飛地

領土などの一部分で、大部分ないし中心地とは隔てられた場所にある土地
飛び地から転送)

飛地(とびち、飛び地)とは、一つのおよび地域の領土行政区画、町会等のうち、地理的に分離している一部分である。土地の一部が「他所に飛んでいる」と見られることからこう呼ばれる。

地図上のクリーム色と赤色の地域が東ティモール民主共和国。赤色の地域(オエクシ)が飛地にあたる。

概説

A1C1E1:内陸部の飛地、
A2D1:水域に面した飛地、
H2H3:二重飛地、E2:三重飛地
以下は飛地ではない
B1:離島
以下は飛地とされるかは事例により議論の余地がある
F1:本土と水域で隔てられた対面の領地、
H1:河川における対岸飛地、
B2:他との境界線を有する離島、
B3:他地域と橋で接続された離島

Aの領域がA以外の領域によって、複数に分断されている状態にあるとする。Aの主要地域以外のその他の領域が飛地である。ある領域を飛地と呼ぶかどうかは、その行政単位の地形政治交通などの状況によって判断される。もっとも、その判断も意見が分かれることがしばしばある[1][2]。以下に、ケースごとの飛地について概説する。

他の行政単位によって分断された内陸部の領地

ある行政単位Aに対して、別の行政単位Bが近傍に存在しているとする。そして、Bの領域内に囲まれるようにしてAの領地A1が存在する場合、A1はAの飛地である。このケースに限っては、ほとんどの者がこれを飛地と認め、そのことには異論がないことが多い[2]。なお、ここでは仮に、本土と飛地を分断する行政単位を単一のBとした。が、本土と飛地を分断する行政単位は複数であってもよい。例えば、行政単位Cに対して、複数の行政単位A、D、Eの領域によって囲まれた領地C1もCの飛び地である。これは以下のケースでも同様である。日本和歌山県北山村アゼルバイジャンナヒチェヴァン自治共和国が例として挙げられる。

他の行政単位によって分断された水域に面した領地

ある行政単位Aが、同一の陸地に複数の領域をもつとする。そして、本土Aは内陸にあり、一方で、本土A以外の領地A2が水域に面しているとする。かつ、A2は別の行政単位Dの領域によって分断されているとする。そのとき、A2は、本土Aと飛地の関係にあるといえる。この場合も、上記と同じく多数の者が飛地であると認める事が多い。青森県五所川原市パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区(本土)に対するガザ地区(飛地)が例として挙げられる。

またある行政単位DおよびFが、同一の陸地に複数の領域をもつとする。そして、それらのD・Fの複数の領域について、本土D・本土Fを含めたすべての領域が水域に面しているとする。かつ、それらのD・Fの領域が、別の行政単位Eの領域によって分断されているとする。このときも、上記と同じく、領地D1・F1は、本土と飛地の関係にあるといえる。しかし、この場合は、飛地と呼ぶかどうかについては議論の余地がある場合が多い[1]。例えば、アメリカ合衆国におけるアラスカ州ロシア連邦カリーニングラード州は飛地であると判断されることが多い(本土D・領地D1の関係)。一方で、同じ条件を満たすトルコイスタンブールがあるトラキア地方は、本土と海峡を介して近接しており、飛地とはみなさないことがある(本土F・領地F1の関係)。

本土と水域で分断された領地

上記のケースに当てはまらず、本土と飛地が同一の陸地に所属しないケースである。これが飛地かどうかについては、微妙なケースである。以下にさらにケースを細分化する。

ある行政単位Bが、複数のにわたって複数の領域をもつとする。そのとき、島に存在する行政単位がBだけである島B1を飛地と呼ぶことはまずない。例えば、広島県廿日市市における厳島東京都における伊豆大島などは飛地ではない。

しかし、その島に複数の行政単位の境界線が通っている場合は、飛地となり得る。具体的には、島B2の両側に、複数の行政単位BとGが存在するとする。BとGは島B2にそれぞれ領域を有しており、島内にそれらの境界線が引かれている場合は、飛地とされる可能性がある。例えば、大阪府関西国際空港の空港島とそれを分断する対岸の自治体(泉佐野市田尻町泉南市)は、空港島をめぐって交通が分断されていることもあって、飛地を構成しているといえる可能性がある。また、瀬戸内海において岡山県香川県の県境で分断された井島なども、場合によっては飛地とみなされることもある[2]

また、橋ができたが故に飛地とみなされる可能性がある。行政単位Bが領有する島B3に対し、同一の陸地の別の行政単位Fから橋が架けられた場合、本土Bと島B3は行政単位Fを経由して連絡することになるため、飛地と呼べる可能性がある。実例として長崎県松浦市福島があげられる。福島には境界線はなく、基本原則にあてはめれば飛地ではない。しかし、1967年に福島と佐賀県伊万里市の間に橋がかけられた。これにより本土と離島との行き来が可能となったが、この経路を使う場合、伊万里市を通らねばならない。なお、2008年時点で、陸路・海路とも、福島と伊万里市を結ぶ交通手段はあるが、福島と松浦市は直接結ばれていない[2]。このほか、大鳴門橋開通(1985年)から明石海峡大橋開通(1998年)までの期間における淡路島なども、所属する兵庫県側ではなく四国側のみ橋で繋がっていた例としてあげられる。

対岸飛地

本土と海峡などによって分断されているだけの領域も飛地である可能性がある。例えば、千葉県野田市は、利根川右岸が本土であるが、木野崎地区が利根川を越えて左岸側にもかかっている。この野田市の利根川左岸の領域は、飛地と呼べる可能性がある。しかし、仮定の話ではあるが、もしも、この利根川左岸の領域が、本土となどで連絡した場合は、これを飛地として扱うかは意見の分かれるところである。

二重飛地・三重飛地

主に内陸部の飛地において発生しうる現象が二重飛地である。ある行政単位Eの飛地が、E近傍の別の行政単位Hの領域の内部にあるとする。このHの内部にあるEの飛地E1のさらに内部にHの領地H3が存在する場合がある。その場合、領地H3は「飛地に周囲を囲まれた飛地」であり、二重飛地と呼ばれる[2]。例としては、大阪府・兵庫県大阪国際空港内における、豊中市内部にある池田市の飛地の内部にある豊中市の二重飛地、オマーンマダ内に位置するアラブ首長国連邦ナワなどがある。

また、上述の「Hの内部にあるEの飛地E1のさらに内部に、Hの二重飛地H2」があり、さらにそのH2の領域に完全に囲まれる形でEの領地E2が存在する場合、「飛地の中の飛地の中の飛地」、すなわち三重飛地となる。三重飛地の実例はインドダハラ・カグラバリが世界唯一とされるが、すでに解消されている。

発生する要因

封建制下においては、同一の君主の所領が各所に分散していることは珍しくなかった。国民国家形成の際に旧来の領邦の境界を引き継ぐこともあり、その際に領土や行政区画に飛地が残ったという事例がヨーロッパ・インド・日本に多いようである。

その他

エルム・ポイント。アメリカ・カナダ国境を北緯49度線を基準にした結果、飛び地と化した岬。

その他の要因としては以下のようなものがある。

備考

上記のようにして形成されたものの多くは、飛地と呼ばれる。しかし、植民地の場合には、領土という観点では飛地であっても、飛地と呼ばないのが普通である。例えば、かつてのインドイギリスの飛地であるとはいえない[1]

また、上記のように、飛地は生成される一方で、解消されたり、再生成されたりする動きもある。例えば、日本では、住居表示の実施、土地区画整理等に伴う行政区画の変更、市町村合併などにより、飛地は次第に解消される場合もあるが、合併交渉の破綻により細分化される事例もある。また、行政側が飛地の解消を望んでいたとしても住民が民族的・歴史的経緯などから反発する場合や、逆に住民側が望んでいても行政側が政治上の理由によって解消を拒否する場合などがあり、単純に関係地域の合併交渉だけで解消につながるものではない事例が多い。

国家の飛地

ここでは領土の飛地を挙げる。在外公館などの、他国の領土内で治外法権が認められた領域は領土に相当しない。軍事基地に関しては、アクロティリおよびデケリアのような、基地設置国の領土となっている場合もあるが、在外米軍基地のような多くの外国軍基地は治外法権領域である。また、占領も領有とは異なり、占領国の領土に編入されていない占領地も領土の飛地ではない。

過去に飛地だった地域

行政区画の飛地

全ての座標を示した地図 - OSM
全座標を出力 - KML

以下に挙げる飛地はあくまで代表的な例であり、これ以外の小さな飛地は多数存在する。

アメリカ合衆国

大韓民国

韓国では飛地のことを越境地(월경지)と呼ぶ。

中華民国

中華人民共和国

ドイツ

ロシア

日本

区画上は飛び地ではないものの、実質的な飛び地

市町村合併(平成の大合併)による飛地事例

いずれも非隣接自治体同士が合併したための飛地である。

既合併・既編入
区画上は飛び地ではないが、実質的な飛び地

合併によるその他の飛地

合併以外の事情により発生した飛地

過去に飛地だった地域

合併により解消された飛地
合併以外の事情により解消した飛地
赤色で示された区域が2004年時点の桜島赤水町。本体は左下、新島は右上の島である
  • 鹿児島県鹿児島市桜島赤水町新島 北緯31度37分06秒 東経130度43分23秒 / 北緯31.61833度 東経130.72306度 / 31.61833; 130.72306
    • 桜島の北東部沖にある島で、2004年の市町村合併までは桜島町大字赤水字新島であり鹿児島市東桜島地区とは行政連絡船で接続されていたが、桜島町には直接接続できなかった。2004年11月1日の合併(桜島町の鹿児島市編入)により、自治体の飛地は解消した。自治体としての飛地解消後も、桜島赤水町は桜島南西部(本体)と桜島北東部(新島)があり、飛地となっていたが、2006年平成18年)2月13日に桜島赤水町より新島の区域が新島町として独立し、町丁の飛地も解消した[8]
    • 2016年すべての住民が離島したため現在居住者はいなくなったが、2019年7月に元島民が転入したため再び有人島となった。行政連絡船が週に3日、1日につき3往復運航している。

自治体単位の飛地

再掲。

郡部単位の飛地

江戸時代の藩の飛領

フランス

ボスニア・ヘルツェゴビナ

過去に飛地だった地域

選挙区の飛地

日本の衆議院議員選挙区画定審議会は2016年、衆議院小選挙区は飛び地にしないという作成方針を決定したが[9][10]、実際に行政区画に飛地がある場合(衆議院小選挙区の和歌山3区神奈川9区、参議院選挙区の和歌山選挙区など)[11][12]は飛地のままであるケースもある。また、衆議院比例代表選挙区比例南関東ブロック、過去の衆議院中選挙区神奈川2区兵庫2区埼玉5区、衆議院小選挙区の千葉4区[13]なども飛地がある。

なお、飛地こそになっていないものの、ゲリマンダーによる変則な選挙区の区割りは米国などで多発している。

脚注

注釈

出典

参考文献

関連項目

外部リンク