯨船の陰に隠れていたボートが突然出現した画像を公開し反論、グリーンピースの行動について、「報道機関の関心を維持するため、だんだん危険な行動をとっている」と批判した。

なお、この件に関して反捕鯨国であるオーストラリアの環境相が「人命を危険にさらすような戦術を人々が尊敬するとは思わない」とグリーンピースに対し自制を求めた。

2006年1月8日、南極海で日本船の調査捕鯨を監視していたグリーンピースの監視船「アークティック・サンライズ」が、日本の捕鯨母船「日新丸」にぶつけられたと発表した。一方、捕鯨船団を派遣した日本鯨類研究所は、他船に貨物を移し替える為停船していた日新丸に意図的にグリーンピースが追突してきたと発表し、その時のビデオを発表しグリーンピースからの意図的な衝突を証明している[50][51]

2006年1月18日、捕殺調査名目での捕鯨に対して、死亡したナガスクジラの博物館への輸送の途上で、ベルリン市のデモ許可を取得してドイツの日本大使館前で公開するとともに、「ストランディング(漂着・座礁のこと)した鯨の調査で十分である」という意図を伝えるという抗議行動を行った。[注 8]

2006年2月17日には青森県六ヶ所村に存在する日本原燃使用済み核燃料再処理工場で2006年4月に開始される試験運転に反対する抗議行動として、原子力安全・保安院などが入る経済産業省別館の壁面に『STOP! 再処理』と書かれたメッセージを投影した。

2006年2月21日夕方には青森県庁本館の壁一面に『放射能汚染、立入禁止』の文字と放射能マークが入った貼り紙の映像を投影している。この行動についてグリーンピースは、青森県議会の全員協議会で討議された六ヶ所再処理工場のアクティブ試験安全協定素案に問題があったためと主張している。

グリーンピース・ジャパン

グリーンピースの日本事務所(グリーンピース・ジャパン(GPJ))が設立されたのは1989年4月。それ以前にも日本にグリーンピースを名乗っていた人々がいることは確認できているが(たとえば太田竜[52]など)、それらはグリーンピース・インターナショナルとは無関係である。2012年現在の理事長はアイリーン・美緒子・スミス(ユージン・スミスの元妻)、2012年現在の理事長には佐藤潤一が就いている。過去には理事長に海渡雄一、事務局長に星川淳が就いていた。2008年時点でのサポーターは約6000人、有給専従職員は15人である。

商業捕鯨に関しては一貫して反対の立場にあるが、生存捕鯨については原則として判断を示すことはなく、本部同様に概ね認める傾向がある。インターネットテレビでは捕鯨文化尊重と保護を両立するという趣旨で出演者が鯨肉を食べるところを放映することもある。

なお、日本国内における活動としては、国内企業へのアンケート[53]や経済界へのキャンペーン[54]、反原子力発電運動も行っている。また一般寄付金も募っている[55]

グリーンピース・ジャパンによる宅配便窃盗事件

グリーンピース・ジャパンによる捕鯨関係者の告発と不起訴

グリーンピース・ジャパンは、日本の調査捕鯨船「日新丸」の乗組員が調査捕鯨で捕獲したクジラ肉(鯨肉)を大量に自宅に送っていたとして、2008年5月15日に業務上横領の疑いで証拠品である鯨肉および梱包箱とともに告発状を東京地方検察庁へ提出した。同時に、農林水産省などに対しては、日本鯨類研究所による調査捕鯨活動の停止、および水産庁からの補助金の支給停止を求めた。これを受けて水産庁は実態を調査する方針であることを明らかにした。

グリーンピース・ジャパンは、2008年5月8日付けで水産庁に対して「船員が鯨肉を土産として持ち帰ることが基本的にないのかと」と問い合わせをした結果、水産庁遠洋課課長・成子隆英から「ないです。極めて(流通が)限られていますから」と回答されたと主張している[56]。また、グリーンピース・ジャパンは、「船員が無断で畝須(うねす)などを塩漬け処理し冷凍せずに西濃運輸の宅配便で自宅に配送されている」「無断で持ち帰るものとは別に、土産や船員向けに販売される鯨肉がある」という元船員とされる人物の証言を紹介している。

またグリーンピース・ジャパンは、告発対象となった2008年4月15日の日新丸帰港に際しての乗組員私物手荷物発送について、「合計90箱程度」のうち「鯨の解体・鯨肉製造に携わる乗組員12人から、最低でも47箱」を確認し、「この全てが鯨肉であったとすると、合計1.1tになる」としている[57][58]。グリーンピース・ジャパンは5月16日記者会見を開いて、「告発の証拠品として提出した鯨肉(畝須)は23.5kgで塩漬け処理されて常温保存の状態」だったと主張し、この鯨肉が「『数kg程度の冷凍品である土産』ではない鯨肉」であり横領されたものであると主張した[59]

2008年6月20日、東京地検は「グリーンピース・ジャパン」から業務上横領容疑で告発されていた「日新丸」乗組員12人全員を不起訴処分(嫌疑なし)とした(同日には窃盗容疑でグリーンピース・ジャパンメンバー2名が逮捕され、本部が家宅捜索されている(下記参照))。これに対してグリーンピース側は上記不起訴処分を不服として検察審査会を申し立てていたが、2010年4月22日に東京第一検察審査会が「不起訴は相当」とする議決を下した[60]

グリーンピース・ジャパンメンバーの逮捕・起訴と有罪判決

捕鯨関係者を告発するあたってグリーンピース・ジャパンが提示した証拠のクジラ肉は上掲の「告発レポート[61]」やYouTube投稿映像[62]にあるとおり、「日新丸」乗組員が送った個人の荷物のひとつを、グリーンピース・ジャパン関係者が宅配便運送会社の西濃運輸の配送所から盗み出したものである。

グリーンピース・ジャパンは、この調査方法を認めた上で「重大な横領行為の証拠を入手するためであり、違法性は無い」と正当性を主張している。しかし、グリーンピース・ジャパンは国家公認の捜査機関ではなく、国法に基づく正式な令状をも持ち得ないため、独自判断で物品を押収する事は合理性を欠く盗取となる。そして、一般市民の立場のまま西濃運輸の車両を追跡し、伝票を確認した上で「計画的に」倉庫に侵入し窃盗を行った事から、「不法領得の意思」があるとはいえ、グリーンピース・ジャパンに正当性および違法性阻却事由は皆無と言える。

法曹関係者の間では本件について西濃運輸青森支店への不法侵入・荷物の窃盗・西濃運輸に対する業務妨害などの犯罪に問われる可能性もあることが指摘され、2008年5月15日に放送された『スーパーモーニング』に出演した弁護士は「窃盗に当たる」と断言した。番組では、アメリカ合衆国において人工中絶に反対する団体が人工中絶を実施しているクリニックを襲撃している事例を引き合いに、窃盗という違法行為を正当化するグリーンピースの悪質な姿勢を「非常に危険である」とした。

2008年5月16日に西濃運輸は青森県警に対して被害届を提出した[63]。これを受けて青森県警は窃盗容疑で捜査を開始した[64]。調査捕鯨船運航会社の共同船舶も、早ければ5月19日にも窃盗容疑でグリーンピース・ジャパンを告発することを検討していると報じられた[65]。これらの動きに対して、同日にグリーンピース・ジャパンは記者会見を開いて、西濃運輸に対しては「迷惑を掛けたならお詫びしたい」と謝罪した[59]

2008年6月20日、青森県警と警視庁公安部はグリーンピース・ジャパンが組織的に計画し肉を盗み出したとみて、実行に関与した東京都神奈川県に住む同団体幹部2人[注 9]を窃盗および建造物侵入の容疑にて逮捕し、東京の事務所など関係先数カ所の家宅捜索を行った。なお同日にはグリーンピース・ジャパンが捕鯨関係者を業務上横領で告発したことに対して東京地検から不起訴処分が下されている。

2008年7月11日、青森地検が同年6月20日に逮捕されたグリーンピース・ジャパンの幹部ら2人を窃盗と建造物侵入の罪で青森地裁起訴した。 同年7月15日にグリーンピース・ジャパンは保証保釈金400万円を払い両被告は保釈された。

2010年9月6日、青森地裁は窃盗などの罪で、2名のグリーンピースメンバーの被告に対して、懲役1年、執行猶予3年(求刑・懲役1年6ヶ月)の有罪判決を言い渡した[66]。これに対して被告側は仙台高裁控訴したが2011年7月12日に棄却されたため最高裁への上告は断念し、2011年7月27日に被告2名の懲役1年・執行猶予3年の有罪判決が確定した。

脚注

注釈

出典

参考文献

  • リッカルド・カショーリ、アントニオ・ガスパリ『環境活動家のウソ八百』〈洋泉社新書〉2008年。ISBN 978-4862483096 

関連項目

外部リンク

公式サイト

批判的立場から

東経4度49分56.6秒 / 北緯52.350222度 東経4.832389度 / 52.350222; 4.832389