ナツメ

クロウメモドキ科の落葉小高木

ナツメ(棗[4]学名: Ziziphus jujuba または Ziziphus jujuba var. inermis)は、クロウメモドキ科落葉小高木である。和名はに入ってが出ること(夏芽)に由来する[5][6]。中国植物名(漢名)は、棗(そう)という[6]英語ではjujube[7] またはChinese date(中国のナツメヤシ)という。

ナツメ
ナツメ
分類APG IV
:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 angiosperms
階級なし:真正双子葉類 eudicots
階級なし:バラ類 rosids
:バラ目 Rosales
:クロウメモドキ科 Rhamnaceae
:ナツメ属 Ziziphus
:ナツメ Z. jujuba
学名
標準: Ziziphus jujuba Mill. var. inermis (Bunge) Rehder (1922)[1],
広義: Ziziphus jujuba Mill. (1768)[2]
シノニム
和名
ナツメ(棗)
英名
(Common) Jujube,
Chinese date
Ziziphus zizyphus
唱歌に詠われた水師営のナツメの木(乃木邸内)

果実は乾燥させたり(干しなつめ)、菓子材料として食用にされ、また生薬としても用いられる。

ナツメヤシヤシ科単子葉植物で果実が似ていることから。またナツメグニクズク属樹木ニクズクの種子でありそれぞれ別種。

学名

  • 1753年 - カール・フォン・リンネRhamnus zizyphus として記載。
  • 1768年 - フィリップ・ミラーZiziphus jujuba[7]として記載。クロウメモドキ属 (Rhamnus) から分離したので、新しい属名としてリンネによる種小名を属名に昇格(ただしおそらくは何らかの間違いで1文字変わった)させ、トートニム(属名と種小名を同じにすること)は植物命名では認められないため新たに種小名をつけた。
  • 1882年 - ヘルマン・カールステンZiziphus zizyphus として記載。Ziziphuszizyphus は1文字違うのでトートニムにはならず、リンネのつけた種小名が引き続き有効であることを指摘した。

特徴

南ヨーロッパ原産、中国西アジアへ伝わり、中国北部の原産ともいわれている[8][9][10]。日本への渡来は奈良時代以前とされていて[5]、6世紀後半の遺跡から果実の核が出土している[10]。野生状態のものもあるが、主には栽培されている[11]。日本では古くから栽培されてきたが、現在では公園や街路[4]、まれに庭などに植えられる[6]

落葉広葉樹の小高木で、樹高は5メートル (m) ほどになる[4]対生するが、なかには棘がないものもある[11]。葉の出る時期は遅く、和名の由来ともなっている[4]。若い苗でも根が太く、茎には鋭い棘がある[4]は小枝に互生して、羽状複葉のようにも見える[11]葉身は卵形で落葉樹ではめずらしく強い光沢があり[11]、3本の葉脈が目立つ[10][4]

花期は初夏(6月ごろ)で、は淡緑色や黄色で小さく目立たず、葉腋に数個ずつつける[11][10]果実核果で、長さ2 - 3センチメートル (cm) ほどの卵形か長楕円形または球形で、果皮はなめらか、中に1個の種子が入る[11]。熟すと暗紅色になり、落葉後も枝に残り[10]、次第に乾燥してしわができる(英語名のとおりナツメヤシの果実に似る)。種子の発芽率は極めて高く、親木の周囲には子苗がたくさん生じる[4]

同属は多く熱帯から亜熱帯に分布し、ナツメ以外にも食用にされるものはあるが、ナツメが最も寒さに強い。

栽培

日当たりが良く、排水が良いところであれば土質を選ばないため栽培しやすい[11]。繁殖は実生または株分けで行われる[11]

利用

果実はビタミン豊富で食用や薬用になる[10]。樹木は庭木などに利用される。木材としては、硬く、使い込むことで色艶が増す事から、高級工芸品(茶入れ、器具、仏具家具)等に使われている。その他、ヴァイオリンのフィッティング(ペグ、テイルピース、顎当て、エンドピン)にも使われている。比重としてはツゲ黒檀の中間程度。

食用

果実は果皮が少しだけ茶色になったころが食べごろで、その時点では黄白色の果肉が詰まっていて、リンゴのような味がして美味である[4]。果皮が緑色の時期に収穫しても食べられる[4]。収穫後は傷みやすいことから、冷凍庫で保存しておくと長期保存できる[4]

日本では、果実を砂糖醤油甘露煮にし[4]、おかずとして食卓に並ぶ風習が、古くから飛騨地方のみで見受けられる。煮物に加えても良い[4]

中国では乾果の砂糖漬を高級の菓子として賞味する。また、ナツメのは"枣泥"(拼音: zǎoní)として中国の伝統的な餡の一種で知られる。

韓国では、薬膳料理として日本でも知られるサムゲタンの材料に使われるほか、砂糖・蜂蜜と煮たものを「テチュ茶(ナツメ茶)」と称して飲用する。

欧米には19世紀に導入されキャンディ(当初はのど飴)の材料として使われるようになった。また葉に含まれる成分ジジフィン(Ziziphin)は、甘味を感じにくくさせる効果がある。

生薬

タイソウ
生薬・ハーブ
原料ナツメの果実
成分ジジフスサポニン
臨床データ
法的規制
投与経路経口
識別
KEGGE00128 D06758
別名大棗
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サンソウニン
生薬・ハーブ
原料サネブトナツメの種子
成分ジジベオシド
臨床データ
法的規制
投与経路経口
識別
KEGGE00105 D06734
別名酸棗仁
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ナツメまたはその近縁植物の実を乾燥したものは大棗(たいそう)[13]、種子は酸棗仁(さんそうにん)と称する生薬である[14]日本薬局方においては大棗がナツメの実とされ[15]、酸棗仁がサネブトナツメの種子とされている[16]。)。大棗は、果実が大きく、果肉が豊富なものを良品とし、種子が大きいものは実太(さねぶと)という[11]。秋(9 - 10月)に果実が黄褐色になったときに採って、蒸した後に天日で乾燥させる[6][11]。日本へは、中国原産の薬用品を輸入している[11]

大棗には強壮作用・鎮静作用が有るとされる[13]。甘みがあり、緩和強壮利尿の薬として、漢方では多種の配剤があり[11]葛根湯甘麦大棗湯などの漢方薬に配合されている[17]生姜(しょうきょう)との組み合わせで、副作用の緩和などを目的に多数の漢方方剤に配合されている。民間では、筋肉の痛み、知覚過敏、咽頭炎に、1日大棗3 - 5グラムを水300 - 400 で煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている[6][11]。ただし胃の弱い人や、をもつ小児への服用は控えた方が良いという意見もある[11]

このほか、胃腸が弱っているときに起こる疲労倦怠や食欲不振、冷え性不眠に対する薬効もあるとされ、ホワイトリカー1.8リットルにナツメ果実200グラムを入れて1か月以上漬け込んだナツメ酒を、就寝前に猪口1杯を飲む[6]。ナツメには睡眠と関係があるオレアミドが含まれている[18]

酸棗仁には鎮静作用・催眠作用が有るとされる[14]。酸味があり、補性作用・降性作用がある。酸棗仁湯に配合されている[19]

なつめ(乾燥)[20]
100 gあたりの栄養価
エネルギー294 kcal (1,230 kJ)
71.4g
食物繊維12.5g
2.0g
3.9g
ビタミン
ビタミンA相当量
(0%)
1 µg
(0%)
7 µg
チアミン (B1)
(9%)
0.1 mg
リボフラビン (B2)
(18%)
0.21 mg
ナイアシン (B3)
(11%)
1.6 mg
パントテン酸 (B5)
(17%)
0.86 mg
ビタミンB6
(11%)
0.14 mg
葉酸 (B9)
(35%)
140 µg
ビタミンC
(1%)
1 mg
ビタミンE
(1%)
0.1 mg
ミネラル
カリウム
(17%)
810 mg
カルシウム
(7%)
65 mg
マグネシウム
(11%)
39 mg
リン
(11%)
80 mg
鉄分
(12%)
1.5 mg
亜鉛
(8%)
0.8 mg
(12%)
0.24 mg
マンガン
(22%)
0.46 mg
他の成分
水分21.0g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

その他

庭木街路樹としても用いる[10]

茶器にも「」があるが、これは形がナツメの果実に似ることからついた名称である[4]

脚注

参考文献

  • 大塚敬節『漢方医学』(第3版)創元社〈創元医学新書〉、1990年2月1日(原著1956年7月25日)。ISBN 4-422-41110-1 
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、163頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 川原勝征『食べる野草と薬草』南方新社、2015年11月10日、83頁。ISBN 978-4-86124-327-1 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、81頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、144頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 医薬品各条」『第十五改正日本薬局方』(PDF)2006年3月31日、1239頁。 オリジナルの2013年1月19日時点におけるアーカイブhttps://web.archive.org/web/20130119122135/http://jpdb.nihs.go.jp/jp15/YAKKYOKUHOU15.pdf2010年6月27日閲覧