この項目では、中華人民共和国の行政区分について説明しています。ウイグル全般については「ウイグル 」を、トルキスタン東部の地域概念については「東トルキスタン 」をご覧ください。
新疆ウイグル自治区 (しんきょうウイグルじちく、ウイグル語 : شىنجاڭ ئۇيغۇر ئاپتونوم رايونی / Shinjang Uyghur Aptonom Rayoni / Шинҗаң Уйғур автоном райони 、中国語 : 新疆维吾尔自治区 、拼音 : Xīnjiāng Wéiwúěr zìzhìqū )は、中華人民共和国 の北西部に位置する自治区 である。
東アジア と中央アジア が交わる自治区であり、面積は約166万km2 で省または自治区の中で最大で、また世界で8番目に大きな国家行政区画でもある。
人口は2020年国勢調査 によると約2,585万人で[1] 、ウイグル族 が45%、漢民族 が41%を占める[2] 。
概要 新疆ウイグル自治区は、南はチベット自治区 、東部は甘粛省 、青海省 と接しており、国境は、北東がモンゴル 、北はロシア 、北西はカザフスタン 、西はキルギス 、タジキスタン 、アフガニスタン 、パキスタン 、南西はインド と接する。国境の大部分は、標高数千米の険しいカラコルム山脈 ・崑崙山脈 ・天山山脈 が占めている。中国が統治するアクサイチン 地域とカラコルム回廊 は、インドが領有権を主張している。シルクロード の最も有名なルートは、新疆ウイグル自治区の東から北西の境界までを通っている。
領土内には、テュルク系 のウイグル 人、カザフ人 、キルギス 人、漢族 、チベット族 、回族 、タジク人 、モンゴル族 、ロシア人 、シベ族 など、多くの民族が暮らしている[3] 。新疆には、十数個の少数民族の自治県や郡がある。古い英語の参考文献では、この地域を中国のトルキスタン [4] 、東トルケスタン [5] 、東トルキスタン [6] と呼ぶことが多い。新疆は、山脈によって北のジュンガリア 盆地と南のタリム盆地 に分かれている。新疆の土地面積のうち、人間の居住に適しているのは約9.7%に過ぎない[7] 。
少なくとも2,500年の歴史を持つ新疆ウイグル自治区では、多くの人々や帝国がこの地域のすべて、または一部を支配しようと競い合ってきた。18世紀には清 朝の支配下に置かれ、その後、中華民国政府に取って代わられた。1949年の中国内戦 以降は、中華人民共和国の一部となっている。1954年、ソビエト連邦 に対する国境防衛を強化するとともに、兵士を地域に定住させることで地域経済の振興を図るため、新疆生産建設兵団 (XPCC) が設立された。1955年、民族の宗教や権利の平等性を保護するために新疆は省から自治区へと行政が変更された。[8] ここ数十年、新疆では豊富な石油・鉱物資源が発見されており、現在は中国最大の天然ガス産出地となっている。1990年代から2010年代にかけて、他の宗教を排外する宗教原理主義的な東トルキスタン独立運動 、分離独立紛争、イスラーム過激派 の影響により、この地域では時折テロ が発生したり、分離独立派と政府軍が衝突するなどの不安が生じている[9] 。これらの内紛を受けて、これ以上の被害が拡大される前に中国政府はこの地域に強制収容所 (職業訓練センター)を設置し、過激イスラム教徒を思想改造 しようとした[10] [11] [12] [13] [14] 。施設内では虐殺や拷問が施されているとされており、これらの措置に対して西側諸国ではウイグル人大量虐殺 として騒がれている。[15] 。
本来中国には時差が設定されていないが、新疆では非公式に北京時間 (UTC+8 ) より2時間遅れの新疆時間 (UTC+6 ) が使われている[16] 。
歴史 清朝以前 古代中国 から西域 と呼ばれたこの地域は中央アジア や中国との政治的・経済的な繋がりを古くから有し、オアシス都市 国家が繁栄し、漢 代と唐 代には、中国の直接支配下に置かれた時期もあった。
隋 の煬帝 の大業 5年(609年 )、煬帝が自ら隋軍を指揮して吐谷渾 を征服、現在の新疆南東部を実効支配し始めた。中原 王朝が西域の実効支配もその時期から始めた。
唐の太宗 の貞観 14年(640年 )、唐軍が高昌 を占領し、西州を設置した。また可汗浮図城において庭州 を設置した。同じ年、高昌で安西都護府 を設置。後庫車 へ遷し、安西大都護府 へ転換。
唐代後期、ウイグル帝国 の支配下に入り、9世紀、ウイグル帝国が瓦解したのちも、ウイグル人 の残存勢力による支配が続いた。
13世紀、モンゴル帝国 の勃興によりその支配下に組み込まれ、チャガタイ とその子孫による支配が行われた。16世紀に至りヤルカンド・ハン国 が地域を統一したが、17世紀末ジュンガル に征服された。
清朝 1755年 にジュンガルにおける清朝の領域はほぼ確実なものとなった。1775年 以降、清 のジュンガル征服(清・ジュンガル戦争 )にともなってその支配下に入るに至り、「ムスリムの土地」を意味するホイセ・ジェチェン (Hoise jecen; 回疆)、「新しい土地」を意味するイチェ・ジェチェン (Ice jecen; 新疆) などと清朝側から呼ばれた。
19世紀 には各地で反清反乱が相継ぎ、ヤクブ・ベクの乱 によって清朝の支配は崩れたが、左宗棠 により再征服され、1884年 に中国内地 並の省制 がひかれて新疆省 となった。この時左宗棠 が 「他族逼処、故土新帰 」と上奏したのが新疆省 の名称の由来[17] 。
中華民国以降 辛亥革命 の後、清朝の版図を引き継いだ中華民国 に属しながらも、漢民族 の省主席によって半独立的な領域支配が行われた。これに対して1933年 と1944年 の二度にわたって土着のムスリム (イスラム教徒)によって民族国家東トルキスタン共和国 の建国がはかられたが、国共内戦 で東トルキスタン共和国のセイプディン・エズィズィ と新疆省のブルハン・シャヒディ らが中国共産党 に帰順したことでこの地域は中国人民解放軍 が展開し、1955年 に新疆ウイグル自治区 が設置された。
1966年 には自治区内に文化大革命 が波及。こと文革に関しては、少数民族を多く抱える同自治区の闘争は中国の他地域と比較してある程度は抑制されていたというが、それでも一部で行なわれたモスクの破壊や紅衛兵 同士の武装闘争 により、混乱に拍車がかかった。
1980年代以降 文化大革命が終結し、言論統制 の緩和がなされた1980年代から1990年代には、ウイグル人住民の中で、グルジャ事件 など新疆ウイグル自治区における民族自治の拡大を求める動きや国外の汎トルコ主義 者が独立を主張する動きも見られ、度々暴動 やテロ が起きていた。
長らく新疆を統治していた自治区党委書記の王楽泉 は2009年ウイグル騒乱 の暴動の責任をとらされて更迭され、経済発展と民族融和を重視する張春賢 が後任に就くもテロは止まず、2014年4月にウルムチ駅爆発事件 が起きた際は当時ウルムチを視察していた習近平 総書記 兼国家主席 が「対テロ人民戦争 」「厳打暴恐活動専項行動 」を打ち出し[18] [19] [20] [21] [22] 、2014年5月、習近平 が主宰した第二次新疆工作座談会で「社会の安定」が最優先事項として掲げられ、習近平は新疆ウイグル自治区の人々に徹底的に「中華民族 」意識を植え付ける「中国化 」を強調し、三毒(テロリズム ・分裂主義 ・宗教極端主義 )との徹底的な闘争を唱え、「生産力の発展こそあらゆる問題を解決する」という唯物論者 らしい発想のもと、イスラム的 ・トルコ的 価値観ではなく、中国共産党 こそ幸福を提供する存在であることを知らしめるために民生と経済の発展を掲げた[23] 。
2016年 には陳全国 と朱海侖(中国語版 ) を自治区党委書記と党委副書記兼政法委員会書記にそれぞれ抜擢して新疆ウイグル再教育収容所 など徹底的な管理統制が行われるようになった[24] [25] [26] 。自治区党委書記に就任した陳全国 は、自治区党委員会に「厳打攻堅会戦前方指揮部(三毒分子に徹底的な打撃を加えて攻撃防御する会戦の前線指揮部)」という名の戦時体制的司令塔を設け、インターネット ・文化 ・メディア を統制し、ウイグル人 ・カザフ人 が誇る独自な文化的伝統について、あたかも存在しなかったかのように抹消する作業を進めた[23] 。「厳打攻堅会戦前方指揮部」は、国家が厳格に管理している個人檔案(社会主義国特有の個人情報・思想ファイル)と公安情報、出入国情報、現実の個々人の言動、行動記録、家族関係、友人関係などをIT で高度に紐付け、人工知能 で評価する「一体化聯合作戦平台(プラットフォーム)」を運用し、三毒(テロリズム ・分裂主義 ・宗教極端主義 )分子になりうる人々を点数化しふるいにかけ、僅かでも陳全国 が設定した許容範囲を超えた人々を容赦なく「職業技能教育培養訓練転化センター」と称する新疆ウイグル再教育収容所 に送り込み[23] 、収容者に華語 教育を施して「トルコ系 ムスリム として生まれたことを罪と認識し、身も心も中国人 に生まれ変わる」よう促す「中国化 」を強要、収容者を区分して一部を厳格な管理下に置いて犯罪者 として刑務所 に送るなどの措置がとられ、少なくない人々が拷問 によって命を落とし[27] 、とりわけ2017年には余りにも多くの人々が新疆ウイグル再教育収容所 に連行され、混乱を極めた[27] 。
また、全面的に管理統制が強化され[28] [29] [30] 、新疆ウイグル自治区はウイグル人住民がQRコード で管理され[31] [32] 、自動車 の全車両やメッカ へのハッジ の際には追跡装置が装着され[33] [34] 、モスク などに張り巡らしたAI監視カメラによって人種プロファイリング で識別され[35] [36] [37] 、様々なハイテク で顔認証 ・虹彩 ・指紋 ・DNA [38] [39] [40] ・声紋 ・歩容解析 など一挙手一投足を監視される「世界でも類のない警察国家 」[41] 「完全監視社会 の実験場」[42] が構築されたと欧米メディアや人権団体は批判した[38] [43] 。2024年1月1日、モスクなどの宗教施設を新築・改築する際に、「中国様式」にすることなどを義務づける改正「宗教事務条例」が施行された[44] 。
地理 世界遺産 の新疆天山 新疆ウイグル自治区の面積165万平方キロメートル (km2 ) は中華人民共和国の省・自治区の中で最大であり、中国全土の約1/6を占める(日本の約4.5倍)。ただし、面積の約4分の1は砂漠が占めており、これは中国の砂漠総面積の約3分の2に相当する。
中国の最西部に位置しており、東部から南部にかけて、それぞれ甘粛省 ・青海省 ・チベット自治区 と省界を接している。また、インド ・パキスタン ・アフガニスタン ・タジキスタン ・キルギス ・カザフスタン ・ロシア連邦 ・モンゴル国 の8カ国と国境 を接し、国境線の総延長は約5,700キロメートル (km) に達する。国境を接する国の数は、中国の行政区分で最大である。また、ユーラシア大陸 の到達不能極 に位置する。
テンリ・タグ山脈を背骨とし、北のアルタイ山脈 (モンゴル 国境)の間にジュンガル盆地 、南のクンルン山脈 (崑崙山脈 とも。チベット自治区 との境)の間にタリム盆地 が広がる。
ほぼ中央に、ウイグル語で天の山を意味するテンリ・タグ (تەڭرىتاغ Tengri tagh)という山脈があり[注 1] 、漢名ではこれに由来して天山山脈 という。テンリ・タグ山脈の最高峰であるポベーダ山 はキルギス の国境に位置し、標高は7,439mである。
天山山脈 は中央アジアと東アジア の自然国境とされ、カラコルム山脈 は西南アジア と東アジアの自然国境とされる。カラコルム山脈は急峻な山々が峰を連ね、パキスタン国境にあるK2 は、海抜 8,611メートル (m) に達するエベレスト に次ぐ世界最高峰である。
1931年 8月11日、新疆ウイグル自治区北部でマグニチュード 8の地震 が発生。地震研究のための貴重な資料として、当時の地震断層や地形の変化がそのままの状態で残されている。2007年 4月19日、断層 の保護作業が終了した。
行政区画 № 名称 中国語表記 (簡体字 ) 拼音 ウイグル語 ウイグル語ローマ字面積 (km2 ) 人口[45] (2020年) 政府所在地 新疆ウイグル自治区の行政区画 — 地級市 — 1 ウルムチ市 乌鲁木齐市 Wūlǔmùqí Shì ئۈرۈمچى شەھىرى Ürümchi Shehiri 13787.90 4,054,369 水磨溝区 2 カラマイ市 克拉玛依市 Kèlāmǎyī Shì قاراماي شەھىرى Qaramay Shehiri 8654.08 0, 490,348カラマイ区 3 トルファン市 吐鲁番市 Tǔlǔfān Shì تۇرپان شەھىرى Turpan Shehiri 67562.91 0, 693,988高昌区 4 クムル市 哈密市 Hāmì Shì قۇمۇل شەھىرى Qumul Shehiri 138378.35 0, 673,383伊州区 — 地区 — 8 アクス地区 阿克苏地区 Ākèsū Dìqū ئاقسۇ ۋىلايىتى Aqsu Wilayiti 127144.91 2,714,422 アクス市 10 カシュガル地区 喀什地区 Kāshí Dìqū قەشقەر ۋىلايىتى Qeshqer Wilayiti 137578.51 4,496,377 カシュガル市 11 ホータン地区 和田地区 Hétián Dìqū خوتەن ۋىلايىتى Hoten Wilayiti 249146.59 2,441,231 ホータン市 12a タルバガタイ地区 塔城地区 Tǎchéng Dìqū تارباغاتاي ۋىلايىتى Tarbaghatay Wilayiti 94698.18 1,108,747 チョチェク市 12b アルタイ地区 阿勒泰地区 Ālètài Dìqū ئالتاي ۋىلايىتى Altay Wilayiti 117699.01 0, 648,173アルタイ市 — 自治州 — 5 昌吉回族自治州 昌吉回族自治州 Chāngjí Huízú Zìzhìzhōu سانجى خۇيزۇ ئاپتونوم ئوبلاستى Sanji Xuyzu Aptonom Oblasti 73139.75 1,613,585 昌吉市 6 ボルタラ・モンゴル自治州 博尔塔拉蒙古自治州 Bó'ěrtǎlā Měnggǔ Zìzhìzhōu بۆرتالا موڭغۇل ئاپتونوم ئوبلاستى Börtala Mongghul Aptonom Oblasti 24934.33 0, 433,467ボルタラ市 7 バインゴリン・モンゴル自治州 巴音郭楞蒙古自治州 Bāyīnguōlèng Měnggǔ Zìzhìzhōu بايىنغولىن موڭغۇل ئاپتونوم ئوبلاستى Bayingholin Mongghul Aptonom Oblasti 470954.25 1,509,233 コルラ市 9 クズルス・キルギス自治州 克孜勒苏 柯尔克孜自治州 Kèzīlèsū Kē'ěrkèzī Zìzhìzhōu قىزىلسۇ قىرغىز ئاپتونوم ئوبلاستى Qizilsu Qirghiz Aptonom Oblasti 72468.08 0, 622,222アルトゥシュ市 12 イリ・カザフ自治州 伊犁哈萨克自治州 Yīlí Hāsàkè Zìzhìzhōu ئىلى قازاق ئاپتونوم ئوبلاستى Ili Qazaq Aptonom Oblasti 56381.53 2,778,869 グルジャ市 — 自治区直轄県級行政区 — A 石河子市 石河子市 Shíhézǐ Shì شىخەنزە شەھىرى Shixenze Shehiri 456.84 0, 498,587紅山街道 B 五家渠市 五家渠市 Wǔjiāqú Shì ۋۇجياچۈ شەھىرى Wujyachü Shehiri 740.00 0, 141,065人民路街道 C トムシュク市 图木舒克市 Túmùshūkè Shì تۇمشۇق شەھىرى Tumshuq Shehiri 1927.00 0, 263,245錦繡街道 D アラル市 阿拉尔市 Ālā'ěr Shì ئارال شەھىرى Aral Shehiri 5266.00 0, 328,241金銀川路街道 E 北屯市 北屯市 Běitún Shì بەيتۈن شەھىرى Beatün Shehiri 910.50 0,0 20,414北屯鎮 F 鉄門関市 铁门关市 Tiĕménguān Shì باشئەگىم شەھىرى Bashegym Shehiri 590.27 0, 104,74629団 G 双河市 双河市 Shuānghé Shì قوشئۆگۈز شەھىرى Qoshögüz Shehiri 742.18 0,0 54,73189団 H コクダラ市 可克达拉市 Kěkèdálā Shì كۆكدالا شەھىرى Kökdala Shehiri 979.71 0,0 69,52466団 I 崑玉市 昆玉市 Kūnyù Shì قۇرۇمقاش شەھىرى Qurumqash Shehiri 687.13 0,0 63,487224団 J 胡楊河市 胡杨河市 Húyánghé Shì خۇياڭخې شەھىرى Xuyangxe Shehiri 677.94 0,0 29,891共青鎮 K 新星市 新星市 Xīnxīng Shì يېڭى يۇلتۇز شەھىرى Yengi Yultuz Shehiri 539.76 0,0 11,820黄田農場 L 白楊市 白杨市 Báiyáng Shì 2034.00 0,0 25,800
教育 大学 少数民族に対する言語政策 世界では国際人権規約 にて少数民族 が独自の言語 を使う権利 は「少数民族の文化 や宗教 、言語を『否定 されない権利』」と明記して保障されているが、習近平 政権は少数民族による分離 ・独立 運動への警戒から統制 と標準語(普通話 )教育を強めている。それにより中華民族 としての意識を高め、中国共産党 の支配 をさらに強固にしようとしているとされる[46] 。
その行為はアメリカ政府 によりジェノサイド (集団殺害)と認定された[47] 。イギリスのBBCニュースはウイグル族 を収容している収容施設から流出したとされる内部文書の中に、共産党自治区の治安部トップによる「中国標準語への矯正学習を最優先せよ」という指示があったと主張しており、またそれを根拠にして収容施設では少数民族に対する再教育 や洗脳 が行われていると主張している[48] 。
一方、ウイグル語と標準語(北京語)が両方大事で必要であると考えているウイグル族は全体の93.5%を占め、ウイグル語のみ使用希望の人は5%に留まるという調査研究もある[49] 。中国側はウイグル語の日常使用や教育を特別制限しておらず、ドルと違い人民元にすらウイグル語が印刷されていると反論している[50] [51] 。
住民 民族分布図 ※色が濃いほど割合が多い ホータンの日曜バザール 総人口は約2585万人で、58%は漢族 以外の少数民族である[1] 。自治区内の住民はウイグル人 、漢族、カザフ人 、回族 、キルギス人 、オイラト族(カルムイク族) (民族区分ではモンゴル族 )などの様々な民族 で構成される。また、カザフ人、キルギス人、タジク人 、ウズベク人 など、隣接する旧ソ連領中央アジア 諸国と国境を跨って居住する民族も少なくない。
中国統計年鑑など中国政府の公式統計を基にした西日本新聞 の報道によると、2014年 から2018年 の5年間に新疆ウイグル自治区の不妊手術件数が18.8倍に急増[52] 。中国の少子化政策により、出生率(人口千人当たりの出生数)が2017年 の15・88から2019年 は8・14となり、2年間でほぼ半減した[53] 。
2021年 6月8日 、新疆ウイグル自治区で生まれる少数民族の子どもの数が、今後20年間で当初予測より260万~450万人下回る見通しだとする報告書が中央アジア研究 の専門誌で発表された[54] 。報告書は、当局が不妊手術 などで出産を妨げる計画を実施していたとも指摘した[54] 。
これについて東京大学社会科学研究所の丸川知雄は『新疆統計年鑑』を分析した上で、ウイグル自治区全体の出生率低下とウイグル族への不妊手術実施には直接の関係が無い上に、手術が強制された証拠もないと述べた。ウイグル族は子供を働き手として期待し、子供は天の授かりものと見なすイスラム教の影響も強く、ウイグル族に対して一人っ子政策が厳しく適用されなかった事もあり、ウイグル族では子供が6人も8人もいることがあったので、ウイグル族が集住する地域では子供が多過ぎて貧困から抜け出せない状況にあった。そこで自治区政府は05年から出産制限を勧める補助金政策を取り始め、夫婦が子供を二人だけ生めば「計画出生父母光栄証」が、子供を一人だけ生めば「一人っ子父母光栄証」を与えられ、毎年の年金と一時金を受け取れるという計画出生政策を実施した。当初07年は毎年600元に加えて、光栄証を貰った時に一時金として3000元が与えられていたが、11年から年金の額は1200元に上乗せされ、20年時点では、一時金の額が6000元、2年目からの年金は一家庭に対して年3600元とさらに増額されている。丸川はこのような経済インセンティブこそが新疆で不妊手術が多かった主たる理由であり、強制的な不妊治療が行われたとの憶測に反論した[55] 。ウイグルの再教育センターを卒業してカシュガル市で女性連盟の会長を務めるミフレンサ・カリも、ウイグル人女性が不妊手術を強制されているとの主張を否定しつつ、「私は女性連盟の会長として毎日沢山の女性と触れ合いますが、出産と育児において量より質を優先する政策は非常に良い評判です。政府は出産適齢期の女性を対象とした婚前健康診断も実施しており大変満足しています。」と主張した[56] 。
漢族の大量入植 自治区の北部・東部を中心に居住する漢族は、1954年 に設立された新疆生産建設兵団 を中心に、1950年代以降に入植した住民が大半を占め、急速にその数を増やしている。中国政府の公表する人口統計には、軍人の数が含まれていない [要出典 ] ことから、実際の人口比では、漢族の人口はウイグル人を上回っていると推測されている [誰? ] 。2003年の兵団総人口は257.9万人である[57] 。
ウイグル自治区の民族構成と推移 1990年[58] [59] 2000年[60] 2010年[61] 2020年[62] 民族 人口 割合 (%) 人口 割合 (%) 人口 割合 (%) 人口 割合 (%) 合計 15,156,900 100 18,459,511 100 21,815,815 100 25,852,345 100 ウイグル族 7,191,800 47.45 8,345,622 45.21 10,001,302 45.84 11,624,257 44.96 漢族 5,695,400 37.58 7,489,919 40.58 8,829,994 40.48 10,920,098 42.24 その他の少数民族 2,269,700 14.97 2,623,970 14.21 2,984,519 13.68 3,307,990 12.8
経済 ウルムチの中信銀行ビル(中央) 第一次産業としては、小麦 ・綿花 ・テンサイ ・ブドウ ・ハミウリ ・ヒツジ ・イリ馬 などが主要な生産物となっている。特にこの地域で生産される新疆綿(英語版 ) といわれる綿は、エジプト綿(ギザ綿)、スーピマ綿と並んで世界三大高級コットンと呼ばれ、繊維が長く光沢があり高級品とされており、日米欧に輸出され高級シャツ、高級シーツなどに利用される。なお、2021年 、アメリカ合衆国 は自治区内で強制労働 が行われている可能性があるとして新疆産の綿の輸入を停止した[63] 。これを原料に用いたUNIQLO (ファーストリテイリング )の衣料品が、米国で輸入差し止めとなる事例も起きた[64] 。
また、中国四大宝石の中で最高とされる和田玉 はホータン市 で産出される。この他、石油と天然ガスなどのエネルギー資源産業をはじめ、鉄鋼・化学・機械・毛織物・皮革工業が発達している。主要な工業地域として、烏魯木斉・克拉瑪依・石河子(シーホーツ)・伊寧(イーニン)・喀什(カシュガル)が挙げられる。
エネルギー資源の影響で内陸部の割には2002年 から2013年 にかけて新疆の平均成長率は15%を超え[65] 、特に中国最大級の油田 があるカラマイは2008年 には一人当たりのGDP が中国本土で最も高い都市となった[66] 。
省都のウルムチは200万人を超える人口規模で中央アジア最大の都市タシュケント に匹敵し[67] 、中国北西部および中央アジアで最も高いビル[68] である中信銀行大廈(英語版 ) (旧・中天広場)などの高層ビル で街並みは沿岸部の大都市のように近代化されている[69] [70] 。
資源 新疆のツァイダム油田 新疆は石油 と天然ガス の埋蔵量が豊富で、1980年代 後半から探査が本格的に開始された。1988年11月以降、タリム盆地で未開発の油田としては世界最大級の油田群が発見された[71] 。これまでに38カ所の油田、天然ガス田が発見されている。新疆の油田としては塔里木(タリム)油田 、準噶爾(ジュンガル)油田 、吐哈(トゥハ)油田 が3大油田とされ、独山子(トゥーシャンツー)、烏魯木斉(ウルムチ)、克拉瑪依(カラマイ)、庫車(クチャ)、塔里木の5大精油工場で原油精製も行われている。
可採埋蔵量は100億バレル以上とされ[71] 、確認埋蔵量は原油で60億トン、天然ガス で8兆立方メートルとされているが、油田地帯がばらばらで地質構造も極めて複雑であることから、ブレは大きいものと考えられている。
新疆の石油と天然ガスの埋蔵量は、それぞれ中国全体の埋蔵量の28%と33%を占めており、今日では油田 開発が新疆の経済発展の中心となっている。特に、西部大開発 政策開始以降は、パイプライン 敷設や送電線建設などが活発化している。これには、中国国内最大の油田であった黒竜江省 の大慶油田 の生産量が近年では減少してきたために、新疆の油田の重要性が相対的に増していることも関連している。
2008年には新疆最大級の油田があるカラマイ が一人当たりのGDP が中国本土で最も高い都市となった[72] 。
交通 カラコルム・ハイウェイ 経済発展は、新疆に高速道路 や高速鉄道 など交通網の整備をもたらし、烏魯木斉などを拠点とした道路が新疆のほとんど全ての郷・鎮を結び、更には青海省 、西蔵自治区 、カザフスタン 、パキスタン とも道路で結ばれるまでになった。
鉄道 南疆線 1962年 には蘭州 と烏魯木斉を結ぶ鉄道の蘭新線 が開通し、1990年 には阿拉山口 への延伸によってカザフスタンの鉄道に接続されたことで、中国各省と中央アジア を結ぶ鉄道の大動脈が通ることとなった。また、1999年 にはコルラ -カシュガル 間の南疆線 も完成し、自治区最西端すなわち中国最西端までの鉄道が開通した。
航空 更には、面積が広大なことから航空への依存度が高まり、烏魯木斉の空港を中心として十数の自治区内の主要地を結ぶ航空網が整備されていった。その為、今日の烏魯木斉空港 は、北京 、上海 、広州 の空港とともに、中国5大空港の一つに数えられる程の拠点空港となっている。また西アジア ・アフリカ ・ヨーロッパ との国際線が発着することから、中国西北地域の玄関口としての役割をはたしている。
道路 道路 は、新疆北部 ではG312国道 、G217国道 、G216国道 、G7 & G30高速道路 、3014高速道路(G3014 Kuytun–Altay Expressway )、3015高速道路(G3015 Kuytun–Tacheng Expressway )などが利用できる。新疆南部 でもG314国道 、G218国道 、G315国道 、タクラマカン砂漠公路 、G3012高速道路(G3012 Turpan–Hotan Expressway )などが整備されて、以前よりは便利さが増した。
環境問題 砂漠化 黄砂のもととなる、タクラマカン砂漠の砂嵐を捉えた衛星画像 (PD NASA) 新疆ウイグル自治区には、タクラマカン砂漠 があるが、近年、過放牧 によって草原が荒れて、砂漠化が進行している[73] 。その理由は、タリム盆地 周縁のオアシス 人口の急激な人口増加によるとされる[73] 。
核実験場 新疆ウイグル自治区ではロプノール 核実験場 の付近を中心に、1964年から1996年まで46回の中国による核実験 が行われており、放射能汚染 による地域住民の健康状態や、農作物への被害が指摘されている。
ウイグルの独立運動 世界ウイグル会議 日本・東アジア全権代表を務めていたトゥール・ムハメット によると、中華人民共和国のウイグル人は、下等市民あるいは人間以下とみなされ、市民同士はトラブルを怖れて接触したがらないという[74] 。
2013年10月末には、ウイグル人がガソリンを積んだ自動車で北京の天安門に突入し自爆するテロ事件が起こった(天安門広場自動車突入事件 )。
中国側は具体的な例を提示し、世界ウイグル会議こそウイグル分裂主義者であり、デマや暴力犯罪事件の黒幕であると反論している[75] 。
2009年のウイグル騒乱 2009年 にはウイグル人の暴動 が発生、暴徒以外に多くの一般市民が巻き込まれた。武装警察の介入もあって、世界ウイグル会議によると死者三千人、中国当局によると死者156人となる惨事となった[76] [77] 。 [要検証 – ノート ] 主要国首脳会議 (ラクイラ・サミット)に参加するためにイタリア を訪問していた胡錦濤 (中国共産党総書記)が「新疆ウイグル自治区の情勢」を理由にサミットをキャンセルして三日後に急遽帰国するにまでに至った[78] 。それ以降、治安向上目的の「ウイグル族を監視するウイグル族」も増えたとの報告がある[79] 。
「ジェノサイド」認定 2019年10月、国連総会第3委員会で、日本や米英など23カ国が中国に対して懸念を示し恣意的な拘束をやめるよう求める共同声明を出した。一方、ロシアなど親中派を含む54カ国は中国を擁護した[80] [81] 。
2021年1月、アメリカ政府 は、中国政府 による新疆ウイグル自治区での少数民族ウイグル族 弾圧を、国際条約上の「民族大量虐殺」である「ジェノサイド 」であり、かつ「人道に対する罪 」に認定したと発表[82] [83] [47] 。これに対し、軍事評論家の田岡俊次 や中国外務省 の華春瑩 報道局長 は懐疑的な声を上げている[84] [85] 。日本政府もジェノサイド認定には慎重であり、外務省の担当者は26日の自民党外交部会で「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」との認識を示した[86] 。また、フォーリン・ポリシー誌で外交問題を担当するコラム・リンチはニューズウィークの記事において、「アメリカ国務省の法律顧問室は、中国の行為は人道に対する罪に相当するもののジェノサイドであることを証明する十分な根拠は存在しないとの結論を下した」「政権と法律顧問が対立状態に陥った。米政府の現役と元当局者3人が証言している」と述べている[87] 。
2021年2月、カナダの下院 [88] とオランダの議会 [89] はジェノサイドと認定する決議を可決した。2021年4月にイギリスの下院 はジェノサイドと認定する決議を可決した[90] 。2021年5月、リトアニア共和国議会 もジェノサイドと認定する決議を可決した[91] 。
2021年 6月22日 に開かれた国連人権理事会 で、オーストラリア 、イギリス 、フランス 、ドイツ 、日本 、アメリカ など40カ国超が、新疆ウイグル自治区の人権状況について「深刻な懸念を抱いている」との共同声明を発表し、国連人権高等弁務官 のミシェル・バチェレ の新疆ウイグル自治区訪問と調査を受け入れるよう中国に要求した[92] [93] 。声明は「信頼できる報告では、新疆で100万人超が恣意的に拘束され、ウイグル族やその他少数民族 に偏った監視 が広がり、基本的な自由 やウイグル文化への制限を示している」として、拷問 や強制不妊手術 や性的暴行 や子供を親から引き離すなどの報告もあるとし、さらに「国家安全維持法 下での香港 の基本的自由悪化とチベット での人権状況を引き続き深く懸念している」とも指摘した[92] [93] 。ただし、上記の共同声明で引用された『信頼できる報告』とは、ワシントンのNGOであるChinese Human Rights Defenders (CHRD)によって作成され、2018年8月に国連のCommittee on the Elimination of Racial Discrimination(CERD)人種差別撤廃委員会に提出されたものだが[94] [95] [96] 、CHRDは外国への政治工作を実施していると指摘される全米民主主義基金 からの資金が大部分を占めており[97] [98] 、委員会に提出されたレポート自体も、親米世論形成や反共工作の為に設立されたと指摘されるラジオ・フリー・アジア からの情報が多く含まれている[94] 。報告書自体は8人のウイグル人への聞き取り調査に基づいて書かれたが、この8人は全員匿名で本人が目撃していない伝聞情報も含まれている。ウイグル人達は自分の村から数百人が連れ去られたとの推定を述べており、報告書はその推定証言から村全体から何人が収容されるかの確率を求め、その確率からウイグル自治区全体で人口の何割が収容されたのかを推定している[99] 。中国大使館はこの報告書について「ばかばかしいほど小さなサンプルに示されている推定比率を新疆ウイグル自治区全体に適用し、100万人が拘留されたという大まかな結論を導き出した。」と主張している[100] 。また、同日にベラルーシ 代表が中国擁護の声明を発表するとアフリカ、中東などを中心にパレスチナ を含む69か国が署名した[101] 。
台湾 の蔡英文 総統 は『文藝春秋 』2021年9月号のインタビュー で、「民主主義 、自由 、人権 は普遍的価値です。私共は北京当局に、香港 やウイグルの人々への弾圧 をやめるように呼び掛けていきます。日本 も含めた民主主義陣営 は、民主主義の価値を守るために今こそ団結すべきです」と述べた[102] 。
2022年 1月20日 、フランス国民議会 は、新疆ウイグル自治区での人権弾圧が「ジェノサイド」だとする決議案をほぼ全会一致で可決した[103] 。「中国政府によるウイグル族への暴力が、人道に対する罪であり、ジェノサイドであると公式に認定する」といった内容になっている[103] 。
平野聡 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 は、『ニューヨーク・タイムズ 』が2019年11月にリークした新疆秘密文書、現実に伝えられる報道や画像、当事者の証言、中国の正式な国家統計である『中国統計年鑑』の数字などから、新疆ウイグル自治区でジェノサイドがおこなわれているのは明らかと主張している[27] 。一方、横浜国立大学 名誉教授の村田忠禧 は2021年に、平野に倣い「2019新疆統計年鑑」から少数民族全体におけるウイグル族の具体数を分析し、ジェノサイドを以下に否定する。「平野聡教授は少数民族全体の人口データとウイグル族の人口データを一括りにして論じている。」「ウイグル自治区の少数民族の人口は2018年 、2019年は合わせて164万人「減」だが2016年 と2017年 の2年間は合わせて242万人「大幅増」で平野が分析に用いた『中国統計年鑑』はばらつきが極端で正確ではない」、「ウイグル族は1978年 に555万5000人だったが2019年に1167万6000人まで増えていること、2015年 から2018年までウイグル自治区の少数民族は増加してウイグル族も2万人強増加したこと」を挙げて「ウイグル族は安定的に増加している」「このような歴然とした事実を無視して、『ジェノサイド』が進行している、といくら声高に叫んだところで、(中略)アメリカ政府の『人権外交』の本質が無知と偏見で作られた『デマ情報』に基づいていることを全世界人民に知らせる結果となるであろう。」「いわゆる『ジェノサイド』は全く存在しない。私は新疆を訪れて自分の目で新疆の繁栄と発展を確かめたので、西側が中国を中傷する言葉を信じない」と述べ、西側が宣伝する「ジェノサイド」論の反論を日本の複数メディアへ送付したが「誰にも相手にされず」文章は今も掲載されていないという[104] [105] 。中国通のジャーナリストである岡田充 は、日本には「米国の主張については甘く、一方的な情報に基づく恣意的な中国非難をするという悪い癖」があると分析している[106] 。また中国の新浪新聞は「虐殺についての統計は恣意的に抽出・改竄されている」「ウイグル問題を批判する学者は中国語を知らないどころか実地調査すらしたことがない」「個人で実際に新疆に行った人からはウイグル虐殺について懐疑的もしくは否定的な声が多数あげられている」などと主張した[107] 。
脚注 注釈 出典 参考文献 関連項目 ウィキメディア・コモンズには、
新疆ウイグル自治区 に関連する
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