ゴマ

一年草

ゴマ(胡麻[3]学名: Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草アフリカ大陸に野生種のゴマ科植物が多く自生しているが、考古学の発掘調査から、紀元前3500年頃のインドが栽培ゴマの発祥地であるとされている[4][5]。主に種子が食材や食用油などの油製品の材料とされ、古代から今日まで世界中で利用される植物である。

ゴマ
ゴマの花
分類
:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 Angiosperms
階級なし:真正双子葉類 Eudicots
:シソ目 Lamiales
:ゴマ科 Pedaliaceae
:ゴマ属 Sesamum
:ゴマ S. indicum
学名
Sesamum indicum L. (1753)[1]
シノニム
和名
ゴマ
英名
sesame

リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである[6]

名称

中国名は、「芝麻」「胡麻」[1]。紀元前1世紀ごろに西域中央アジア)から古代中国に渡来した、(塞外民族)の麻(油分を含んだ種子の意)として中国名「胡麻」が生まれた。和名「ゴマ」はこれを音読みしたものと言われている[7]

植物学的特徴

ゴマの実

アフリカ原産とされる一年草で、紀元前14世紀ころには、古代エジプト古代インド栽培されていたと言われている[7]

草丈は約1メートル (m) になり、夏(8月)、葉腋に白色の花をつけ、秋に結実して実の中に多数の種子を含む[7]旱魃に強く、生育後期の乾燥にはたいへん強い。逆に多雨は生育が悪くなる。

歴史

成形図説』より

アフリカのサバンナに約30種の野生種が生育しており、ゴマの起源地はサバンナ地帯、スーダン東部であろうというのが有力である。ナイル川流域では5,000年以上前から栽培された記録がある。古代エジプトでは、ゴマは体に良い食べ物とされ、薬用利用などしていたことが、医薬書に象形文字で紹介されている[8]

日本では縄文時代の遺跡からゴマ種子の出土事例がある。奈良時代には畑で栽培[9]、ゴマを圧搾しゴマ油を作り食用油として調理したり、燈油として用いた[8]平安時代の『延喜式』では、ゴマの菓子や薬用利用について記されている[8]

栽培・流通

ゴマ畑

日本で使用されるゴマは、その99.9%を輸入に頼っている。財務省貿易統計によると、2006年のゴマの輸入量は約16万トン。国内では鹿児島県、茨城県、沖縄県などで生産されているが、総生産量は100トンにも満たない[10]。国内有数の産地である鹿児島県喜界島では、8-9月頃の収穫時期には、集落内、周辺にゴマの天日干しの「セサミストリート」(ゴマ道路)が出現する[11]。西日本の暖地の場合、5月から6月頃、畦に二条まきする。発芽適温は20度から30度で、適当な水分と温度とがあれば容易に発芽する。本葉が二枚になり草丈が成長してきたら、2回程度間引きを行い、株間を開ける。収穫は9月ごろ。

品種

白ゴマ、黒ゴマ、黄ゴマ(または金ゴマ、茶ゴマ)など、種子の外皮のによって分類される[3][9]。欧米では白ゴマしか流通しておらず、アジアは半々。金ゴマは主にトルコでの栽培である。

農薬肥料なしでもそれなりの収穫が可能という、自然まかせで栽培できる作物であるため[12]、後述のような品種改良はあまり行われてこなかった歴史がある。

日本の品種
農研機構作物研究所において育成された「ごまぞう」(種苗登録2006年)は、ゴマでは初めての登録品種であり、種子中のリグナンであるセサミン、セサモリン含有量が既存在来種と比較して高いことが特徴である[13]。2009年には同じくリグナン含有量が高い黒ゴマ新品種「ごまえもん」と白ゴマ新品種「ごまひめ」が育成され、品種登録出願された[14]。その後両品種はそれぞれ「まるえもん」と「まるひめ」に名称変更されている。

生産

2010年のゴマの生産量上位10カ国[15]
生産量
(100万トン)
収穫率
(トン/ヘクタール)
 ミャンマー0.720.46
 インド0.620.34
 中国0.591.22
 エチオピア0.310.99
 スーダン0.250.19
 ウガンダ0.170.61
 ナイジェリア0.120.38
 ブルキナファソ0.090.72
 ニジェール0.090.50
 ソマリア0.070.96
世界合計3.840.49

2010年のゴマの世界の総生産量は384万トンであった。2010年の最大の生産国はミャンマーである。上位3カ国はミャンマー、インド中国で、世界総生産量の約50パーセントを占める[16]

ゴマは2010年には世界の農場で780万ヘクタールを超える面積で栽培されるまでになった[15]。 

食材としてのゴマ

鞘の中に入った種子を食用し、古くから世界各地で食され、香辛料食用油としても利用されてきた[3]。鞘から取り出し、洗って乾燥させた状態(洗いごま)で食用となるが、生のままでは種皮が固く香りも良くないので、通常は炒ったもの(炒りごま)を食べる。また、剥く、切る(切りごま)、指先でひねり潰す(ひねりごま)、すり鉢で擂り潰す(擂りごま・下記参照)などして、料理の材料や薬味として用いられる。また、伝統的にふりかけに用いられることが多い。味の特徴としては、白ごまはほのかな甘みがあり、黒ごまは香りが強く、コクがある。黄ごま(金ごま、茶ごまとも)は香りがよく、味が濃厚である。炒ると香りがよく引き立ち、料理菓子の風味付けに使われる[3]

  • 白ごま - 種皮が白いタイプで、風味がおだやかでクセがなく、最も多く食べられている[17]。ごま和えやごま豆腐、練りゴマまど、様々な料理に使われる[3]。脂質が多いため、ごま油の原料にもなっている[17]
  • 黒ごま - 種皮が黒いタイプで、黒い皮にはアントシアニン鉄分が含まれている[3]。香りが良く、ごま和えのほか、赤飯やおはぎなどに使われる[3]。皮の割合が多く、すって使うことが多い[17]
  • 黄ごま金ごま) - 種皮が明るい茶色のタイプ。香りが良く、脂質が多いためコクが強い[3]。生産量が少なく、希少価値が高い[17]
擂りごまにする為のすり鉢とすり粉木
炒りごま
ごまを炒ったもの。炒ることによって香ばしさが出るだけでなく、消化吸収を高められる[17]。炒るときにごまが跳ねるため、ふたをして、焦げないように鍋を動かしながら炒る[17]
擂りごま
すり鉢を使ってごまを擂り潰したもの。また、少量の擂りごまを得るには「卓上ごま擦り器」のような道具が便利である。ごまが半ば粉砕され、含まれていた油分が滲出してきて、ややしっとりとした感じになる。とくに和食において、白和えをはじめとしてさまざまなレシピで活躍する食材である。
ごまダレ
タレの一種で、擂りごまなどを材料に用いたもの。サラダなどに用いる「ごまドレッシング」も類似のものである。
練りごま
ごまを完全に粉砕し、ピーナッツバターのように油分を含んだままペースト状にしたもの。これに植物油や調味料を入れると芝麻醤になる。
ごま油
含油率が約50%以上あるため、搾ってごま油として用いられる。煎りごまを材料に独特の香りを出した焙煎ごま油と、ごまを煎ることなく精製し、ごま本来の旨みを出した太白油・白ごま油(未焙煎ごま油)とに分かれる。調理油・調味料として用いる他、未焙煎のごま油は製菓用油やマッサージオイルなどにも使用する。

葉は青汁の材料として利用されている。ミネラルビタミン食物繊維のほか、抗酸化作用のあるアクテオシドが含まれている[18]

ゴマの料理、菓子

栄養

ごま(いり)[19]
100 gあたりの栄養価
エネルギー2,506 kJ (599 kcal)
18.5 g
食物繊維12.6 g
54.2 g
20.3 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
1 µg
チアミン (B1)
(43%)
0.49 mg
リボフラビン (B2)
(19%)
0.23 mg
ナイアシン (B3)
(35%)
5.3 mg
パントテン酸 (B5)
(10%)
0.51 mg
ビタミンB6
(49%)
0.64 mg
葉酸 (B9)
(38%)
150 µg
ビタミンE
(1%)
0.1 mg
ビタミンK
(11%)
12 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
2 mg
カリウム
(9%)
410 mg
カルシウム
(120%)
1200 mg
マグネシウム
(101%)
360 mg
リン
(80%)
560 mg
鉄分
(76%)
9.9 mg
亜鉛
(62%)
5.9 mg
(84%)
1.68 mg
他の成分
水分1.6 g
水溶性食物繊維2.5 g
不溶性食物繊維10.1 g

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[20]
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

昔からゴマは栄養価の高い食品として知られ、生薬としても用いられた。

種皮の色によって黒ゴマ、白ゴマ、黄褐色のものは金ゴマなどの品種に分けられるが、栄養的にはほとんど差がない[7][3][21]。黒ゴマの皮の部分にはタンニンポリフェノール色素を多く含んでいる。すりゴマや切りゴマにすることでかたい種皮が破られ、より風味が出て美味しく味わえるほかに、栄養の吸収効果を高めるメリットもある[3]

カルシウムマグネシウムリン亜鉛等のミネラルが多く含まれ[3]骨粗しょう症の予防や貧血の改善に効果がある。タンパク質食物繊維ナイアシンビタミンAB1B2B6E葉酸が豊富に含まれている[3]。ゴマには抗酸化物質として働くリグナンが含まれており、ゴマの代表的なリグナンはセサミンである[3]。ゴマ自体も抗酸化作用を持ち、活性酸素が体内で生成されるのを抑え、肝臓機能を強化し細胞の老化やガン化を抑制する作用がある。種子にはオレイン酸リノール酸パルミチン酸などの脂肪油45 - 50%、蛋白質約20%、含水炭素10%、アデニンコリンなどを含んでいる[7]

リノール酸は必須脂肪酸の1種で、コレステロールの血管への沈着を抑制し、動脈硬化の予防に役立つと言われている[7][3]。ただし、搾油したものは、そのまま空気に触れさせて放置すると過酸化脂質化して、肝炎、動脈硬化の発病に関与してしまうとも言われている[7]。セサミンは、抗酸化作用によって動脈硬化予防、老化防止や肝機能にもよいといわれている[17][3]

ごまアレルギー

栄養価が高く健康に良いとされているゴマではあるが、子供を中心にごまアレルギーの調査が報告されている。アトピー性皮膚炎の子供126名を対象に行なった例では、1歳未満の乳児が21%、1歳から1歳6ヶ月未満では44%、2歳・3歳以上では約50%が、ゴマに対して陽性を示す結果となった[9]

食材以外での利用

ゴマはかつて生薬としても用いた。秋に果実を収穫して種子を採取して日干しにしたものを胡麻(ごま)と称し、栄養価が高いことから滋養強壮になり、切り傷ただれ刺し傷英語版の治癒にも使われた[7]。傷や皮膚ただれには、新鮮な胡麻油を患部に塗布すると、傷面の保護や消炎に役立つと言われている[7]。また、耳に小さな虫が入ったときに、綿棒の先に胡麻油を塗って耳に入れると、油の粘りで虫取りに利用できる[7]

薬膳的には、黒ごまは平性で肝臓腎臓に作用し、精力を増強して、白髪耳鳴りめまいなどを改善するとされる[17]。白ごまは寒性で、便秘を解消するとされる[17]

文化

ゴマに関する言葉

  • ゴマが弾ける様子から
    • アラビアンナイト」の中の一話、「アリババと40人の盗賊」に出てくる、秘密の洞窟の扉を開ける掛け声が「開けゴマ」。これは、アラビア語の「افتح يا سمسم‎ (Iftaḥ yā simsim)」を日本語訳したものである。肛門を意味する古アラビア語 سمة‎ (simma)に由来し、元来は成句として性的な意味を持っていたとする説がある。
  • 形状から比喩的に - ゴマは、外見が黒いドットであることから、シンボル的な意味で用いられることがある。
    • へそのゴマ - へそに溜まる垢。成分には諸説ある。分泌物、皮脂の老廃物、衣服の繊維など。へそは皮膚が薄くなっており傷つきやすく、また傷ついた場合の衛生管理が難しいので、敢えて掃除しない、掃除するときは十分な注意が必要である。
    • 胡麻斑(ごまふ)とは、黒ゴマを散らしたような細かい斑紋のこと。「ゴマフアザラシ」、「ゴマダラカミキリ」などの生物種名に見ることができる。
    • 画像・映像処理の分野では、ゴマを散らしたような点々としたノイズを「ごま塩ノイズ」と呼ぶ。
    • 白髪が混じっている状態の頭を指して「ごま塩頭」という。50代以降の男性に使われることが多い。髪の量は関係ない。(東京弁?)
    • 前歯の隙間が虫歯で黒くなっている人を指す言葉。(方言?)
  • ゴマの加工から
    • ゴマを擦るゴマスリ - すりゴマを作る際に、すり鉢のあちこちにゴマがつく様子から、人に媚びへつらうことの例え[22]
    • 胡麻の油と百姓は絞れば絞るほど出るものなり」 - 徳川幕府が農民に課した重税を象徴する言葉。享保の改革終期の勘定奉行神尾春央の言葉とされている。
  • その他
    • 誤魔化す(ごまかす)」の語源に関わっているとする説[誰によって?]がある。

ギャラリー

脚注

参考文献

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、143頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  • 植木もも子『知識ゼロからの野菜入門』幻冬舎、2010年5月30日、55頁。ISBN 978-4-344-90187-2 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、85頁。ISBN 4-06-195372-9 

関連項目

外部リンク