分娩

胎児が雌の胎内から出ること、および出る経過

分娩(ぶんべん、: Geburt: Birth)とは、哺乳類などの胎生の動物で、胎児が雌の胎内(子宮内)から出ること、及び出る経過を指す。社会的・文化的側面も含み、分娩よりも広い概念として、お産(おさん)や出産(しゅっさん)がある。

母子対面

胎児がその種の標準に照らし合わせて、十分成熟して体外に出る場合を「正期産」と呼ぶ。正期産分娩に至るまでの期間や分娩時の成熟度は、種によってまちまちである。標準より早い場合は「早産」・「流産」、遅い場合は「過期産」と呼ぶ。

分娩(お産)が比較的楽にできる場合は「お産が軽い」、何らかの困難を伴う場合は「お産が重い」という言い方をする。カンガルーのようにごく小さく産む種ではお産は軽いが、人間のように胎児が大きい場合、お産は重くなる。

分娩に至るまで

分娩の前兆が起こるまでに関しては妊娠に詳しく書かれている。妊娠維持不可能な病態としては流産早産などがある。

正常分娩

分娩の前兆

分娩の3 - 4週間前より、不規則で1時間に2 - 3回の陣痛が見られるようになり、これを偽陣痛または前駆陣痛という。これに伴い徐々に子宮頚管の熟化がはじまる。子宮頚管の熟化はビショップスコアで判定されることが多い。

ビショップスコア(Bishop Score、Bishopスコア
表.1 ビショップスコア
点数[単位]
0123
検査項目児頭下降度〜-3-2-1〜01〜[Sp]
頸管開大度01〜23〜45〜[cm]
頸管展退度〜3040〜5060〜7080〜[%]
子宮口の位置後方中央前方
子宮口の硬度

これはビショップ博士によって考案されたシステムで表.1を元に点数を合計して算出し、13点満点中、判定は~8点で頸管未熟、9点~で頸管熟化と判定する。

ビショップスコア判定
〜8点頸管未熟
9点〜頸管熟化

妊娠末期にはビショップスコアで9点あたりまで成熟するが13点まで行くのは分娩第1期の半ばになってからである。頸管は熟化しても子宮口は開大せず、せいぜい2cm位である。分娩の数日前になると分娩の前兆といわれるものが出現することがある。子宮底が下降することで胃の圧迫がとれ、児頭が骨盤内に移動することで胎動が減り、児頭により膀胱が圧迫され頻尿傾向となる。特に有名なのが血性粘液性帯下の出現であり、おしるし(産徴)といわれることもある。帯下も増加していてくる。前兆が見られる頃に児頭は骨盤に固定され、seiz法で浮動感を覚えなくなる。

分娩第1期

開口期とも呼ばれる。人間のお産の満期産は妊娠37週から42週未満である。この頃になると子宮収縮は徐々に周期的に収縮に痛みが伴い始める(「産気づく」)。最初は、間歇的に突っ張る程度だったのが、だんだん強度と頻度を増していく。子宮の有痛性の定期的な収縮が10分周期となった時点で陣痛発来という。ただし、いったん陣痛が発来したもののその後、陣痛が消失した場合は、その陣痛は偽陣痛であったとされる。いずれにせよ、1時間に6回以上または10分周期の子宮収縮が起こったら(陣痛が開始されたら)分娩の開始とし、分娩医療施設に入院するのが一般的である。この頃胎児は第1回旋を行い、顎を引き、先進部を小泉門とし骨盤入口部に陥入する。陣痛の周期はさらに短くなり1時間に20回ほどまで増加し痛みも強くなる。子宮の収縮で胎児の頭が子宮口をだんだん押しひろげていき、子宮口が開大を始めていく。子宮口が8cm位になると児背が母体の前方を向くという第2回旋がおこる。そして子宮口が10cmと全開大に至る。分娩開始(陣痛発来)から、子宮口全開大になるまでを分娩第1期(開口期)と言う。

分娩第2期

子宮口が全開大してから胎児が娩出されるまでを分娩第2期娩出期)という。陣痛の周期、痛みとも強くなり子宮口が全開大し、胎胞の卵膜が破れ破水となる。分娩台で管理するのが一般的である。産婦にいきみたい感じが生じ(「努責(いきみ)」息を止めて腹に力を加えるような状態)、胎児はさらに下降し、陣痛間欠期は児頭は腟内、陣痛期は児頭が見えるという排臨という状態になる。この頃より会陰、肛門の保護といった分娩介助を行っていく。そして陣痛間欠期も児頭が後退しない発露という状態になる。分娩介助では急激に分娩されないように児頭をコントロールし会陰保護に務める(墜落分娩を防止する)。やがて児頭は顎を上げる第3回旋を行う。この時点で児の口腔、鼻腔を吸引することがある。児頭の娩出がすんだら、第4回旋がおこる。これは自然な力で行われるため、無理に力を加えて介助しないようにする。肩の娩出がすむと速やかに胎児の娩出が完了する。そして陣痛が急激に軽快する。

分娩第3期

後産期とも呼ばれる。分娩第3期は児娩出から胎盤臍帯が娩出し終わるまでのことである。児娩出によって不要となった胎盤は、児娩出の後数分で剥がれ、娩出される。胎盤は胞衣と呼ばれることがある。後産によって胎児付属物が娩出される事を後産娩出と言う。

産褥期

第3期が終了すると後陣痛とともに子宮復古がはじまり産褥となる。分娩後3日ほどで乳汁の分泌が始まる。

所要時間

人間のお産の満期産は妊娠37週から42週である。正常経腟分娩の所要時間は経産婦では分娩第1期約6時間、第2期1時間、第3期10分、初妊婦ではその倍の約12時間、2時間、20分、といわれているが、その所要時間は個人差が著しい。

無痛分娩

無痛分娩 とは分娩の痛みを緩和する医薬的手段である。心理的無痛分娩法としてはラマーズ法Lamaze Technique)・ソフロロジー式分娩法・ヒプノバーシング(en:HypnoBirthing)が知られ、麻酔分娩としては分娩第2期の硬膜外麻酔法・仙骨硬膜外麻酔法・陰部神経ブロック・傍子宮頚管ブロックが知られている。麻酔分娩は微弱陣痛を起こしやすいことが知られている。適切な設備と医師のもとで行えば、自然分娩と比較して特段に危険というわけではなく、欧米ではこちらが主流であり、日本とは逆に自然分娩は希望した場合に行われる。しかしながら日本では麻酔科医が不足しており、その麻酔科医も生命に危険のある手術に優先的に配置されており、無痛分娩を希望してもかなわない場合がある。イギリスやドイツ、シンガポールでは、帝王切開も含めた分娩全体の2~6割程度が無痛分娩である[1]

無痛分娩で使う麻酔は「硬膜外麻酔」と呼ばれ、腰の後ろから管を入れ、脊髄を取り巻く硬膜と呼ばれる部分の外側に麻酔薬を注入する。脊髄には痛みを伝える神経が集まっており、その信号が脳に伝わるのを麻酔薬で遮断する。ただ硬膜外麻酔は、効果が出始めるまでに10~20分かかる。より早く痛みを取るために、より脊髄に近い場所に麻酔薬を入れる「脊椎麻酔」を併用することもある。この方法だと、数分で効き目が表れる。どのタイミングで麻酔薬を使い始めるかは病院により異なる。順天堂大の角倉教授は「痛みの感じ方は人それぞれ。本人が希望した時点で、我慢できる程度に投与する」と話す。出産の途中で痛みが強くなってきたら、麻酔薬を適宜追加する。無痛分娩は痛みが少ないだけでなく、出産がスムーズに進む面もある。愛育病院(神奈川県大和市)の井沢秀明理事長は「40歳以上の妊婦は、無痛分娩の方が(帝王切開でなく)経膣分娩できる可能性が高くなる」と指摘する。痛みがないと緊張が少ないため産道が柔らかく、赤ちゃんが下りて来やすいとされる。また、もし緊急に帝王切開に踏み切るような事態に至った場合、麻酔を注入するルートがあらかじめ確保されている無痛分娩なら迅速に対応できるという利点もある。一方で、麻酔によって母親の足の感覚が鈍くなり、いきみにくくなることがある。管を入れる腰部のかゆみや発熱なども報告されている。出産時間は1時間ほど長くなる。ただ麻酔をかけても、すべての感覚が失われるわけではないので、赤ちゃんが誕生した瞬間を感じることはできる。無痛分娩を考えている人にとって、大きな壁となるのは費用である。出産の費用は病院によって40万円から100万円以上と幅があるが、無痛分娩の場合、さらに10万~20万円の追加料金がかかる。側湾症や椎間板ヘルニアで手術をした経験のある人、血液が固まりにくい人、抗血栓療法を受けている人などは硬膜外麻酔が使えないこともある。日本で無痛分娩が浸透しないことについて、前述の井沢秀明理事長は「『おなかを痛めてこそ母親』との精神論が根強いこともあるのでは」と話している。家族に反対されたり罪悪感を感じてやめる人が少なくないという[1]

急速遂娩

一般的に、帝王切開のことである。異常分娩の際は様々な理由によって帝王切開の適応となることが多い。児頭骨盤不均衡や胎位、胎勢、回旋異常、遷延分娩の場合は経腟分娩困難にて適応となり、子宮切迫破裂、常位胎盤早期剥離や子癇、過強陣痛、胎児ジストレスでも帝王切開は適応となる。その他、経腟分娩が母児に危険をもたらすと考えられる病態もある。妊娠高血圧症候群、前置胎盤、帝王切開や子宮手術の既往、子宮奇形、骨盤位、重症の母体合併症では帝王切開を好まれる。また長期不妊後の分娩も帝王切開となりやすい。

分娩後の問題

母体

産褥
子宮が元の大きさに戻るまでには4~6週間かかる。産後の出血(悪露)が消失するまで約4週間かかるが、特に合併症などがない限り、絶対安静の必要はなく、無理を強いない(重いものを持つ、長時間立つなど)程度に通常の生活を送ることができる。
労働基準法で、産後の休養期間を6週間(本人の希望と医師の許可があれば職場復帰可能)~8週間以上与えるよう要求しているのもこのためである。
マタニティ・ブルー
妊娠初期同様、出産後はホルモン分泌の急激な変化が起こる。具体的には、体内の女性ホルモンが急に減少するので、精神的に不安定になりやすく、周囲の人間の配慮と援助が求められる。
産後うつ
産後うつ病の発症頻度は10%前後とも言われており、エジンバラ産後うつ病質問診(EPDS)によって早期スクリーニングがされている。予後に関しては比較的よいと言われているが、重症化し育児ノイローゼにいたると親子心中に至ることも稀ではなく重症度や周囲のサポート能力の見極めが重要とされている。一般的には産後うつ病は通常のうつ病と同様3ヵ月から6ヶ月で軽快する場合も多いとされている。産後うつ病のICD10の分娩6週間以内、DSMⅣ-TRの分娩4週間以内という制限は厳しすぎるという意見も多数認められている。症候学的には涙もろいといったエピソードは産後うつ病を積極的に考えさせる。

新生児

出生直後

出生直後は直ちに暖かいタオルで羊水で濡れた身体を拭き、保温に努める。可能ならば第1呼吸開始前に鼻、口の順に吸引を行い、臍帯動脈拍動が停止する生後1分前後に臍帯を結紮する。娩出直後の児の状態をあらわす指標にApgar score(アプガースコア)というものがあり、生後1分、および5分の値を記載する。

覚え方採点項目0点1点2点
Appearance皮膚の色全身チアノーゼまたは蒼白体幹は淡紅色、四肢はチアノーゼ全身淡紅色
Pulse心拍数なし100bpm未満100bpm以上
Grimace反射興奮性(足をはじく)なし顔をしかめる泣く
Activity筋緊張ぐんにゃり四肢をいくらか曲げている四肢が十分に屈曲、または自発運動
Respiration呼吸努力なし泣き声が弱い、呼吸が不規則で不十分強い泣き声で呼吸が強い

5分後の点数の方が胎児の神経学的な予後を反映するといわれている。0~3点では重症仮死、4~7点は軽症仮死、8~10点は正常である。元気な新生児は出生直後から啼泣し、肌は赤みがかっている。陣痛発来前の子宮内環境が思わしくなかった児や、分娩中の低酸素状態により大きなストレスがかかった児は産声を上げず、肌は血の気がなく青白いことがある。状態によっては直ちに蘇生処置が必要となる。呼吸状態に関してはsilvermanスコアを用いた評価も行う。silvermanスコアは

項目 点数0点1点2点
胸と腹の運動胸と腹が同時に上下する吸気時に上胸部の上昇が遅れる腹が上がると胸が下がる(シーソー呼吸)
肋間腔の陥没陥没なし軽度に陥没著明に陥没
剣状突起部の陥没陥没なし軽度に陥没著明に陥没
鼻翼呼吸(鼻孔拡大)拡大なし軽度に拡大著明に拡大
呼気性呻吟うめき声なし聴診器で聞こえる耳で聞こえる

2点以上で呼吸窮迫があると判定する。アプガースコアと逆で大きいほど重症である。続いて、結膜炎防止のための点眼を行い、身体測定を行う。児の体温、心数、呼吸数が安定したら沐浴をさせる。沐浴は異常徴候や低出生体重児では禁忌となる。それらが済んだらカンガルーケアとして早期の母子接触を促していく。出生体重が概ね2000g以下であったり、異常徴候の見られる児は新生児特定集中治療室(NICU)の適応となることが多い。但し、ハイリスク児であっても出生時の異常がみられなければ通常の新生児室に入る。初回排尿、排便は通常24時間以内におこる。排便がみられなければ鎖肛の可能性がある。鎖肛は直腸温を測定するときに気がつくこともある。栄養は初回は5%ブドウ糖を与え、嘔吐、腹部膨満、無呼吸がなければ母乳を開始する。初回成熟児ならば1回に10mlを1日8回の投与を行う。一日授乳量は生後7日で1日あたり体重1kgあたり100ml、生後14日で1日あたり体重1kgあたり150ml程が望ましい。その他確認すべき項目では黄疸や先天性股関節脱臼、腹部腫瘤などである。生後1日、および退院前にビタミンKの投与を行い、退院前で抗菌薬を投与していない時にガスリー法を試行する。以下に新生児の一般的な診察項目と一般的な値を記す。

身長は約50cm、体重は2800~3200g前後であり、胸囲は約32cm、頭囲は約33cmである。体重ははじめの4日間は日々300g程度の生理的体重減少が認められるものの、生後10日で出生時の値前後に戻る。その後は日々30g程度の割合で3か月まで上昇を続ける。胸囲と頭囲は12ヶ月後にいずれも45cm程となり、その後頭囲は胸囲を下回るようになる。大泉門は2×2cm程で1歳半ほどで閉鎖する。血圧は80/45mmHgほどで呼吸数は40~50回程度、脈拍数は140~150回程度である。肝臓は2~3cm触れることが多い。手掌把握反射、吸引反射、モロ反射、足底握り反射、バビンスキー反射が認められる。手掌把握反射、吸引反射、モロ反射は手が器用になる頃、即ち4か月頃に消失する。足底握り反射は立つ頃、即ち10か月頃に消失する。

ハイリスク新生児

出生体重が2500g未満の児を低出生体重児という。低出生体重児のうち1500g未満のものを極低出生体重児、1000g未満の場合は超低出生体重児という。超低出生体重児であってもNICUなどで適切な管理を行えば、生存率は80%以上であり、重篤な後遺症である脳性麻痺などの発生率は10%程度である。在胎日数と出生体重の関係から次のような表現を行う。出生体重が在胎日数に相当する場合をAFD児という。在胎日数に対して小さい場合、体重と身長、頭囲ともに小さい場合をSFD児、体重のみが小さい場合はLFD児という。SFD児、LFD児は体質的に小さい場合とIUGRによるものの場合がある。IUGRでSFDの場合(対称性SFD)は染色体異常、奇形、TORCH感染症の可能性があり予後は極めて悪い。IUGRでLFD児の場合は新生児期に合併症はおこるが適切に管理を行えば予後は悪くないとされている。また、体重4000g以上の時を巨大児といい、在胎日数に対して体重が大きい場合をHFD児という。母体の糖尿病などで起こり、場合によっては経腟分娩が困難となることがある。なお母体糖尿病で血管障害を伴うとSFD児は発生しやすい。

児の成長と発達

成長と発達は似た言葉だが発達は神経学的な成熟を示している。発達は反射といった神経学的な所見や運動などによって評価する。

新生児で認められ消失する反射

これらの反射の消失の合目的性は反射が消失することで手や足が器用になり運動の発達が促されると考えられている。手の反射としては以下のものが知られている。

反射名出現時期内容
手掌把握反射新生児〜4か月手掌を圧迫すると指が屈曲する。(物を握る頃消失)  
吸啜反射新生児〜4か月口の中に指を挿入すると規則的な吸引運動がおこる。上唇から口角をこすると口をとがらせる。(離乳の頃消失) 
モロ反射新生児〜4か月頭部を落下させると両腕を伸展、外転し、手を開大する。(首が座る頃消失)
足底把握反射新生児〜10か月足底を圧迫すると指が屈曲する。(立つ頃消失) 
バビンスキー反射新生児〜2歳足底外側部をこすると母趾が背屈し他の趾の幅が広がる。 
新生児で認められず発達とともに出現する反射

これらは出現することで寝返りやハイハイができるようになると考えられている。

反射名出現時期内容
緊張頸反射1か月〜6か月首を横向きにすると同側の上下肢が進展し、反対側が屈曲する。(寝返りができる頃消失)  
ランドウ反射6か月〜2歳児を水平に抱いて首を挙上させると体幹、下肢が進展し、腹部を前屈させると体幹下肢が屈曲する。(ハイハイするための反射) 
パラシュート反射8か月〜永続抱き上げた児を手の中で落下させると、児は防御的に両上肢、指を伸展させる。 
行動の発達

デンバーII発達判定表が有名である。

粗大運動(体幹)微細運動(四肢)言語社会性
1か月顔を左右に向ける     
3か月首が座る、腹臥位で顔をあげる。手を口に持っていく、ガラガラを握る声をだして笑う、声の方に振り向く、追視する母の顔をじっと見る   
6か月寝返りをする、お座りをする物を手から手へ持ちもちかえる、顔に布をかけると取るバババと喃語を反復母親を識別し人見知りをする   
10か月ハイハイをする、つかまり立ちをする母指、示指でつまむ、箱から積み木を出す名前を呼ぶと振り向く、物まねする母のあとを追う   
1歳ひとり立ちをする箱の中に積み木をいれる意味のある単語を2つ以上言う、バイバイの動作をする    
1歳6か月手を引くと階段を歩く積み木を2つ積める、なぐり書き単語を表現する、身体の部分を指すコップを使って飲む   
2歳階段を歩く、平地を走る積み木を4つ積める2語文を話すスプーンを使う   
3歳片足立ちをする、三輪車をこぐ丸を書く、くつ、上着を脱ぐたずねると名前が言えるはしを使う、パジャマがきれる   
4歳ケンケンができる四角を書く、はさみが使える自分の名前を読むかくれんぼ、じゃんけんができる   
5歳スキップする、ぶらんこを立ってこぐ三角をかく、はさみで線の上を切れるしりとりができる友達と競争する    
健康診断

これらの成長、発達をスクリーニングするサービスとしては健康診断があげられる。日本の場合は1カ月検診にはじまり、3か月、6か月、9か月、12か月、3歳児の健康診断がある。Ameriacan Academy of Pediatricsでは2週間、1か月、2か月、4か月、6か月、9か月、12か月といったように回数が多いのが特徴である。この回数の違いは分娩時の入院日数に関係していると考えられる。米国の場合は経腟分娩ならば2日間、帝王切開ならば4日間の入院期間であるが、日本は5日~7日間の入院期間が一般的である。そのため日本では新生児に関しても十分な診察を行う時間的余裕もあり、母乳の指導や黄疸の評価まで行うことができる。そのため、健康診断の回数を少なくできるとされている。母乳は1回20分で毎日8~12回程が目安とされる。栄養が不十分であると乳児はよく泣き、泣き疲れて寝てしまい、最終的には体重増加不良となる。通常は生理的な体重減少後の体重増加は日々20~30gである。生後2週間までならば新生児は寝る、栄養をとる、排泄する、の繰り返しであり、泣く理由も分かりやすく対処しやすいが、2週間を過ぎると夜泣きも始まる。夜泣きは3時間泣くことが週3回以上、合計3週間以上続くことである。18時から0時の間にのみおこり、ミルクをあげる、オムツを替える、あやすといった対処法が無効である。1か月ほどすると母親にもマタニティーブルーや産後うつ病の発生のリスクがある。アメリカではこれらの指導を健康診断で行うが、日本では出産入院中の母親学級で行われる場合が多い。下痢、嘔吐、黄疸、発熱、発疹、結膜炎出現時は医療機関受診とし、それ以外は1か月検診まで新たに指導を加えることは一般的ではない。母親の1カ月検診では産後うつ病のスクリーニングとしてエジンバラ産後うつ病自己評価表の記入なども行われる。

歩行

デンバー発達判定法によると1歳5か月過ぎになると90%の子供は上手に歩けるようになる。この時期に歩けていない場合は歩き出すのが遅いということになり専門機関の受診が必要である。それ以前の6カ月における首座り、お座り、1歳時におけるつかまり立ちが遅れた場合も同様に精査が必要である。この場合は先天性の異常や広汎性発達障害などが疑われる。軽度の精神発達異常ではこの時期は知的な遅れは認められず、筋力の低下が認められるのみで経過観察の場合が多い。この場合は遅れを治療することは非常に難しく、社会的支援が必要となる。しかし頻度としてはシャフラー(いざり児)と呼ばれる良性の発達遅延であり、その後発達が追い付き正常化する。仮に歩き出す時期が正常であっても歩き方がおかしく転びやすい児、具体的にはペタペタ歩行、内反歩行(うちわ歩行)、外反歩行(そとわ歩行)、尖足歩行などが認められた場合は筋疾患、脳性麻痺運動失調、骨格異常が認められる可能性があり精査が必要となる。

言語

言語の発達が正常に経過するには4つの条件が必要である。まずは発声器官や構音器官が正常であること。これらの器官を合目的に使用するための知能が発達すること。合目的使用を学習するための適切な場が存在すること。聴覚視覚の機能に支障がないことである。6カ月頃まで(目安としては3か月)には名前を呼ばれると振り向いたり、イナイイナイバーをすると声を出して笑ったりする。8か月までには人見知りが始まり、いかにも話しているような喃語を話している。声の出し方にも強弱がつくようになる。10か月頃には簡単な指示行動が可能になる。指さしに反応し、おいでおいでとするとハイハイでやってきて頂戴という動作も行う。1歳の時点ではパパといえたとしても母親もパパと言ったり確信できない要素がかなり含まれるが1歳6か月位になると感情表出もできて「いや」と表現したり二語文が出現したりする。2歳の時点ではこれらが完成していることが多い。

離乳

母乳は1歳を過ぎる時期でも免疫グロブリンを含んでおり感染防御という点では優れている。子育てには文化があり、医学的な根拠は見出しにくい。吸啜反射が4か月ほどで消失してくるため、この頃から6か月あたりで間離乳食の導入が行われるのが一般的である。月齢を重ねても母乳を飲んでいても問題はないが、栄養の観点から12か月までには主たる栄養を母乳以外の離乳食にて行われることが望ましいとされている。この頃には卒乳をしても問題はない。パキスタンなどでは9か月の時点で通常のカレーを摂取している。

排泄

排泄コントロールに関しても文化がある。かつては日本は物質が乏しかったため極めて早期に排泄の自立を促してきた。トイレットトレーニングはかつては大便は4か月、小便は12か月より開始していた。しかしこの方法では、一定の割合で脱落し、おむつ使用に戻る例も見られていた。夜間の大便、日中の大便、日中の小便、夜間の小便という順にトイレットトレーニングを行う2歳過ぎからトレーニングを始めれば4歳で77%、6歳で91%がひとりで後始末ができるようになる。これ以前にトレーニングを行っても平均的には殆ど変わらないとされている。

早期乳児の発熱

早期乳児は免疫システムが完成しておらず細菌感染のリスクが高いと考えられている。母乳によるIgGの経口投与が早期乳児の感染防止に役立っている。早期乳児が発熱した場合、大抵はウイルス性感染症であることが殆どであるが約10%程に細菌性髄膜炎や敗血症といった重症感染症が含まれている。そのため、小児科専門の医師の診察が求められるが1か月以内であると各種検査の有効性も疑問視される。生後3ヶ月未満で感染のフォーカスが明らかにならない場合は入院適応となることもある。1か月以降であればメイヨークリニックによるRochster criteriaをもとに非専門医の診察で十分なことが多い。

Rochster criteria
  1. 一般状態良好
  2. 既往に特に問題なし
    1. 満期出生で周産期抗菌薬投与歴なし、原因不明の黄疸に対する治療歴なし
    2. 現在あるいは最近の抗菌薬投与なし、入院歴なし、慢性疾患あるいは基礎疾患なし
    3. 母親より長期の産科入院歴なし
  3. 皮膚、軟部組織、骨、関節、耳に感染兆候なし
  4. 検査所見
    1. 末梢血白血球数5,000~15,000/μL
    2. 桿状核球数<1,500/μL
    3. 尿沈渣白血球数<10/hpf
    4. 便塗抹白血球数<5/hpf(下痢例のみ)

これらの基準を満たすとき、重症感染症は否定的となる。

幼児の発熱

3か月以後の乳児から3歳頃の発熱は救急外来では非常に多い主訴である。注意深く身体所見をとったとしても30%程度は熱源不明となってしまう。その場合は潜在性菌血症尿路感染症、潜在性肺炎悪性腫瘍膠原病が考えられる。特に前二者は抗菌薬による治療にて早期介入可能なことから注意深い診察が必要となる。潜在性菌血症は全身状態良好な良好であるのにもかかわらず血液培養にて細菌が検出されることである。3か月から3歳頃で頻度が高いと言われている。肺炎球菌であればそのまま自然経過で改善するが、インフルエンザ桿菌の場合は90%以上の確率で敗血症や髄膜炎にいたるといわれている。体温39度以上で白血球数15,000/μl以上であると潜在性菌血症の可能性が高くなる。尿路感染症も1歳以下の男児や2歳以下の女児では見つけにくい疾患となる。尿検体をカテーテルや膀胱穿刺で無菌的に摂取すると診断できる。体温が体温39度以上で白血球数20,000/μl以上のときは聴診上ラ音を認めず、痰もないのにもかかわらず胸部X線では浸潤影を認める潜在性肺炎という病態も知られている。いずれにせよ重篤な病態は肺炎球菌による場合が多く、予防接種による予防が望まれる。発熱が敗血症のサインかどうかを見分けるにはバイタルサインを用いるという方法も知られている。これらは患者が安静にしている場合の指標であるため泣き出してしまうと心拍数、呼吸数とも上昇してしまうので判定が難しくなる。正常範囲より+2SD以上の心拍数の変化や呼吸数の変化は発熱だけが原因とは考えられず敗血症の可能性も考える。

年齢呼吸数±2SD呼吸数±1SD呼吸数正常範囲心拍数±2SD心拍数±1SD心拍数正常範囲
出生~3か月10~8020~7030~6040~23065~20590~180  
3か月~6か月10~8020~7030~6040~21063~18080~160  
6か月~1歳10~8017~5525~4540~18060~16080~160  
1歳~3歳10~4015~3516~2440~16558~14575~130  
3歳~6歳8~3212~2812~2840~14055~12570~110  
6歳~10歳8~2410~2414~2030~12045~10560~90  
解熱剤の効果

解熱剤を用いると熱が下がるため発熱による全身症状の軽減には役に立つ。しかし重症度を示す発熱というサインが病態に関係なく改善するため重症感染症を経過を追う上では不利になることがある。一般的に発熱が起こっていれば解熱剤は病態に関係なく解熱を行う。発熱があっても全身状態が良好な場合は解熱剤を飲むメリットはない。解熱効果によって安静を保てないため逆に感染症が遷延する場合もある。解熱剤を用いても発熱が改善しない場合は重症感染症を疑うこともあるが、体温にてそれらを鑑別するのは困難とされている。解熱剤を用いても全身状態が全く改善せず、重篤感が続く場合は細菌性髄膜炎の可能性は高くなる。

異常分娩

分娩は「分娩の3要素」全てが揃わないと正常に営まれない。分娩の3要素とは「娩出力」「産道」「娩出物」(胎児、胎盤、等)であり、これらが上手く機能しない時に難産となる。

在胎週数の異常

  • 流産 - 在胎22週未満の場合
  • 早産 - 在胎22週0日~36週6日に分娩
  • 過期産 - 在胎42週以降に分娩

娩出力の異常

  • 微弱陣痛
  • 過強陣痛
  • 絞窄輪難産

産道の異常

娩出物の異常

胎児の位置の異常

分娩時の胎児の胎位と胎向と胎勢は分娩経過に大きな影響を及ぼす。胎勢は分娩経過中に変化することもあり、難産の要因となることもある。

胎位
胎位とは胎児の長軸と子宮の縦軸の位置関係を示すもので、縦位、横位、斜位がある。縦位で児頭が先進するものを頭位、骨盤端または下肢が下方にあるものを骨盤位という。
胎向
縦位では児背、横位では児頭が、母体の左右・前後に対する向きをいう。第一胎向は児背が母体の左側を、第二胎向は母体の右側に位置しているものを意味する。さらに児背が母体の前方に傾くのを第一分類、母体の後方に傾くのを第二分類という。
胎勢
胎勢とは胎児の姿勢を示すもので、正常な胎勢は屈位であり、異常な胎勢は反屈位である。反屈位は程度により頭頂位、前頭位、額位、顔位に分けられる。

分娩の難度に関係するものは胎位と胎勢である。胎向は殆ど関与しない。胎位、胎向、胎勢はLeopold診察法で確認をすることができる。

胎児の回旋の異常に関しては内部リンク低在横定位高在縦定位を参照のこと。

分娩の評価

分娩の進行度合いの評価としてパルトグラムによる評価と、フリードマン曲線、また分娩の進行に伴う胎児ジストレスの発見のための分娩監視装置というものがある。

パルトグラム

パルトグラムは分娩進行状態を一目で把握できるように記載した表である。パルトグラムで記載される代表的なパラメータを列記する。

  • 頸管開大部
  • 先進部の下降度
  • 先進部の回旋状況
  • 母体のバイタルサイン
  • CTGのデータ

パルトグラムの異常としては以下のものが有名である。

  • 始めから降りてこない、分娩が開始しない
    子宮頚管の未成熟、または児頭骨盤不均衡の疑い
  • 途中から降りてこない
    微弱陣痛、回旋異常

フリードマン曲線

分娩の進行状態を表すもので、児頭の下降度と頸管の開大度を分娩所要時間に対してあらわしたもの。遷延分娩の診断に役に立つ。典型的にはS字型カーブを描く。分娩第一期から分娩第二期(破水)までを記述する。開きかけた子宮口が途中で止まってしまう続発性開口停止、子宮口開大のラストスパートがかからない活動期開大遅延、潜伏期が延長する潜伏期遷延(原発性微弱陣痛パターン)といった微弱陣痛の分類が知られている。

胎児心拍数陣痛図(CTG)

胎児心拍数陣痛図(CTG)とは胎児心拍数と子宮収縮(陣痛)を経時的に記録した、分娩監視装置である。横軸は3cm/minであり縦軸はbpmとmmHgである。NSTとCSTが知られている。

NST

NSTは分娩開始や過期妊娠、ハイリスク妊娠の妊娠健診時に用いられることが多い。胎児は20~40分ごとに睡眠覚醒を繰り返すといわれている。NSTでは一過性頻脈が認められるまで、または80分間の計測を行う。32週未満であると自律神経の発達が未熟であるために評価方法が異なることに注意する。NSTでは基線が正常範囲にあり、基線細変動が正常に出現していること、一過性頻脈があり、一過性徐脈がなければ正常であることが多い。異常が認められたらCST、VAST(児頭に振動音刺激を与えれば睡眠中でも一過性頻脈が出現する)、BPSを行うこともある。

CST

CSTでは40秒以上持続する子宮収縮が10分間に3回認められるまでオキシトシン、または乳頭刺激を与えてCTGを行う。遅発一過性徐脈や変動一過性徐脈が認められなければ胎児の状態は良好と判定する。NSTにて胎児状態が良好であることが確認できなかった場合や子宮内胎児発育遅延(IUGR)やハイリスク妊娠の場合に行う。前置胎盤、切迫早産、多胎妊娠の場合は禁忌となる。子宮収縮の半数以上に遅発一過性徐脈が見られた場合は胎児ジストレスを疑う。

CTGの所見

CTGにおいて確認すべき項目としては、基線の高さ、基線細変動の有無、一過性変動の有無及び波形である。

胎児心拍数基線とその細変動

正常では胎児の心拍数は110~160bpmであるのが正常である。180bpm以上では高度頻脈、100bpm以下では高度徐脈と判定する。頻脈では母体、胎児の感染や胎児の不整脈を疑う。徐脈では胎児不整脈が多い。正常では6~25bpmの細変動を伴う。細変動の減少、消失は胎児ジストレスの可能性がある。他の細変動の異常としてはサイナイゾルパターンというものが知られており、胎児の心不全を示唆する。貧血、低酸素状態を疑う2~5cpmの正弦波を示す。

一過性変動

一過性頻脈、早発一過性徐脈、遅発一過性徐脈、変動一過性徐脈の4種類が有名である。一過性頻脈は基線よりも15bpm以上の心拍数増加が15秒以上持続するものである。32週未満では基線よりも10bpm以上の心拍数増加が10秒以上持続するものとする。これは胎児が良好である徴候である。早発一過性徐脈は子宮収縮に伴ってほぼ同時に胎児心拍数が減少し、収縮終了とともに回復するものである。児頭圧迫による正常反応である。子宮収縮の波形と心拍数減少の波形が対象形となる。通常、心拍数減少の開始から最下点まで30秒以上でゆるやかに下降する。遅発一過性徐脈は子宮収縮よりも少し遅れて胎児心拍数が減少し、子宮収縮の修了より遅れて心拍数が回復するものである。これは胎盤機能不全を示す徴候である。基線細変動の減少、消失を伴う場合は急速遂娩の必要がある。通常、心拍数減少の開始から最下点まで30秒以上でゆるやかに下降する。変動一過性徐脈は臍帯圧迫を示す所見であり羊水過少症でよく出現する。徐脈の出現と子宮収縮の関係が徐脈ごとに異なる。15bpm以上の心拍数減少が30秒未満の経過で急速におこる。そのた、遷延性一過性徐脈というものもある。これは15bpm以上の心拍数減少が2分以上10分未満持続することである。10分以上の変化は基線の変化とみなす。これは様々な病態で出現するため評価が難しい。

BPS

NSTを利用した胎児well-being評価としてBPS(biophysical profile scoring)が有名である。超音波検査を利用し、呼吸様運動、胎動、筋緊張、NSTの一過性頻脈でスコアリングし点数によって経過観察、分娩を決定する方法である。8点以上が良好と考えられている。呼吸様運動としては30分間に30秒以上続く胸壁、横隔膜の運動があること、胎動としては30分間に躯幹か四肢の動きが3回以上、筋緊張としては30分間に躯幹か四肢の屈曲運動が1回以上、あるいは手掌の開閉を認め、羊水ポケットが2cmより大きいところが認められ、NSTで20~40分未満の測定で一過性頻脈が2回以上認められる、各項目2点で測定していく。他のwell-being評価としては臍動脈や中大脳動脈のパルスドップラーなどが知られている。

分娩で用いる薬物

分娩のコントロールを行う薬物に関して述べる。

子宮収縮抑制薬

塩酸リトドリン

塩酸リトドリンは切迫流産、切迫早産などで用いられる。5%ブドウ糖液にて希釈して用いることが多い。有効量は毎分50~150μgであり毎分200μgを超えないように調節する。副作用には血球減少、肺水腫、横紋筋融解症などが知られている。白血球の減少にはG-CSF投与などで対処し、肺水腫防止のため、総輸液量を日々1000ml以下とし、輸液においてはナトリウム負荷をできるだけ避けるようにする。母体心拍数を120bpm以下に保つというやり方もある。横紋筋融解症は硫酸マグネシウム併用で起こりやすくなるため併用時はCK、Crのモニタリングを行うべきである。

硫酸マグネシウム

リトドリンで陣痛抑制困難例や子癇時に用いられる。血清Mg濃度が4~8mg/dlになるように調節すると効果があるといわれる。塩酸リドトリンと併用をするときはloadingせず毎時1~2gで投与し、単独で使用する場合は4gを30分で投与し(loading)、その後毎時1~2gで維持を行うのが一般的である。高マグネシウム血症に注意が必要である。血清マグネシウム濃度が15mg/dl以上で呼吸抑制が起こることが知られている。陣痛が強すぎるとき(過強陣痛)にもよく用いられる。

子宮収縮促進薬

陣痛促進剤も参照のこと。子宮収縮促進薬は分娩誘発(induction)を行うときに用いられる。分娩誘発を行うには母体、胎児の両方が一定の条件を満たしている必要がある。母体においては経腟分娩に耐えられる全身状態であり、子宮頚管が熟化しており、児頭骨盤不適合がなく、陣痛促進剤の禁忌例ではないこと、患者の同意が得られていることなどがあげられる。胎児においては母体外生活が可能な状態であり、臍帯下垂や横位などの産科的異常がないことがあげられる。子宮頚管の熟化はビショップスコアで判定されるが7点以下の初産婦、4点以下の経産婦の場合は頸管熟化法を行ったうえ、分娩誘発を行うことも多い。子宮収縮促進薬の副作用は過強陣痛である。これらは内子宮口、子宮内圧、陣痛周期、陣痛持続時間で評価する。

2018年に公表された第8回産科医療補償制度再発防止関する報告書を受け、PMDAは、同年と翌2019年に、子宮収縮薬を用いた分娩誘発や微弱陣痛の治療の際には、その必要性と危険性の説明を十分に行い、同意を得てから使用することと、分娩監視装置を用いて胎児の心音や子宮収縮の状態を十分に監視するよう注意喚起を行っている[2]。これをうけ2019年12月、各製薬企業は、適正使用に関する依頼文をあらためて作成した[3][4][5][6][7]

オキシトシン
5単位(1アンプル)を500mlの5%ブドウ糖液に溶解し、毎時15mlより点滴静注を開始し、40分毎に毎時10mlずつ加速していく、という方法をとることが多い。毎時30~90mlで分娩第2期にいたることが多い。毎時120mlにて有効陣痛にいたらないときは一度分娩誘発を中止する。
PGE2 プロスタグランジンE2ジノプロストンなど
厳密に言うと陣痛誘発剤であり、陣痛促進剤ではない。1時間ごとに1錠ずつ内服をする。最大6回まで内服可能であり、2~3分毎の陣痛が出現すれば投与を中止する。頸管熟化作用ももつ。
PGF2α プロスタルモンF、ジノプロストなど
喘息で使用禁忌となる陣痛促進剤である。3000μgを500mlの5%ブドウ糖液に溶解し、毎時30mlより点滴静注を開始し、30分毎に毎時15mlずつ加速していくことが多い。毎時60~90mlで分娩第2期にいたることが多い。毎時250mlにて有効陣痛にいたらないときは一度分娩誘発を中止する。

麻酔薬

会陰切開など処置をする場合は局所麻酔薬を用いるが、ここでは無痛分娩に関して述べる。無痛分娩では硬膜外麻酔を用いることが多い。その際によく用いられるのはフェンタニル局所麻酔薬(ブピバカインあるいはロピバカイン)の組み合わせである。フェンタニル100μg、0.25%マーカイン24ml、生理食塩水24mLを毎時8-14mlで持続的に投与する場合が多い。硬膜外麻酔単独で無痛分娩を行う場合、作用発現が遅いため、硬膜外併用脊髄くも膜下麻酔(CSEA: combined spinal epidural anestehsia)を用いる場合もある。

頸管熟化法

薬物を利用することがあるのでここで述べる。ラミナリア桿、ダイラパン、ラミセルといった機械的な方法を誘発前日に用いることが多い。薬剤ではDHESを用いることが多い。商品名はマイリスであり、200mgを5%ブドウ糖液で溶解し週に2~3回投与する。試行後はCTGで胎児に異常がないかを確認する必要がある。

脚注

参考文献

関連項目

外部リンク

  • 日本産科麻酔学会 - 無痛分娩および帝王切開関連情報と、無痛分娩を実施している施設を一次元的に紹介している。