ニュー・ホライズンズ

ニュー・ホライズンズ(英語、New Horizons)は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が2006年に打ち上げた、人類初の冥王星を含む太陽系外縁天体[注 1]の探査を行うための無人探査機である。

ニュー・ホライズンズ
New Horizons
冥王星に向かうニュー・ホライズンズ(想像図)
所属アメリカ航空宇宙局 (NASA)
公式ページNew Horizons Web Site
国際標識番号2006-001A
カタログ番号28928
状態運用中
目的冥王星を含む太陽系外縁天体の近接探査。
観測対象冥王星
(486958) 2014 MU69
打上げ場所ケープカナベラル空軍基地
打上げ機アトラスV 551型
打上げ日時2006年1月19日
14時00分(EST
最接近日木星 - 2007年2月28日
冥王星 - 2015年7月14日
アロコス - 2019年1月1日
物理的特長
質量465 kg
発生電力原子力電池 240 W
姿勢制御方式三軸姿勢制御
スピン安定制御
観測機器
Alice多波長撮像装置
Ralphマルチスペクトルカメラ
REX 
LORRIモノクロ望遠カメラ
SWAP太陽風観測機
PEPSSI粒子線観測機
VBSDC微粒子計数機
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概要

ニュー・ホライズンズが、2015年7月13日に768,000 kmの距離から撮影した冥王星。

ニュー・ホライズンズの打ち上げ費用は、ロケット製造費、施設利用費、装置開発経費及びミッション全体の人件費を含み、約7億ドル日本円で約800億円)である。ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所のミッションチームが管制を行っている。

地球での打ち上げ時の探査機本体の質量は、推進剤77 kg含めて、465 kgだった。本体を軽量にして、生じたロケットの推力の余裕は、探査機の航行速度の向上に充てられた。打ち上げ直後の対地球速度は約16 (km/s)を超え、これは歴代の探査機の中で最高速度である[1]。発射後9時間で軌道地球から約38万 km)を通過し、13ヵ月後に木星スイングバイした。月軌道および木星までの所要期間は、史上最短である。

太陽系外縁天体近傍は太陽から遠いために、光が弱くて太陽電池を使えないため、原子力電池を搭載している[2]。また、冥王星軌道からの通信速度は、僅か800 bps弱に過ぎないため、64 Gbit(8 GB)相当のフラッシュメモリを搭載し[注 2]、冥王星探査で取得したデータはメモリに蓄積してから、長期間かけて地球へと送信する[注 3]

ミッション用機器の他に、星条旗、公募した43万人の名前が記録されたCD-ROM、史上初の民間宇宙船スペースシップワンの機体の一部だったカーボンファイバーの破片、冥王星を発見したクライド・トンボーの遺灰が搭載された。遺灰の搭載については、打上げ後に公表された。また、2014年には「New Horizons Message Initiative」が結成された。人類からエイリアンへ向けたデジタル・メッセージを公募して、全ての任務完了後のニュー・ホライズンズに送信する計画である[3]

当初、打ち上げは2006年1月11日EST)の予定だったが、ロケット本体の点検や天候不順などで再三延期された[注 4]

この探査機の打上げ機アトラスVは、初段に固体ロケットブースターのAJ-60Aを5基付けた、同機によって実施された打ち上げとしては最大の構成である「551」による打ち上げの最初の事例である[注 5]

前述のような多数のブースターと軽いペイロードのために、第2段のセントールすら地球の重力圏から脱出して、小惑星帯遠日点を持つ人工惑星となった。更に、最終段である第3段のスター48ロケットモーターは、冥王星軌道の外側へと飛んでゆく軌道に入った。

冥王星軌道を通過後のニュー・ホライズンズにより、さらにエッジワース・カイパーベルト内の別の太陽系外縁天体を探査することが計画されている。目標にでき得る天体は、日本のすばる望遠鏡も参加して打ち上げ後も捜索が行われ[4]、複数の候補が挙げられた。2015年8月28日に、観測候補として2014 MU69が選ばれたと発表された[5]

2014 MU69はウルティマ・トゥーレと言う愛称が付けられ、ニュー・ホライズンズは2019年1月1日に最接近し、近接探査した[6]。これにより同天体は赤い雪ダルマのような形状が確認され、接触二重小惑星であることを明らかにした。 その後、2019年11月8日になって国際天文学連合(IAU)の小惑星センターが「2014 MU69」の固有名を「アロコス」(Arrokoth)に決定した旨を公表した。

日程

ロケットの最上段部分のフェアリング内へと格納される直前のニュー・ホライズンズ。
ミッションロゴ
アトラスV 551型で打ち上げられたニュー・ホライズンズ。
ニュー・ホライズンズが初めて撮影した冥王星。2006年9月21日と24日の画像。

冥王星探査の詳細

  • 2015年1月15日: 冥王星の観測を開始したと発表[10]
  • 2015年2月5日:1月25日に撮影した冥王星とカロンの画像を公開[11]
  • 2015年2月14日:冥王星探査開始。
  • 2015年4月後半:この頃には、冥王星へ接近したため、画像の画質がハッブル宇宙望遠鏡による最良の物と同等にまで向上。
  • 2015年6月初旬:全ての観測機器を常時観測体制に変更。
  • 2015年7月4日:通信途絶が発生し、回復後も一部の機器しか動作しない状態(セーフモード)に陥った[12]
  • 2015年7月7日:セーフモード状態から復旧し、通常の観測を再開。
  • 2015年7月14日:11時47分に冥王星をフライバイ(接近通過)し、冥王星と衛星カロンを撮影[13]。最接近時の距離は13,695 kmで、カロンの公転軌道の内側を通過した。その際の速度は、14 km/s。
  • 2016年1月まで:冥王星とその衛星群を観測。
  • 2016年1月:接近後の探査終了[14]
  • 2016年10月25日9時48分(UTC):全てのデータを受信完了[15]

太陽系外縁天体の探査

  • 2018年3月13日:観測対象の2014 MU69に対してNASAは「ウルティマ・トゥーレ」(Ultima Thule)の愛称を提案(正式名称は後に「アロコス」に決定)。
  • 2019年1月1日:アロコスに最接近し、観測を行った[6][16]。最接近時のアロコスとの距離は3500 kmだった[17]
  • 2020年11月頃にかけて:20か月ほどでアロコスの観測データを送信[16]
  • その後、新たな観測対象を検討中[16]
  • 最終的には太陽系から離脱する[18]

搭載機器

2005年にケネディ宇宙センターでメディア向けイベントのために準備されているニュー・ホライズンズ。
Alice
冥王星の大気の組成と構造を調べる紫外線イメージングスペクトロメーター(多波長撮像装置)。
Ralph
マルチスペクトルカメラ(モノクロとカラーの可視光カメラ)。
REX (Radio Science Experiment)
探査機の通信システムと一体の実験装置で、冥王星とカロンの大気の温度・圧力・密度・温度を測定する。
探査機のわずかな軌道変化を測定して、冥王星、カロン(うまくいけば別の太陽系外縁天体も)の質量を求める。また、冥王星とカロンによる地球の(地球からの電波が遮られる現象)の時刻を測定する(これから、冥王星とカロンの正確な大きさがわかる)。
LORRI (Long Range Reconnaissance Imager)
モノクロ望遠カメラ。
SWAP (Solar Wind at Pluto)
太陽風と冥王星の大気との相互作用を調べる。
PEPSSI(ペプシ, Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation)
粒子線観測器。冥王星から宇宙空間に逃げ出した大気物質を測定する。
ヴェネチア・バーニー学生微粒子計数器(ヴェネチア (Venetia), Venetia Burney Student Dust Counter, VBSDC)
彗星小惑星、外縁天体同士が衝突して出る、微細な塵粒子の個数・速度・質量を計測する。コロラド大学の学生達によって設計・製作された。名称は、1930年、"Pluto"(冥王星の原語)という名を提案したイギリス人女性、ヴェネチア・バーニー(Venetia Burney, 1919年 - 2009年)にちなんで、打ち上げ後に命名された[注 7]

ニュー・ホライズンズ・キッズ

ミッションチームは2007年1月、「ニュー・ホライズンズ・キッズ (NHKs)」と称するEducation and Public Outreach[訳語疑問点]プログラムを開始した。これはニュー・ホライズンズが打ち上げられた2006年1月19日に産まれた子供と、その日に10歳の誕生日を迎えた子供をそれぞれ4 - 6人、合わせて10 - 12人選び、「キッズ」達の成長を2016年まで見守り続けようという計画である[19]

ニュー・ホライズンズ2号

ニュー・ホライズンズが打ち上げられる前に、原子力電池の出力不足で冥王星フライバイ後に予定されている太陽系外縁天体の探査に支障が生じる可能性があったため、計画主任のアラン・スターンらがバックアップ機としてニュー・ホライズンズ2号 (New Horizons 2) の製作と打ち上げを提案した。これは木星天王星をフライバイして外縁天体 (47171) 1999 TC36の探査を目指す計画だったが、そのためには2009年の中頃までに打ち上げなければならなかった[20][21]

画像

脚注

注釈

出典

関連項目

外部リンク