ヤク
ヤク(犛牛[3]、英: yak、家畜化された種としての学名はBos grunniens、野生種はBos mutus)は、偶蹄目ウシ科ウシ属に分類される偶蹄類。野生種はノヤクと呼ばれる[4]。漢名は旄牛(ボウギュウ。氂牛、犛牛とも)、犛牛(リギュウ)。
ヤク | ||||||||||||||||||||||||||||||
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上 : ノヤク Bos mutus 下 : ヤク Bos grunniens | ||||||||||||||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
VULNERABLE (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Bos grunniens Linnaeus, 1766(家畜種) Bos mutus (Przewalski, 1883)(野生種) | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ヤク(家畜種) ノヤク(野生種) | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Yak Domestic yak(家畜種) Wild yak(野生種) |
ヤクはチベット語では雄のヤクを意味する。
分布
インド北西部、モンゴル、中華人民共和国(甘粛省、チベット自治区)、パキスタン北東部に自然分布[5][6]、ロシアでは17世紀前後に絶滅したとされる。ネパールでは絶滅していたとされていたが2014年に再発見され、それを記念してノヤクが紙幣の絵柄に採用された[7]。
形態
野生種(ノヤク)はバイソン属やガウルに匹敵する大型種であり、体長380cm、体高205cm、尾長100cm、体重1,200kgに達する[8]。
家畜種は、体長がオスで280-325cm、メスで200-220cm[6]。尾長がオでス80-100cm、メスで60-75cm[6]。肩高がオスで170-200cm、メスで150-160cm[6]。体重はオスが800-1,000kg、メスが325-360kg[6]。
高地に適応しており、体表は蹄の辺りまで達する黒く長い毛に覆われている。家畜種には、黒だけでなく様々な毛色のパターンが存在する。
換毛はしないため、暑さには弱い。肩は瘤状に隆起する[5]。鳴き声はウシのような「モー」ではなく、低いうなり声である。
基部から外側上方、前方に向かい、先端が内側上方へ向かう角がある[6]。最大角長92センチメートル[6]。四肢は短く頑丈[5]。
黄金のノヤク
野生種(ノヤク)には、黄金(金白)の毛並みを持つ個体や群れ(金丝野牦牛)が存在しているが、その個体数は数百頭と少ない[9][10]。通常のノヤクとは遺伝的な差異が見られ、亜種レベルの差があるとされる場合もある[11]。
分類
家畜種(ヤク)は、1766年にリンネによりBos grunniensとして記載され、野生種(ノヤク)は1883年にプルジェバリスキーによってPoephagus mutusとして記載された[10]。種小名はgrunniensがラテン語で「唸るように鳴く」、mutusが「沈黙」の意だが、実際には野生種も鳴き声を出す[10]。家畜種と野生種を同種とみなす場合、野生種に用いられるBos mutusが有効名となる[10]。
生態
標高4,000-6,000メートルにある草原、ツンドラ、岩場などに生息する[5][6]。8-9月は万年雪がある場所に移動し、冬季になると標高の低い場所にある水場へ移動する[6]。高地に生息するため、同じサイズの牛と比較すると心臓は約1.4倍、肺は約2倍の大きさを有している。食性は植物食で、草、地衣類などを食べる[6]。
繁殖形態は胎生。妊娠期間は約258日[5][6]。6月に1回に1頭の幼獣を産む[6]。生後6-8年で性成熟し、寿命は25年と考えられている[6]。
人間との関係
野生個体は食用の乱獲、家畜との競合や交配などにより生息数は激減している[6]。中華人民共和国では法的に保護の対象とされている[6](中国国家一級重点保護野生動物を参照)。1964年における生息数は3,000-8,000頭と推定されている[6]。
利用
2,000年前から家畜化したとされる[6]。1993年における家畜個体数は13,700,000頭と推定されている[6]。
ほとんどのヤクが家畜として、荷役用、乗用(特に渡河に有用)、毛皮用、乳用、食肉用に使われている。中華人民共和国ではチベット自治区のほか、青海省、四川省、雲南省でも多数飼育されている。
「ヤク」の語はチベット語 「གཡག་」 (g-yag) に由来するが、チベット語では雄のヤクだけを指す言葉で、メスはディという。
チベットやブータンでは、ヤクの乳から取ったギー[12]であるヤクバターを灯明に用いたり、塩とともに黒茶を固めた磚茶(団茶)[13]を削って煮出し入れ、チベット語ではジャ、ブータンではスージャと呼ばれるバター茶として飲まれている。また、チーズも作られている。
食肉用としても重要な動物であり、脂肪が少ないうえに赤身が多く味も良いため、中国では比較的高値で取引されている。糞は乾かし、燃料として用いられる。
日本での利用
ヤクの尾毛は日本では兜や槍につける装飾品として武士階級に愛好され、尾毛をあしらった兜は輸入先の国名を採って「唐の頭(からのかしら)」と呼ばれた。特に徳川家康が「家康に過ぎたるものが二つあり、唐の頭に本多平八」と詠われたほど好んだため、江戸時代に入って鎖国が行われてからも清経由で定期的な輸入が行われていた。
幕末、新政府軍が江戸城を接収した際に、収蔵されていたヤクの尾毛が軍帽として使われ、黒毛のものを黒熊(こぐま)、白毛のものを白熊(はぐま)、赤毛のものを赤熊(しゃぐま)と呼んだ。(なお、俗に「黒熊は薩摩藩、白熊は長州藩、赤熊は土佐藩の指揮官が着用していた」と説明される事があるが、軍帽を「魁」の前立てを付けた黒熊毛の陣笠で統一していた山国隊のように、実際には藩や階級を問わず広く使用されていた[要出典]。)
ギャラリー
- ネパールの高山地帯のヤク
- ヤクの毛をあしらった総髪兜